ローカルとつながる旅
清澄白河エリアで
ここにしかない「不易流行の文化」と出会う
観光地ばかりをめぐる旅じゃ、つまらない。ほしいのは、その地域のローカルな場所・文化とのつながりを感じることができる体験。
連載「ローカルとつながる旅」では、その地域とのつながりを感じることができるような旅のプランをご紹介します。
今回訪れたのは、東京の清澄白河エリア。一泊二日の旅で、「古きよき文化とあたらしい文化」の交互浴のような体験をしてきました。
-1日目-
松尾芭蕉ゆかりの地で、蛙さがし
「ああ、清澄白河!あのお洒落なとこね」なんて知ったかぶりしてた自分をはたいてやりたい。10年近く東京に住んでいて、僕はこのまちのことを全然知らなかった。たとえば、あの俳人ゆかりの地だったことも。
清澄白河をふくむ深川エリア(森下、清澄白河、門前仲町、木場のあたり)は、松尾芭蕉ゆかりの地。延宝8年(1680年)、芭蕉は日本橋から深川の草庵に移り住んだのだ。あの有名な「おくのほそ道」も、ここからスタートしたらしい。
ということで、この旅も芭蕉ゆかりのスポットからスタート。
清澄白河駅から7分ほど歩くと、「深川芭蕉通り」にたどりつく。
道には、親切にも「芭蕉ゆかりの地のご案内」の看板が。
「芭蕉記念館」に「芭蕉庵史跡展望庭園」「芭蕉稲荷神社」「萬年橋」……。このあたりには芭蕉ゆかりの地がいくつもあるのだ。
有名な「古池や蛙飛びこむ水の音」の句にちなんで、あちこちに蛙をモチーフにしたものがある。芭蕉庵がこのあたりにあったとされる「芭蕉稲荷神社」でも、石蛙の姿を発見。
よくみたら歩道にも蛙を発見!古池に飛び込もうとしてる瞬間だろうか。「ぴちょん」という音が聞こえてきそうだ。
スパイスカレーを食べながら、「このまちらしさ」に触れる
清澄通り沿いをてくてくと歩くと、おお、なんだあれは!?緑に塗られた建物が目に飛び込んできた。
調べてみれば、2階に「BAR NICO」というバー、1階に「NICO 25 TO GO」というカレーとジンの店、深川蒸留所のジンや国産ジンを中心とした酒販・角打ち「ニコ酒店」が入っている、なんとも楽しげな建物らしい。
ちょうどお腹が空いてきたので、カレーでも食べるとしよう。
「NICO 25 TO GO」で迎えてくれたのは、オーナーの小林幸太さん。もともと「BAR NICO」を経営していて、コロナ禍の2019年にテイクアウトメインのスパイスカレーの店として「NICO 25 TO GO」をオープンしたのだそう。
さて、なにを食べよう。「牛タンスパイスカレー」もいいし、「猪肉ジビエカレー」も捨てがたい。ぐむむ、と悩んでいると「あいがけもできますよ!」とのこと。それはぜひ!ということで、このふたつのあいがけをオーダーした。
ジビエとスパイスが絶妙にマッチしていて、ほおばるとほろほろと溶ける牛タンもたまらない。うまいうまいと食べながら、小林さんにこの地域の魅力を聞いてみた。
「『不易流行』っていう、松尾芭蕉が大事にした考え方があるんです。「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」。つまり、変わらないものの中に新しいものを取り入れていくっていうことです。深川エリアは、不易流行のまちだと思いますね」
たとえば、このお店の近くにある「深川神明宮」で3年に一度行われ、水掛け祭りとしても知られる「深川神明宮例大祭」を、地域の人はとても大切にしているそう。そうやって古くからの伝統も大切にしつつ、現代アートを展示する「東京都現代美術館」があったり、「ブルーボトルコーヒー」のオープンをきっかけに近年では次々とカフェがオープンする「カフェのまち」になってきたりと、あたらしい文化も育まれている。
まさに不易流行。古きよき文化とあたらしい文化がまざりあい、独特の雰囲気を生み出しているのが、このエリアなのだ。
実は「酒のまち」?深川発のクラフトジン
食後、「ニコ酒店」ものぞかせてもらった。この酒販・角打ちの店も小林さんがオーナーだ。
ずらりと並ぶ、ジンを中心としたお酒。どれもラベルがおしゃれで、お土産としても喜ばれそうだ。
「まだあまり知られてないですけど、深川は最近『酒の街』としても盛り上がってきてるんですよ」と小林さん。実は彼自身がその仕掛け人でもある。
