「大地の芸術祭」との連携が生む化学反応。 -新潟駅直結の複合型シェアスペース「MOYORe:」がもたらすものとは(後編)-|まちとのつながり

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「大地の芸術祭」との連携が生む化学反応。
-新潟駅直結の複合型シェアスペース「MOYORe:」がもたらすものとは(後編)-

目 次
  1. 1大地の芸術祭とまちづくり
  2. 2「MOYORe:」との連携
  3. 3これからの「MOYORe:」

「まちづくりとのくらし」では、これまでにリビタと関わった自治体や、まちづくりに携わる人々との対談や取材を通して、暮らしにまつわる可能性を様々な切り口から発信していく予定です。

本シリーズの第三弾は、新潟駅前の新たな複合型シェアスペース「MOYORe:(モヨリ)」から考える「まちづくりとのくらし」です。

MOYORe:」は、新潟駅直結商業施設の「CoCoLo」南館1階に2020年9月に誕生した複合型シェアスペース。オープンから2年が経ち、「MOYORe:」を起点に地域であらたなつながりが生まれています。

MOYORe:」が生まれた背景やこれまでに生まれたコト、今後の展望について紐解いた前編に続き、後編では「MOYORe:」と「大地の芸術祭」の連携についてご紹介していきます。

複合型シェアスペース「MOYORe:」

プロフィール

佐藤 あゆ|十日町市地域おこし協力隊/NPO法人越後妻有里山協働機構
新潟市出身。立教大学卒後、総合旅行会社の営業、スペースシェア関連のベンチャー企業での法人イベント運営やカスタマーサクセス職の経験を経て、大地の芸術祭をきっかけに2020年地域おこし協力隊として十日町市に移住。現在はボランティアサポーターの運営やツアーを中心に「大地の芸術祭」の運営に関わる。

原田 智子|株式会社リビタ MOYORe:コミュニケーションマネージャー
北海道札幌市出身。旅好きが高じて色々な土地を旅しながら、国内外からバックパッカーが集まる宿のマネージャー業務を経験。その後株式会社リビタに入社しTHE SHARE HOTELSの新規立ち上げや、地域人材の発掘、支配人等のホテル運営業務を経て、現在所属する地域連携事業部へ異動。2020年9月からはMOYORe:にてイベント企画を推進しながら、あそぶ・まなぶ・はたらくを実践中。

大地の芸術祭とまちづくり

「大地の芸術祭」は、新潟県の十日町市・津南町からなる越後妻有地域を舞台にした芸術祭。2000年から3年に1度開催されており、瀬戸内国際芸術祭など各地で行われているアートフェスティバルの草分け的存在として、国内外で高い評価を得ています。

1994年に当時の新潟県知事・平山征夫氏が提唱した地域活性化策「ニューにいがた里創(りそう)プラン」をきっかけに、十日町市をはじめとする1市4町1村が始めた「越後妻有アートネックレス整備事業」の中心プロジェクトとして始まった「大地の芸術祭」。地域にあるさまざまな価値をアートを媒介として掘り起こし、国内外に発信して地域を活性化する、「アートによる地域おこし」は現在では各地でみられますが、当時としては画期的なものでした。

2012年 大地の芸術祭の様子 まつだい農舞台(Photo Nakamura Osamau)

「大地の芸術祭」は2000年の第1回から来場者を増やし続け、2018年の第7回では約54万人の来場者数を記録するなど、地域に大きな経済効果をもたらしてきました。

しかし、そんな芸術祭にも転機が訪れます。2021年に予定されていた第8回は、新型コロナウイルス感染症の影響で2022年への延期を余儀なくされたのです。

十日町市で地域おこし協力隊として「大地の芸術祭」の運営にも関わる佐藤あゆさんは、「延期したことで、芸術祭に大きな変化があった」と語ります。

佐藤: 第7回までは、夏に約50日間開催していたのですが、第8回はコロナ禍で移動制限期間が発生しても前後で来られるように、4月から11月までの145日間というロングラン開催となりました。
また、海外や他県からの来場者が減ることは予想されましたし、芸術祭を支えているボランティア、「こへび隊」も遠方から参加していただくことは難しくなる。運営面でも、検温スポットやコロナ対策要員を設けるなど、これまでのやり方と変えなければならない部分はたくさんあったんです。

大きな転機に直面した「大地の芸術祭」。しかし数々の苦労を経て、その転機は芸術祭にとって「ポジティブな転換」となっていきます。

2022年 大地の芸術祭の様子 淺井裕介「physis」作品制作

「MOYORe:」との連携

「大地の芸術祭」が2022年の開催で進みだした「ポジティブな転換」の裏には、「MOYORe:」との連携もありました。新潟駅直結の複合型シェアスペースである「MOYORe:」を会場に、「大地の芸術祭」関連のイベントを全5回開催したのです。

「MOYORe:」との連携の背景を、佐藤さんは次のように語ります。

佐藤: 芸術祭の会期を拡大したことで、運営の負担が増え、これまで以上にボランティアスタッフの力が必要になっていました。また、海外や県外からの集客が難しい状況であるため、県内や近県のお客様に足を運んでいただきたいという想いも例年以上にありました。
そのため、ボランティア募集や集客のためのイベントを、県内で開催することを検討していたんです。そんなとき、「MOYORe:」のことを知人の紹介で知りました。

