商店街と来街者を繋いだ茨城県結城市の地方創生イベント開催から拠点づくりへと至った「結いプロジェクト」のまちづくり|まちとのつながり

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暮らし再発見マガジン のくらし by ReBITA
まちとのつながり

商店街と来街者を繋いだ茨城県結城市の地方創生
イベント開催から拠点づくりへと至った
「結いプロジェクト」のまちづくり

目 次
  1. 1シャッター商店街から生まれたまちづくりプロジェクト
  2. 2人と街の掛け算を産み出す結い市・結いのおと
  3. 3マルシェをやれば上手くいく、というわけではない
  4. 4新たな可能性を見出す場所「yuinowa」
  5. 5関係人口と共に進むエリアリノベーション
  6. 6まちづくり13年目、宿を作る

「まちづくりとのくらし」では、これまでにリビタと関わった自治体や、まちづくりに携わる人々との対談や取材を通して、暮らしにまつわる可能性を様々な切り口から発信しています。
本シリーズの第六弾は、茨城県結城市のまちづくりから考える「まちづくりとのくらし」です。
結城市のまちづくりプロジェクトとリビタは、みなとみらいで運営する街のシェアスペース『BUKATSUDO』の利用者との接点から、結城市の地域イベント「結い市」への出店にはじまり、コワーキングスペース『yuinowa』の運営支援や BUKATSUDO・the Cとの相互連携、関係人口づくり連携などをこれまで行ってきました。

今回は、番外編として結城市のまちづくりプロジェクトを担うお二人に、yuinowaの運営コンサルを担当したリビタ増田が改めてまちづくりの経緯を伺い、地方でのまちづくりの在り方について語っていただきました。

プロフィール

〈インタビュイー〉
飯野勝智
NIDO一級建築士事務所 主宰(一級建築士)/一般社団法人

MUSUBITO 代表理事/結いプロジェクト代表/株式会社TMO 取締役
建築を学ぶ中で、生まれ育った街の魅力に気づく。地元の良さを伝え、残したい思いで「人と人・人と街を結ぶ」をキーワードに2010年結いプロジェクトを結成。「結い市」や「結いのおと」の企画・運営やyuinowaの立ち上げに関わるなど、街全体を建築のフィールドと捉え幅広く活動を展開。

野口純一
結城商工会議所/結いプロジェクト/一般社団法人MUSUBITO/NPO日本フェス協会

2007年アパレル企業から転職し、結城商工会議所へ入所(経営指導員)、小規模事業者の経営全般や創業などのサポート業務を行う。その他に商店街連合会や3セク街づくり会社の事務局などを担当したのがきっかけとなり、2010年に「結いプロジェクト」を立ち上げ、イベントなどのオーガナイズを担当する。2021年に一般社団法人MUSUBITOを設立し、現在結城の街なかに宿を作る宿泊事業を進行中。結城を舞台にした様々な活動を通して、代謝につながるチャレンジしやすい土壌(街)づくりを行っている。

〈インタビュアー〉
増田亜斗夢
株式会社リビタ 地域連携事業部

2012年より都市計画コンサルタント事務所にて、官公庁・UR等を中心に地域活性化に向けた戦略検討等のプロジェクトを行う。2017年リビタへ入社後、「働く」「学ぶ」「遊ぶ」などを軸としたシェアスペース等の企画・運営・コンテンツ企画を地方・都心関わらず行っており、茨城県の移住促進事業(if design project)や新潟駅前の複合型シェアスペースMOYORe:のプロジェクト推進、TDK企業寮内のシェアスペース企画等を務める。

シャッター商店街から生まれたまちづくりプロジェクト

茨城県結城市は、県西部に位置する街。広大な土地を生かした農業や製造業が栄える一方、市街地には鎌倉時代から続く古い街並みが今も息づいています。酒蔵、味噌蔵、紬問屋、呉服店、桐工芸の工房など、古くは江戸時代頃から事業が営まれてきました。
商店街には、築100年を超える見世蔵や酒蔵が現役で使われている店舗もあります。

