住まいの「顔」をデザインする
玄関リノベーション事例5選
住まいの「顔」となる玄関は、住まい全体の雰囲気を左右する大切な空間です。そしてその役割は、単なる出入口にとどまりません。靴やコートを収納したり、趣味のアイテムやお気に入りの小物を飾ったり、ときにはお客さまとのコミュニケーションの場としても活躍します。この記事では、実際のリノベーション事例を通じて、快適で心地よい玄関をつくるためのアイデアと工夫をご紹介します。
理想の玄関をつくるための5つのポイント
家族やお客さまなど、住まいを訪れる人が最初に目にし、必ず足を運ぶのが玄関という空間です。だからこそ、そこが快適に過ごせる場所になっているかどうかは、暮らしの質や住まいの第一印象に大きく関わってきます。ここでは玄関をリノベーションする際に押さえておきたいポイントを、5つの視点から解説します。
・明るさや視線の抜けを意識することで、開放感を演出
暗くて狭い空間になりがちな玄関だからこそ、開放感を意識したデザインが大切になります。玄関から庭やリビングへ視線がすっと抜けるように間取りを計画すれば、実際の面積以上の奥行きを感じられるでしょう。また、壁の一部をガラスブロックに替えたり、天窓や室内窓を設けたりすると、照明に頼らずとも自然光で明るい印象に。さらに壁や床を明るいトーンの色合いでまとめれば、光が反射し、開放感がより一層引き立ちます。
・生活の起点となる場所だからこそ、導線計画はていねいに
玄関から水まわりや収納スペースへの移動がスムーズになると、暮らしは格段に快適になります。玄関からクロークや洗面所に直接アクセスできるようにしておくと、「靴を脱いで、上着をかけて、手を洗う」といった帰宅後のルーティンが効率的に。朝などの忙しい時間帯でも家族が余裕をもって行動できるよう、十分な通路幅を確保しておくことも大切です。さらに玄関を起点に、行き止まりのない回遊型の導線を設ければ、移動の柔軟性が一層高まるでしょう。
・クロークや土間の活用で、すっきり機能的な収納を実現
多くのものが集まりがちな玄関では、収納計画をしっかり立てておくことも重要です。家族の靴や雨具などをまとめて収納できるシューズクロークを活用すれば、玄関をいつでもすっきりと保てます。クロークにはさまざまな種類がありますが、ポイントは「見せる収納」と「隠す収納」を上手に組み合わせること。よく使うものは見える場所に、季節用品や掃除道具などは扉付きのスペースにしまっておけば、清潔感と機能性を両立できます。スペースに余裕がある場合は、土間を広めに確保するのもおすすめです。自転車やベビーカーを置いたり、濡れた荷物を乾かしたりと、幅広い用途に活用できます。
・人と人をつなぐ、小さなコミュニケーションスペースに
玄関は、人と人をつなぐ小さな交流の場にもなります。ちょっと腰掛けられるベンチがあれば、靴の脱ぎ履きがしやすくなるだけでなく、訪れた人とも自然に会話が生まれるはずです。飾り棚には花やアートを飾っておくと、季節感を添えるだけではなく話題のきっかけにもなるでしょう。来客が多い家庭では、コートをかけられるフックや、手荷物を置けるカウンターを用意しておくのも便利です。さらにリビングなどの生活空間が直接見えないよう、パーテーションなどでゆるやかに視線を遮っておくと、プライバシーを保ちながらもオープンな雰囲気を演出できます。
・素材選びと換気を工夫して、湿気やにおいがこもらない玄関を
外気と接する玄関は、湿気やにおいがこもりやすい場所です。そこで大切になるのが、素材選びや換気の工夫。壁材には調湿や消臭効果のある素材を選ぶと、空気がこもりにくく、清潔さを保ちやすくなります。床材は耐久性が高く、汚れを拭き取りやすいタイルや石材がおすすめ。日々の手入れもぐっと楽になるはずです。小窓や網戸付きドアを設け、風の通り道を確保しておくことも忘れずに。自然な換気で湿気やにおいを軽減できます。こうした工夫はカビや結露の発生を防ぐことにもつながるので、お気に入りの靴や収納物も傷みにくくなります。
玄関づくりにこだわったリノベーション事例5選
理想の玄関を実現するためのポイントを押さえたところで、次は実際のリノベーション事例をみていきましょう。玄関という空間を最大限に活用するためには、どんな工夫が必要なのか。ぜひ参考にしてみてください。
1:窓の向こうまで視線が抜ける、緑を感じる開放感
Mさんご夫妻は、ニュージーランド人のご主人と日本人の奥さまのカップル。自分たちに合った家に住みたいという思いから、さまざまな住まいづくりの方法を検討するなかで、中古マンションのリノベーションに辿り着きました。

