リビタ社員が実践する
一歩先の「くらしのスタンダード」
RSSの成り立ちとこれから 前編
リビタは、豊かな未来づくりを実践していくために、一歩先の当たり前を「くらしのスタンダード‐ReBITA Sustainability Standard‐(以下RSS)」として、価値づくりの規準にしています。RSSは社員が日々の業務に取り組むなかで生まれ、リビタのプロジェクトの独自性や唯一性を支えている考え方でもあります。今回はRSSの成り立ちに関わったメンバーを含め、それぞれの立場でRSSと向き合う社員が集まり、自分たちのなかに根付くRSSをテーマに語り合いました。前編ではRSSが生まれた経緯や事業に取り込むための実践などについて、相澤さんと吉實さんを中心に振り返っていきます。
「くらしのスタンダード‐ReBITA Sustainability Standard‐」とは
事業・プロジェクトを通してサステナブルで豊かな未来づくりを実践していく為に、リビタが考える一歩先の当たり前をまとめた、社会・お客様へ提供する価値づくりの5つの規準。
01 Energy management |地球、環境にやさしいこと
02 Lifecycle cost |むりなく、合理的に続くこと
03 Lifestyle literacy |くらしを楽しむ、学びがあること
04 Community |体験や喜びを共有する仲間がいること
05 Local environment |街や地域とくらすこと
<登場人物プロフィール>
相澤佳代子
2008年にリビタに入社。建築企画・品質管理、一棟まるごとリノベーションのコンサルティングなどの業務に従事。2013年からスタートした100平米超の低層マンションを中心に扱う「R100 tokyo」に立ち上げメンバーとして参加。
吉實健太郎
2008年にリビタに入社。一棟まるごとリノベーション、戸建てリノベーション、リノサポ事業などを経て、現在はシェア型賃貸住宅の企画・運営を中心とした賃貸住宅事業全般を担当している。
福島紘子
2013年に新卒でリビタに入社。約7年間に渡り、一棟まるごとリノベーションの建築ディレクションおよびプロジェクトマネジメントを担当した後、財務などを経て、2024年7月からシェアオフィス事業に従事。住まいの機能の一部を持たせたシェアオフィスシリーズ「12」の企画、ディレクションなどに携わっている。
勝岡裕貴
2009年に新卒でリビタに入社。約4年間、一棟まるごとリノベーションのプロジェクトマネジメントを担当。その後、リノベーション済みマンションの仕入れ、企画、販売、管理を経て、2021年にリビタを退社。現在は静岡県三島市の建設会社に所属し、三島市の中心市街地のまちづくりにハード、ソフト両面から取り組んでいる。
RSSってどこから生まれてきたの?
相澤 RSSのベースになっている考え方は、東日本大震災があった2011年頃に、当時リビタの基幹事業だった一棟まるごとリノベーションに関わるメンバーの雑談から生まれてきたものです。普段の暮らしのなかで、エネルギーや持続可能性を意識する必要性を感じていました。住まいを提供する立場として、これを前向きに暮らしへ取り込んでいけたらいいなという話をよくしていたんです。そこから一度チーム内できちんと話し合ってみようとなって、定期的に勉強会をすることに。吉實さんと勝岡さんもそのメンバーで、一棟事業に関わる社員を中心に知見を持ち寄ってシェアして、自分たちの取り組みの指標になるものができたらいいなと考えました。
吉實 その前から一棟まるごとリノベーションのプロジェクトでは、国交省の補助金を活用した性能向上リノベーション、住宅のライフサイクルコストの数値化などに取り組んでいました。リノベーションは新築よりも環境負荷が軽減されると言われていたけれど、感覚的なことではなく、実際に数値化してその価値を見せたいという思いをチームで共有していました。
相澤 一棟まるごとリノベーションでは、住まいをつくるだけではなく、コミュニティが生まれる仕掛けを考えたり、暮らし方を一緒につくったりすることまで真摯に取り組んでいました。リノベーションの価値をお客さまに分かりやすく伝えて、中古車のグレードのように、共通認識化できる規準を示して、理解して選んでいただけるようにしたいと考えていたので、その延長としてエネルギーや持続可能性といったテーマも捉えていたように思います。それぞれの物件で一生懸命にやってきたことを全部吸い上げて整理すると、これから目指すべき方向性や課題、チャレンジすべきことなども見えてくるのではないかと考えていましたね。