人口減少や跡継ぎ不足の問題から、一時はシャッター商店街へと衰退しかけたこの場所。しかし様々な地域プレーヤーたちの取り組みによって、新たな価値を持つ魅力的な街へと生まれ変わりつつあります。

その一旦を担うのが、まちづくり団体結いプロジェクトのリーダーで、一般社団法人MUSUBITO共同代表の飯野さんと野口さんです。ソフトからハードまで多岐にわたる取り組みを通じて、これまでに街の価値を高めてきました。

結いプロジェクトのリーダーとしてまちづくりをけん引してきた、飯野勝智さん

飯野:「結城の街は、鎌倉時代から続く城下町であり、商業の街なんです。住居と店舗が一体となった見世蔵が多く残っています。この見世蔵は、商売を廃業しても引き続き人だけは住み続けることが多かったため、空きとなる店舗部分を他人に貸し出しづらいという事情がありました。」

現在も受け継がれている、商いと暮らしの一体感。しかし、それ故の空き家問題が起こっていたそう。閉店したままの店舗が増えていき、気づけばシャッター商店街に。結城で生まれ育った飯野さんも、楽しい思い出がある場所が消えていく寂しさを感じていたといいます。

飯野さんの相方として、様々なイベントや事業企画を進めてきた野口純一さん

そんな市街地の状況をみて、二人は「この街を、もっと面白い場所にしたい」という思いを抱き始めます。

飯野さんは、結城市の旧市街地で代々続く左官屋に生まれ、建築士として活動。一方、野口さんは茨城県古河市出身で、アパレル業界から結城商工会議所に転職。ルーツはお互い違うものの、結城のまちづくりコンペを通じて意気投合。ここから、結城の地域活性を担うまちづくり団体「結いプロジェクト」が生まれました。

人と街の掛け算を産み出す結い市・結いのおと

結い市のメイン会場の健田須賀神社

結いプロジェクトとしてまず最初に始めたのは、マルシェイベント「結い市」。

初回となる2010年は、市内の神社で開催しました。翌年から商店街へと舞台を広げ、回を追うごとに、来場者が結城の街を感じながら楽しめるイベントへと進化していきます。

商店街の店舗そのものを出展者のブースにするというのが、このイベント最大の特徴。普段はシャッターが閉まっている店舗を、その日限りでオープンする店へと作り上げていきます。

 

参道を挟むように様々な出展者が軒を連ね、縁日のような賑わいを見せる。

野口:「二回目から舞台を結城の街に広げたことで、出展者と街の人とがコラボレーションしながら作り上げる結い市となっていきました。街や店舗の特徴を生かしながら世界観を表現してもらうことで、地域資源活用にもつながっています」

出展者たちの物件選びの際に、結いプロジェクト主導で空き家巡りツアーを開催している様子

結い市を続ける中で、音楽フェスイベント「結いのおと」もスタート。見世蔵や酒蔵、紬問屋をライブステージとして活用し、これまで結城と縁が無かった人たちも多数来場。

2024年には11回目の開催を迎え、街なかを巡るサーキット型フェスとして、全国の有名な音楽フェスと肩を並べるまで成長しました。

 

一年を通して行われるイベントが、秋の結い市、春の結いのおとの二本立てとなり、出展者と街の人たちのコミュニケーションも、年を追うごとに深まっていきます。

マルシェをやれば上手くいく、というわけではない

イベントを通じて、出展者も来場者たちも結城の街を気に入ってくれていると実感し始めていた二人。しかし、なかなか「その先」にはつながりませんでした。

野口:「『結城、すごくいいですね!』と言ってくださる出展者も具体的に空き家への出店を考える段階になると、物件オーナーさんとの調整が上手くいかず、結局別の街へ店を構えることになってしまうケースが多かったですね。」