十日町市地域おこし協力隊/NPO法人越後妻有里山協働機構 佐藤 あゆさん

前編で紹介したとおり、「MOYORe:」を持つJR東日本グループとしてもコロナの影響で人々の移動が減少するなか、駅を「交通の拠点」から、人々の交流が生まれる「暮らしのプラットフォーム」へと進化させる構想を進めていました。「大地の芸術祭」との連携は、人々の移動を促し、地域に貢献するという意味で、「MOYORe:」の想いとも合致するものだったのです。

「大地の芸術祭」と「MOYORe:」、それぞれの思いが重なって、コラボレーションイベントが企画されました。2022年3月27日に開催された第1回では、芸術祭の総合ディレクターである北川フラムさん、芸術祭を裏で支えるボランティア「こへび隊」を代表して玉木有紀子さんをゲストに招き、「アートを通じて地域づくりにかかわっていくこと」についてトーク。定員40名のところに50名の方が参加するなど、順調なスタートを切りました。

大地の芸術祭総合ディレクター 北川 フラムさん

その後、5月には施設体験イベント「MOYORe:OPENDAY」での芸術祭の見どころを紹介するブース出展、6月には現地をすでに訪れた方やボランティア・芸術祭関係者によるオンライントークイベント、7月には新潟駅から電車でまわれる作品や7月から加わった新作を紹介するトークイベントを開催し、8月からは作品鑑賞パスポートの販売も開始。「MOYORe:」を訪れる人のなかにも「大地の芸術祭」への関心が醸成されていきました。

そうしたイベントを通じて、「ぜひ現地に行きたい」という声が高まり、9月には希望者を募り実際に芸術祭の舞台となる越後妻有へ行く2泊3日のツアーを「MOYORe:」として開催しました。

建築家、デザイナー、会社員、音楽家など、さまざまなバックグラウンドを持つ方々、総勢12名が参加したツアーは、とても充実度の高いものになったと、「MOYORe:」のコミュニケーションマネージャーである原田智子と「大地の芸術祭」の佐藤さんは振り返ります。

原田: 佐藤さんが素晴らしいツアーを組んでくれたんです。みんなでアートに触れて、美味しいご飯を食べることもできて、大満足でした。「MOYORe:」としても、新潟駅から別の地域に飛び出していきたいと思っていたので、ツアーはとてもいい機会になりました。

株式会社リビタ 原田 智子

佐藤: 普段のツアーでは、こちらがガイドとして皆さんにご説明することの方が多いんです。でも、「MOYORe:」に関わるみなさんとのツアーはユニークな方が多く、それぞれの視点から「この作品は建築的にみるとこうだよ」とか「海外ではこうだよ」といったようなコメントをくださるので、私たちとしても気づきをたくさんいただきました。

結果的に、イベントやツアーを通して、参加者のなかから芸術祭のボランティアに申し込む方や、お住まいの地域の観光協会で芸術祭へのボランティア参加ツアーを企画した方、芸術祭を舞台に企業の研修を組む方などがあらわれたそう。佐藤さんも原田も想像していなかったような化学反応が、「大地の芸術祭」と「MOYORe:」の連携によって生まれていったのです。

コロナの影響を受けて、運営のあり方を抜本的に見直すことが求められた「大地の芸術祭」自体も、運営チームや地域の人々、ボランティアスタッフの奮闘もあり、2022年の第8回は約57万人の来場者が集まるなど、成功を収めることとなりました。

2022年の開催にあたってのさまざまな変化は、今後の「大地の芸術祭」の方向性を示すような「ポジティブな転換」のきっかけになったと、佐藤さんは振り返ります。

佐藤: これまでの「大地の芸術祭」は、夏の一定期間で開催されるイベントでしたが、2022年は春から秋にかけての長期開催となりました。それによって、季節ごとに異なる作品を楽しめるという新たな芸術祭のかたちをつくることができました。
また、それまではアートが好きな20~30代の女性や、海外の方の来場が目立ったのですが、移動が制限される分県内の方に向けたPRに取り組んだ結果、県内の方やファミリー層に多く来ていただけたのも、これまでとは違った手応えを感じましたね。

これからの「MOYORe:」

2022年の第8回「大地の芸術祭」が終わった今、原田も佐藤さんも、今後の連携を見据えています。「芸術祭の開催のタイミングだけじゃなくて、次回開催の3年後までにできる“仕込み”みたいな企画ができたらおもしろそう」と語る原田。佐藤さんも、「芸術祭に参加した方が『MOYORe:』でその気づきや学びをシェアして、さらにつながりが広がるような場になったらいいですね」と続けます。

オープンから約2年で、「MOYORe:」ではさまざまな人やモノが集まり、交わり合ってきました。これから「MOYORe:」は、新潟駅を起点にさまざまな地域へ飛び出し、さらに交流の輪を広げていくことを目指しています。

「大地の芸術祭」との連携は、“駅”のなかでの化学反応が波及して、より広い地域の中でポジティブな化学反応を起こすプラットフォームとしての「MOYORe:」の可能性を示していると言えそうです。

「MOYORe:」の歩みは、まだ始まったばかり。数年後、新潟駅には私たちが見たこともなかった、ワクワクするような“駅”の姿が生まれているかもしれません。

MOYORe:の詳細はこちら

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