吉實 広い視野で豊かな暮らしや持続可能性を考えていきたいという意見が一致したことから、その勉強会のことを「サステナ会議」と呼ぶようになりました。震災があって最初の会議を開催したのが9月くらい。その3カ月後にはビジョンを立てて、年度末までには言語化して共有することを目標として設定しました。
相澤 最初の段階はふわっとしていましたが、動き出して言語化するまではスピーディに進んだと思います。はじめは自由にそれぞれが課題や興味など、思いついたことを書き出したので、バラバラのように見えたのですが、カテゴリーが似ているものをまとめていくと、現在のRSSの土台となる環境、ライフサイクルコスト、リテラシー、コミュニティ、地域の5つの軸が見えてきて、想像よりもスムーズにビジョンが策定できたんです。
勝岡 私もアイデアブレストに参加しており、どんなことができるかを付箋に書き出して貼っていくことを繰り返していたのを鮮明に覚えています。最初は環境的なことを考えていたけど、話し合っていくうちに持続可能性を掘り下げると、住まいや暮らしのリテラシーの向上も必要だという観点が出てきて、みんなで深く共感したことがとても印象に残っています。
相澤 軸がすんなりと決まった背景には、情報化できていなかったけれど、みんなのなかに共通して感じていている思いがあったということ。当時まだ会社としても若くて、みんなが目の前のことを必死にやっているだけに見えても、リビタのカルチャーは育っていたのだなと感じて、決まった瞬間は感動を覚えました。
つくるだけじゃなく、実践してこそ意味がある
吉實 RSSのビジョンを決めるまでのプロセスは楽しかったですね。でも言語化はあくまで準備で、それを事業に活かしていくことが目的だから、その後が本番。自分たちが企画を考えるときの指針にすることが第一段階でしたね。
相澤 自分たちが社会に提案していくことに対する軸をつくろうということだから、この段階では外に向けてつくったものではありませんでした。まずは一棟まるごとリノベーションのチームで、自分が担当した仕事を客観的に見たときに、RSSの5つの軸に照らし合わせて、抜けている要素はないか、まだ何かできることがあるのではないかなどを、一人ひとりがやり尽くすことを徹底しました。自分たちが事業に取り込んでいかなければ、RSSも消えていってしまうと思っていましたから。
吉實 一つひとつのプロジェクトに対して、RSSに照らし合わせてバリューを出せているか、機会を活かし切っているかということを、自分たちに対してかなり厳しい目を向けて追求していました。
勝岡 その時期は、かなりシビアでしたね。まだ抜け落ちていることがあるのではないかと、千本ノックみたいにチェックを繰り返して、大変だった思い出もあります。
福島 私が入社した2013年には、RSSの項目が「実践アイテム集」としてまとめられていて、プロジェクト会議などでそのリストに照らし合わせて、抜け落ちていることがないか確認することは、業務として当たり前になっていましたね。私たちの世代だとそういった視点で、価値提供をしていくことが自然とできるような体制が整っている印象でした。
相澤 軸ができた後は、それに照らし合わせて、今までやってきたプロジェクトの項目を全部洗い出して、分類し直すこともしました。他のプロジェクトでやっていたことが可視化できるようになり、それが後にメニュー表のような「実践アイテム集」となって、各事業部へ定着していったのです。
時代の先を見つめて、一歩先をやっていく
相澤 その頃エコロジーという言葉は盛んに使われていましたが、エシカルという言葉が出てきたかどうかくらいの時期で、持続可能性やライフサイクルコストなどは、まだ一般的ではなかったと思います。震災後に節電をきっかけとするエネルギーの問題や安全性への関心が、一気に高まったときではありました。一棟まるごとリノベーション住宅の説明会でも、構造への漠然とした不安や災害リスクなどを、お客さまが強く意識し始めた時期。リビタでは、建物をスケルトンにして見学会を開催し、構造の調査結果などもすべてオープンにしてお伝えすることで、見学したお客さまにリノベーションの知見を深めていただく取り組みをしていました。そういったことの積み重ねがリテラシーとして浸透していく実感もありましたね。
吉實 RSSによって、とくにリテラシーという言葉は、強く意識するようになりました。どんな事業をやるにも、ただものを供給するだけではなく、自分たちはプロとしてお客さまにきちんと価値を理解してもらうことが必要で、そのためには伝え方や発信の仕方にもリテラシーが関わってきます。
相澤 また、世の中ではコミュニティへの注目も高まっていた時期でした。これは人と人をつなぐ仕組みづくりやイベント企画など、リビタがこれまでにやってきていたこと。リテラシーやコミュニティを規準に定めたことで、自分たちがやってきたことに意義があったという自信にもつながったように思います。