小林さんは、90年以上にわたって理化学用ガラスの卸をしてきた「関谷理化株式会社」の3代目・関谷幸樹さんと、クラフトジンとスピリッツの蒸留所「深川蒸留所」を2023年にオープン。独自の蒸留器「ニューツブロ蒸留器」を開発し、深川発のお酒作りをはじめた。
そうしてリリースされたクラフトジンが、「FUEKI」。ジュニパーベリーや一度蒸したショウガといったボタニカルに加え、かつて材木の街として栄えた木場の木材を使用しているという、この街ならではのお酒だ。
名前はもちろん、「不易流行」からとっている。ラベルの水しぶきは、実際の水掛け祭りの写真を使用しているのだそう。お土産に買っていったら話のきっかけにもなりそうだ。
その他にも、珈琲や薔薇、祁門茶(アールグレイ)など個性豊かな種類がある「深川ツブロシリーズ」もお店に並べられていた。
水辺ならではの時間を過ごせるホテル
小林さんに「どこかおすすめスポットありますか?」と聞くと、「『清澄長屋』はどうですか?」とのこと。
教えてもらった場所に行ってみると、関東大震災の復興住宅として昭和3年に建てられたというレトロな建物が並んでいて、独特な景観をつくっていた。ちなみにこの向かいの建物では「NAGAYA 清澄白河駅」というコワーキングスペースもあるそう。今度利用してみようかな。
さて、そろそろ宿にチェックインしておこう。隅田川沿いを歩いて、ホテルに向かう。
今日泊まるのは「LYURO 東京清澄」。築28年のオフィスビルをリノベーションしたホテルで、水辺ならではの時間を過ごすことができる。
室内とバスルームから隅田川を眺めることができるなんて、贅沢! 歩き疲れたら、部屋で川を眺めながらのんびりするのもよさそうだ。
エントランスもひろびろとしてお洒落。窓際には机と椅子が並べられており、PCをひろげたり、本を読んでいる人もいた。
ホテルの前のテラスからは、スカイツリーも見える。
大きい荷物は宿に置いて、散策を再開しよう。
東京都指定名勝に指定されている「清澄庭園」も、LYUROから歩いて5分ほど。三菱財閥を創業した岩崎家ゆかりのこの庭園は、池の周りを歩きながら景観を楽しむことができる「回遊式林泉庭園」。清澄白河を訪れるならおさえておきたいスポットだ。
ワインと銭湯で満たされる、幸福な夜
あちこち歩いているうちに日も暮れてきたので、夕飯といこう。
夜のまちにあたたかい光がもれている一角があった。ここはワインバー「Que cést beau (ガゼボ)」。最近ワインにハマっていたので「これは!」と思い、吸いよせられるように入店。
車庫を改装したという天井が高い店内で、ワインと、それに合う料理をいただく。美味しいお酒と料理、気さくな店員さんとの会話に、夜が心地よく溶けていく。
少し夜風に当たって酔いを覚ました後は、「辰巳湯」でひとっぷろ。
湯船に浸かりながら、小林さんが言っていた「不易流行」という言葉に思いを馳せる。明日はどんな古きよき文化とあたらしい文化に出会えるだろう。
-2日目-
地域の文化を感じられる朝食
朝ごはんは「LYURO」の2階にある「CLANN BY THE RIVER」で。このレストランは、「ローカルに愛されてこそ、グローバルに愛される」という考えのもと、近隣のエリアにゆかりのあるメニューを提供している。
この日いただいたのは、「クラムチャウダースープセット」。
蔵前で愛される「chigaya」のパン、同じく蔵前のロースタリー「LEAVES COFFEE ROASTERS」が焙煎した豆を使ったコーヒーなど、朝ごはんを食べながら地域の文化を感じられるのも、ここの朝食の魅力だ。
懐かしさと遊び心のある商店街
お腹が満たされたところで、散策開始。清澄庭園の横を抜けて、「深川資料館通り商店街」へ。
この商店街を歩いていると、昔ながらの呉服店、本屋、蕎麦屋、文具店などが並んで、どこか懐かしい気持ちになる。
なかにはこんなユニークな佃煮屋も。
のれんには「日本一まずい佃煮でごめん」の文字。そういわれると俄然入りたくなってくるけど、今日は先を急ごう。
商店街のなかほどには、「深川江戸資料館」がある。
ここでは江戸時代末の深川の町並みが実物大で再現されていたり、浄瑠璃や浪曲といった伝統芸能に触れることができる。
清澄白河は路地もたのしい。猫になった気分で細い道を歩いてみると、きれいな植栽やユニークなお店を発見することがある。
お休み中の駄菓子屋に貼られたこんなメッセージに、ちょっとぐっときてしまったり。
それにこの建物の壁。なんか変なの、わかります?