物件選びの決め手にもなった緑豊かな環境を活かすために、こだわったのが玄関からの視線の抜けです。LDKと玄関の間は木製フレームのガラスの引戸を設け、戸を閉めていても視線を遮らないようにしました。下足棚は取手などの出っ張りがないものを選び、インターフォンなどの機器もリビング側を避けてキッチン側に設置。ソファも玄関からは見えないように配置するという徹底ぶりです。
こうした工夫によって生まれたのが、リビング、テラス、そして専用庭、さらにお向かいの邸宅の庭までを一望できる玄関です。家に入った瞬間から、まるで森のような素晴らしい借景を楽しめることはもちろん、開放感を演出することで実面積以上の広がりを感じられる住まいを実現しました。

——————
<リノベーションデータ>
所在地:東京都世田谷区
居住者構成:夫婦
専有面積:78.05㎡
間取り:LDK
既存建物竣工年:1995年
リノベーション竣工年:2015年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/3121
——————
2:間取りを工夫し、お客さまを心地よく迎える空間へ
9歳と5歳の兄弟とご夫婦とで暮らすKさんご一家は、築50年の木造2階建て一軒家をリノベーション。建築当時からの味わいを大切にしながら、新旧の魅力が調和したオリジナリティあふれる住まいをかたちにしました。

平日の日中は奥さまが自宅でアロマ・カラーセラピーのサロンを営んでいるため、専用の玄関を設けることも考えていましたが、予算の都合で断念。その代わり、玄関側のコンパクトな空間に、キッチンとダイニングを収めることに。結果として、玄関から入ってすぐにカウンターが見える「お店のような雰囲気」を実現しました。

玄関の床材として選んだのは墨モルタル。それにあわせて、壁もうすいグレーで仕上げることでカラーを統一。ダイニングやリビングの白いツヤ感のある壁との対比で、空間に変化とリズムが生まれています。


——————
<リノベーションデータ>
所在地:東京都練馬区
居住者構成:夫婦+子ども2人
専有面積:76.63㎡
間取り:2LDK
既存建物竣工年:1969年
リノベーション竣工年:2017年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/1708
——————
3:シンプル&モダンをコンセプトに、明るく広々とした玄関
築16年の元企業社宅をリノベーションした物件を購入されたKさんご夫妻。「“マンション然”としたイメージからの脱却」をめざし、「シンプル&モダン」をコンセプトに、自由な発想で理想の住まいをつくりあげていきました。

玄関も「マンションにありがちな狭苦しさ」を覆すために、できるだけ広く明るい空間に。入ってすぐの廊下の壁の一部をガラスブロックにしたことで、左右の居室からこぼれる自然光や部屋の明かりが、玄関と廊下へと差し込むようになりました。

玄関からリビングへと続く床は、コンクリートのモルタル仕上げ。ベンチ代わりに置いたイームズのチェアや、シューズラックにさりげなく飾った小物が、シンプルな空間にほどよいアクセントを添えています。ご夫妻が思い描くライフスタイルや住まいとしてのアイデンティティが、ドアを開けた瞬間から感じられる玄関です。

——————
<リノベーションデータ>
所在地:神奈川県相模原市
居住者構成:夫婦
専有面積:72.8㎡
間取り:2LDK
既存建物竣工年:1991年
リノベーション竣工年:2007年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/4697
——————
4:趣味を楽しむ広めの土間と、快適な導線設計
6歳の長女を育てる40代前半のKさんご夫婦は、築19年の中古マンションをフルリノベーション。無骨すぎないメンズライクな空間をベースに、ご夫婦それぞれのワークスペースや通路の壁につくった棚などを活用し、趣味のアイテムを飾る暮らしを楽しんでいます。

