魅せる、吊す、照らす。
天井を活かしたリノベーションの工夫とアイデア
住まいづくりを考えるとき、床材や壁紙、家具や照明に比べて、ついつい見落とされがちなのが天井です。しかし、天井を上手に使うことで、住まいはもっと快適に、もっと心地よく仕上げることができます。今回は5つのリノベーション事例を通じて、天井を活かすためのヒントと工夫をご紹介します。
天井を上手に活かすための5つのポイント
天井は単に空間にフタをする「上の面」ではなく、住まいの心地よさを支える重要な要素です。高さや素材の選び方、光の取り入れ方、吊るすための工夫など、天井には暮らしを豊かにするさまざまな可能性が秘められています。ここでは天井を最大限に活かしたリノベーションを実践するためのポイントを、5つの視点から解説していきます。
・天井の「高さ」は空間の印象を左右する
天井の「高さ」は住まいの印象を大きく左右します。天井が高ければ、視界が広がることで、空間全体がのびやかで開放的な雰囲気に。反対に、あえて高さを抑えれば、安心感をもたらす「こもり感」のある居場所をつくることもできます。たとえば、寝室や書斎など落ちつきを求める空間は天井を低めに。リビングや玄関は天井を高めにしたり、吹き抜けを設けたり。天井の「高さ」を意識的に使い分けることで、ひとつながりの空間にも緩急が生まれ、暮らしのリズムをつくり出すことができます。
・天井を「隠す」のではなく「魅せる」
天井を仕上げ材で「隠す」のではなく、梁や構造体をあえて「魅せる」ことで、住まいに個性を宿すことができます。たとえば、無垢材やラーチ合板の梁をあらわにすれば、空間に木のあたたかみが。コンクリートの躯体や配管をむき出しにすれば、インダストリアルでスタイリッシュな雰囲気を演出できます。「魅せる天井」を背景として、小物や照明、グリーンを組み合わせれば、さらに表情豊かな空間をつくることもできるでしょう。床や壁と同じように、天井を「魅せる面」として捉え直すことで、住まいに豊かな趣と奥行きが生まれます。
・「吊す」ことで立体的な暮らしに
天井からものを「吊す」ことで、暮らしに立体的な広がりが生まれます。観葉植物や花といったグリーンを吊せば、目線の上にも自然の気配が加わり、空間が生き生きとした印象に。キッチンでは、ラックなどを吊るせるようにすることで、機能的でありながら、空間全体が軽やかに整います。 吊り収納を設置すれば、床まわりがすっきりとし、掃除がしやすくなることもメリットです。天井というスペースを有効活用することで、限られた広さの住まいでも、快適で心地よい暮らしが実現できます。
・天井を「照らす」ことで、光と影をデザイン
天井は光をうけとめ、空間全体へと拡散させる「キャンバス」でもあります。ペンダントライトの光を天井に反射させれば、部屋全体が包まれるような落ち着いた雰囲気に。さらに間接照明を組み合わせれば、光と影が生まれ、夜の空間に豊かな表情が加わります。だからこそ照明計画を立てるときは、天井の仕上げ材の質感や色合いも意識してみましょう。たとえば、木目調の天井なら光がよりあたたかく、白い天井なら光をやわらかく反射し、空間全体を明るく仕上げられます。天井を「照らす面」として活かすことで、昼と夜で変化する住まいの表情をもっと楽しめるようになります。
・将来に備えて、天井にも「可変性」を
暮らしは時間とともに変化し続けます。だからこそ、天井にも将来を見据えた「可変性」を持たせておくと安心です。たとえば、リノベーション時に下地補強をしておけば、後から吊り収納や照明レールを追加したり、ハンモック用の金具を取り付けたりすることも。ライフスタイルや家族構成が変わっても、天井が「使える余白」になっていれば、必要に応じて住まいをアップデートできます。可変性を意識しながら天井のあり方を考えることは、住まいの自由度を高めるための大切な工夫のひとつです。