勝岡 当時、一棟まるごとリノベーションは、リビタを体現するような事業でもありました。年間2〜3棟あるプロジェクトで、昨年と同じものをつくっていてはアップデートしていかないので、一つひとつのプロジェクトで何ができるのかを問われ続けていたと言えます。そこに指針としてRSSができたことで、それぞれの軸でどこまでできているか、不足していないかという議論が増えていきました。また、時代の先を見据えたことを掲げていたので、お客さまに価値を伝えていくときには、ギャップが生じることも少なくない。そこはリテラシーマネジメントを意識しながら、伝え方やコミュニケーションを模索して自分なりにRSSを実践していたように思います。
じわっと広がり、リビタのものづくりの軸となる
相澤 RSSをプロジェクトで実践していくと同時に、5つの軸ごとに分科会をつくって、それぞれをさらに堀り下げ、フォローアップすることも進めていました。また、経営層からは、他の事業部にも共通するものだし、今後CSV(Creating Shared Value※)として活用していけるのではという意見が出たんです。
※Creating Shared Value:社会課題への取り組みによる「社会的価値の創造」と「経済的価値の創造」の両立により、企業価値向上を実現すること。
吉實 これまでの実績をもとに生まれたこの5つの軸を見れば、リビタの全社員に共通する指針であることは違和感なく伝わるだろうと考えていました。そんな気持ちもあったからか、翌年2012年にはものづくりの指針として発表。もともとRSSをCSVへ活用すべきとまでは考えていなかったけど、それをきっかけに全社に広がっていった感覚があります。
勝岡 当時は、とくに広めようと動いていたわけではなく、自分たちの事業に邁進していて、自然に違和感なくじわじわ広がっていったという印象でした。
吉實 例えば賃貸住宅事業では、シェアやコミュニティについてもっと深く取り組んでいるからこそ、他の事業部にも違和感なく受け入れられたのではないかと思います。全事業ですべてをやっていくことが目的ではなく、5つの軸でリビタ全体が形成されればいいということも議論していて、事業ごとに強弱があって、それぞれの守備範囲をもっているという側面もあると考えていました。
相澤 リビタの基礎ではあるものの、気づきを得るための視点を与えてくれる存在でもあると思います。ある事業ではコミュニティに注力しているけど、将来的には環境のこともやりたいというきっかけになると思うので、各事業部の得意分野を守るだけではなく、視野を広げるという意義もありますね。
吉實 次の段階として2013年頃には、お客さまに向けて発信することが経営会議などで検討されていったようです。リビタの全事業でのものづくりに対する共通認識として、お客さまに提供する暮らしの価値を具現化しようとしていた時期でもありました。PRのメンバーも参加して、今までまとめてきた内容を改めて一般の方々にもわかりやすい言葉にブラッシュアップしたり、発信方法を検討したりするプロセスを経て、ブックの作成やコーポレートサイトへの掲載、社内表彰制度の創設という動きにまでつながっていきました。
相澤 個人的には、サーキュラーエコノミーという視点に関心を持っています。建物をつくって、暮らし方に関わって、その役目を終えたとき、その経緯をもっとも理解している立場としてより少ないプロセスでマーケットへ戻していくことについて、まだまだできることがあると考えています。住宅は社会的資産でもあり、より無駄なく持続させていく住まいのあり方が求められていて、それが建物を使い切ることにもつながる。そのためには、お客さまの暮らしが変わったときにも私たちがパートナーであり続けることが必要です。一人ひとりのお客さまにとって、解像度の高いパートナーでありたいと思っていて、RSSはそのための土台にもなるのです。各事業が連携しながら、将来への布石にもしていけたらいいなと感じています。
吉實 私はリビタに入社してから、社会的な目線で求められる事業とは何かを考えるようになりました。RSSの策定を通して、その視点がより強化され、事業の意義や面白さを改めて考えるきっかけにもなり、それをお客さまにも理解して選んでいただく重要性にも気づきました。RSSの軸に沿って考えたことが、お客さまに伝わったときはとても嬉しい。RSSはそういった視点に気づかせてくれた。勉強して得る知識ではなく、実践したから得られる実体験の知見なので、策定から実践まで自分にとってかけがえのない経験になっていると思います。