「シンプルで居心地のよい空間」を再考する
家具選び・レイアウト目線から学ぶインテリア
さまざまな専門家に話を聞いて、「リノベーション」や「住まい選びのコツ」を身につけていくための「学ぶシリーズ」第3回。今回は、リビタが手掛けるリノベーション物件のインテリア計画を担当している木村文さんを迎えて、居心地のいいインテリアを実現するヒントを聞きます。木村さんがインテリアディレクションを担当した実際の事例をもとにシンプルで洗練されたお部屋のつくりかたを学んでいきましょう。
シンプルで心地よい部屋のつくりかた
シンプルなインテリアと言っても、最小限の色、かたちで構成された機能的な空間もあれば、北欧の家具が置かれた温かみのある空間まで、捉え方は人それぞれ。これから紹介する事例は、「シンプル」に「心地よさ」というキーワードをプラスしてインテリアを計画したものです。ここからは、そのインテリアのポイントを説明していきたいと思います。
今回の事例は、明るいグレーの壁紙と白色系の塗装がされたオーク材のフローリングを基調としたお部屋です。シンプルで心地よいインテリアを実現するために、まず「部屋を広く、開放的に見せる」ことを意識しました。
ここではまず、家具を壁や床に近い明るいカラートーンで揃えて、空間をより広く開放的に見せる工夫を取り入れています。例えば、この部屋を暗いトーンの家具で揃えた場合を想像してみてください。壁や床の色とのコントラストで家具の存在が際立ち、広がりを感じにくくなることがわかるのではないでしょうか。今回のように家具の色を壁の色に近づけることで家具の存在感が薄れて、広がりを感じやすくなるんです。この手法は、ソファのように大きな家具ほど効果的です。部屋を広く開放的に見せるためには、なるべく家具を空間に溶け込ませることをおすすめします。
同じトーンで家具を揃えるメリットは他にもあります。部屋のイメージを変えたいと思った時に、他の色を加えるだけで 部屋の印象を変えることができます。最初から様々な色がある部屋よりも、簡単にイメージチェンジができるので、どんな色やテイストの空間にしたらよいか分からない場合は、まず手始めに同じトーンの家具を揃えておいて、徐々にその後の変化を楽しんでみると良いでしょう。
シンプルで心地よい家具との出会い方
最近はトレンドも相まって、多くの家具ブランドがシンプルで良質なデザインを展開しているので、ショールームやインテリアショップでシンプルな家具を見かける機会が増えています。
大切なのは、その中から何を選ぶかです。選び方のひとつめのポンイントは、家具を単体で見ないことです。ついつい欲しいもの、例えばソファはソファ単体で、椅子は椅子だけを見てしまいがちですが、家具を置く部屋の壁・床・建具の色や素材を思い浮かべながら決めると良いです。この選び方は、多くの方が実践している検討方法かもしれませんね。
次に、家具の素材をみていきましょう。今回の事例は、明るく柔らかな雰囲気をもつ空間にしたかったので、肌触りが良い布生地と少し丸みを帯びた木製のフレームでできたソファを選びました。逆に、革張りで金属製のフレームでできたソファを置くと、素材が強調されてよりスタイリッシュな印象にすることができます。
単調な空間を避けるには?
同じトーンの家具の中に色や素材の異なるアイテムをアクセントとして加えることで、空間にメリハリやリズム感がうまれ、より魅力的なインテリアに近づけることができます。今回の事例では、アクセントとして金属・ガラスと黒を点在させました。
金属・ガラスの取り入れ方からお話すると、空間全体の雰囲気は、壁や床に合わせて面積の大きな家具をやわらかい印象の優しい素材で構成したので、それとは対照的に、硬くてクールな印象をもつ素材をアクセントにしました。リビングの中央に置かれたローテーブルやサイドテーブルとして使っているワゴンなどがそうですが、やわらかい空間を効果的に引き締める役割を担ってくれています。素材としては対照的ですが、カラーはベースと同じトーンで揃えることで全体的な調和を保っています。また、リビングのドアと椅子の木材、ダイニングテーブルの木材と、視線の先に木材を点在させて、イメージを繋げています。統一感のある世界観を崩さずに、すこしアクセントを取り入れることを意識しました。
黒の取り入れ方も同じです。単調に見えてしまいそうなポイントに、キリッと見せてくれる黒を入れました。今回は、キッチン水栓やダイニングチェア、リビングのフロアライトの支柱などに黒を入れて、空間の引き締め役にしています。
ちなみに、ここではベースとアクセントのほかに、ダイニングテーブルやアームチェアなど、床よりも少しだけ濃い色の木材を使った家具を各部屋に点在させています。これも、それぞれのエリアのイメージを繋げて、部屋全体で統一感のある世界観をつくるために取り入れた要素のひとつです。
空間を広く見せる家具のレイアウト