これ、よく見ると影じゃなくて絵なのだ!
こういう遊び心にちょくちょく出くわすのも、清澄白河を歩く楽しさのひとつ。
「深川めし」と、こだわりの和菓子に舌鼓
このあたりに来たら、「深川めし」を食さずに帰るわけにはいかない。この日は「深川釜匠」に入って「深川めし」をいただく。「深川めし」は、葱と生のアサリを味噌で煮て汁ごとご飯にかけた、深川エリアの名物。口に運ぶと、磯の香りがほわーっとひろがってたまらない。
食後はちょっと甘いものが食べたいなぁ、と思っていたら、ちょうど和菓子屋を発見!創業70年を数えるという「御菓子司 双葉」だ。「上生菓子とお抹茶のセット」を買って、店の前のベンチでいただくことに。
「うちは煉切(ねりきり)に長芋をつかってるんですよ」と店主のおじさん。いわれてみればどことなく長芋の風味がする。「和菓子は見て楽しむ、食べて楽しむ。いつも研究しながらつくってるんです」と、気さくに話してくれた。なるほど、和菓子も「不易流行」なんだなぁ。
現代アートとコーヒーと植物を堪能
アート好きなら、「東京都現代美術館」ははずせない。いつもエッジのきいた展示が開催されているから、普段、美術館に訪れない人でも、「現代アートってこんなにおもしろいんだ!」と気づくきっかけになるかも。
この日は「翻訳できない わたしの言葉」という展示を鑑賞。あまりにおもしろくて、1時間くらいの滞在のつもりが気づいたら2時間たっていた。
鑑賞の余韻に浸りながらぷらぷらしていると、なにやら素敵そうなお店を発見。こちらは「le bois (ル・ボア)」。カフェとアートと観葉植物を融合させたボタニカルカフェだ。
スタッフの薬真寺玄喜さんに話を聞くと、「カフェ×植物×アートで、生活が豊かになるライフスタイルの提案ができるお店になれば」という思いで2023年10月にオープンしたんだそう。
フランス語で「小さな森」を意味する店名のとおり、店のなかには観葉植物がたくさん。植物に囲まれながらコーヒーでほっと一息つくと、木立のなかにいるような気持ちになる。
観葉植物はかわいい鉢とコーディネートされていて、購入可能みたいだ。
2階にはギャラリーもあって、駆け出しのアーティストなどが展示を行っているらしい。美術館で大規模な展示を楽しんだあと、この店に来れば、まだ世に出ていないアーティストの作品も楽しめそうだ。
「理化学+インテリア」にびっくり!
そろそろ日も暮れてきた。せっかくだし、自分にもなにかお土産を買おう!ということで訪れたのが「リカシツ」。
お店に入ると、あらびっくり!学校の理科室で見たような試験管、フラスコ、ビーカーなどがずらりと並んでいる。
しかも、フラスコに植物が!
ここは世にも珍しい「理化学+インテリア」を提案するショップ。90年以上理化学製品の卸業を営んできた「関谷理化株式会社」が、一般層への商品展開を目的にオープンしたらしい。
それにしても、理化学製品がこんな素敵なインテリアになるなんて!
これにお花を生けたらお洒落そうだな、と思って、「リム無し三角フラスコ 500ML」を買って帰ることにした。
旅の締めくくりに、「いまでや 清澄白河」に寄ってみる。
千葉県に本店を構える酒販店「IMADEYA」がプロデュースしたサブブランドの酒屋&角打ちで、気持ちよく酔いながら、旅を振り返る。
芭蕉、スパイスカレー、伝統芸能にカフェ、現代アート……古きよき文化とあたらしい文化が混ざり合う「不易流行」のまちを、まるで交互浴みたいに楽しめた旅だった。気持ちも整ったし、また明日から仕事がんばろう!