天井にこだわったリノベーション事例5選
天井を活かすためのポイントを理解したところで、ここからは実際のリノベーション事例をみていきましょう。心地よい暮らしを実現するために、天井をどのように活用しているのか。きっと参考になるヒントがみつかるはずです。
1:天井の「高さ」を使い分けた、暮らしのシーンに寄り添う住まい
1.5階の中間層をもつ、2階建ての住まいを購入されたHさんご家族。壁や床にはさまざまな木材が使われていますが、天井や壁の一部は白く塗装されていて、そのバランスのとれた雰囲気に惹かれたと言います。

家のほとんどが吹き抜けのワンルームのように、立体的につながっていることが特徴的な住まいですが、1階のLDKには床が一段下がったスペースも。ここは天井も低いため、「こもり感」のある空間として、家族みんなのくつろぎの場所になっています。

ご主人が書斎として使う2階の個室は、屋根の形状に合わせて天井が斜めに下がり、どこか屋根裏の秘密基地のような雰囲気に。天窓が設けられているので、昼間は自然光がやわらかに差し込みます。空間ごとに天井の高さを工夫することで、シーンに合わせた心地よさを実現した住まいです。


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<リノベーションデータ>
所在地:東京都練馬区
居住者構成:夫婦+子ども1人
専有面積:131.24㎡
間取り:4LDK
既存建物竣工年:1981年
リノベーション竣工年:2016年
お宅拝見記事: https://nokurashi.com/ownersvoice/2320
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2:素材感を楽しむ、梁と植物のある暮らし
システムエンジニアとして多忙な日々を送るKさんご夫妻は、緑が豊かで都心にも近い三鷹エリアの中古マンションをリノベーション。鉄筋コンクリートのマンションなのに、LDKの天井には木造の家のような梁が走っています。ドライフラワーや植物など、いろいろなものを吊るしたいという希望から、この斬新なアイデアが生まれました。

梁には木目の美しいラーチ合板を採用。「合板は荒々しくなるのでは」という懸念もあったそうですが、完成してみるとナチュラルでしっとりとした印象に仕上がりました。梁が斜めに走っているため、空間に広がりと軽やかさも感じられます。山が好きでトレッキングによく出かけるというご主人も、この山小屋のような雰囲気をとても気に入っていると言います。

いけばなが趣味だという奥さまは、梁からドライフラワーや植物を吊して楽しんでいるのだとか。植物や自然が好きで、天然の木や素材感のあるテイストが好みだというおふたりの個性を、天井に上手く反映した住まいです。


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<リノベーションデータ>
所在地:東京都三鷹市
居住者構成:夫婦
専有面積:57.91㎡
間取り:1LDK
既存建物竣工年:1998年
リノベーション竣工年:2016年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/1687
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3:打放しのコンクリートが生み出す、有機と無機の心地よいリズム
「自分たちの暮らしに合わせて好きな空間をつくれるから」という理由で中古マンション購入し、リノベーションしたOさんご夫妻。夫婦ともに背が高いため、天井高をなるべく確保したいという希望があったそうです。そこで内見に訪れた際に、担当のコンサルタントから「この物件なら、天井が高くできそう」とコメントをもらったことが、住まい選びの決め手になりました。

天井はコンクリート打放し。その素材感を活かし、床や壁との組み合わせを意識しながら空間全体をデザインしていきました。たとえばセカンドリビングでは、コンクリート打放しの天井、斜めに板が貼られた壁、モルタルの床が響き合い、無機と有機のリズムが心地よい空間に仕上がっています。

インテリアグリーンが趣味だという奥さまの希望で、天井にはハンガーパイプを設置。吊された植物がコンクリートの無機質な天井と絶妙に調和し、グリーンのみずみずしさを引き立てています。暮らしのなかに「魅せる」「吊す」を意識的に組み込むことで、シンプルながら豊かな表情を持つ住まいが生まれました。

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<リノベーションデータ>
所在地:東京都世田谷区
居住者構成:夫婦
専有面積:81.88㎡
間取り:LDK+セカンドリビング+寝室+WIC
既存建物竣工年:1998年
リノベーション竣工年:2016年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/2635
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4:フラットな天井が照らす、落ち着きある上質な住まい
お子さまの小学校入学を控えるなかで、新築マンションからの住み替えを検討しはじめたというEさんご家族。コーポラティブハウスや新築一戸建ても候補に挙がったそうですが、「内装は自分たちの好きにしたい」という思いから、中古物件を購入しリノベーションする道を選びました。