玄関の壁には、ご主人の趣味であるロードバイクをかけるためのフックを設置。家族みんなの趣味であるキャンプのための道具を収納したり、荷捌きしたりできるよう、土間も広めに確保しました。自転車のメンテナンスも、このスペースで行っているのだとか。土間と玄関の床は斜めに区切られているため、視覚的にも広がりを感じられます。

コロナ禍の経験から、帰宅後すぐに手を洗えるよう、玄関のすぐ隣にオープンな洗面所を配置。玄関からリビングへの導線上に洗面所ができたことで、帰宅時のうがいや手洗いもスムーズになったと言います。


——————
<リノベーションデータ>
所在地:神奈川県横浜市
居住者構成:夫婦+子ども1人
専有面積:79.69㎡
間取り:2LDK
既存建物竣工年:2003年
リノベーション竣工年:2022年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/12487
——————
5:北側玄関でも素材の工夫で心地よい空間に
5歳の男の子とご夫婦で暮らすSさんご家族。お子さまの教育環境を重視し、安心して長く暮らせる住まいを探すなかで出会ったのが、地域でも評判の分譲リノベーションマンションでした。

購入した物件は、壁自体が躯体となっているため大きな間取り変更が難しい構造でした。特に北側にある玄関はひんやりとした空気が気になっていたと言います。そこで採用したのが、消臭・防臭効果のある壁材「エコカラット」です。

また壁材のカラーには、やわらかなホワイトベージュを選択。見た目にもあたたかで、もともとの玄関のひんやりとした印象を和らげてくれています。素材を工夫することで、季節を問わず、家族みんなが快適に過ごせる玄関を実現しました。

——————
<リノベーションデータ>
所在地:埼玉県さいたま市
居住者構成:夫婦+子ども1人
専有面積:97.48㎡
間取り:3LDK
既存建物竣工年:1992年
リノベーション竣工年:2006年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/4682
——————
玄関づくりで気をつけたいこと
さまざまな事例を通じて、あなたの理想の暮らしにフィットする玄関のカタチがみえてきたでしょうか? 最後に玄関をリノベーションする際に、見落としがちなポイントを整理していきます。
①導線と収納の計画は、設計前にゆとりをもって
図面上は広く感じる玄関でも、家族全員が出入りするとなると窮屈に感じることがあります。朝夕の混雑から、ベビーカーや自転車など大きな物を玄関に置く可能性までを想定して、実際の使い方を事前にシミュレーションしておきましょう。またシューズクロークや土間の広さ、収納の位置を初期段階でしっかり検討しておくと、「あとから収納を増設したら、通路が狭くなってしまった」といった後悔を防げます。
②明るさや開放感だけではなく、断熱性や気密性も意識する
玄関を明るくするためにガラスブロックや小窓を設ける場合は、断熱性や気密性を確保する工夫が欠かせません。冷気が入り込みやすい北側に玄関がある場合や、寒さの厳しい地域では、窓まわりをパッキンなどで気密処理することや、断熱性の高いドアを採用することも検討してみましょう。光と風を上手に採り入れながらも、1年を通して温度差を抑えた環境を整えることが、快適な玄関づくりの第一歩です。
③汚れや湿気が気になる場所だからこそ、素材選びは慎重に
玄関は外気と接するだけでなく、泥や水滴で汚れやすい場所でもあります。だからこそ床や壁には、掃除がしやすく湿気に強い素材を選ぶようにしましょう。タイルやモルタル、調湿機能のある素材を採用すれば、汚れを拭き取りやすく、カビや結露の発生も抑えられます。さらに照明や換気口といった玄関まわりの設備についても、将来的に交換やメンテナンスがしやすいかどうかを事前に確認しておくことが、長く快適に使える空間づくりにつながります。
理想の暮らしは、いつだって玄関からはじまる
玄関は人と住まいの最初の接点でもあり、日々の暮らしの起点になる空間です。理想のライフスタイルも、きっと玄関からはじまっていくはず。リノベーションのプロの知恵も借りながら、家族や訪れる人を心地よく迎える「我が家らしい玄関」を、楽しみながらつくってみてください。