次に、家具をレイアウトする時のポイントをお伝えします。一般的には、空間の中心に家具を置くと存在感が際立ってしまうので、この事例のように限られた空間の中で大きめの家具を置きたい場合は壁際に寄せるレイアウトがおすすめです。
この部屋は中心にキッチンがあり、キッチンの前面にはリビング、奥にはダイニングがありました。リビングの家具レイアウトは、壁際にテレビボードを置いて、テレビに向かってソファを置く配置が一般的ですよね。ただ、今回は家族全員で座れる大きめのソファを置くこととリビングを広く見せることの2点を両立させたかったので、ソファを壁に寄せてソファ前の空間に余裕を持たせることにしました。このレイアウトにすることで、壁向きの場合よりも大きなサイズのソファを置くことができます。ちなみに、どちらのレイアウトを選んでも大丈夫なように、広い壁と狭い壁の両方にテレビ用のコンセントを用意しました。
また、ダイニングのスペースは3方を壁に囲まれ、天井も周囲より一段低くなった比較的コンパクトな空間でした。その状況を活かしてベンチを造り付けたり、ペンダントライトを低く垂らしたりして、心地のよい籠り感を持たせたレイアウトにしています。ダイニングは食事をする場所としてはもちろん、仕事や勉強をする場所として使う人もいると思います。籠り感のある空間は、親密さを醸し出したり集中を促してくれるので、コンパクトなダイニングスペースにはおすすめのインテリアです。
住まいのアイコンになる家具を取り入れる
インテリアを考える時に、家に入った瞬間の印象をとくに意識しています。今回は玄関を入ると、廊下の先にリビングの中心が見えるため、部屋のインテリアを象徴するアイコニックな家具としてアームチェアを一脚置いています。アームチェアは、インテリアスタイリストに「少しひねりがあるシンプルなデザインのプロダクトを」とオーダーして提案いただいたもので、デンマークの家具ブランドのものです。旧知のデザインではなく、あたらしいデザインをとりいれることで、この部屋のインテリアのオリジナリティを表現しています。
モノの無い空間への心配りが大切
家具のレイアウトにあたっては、モノを置かないスペースの存在も大切です。「何も無いと寂しいから」と、無理に家具を置いてスペースを埋める必要はないと思います。暮らしながら、じっくりと必要なものを見極めて、あえて家具を足していくためのスペースを残して、未来のインテリアを創造するのも楽しいですよ。
ただ、間が抜けたような印象があってどうにかしたい場合は、今回の事例のように、床にフラワーベースを置いて枝を挿したり、椅子やベンチ、スツールなど小さめの家具を置くのも良いでしょう。特にスツールはサイドテーブルや踏み台としても使えて、置く場所を限定しないとても便利なインテリアアイテムなので、私は多用しています。また、壁に掛けるインテリアアイテムも効果的に空間を充実させてくれます。
フラワーベースやアートなどを置く場合も、家具同様、素材やトーンを揃えると雑然とならず、シンプルな空間が成り立ちます。
インテリアでもサステナブルを意識できる
リビタでもこれから積極的に取り入れていきたいテーマなのですが、環境配慮を意識した家具の選び方があります。例えば、椅子やソファの張地やフレームにリサイクル素材が用いられていたり、シルクに代わる素材として竹から抽出した繊維を用いたラグであったり。新しい素材の可能性を楽しみながら、環境に配慮した選択をすることができます。
また、先ほどお話したデンマークの家具は、家具を使い捨てないためのデザイン、修理可能な設計とサポート体制があり、輸送についてもほとんどの製品がフラットパック(※)で届くなど環境に配慮したブランドです。最近リビタでも、このようなブランドを取り入れたりしています。
※フラットパック:家具をパーツに分けて平たく詰めることで輸送時の容積を小さくし、輸送エネルギーとコストを軽減する梱包手法。
長く使える家具選びを
普遍的なデザインの家具はどんな空間にもなじむため、使う場所を選ばず、長く使い続けることができます。時間がたってもその価値を失わないことから「名作」と呼ばれるものもあり、それらは一生ものプロダクトです。今回の事例では、リビングのフロアライトとしてFLOS社の「GLO-BALL」を置いていますが、周囲の家具になじみつつも程よい主張があり、本当によい仕事をしてくれています。それぞれの魅力を引き立てあうので、あたらしいデザインのものと、普遍的なデザインのものを組み合わせることが多いです。「ネクスト名作」も見極めながら、長く使える良質なプロダクトをインテリアに取り入れるのもおすすめです。
まとめ
今回お話したことは、シンプルで心地よいお部屋のつくりかたの一例です。シンプルな空間の捉え方も、心地良いと感じるポイントも人それぞれですから、日常の暮らしの中から皆さんの居心地の良さを見つけてください。