予算に制約があるなかで、細かい部分にこだわりを集中させ、見た目をすっきりと整えることで、高級感のある空間をめざしたというEさん。天井はフラットに仕上げ、配管などの雑多な要素をしっかり隠すことで、空間の印象をスマートに整えています。

このフラットな天井を活かすため、ダウンライトは使わずペンダントライトをセレクト。天井に光がやわらかく反射し、夜も落ち着きのある心地よい雰囲気に。天井を意識しながら照明計画を考えることで、落ち着きのある上質な空間が仕上がりました。


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<リノベーションデータ>
所在地:神奈川県横浜市青葉区
居住者構成:夫婦+子ども1人
専有面積:90.83㎡
間取り:2LDK
既存建物竣工年:1991年
リノベーション竣工年:2008年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/4537
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5:下地補強を施した天井が叶える、未来への選択肢
ご夫婦ともに学生時代に建築を専攻していたというHさんご夫妻は、家族構成やライフスタイルの変化に合わせて、フレキシブルに手を加えていけるリノベーション済みマンションを購入しました。天井は壁と同じ薄いグレーで、やわらかく温かみもある雰囲気が魅力的です。

この物件は、予め想定した個室に間仕切壁を設置できるよう、天井に下地補強が施されていることも特徴です。LDKの天井には3本のライティングレールを設置。将来的に子ども部屋が2つ必要になった場合は、ここに間仕切壁を吊すことで、LDKの一角に個室をつくることも考えているそうです。

現在は間仕切壁を設置せず、LDKをひと続きの空間として使っていますが、ライティングレールがあることで、どこにでも照明を取り付けたり、気軽に位置を変えたりでき、その自由度を楽しんでいるというHさん。市販のフックを活用し、植物を吊すなど、インテリアのアレンジも自在です。天井に可変性を持たせることで、今だけではなく、これからの暮らしにも寄り添える住まいになっています。


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<リノベーションデータ>
所在地:東京都目黒区
居住者構成:ご夫婦+子ども1人
専有面積:66.36㎡
間取り:1LDK
既存建物竣工年:1980年
リノベーション竣工年:2021年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/7811
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天井というスペースを、最大限に活かすために
天井は空間の印象を左右するだけでなく、設備や構造と深く関わる部分でもあります。だからこそ、リノベーションで天井を活かそうと考えるなら、計画の段階からしっかりとした確認が欠かせません。ここでは、天井の設計や活用で特に気を付けたい3つのポイントをまとめました。
①天井構造と高さ制限を事前に確認
マンションの場合、コンクリートの梁や配管が天井裏を走っていることもあるため、構造によっては、天井の高さに制約が生じることがあります。物件選びの段階から「どこまで天井を高くできるか」「どの程度まで構造をあらわしにできるか」など、現状の構造をきちんと把握しておきましょう。
②簡単に直せないからこそ、初期設計が重要
天井は壁や床に比べて施工後の変更が難しい部分です。配線ルート、ライティングレールの位置、吊りフックの補強など、暮らし方に合わせた仕様を初期設計の段階でしっかり検討することが大切になります。将来的なライフスタイルの変化も考慮しておくと、さらに安心です。
③何かを「吊す」ときは、安全性と荷重に注意
天井を「吊す面」として活用する場合、荷重への配慮が不可欠です。観葉植物や照明器具など、見た目が軽やかでも意外と重さがあるものも少なくありません。どこにどの程度の重さがかかるのか、下地を補強しておく必要があるのかなどを、事前に専門家と相談して安全性を確認しておきましょう。
天井に目を向けると、暮らしがもっと豊かになる
天井は、床や壁に比べて意識が向きにくい部分かもしれませんが、工夫次第で空間全体の印象を変えることができます。高さを使い分ける、素材を魅せる、植物を吊す、光を反射させる。リノベーションならではの自由度を活かせば、暮らしに合わせた多様な「天井の楽しみ方」が見えてきます。リノベーションのプロとともに計画を練りながら、自分たちらしい空間づくりを楽しんでみてください。