悩みが続く最中、結いプロジェクトで開催していた創業支援セミナーで二人は予期せぬ荒療治を受けます。

野口:「まちづくりの実績をたくさん持つ講師陣の方々から、セミナーのなかで『自分たちは街の中に拠点を作らず、他人に新規出店を勧めるのは都合が良すぎるよね』という言葉があったんです。街を盛り上げていく覚悟が、自分にはまだまだできていなかったと実感した瞬間でしたね」

飯野:「でも、そこで二人とも覚悟が決まりました。これまではイベントを継続することで街の内外に関係性を作ってきましたが、それだけではダメで。僕たちが街の中に場所を作り、人と街をつなぐハブのような役割を果たす必要があるなと考えました」

新たな可能性を見出す場所「yuinowa」

yuinowa外観
yuinowa内観

二人の覚悟の証として作られた拠点が、リビタが運営コンサルとして関わった「yuinowa」でした。

yuinowaは、シェアスペース、チャレンジキッチンを中心とした施設で、人と街をつなぐための拠点です。移住相談窓口としても機能しています。
街の中で起こるイベントを通じてコンテンツを作り、地域の人たちとコミュニケーションを深め、市外の人たちからも街に興味を持ってもらう。その延長線上の取り組みとして、場所を作る。

増田は、その展開について「地域活性の理想的な流れ」だと感じていました。

増田:「結果的にハード先行でとりあえず場所を作るところからスタートさせず、結い市などのコンテンツを通して、街やプロジェクトに関わる人たちと空き家・空き店舗活用の機運を醸成させてから、yuinowaという場を飯野さんたちがつくられたことは、スモールステップから地域を盛り上げていく、とてもいい流れだと思ってみていました」

 

リビタの増田

増田は同時に、リビタの運営施設とyuinowaのような外部の施設を通じた連携にも可能性を感じていました。

増田:「リビタが横浜・みなとみらいで運営する施設『BUKATSUDO』や神田の『the C』では、スタッフが常駐しているうえ、感度の高い方や場所を選ばず働ける方へPRできることをメリットに感じていただけたことから、結城市の移住相談窓口として活用してもらいました。その一貫で、BUKATSUDO等のコミュニティを何らかのコンテンツを通して、結城につなげていく取り組みも行いました。地域側にとっては多様な関係人口ができたり、地域の魅力の再発見につながったり、新たな地域のファンができたりする一方で、リビタ施設側としても施設外へと飛び出し、そこの現地の人との交流を通じて、コミュニティの一体感がより豊かになっていく感覚が得られました。修学旅行に行くとみんなが少し仲良くなる、みたいな感じですね。そんな瞬間を何度も作っていくことで、yuinowaのような地方のシェアスペースとの連携にも可能性を感じました」

yuinowaで行われたBUKATSUDO 餃子部企画

一方、ここで重要になるのが、yuinowaを運営する飯野さん・野口さんと街との関係性。地域と来街者を媒介する人の存在が、その成果に大きく影響するのです。

増田:「当時僕が結城に足を運んだとき、飯野さんと野口さんは、イベントが開催されているわけでもない、平日の結城の街を魅力的に案内してくれたんです。ただ歩いていたら通り過ぎてしまうだけの風景でも、新鮮な情報として捉えさせてくれる。そんな街のコーディネーターの存在は、本当に大事だと実感しました」

野口:「増田さんからそう言っていただけて、イベントが無い日に街を案内してもいいんだ!面白がってもらえるんだ!と驚きましたね。日常の結城を、外部の人に喜んでもらえるのは、街の人たちにとっても、自己肯定感を高めるきっかけになったはずです」

BUKATSUDO内のコミュニティと結城へ訪れた「大人の修学旅行」企画の様子

関係人口と共に進むエリアリノベーション

yuinowaのチャレンジキッチン。新規出店に向けたトライアンドエラーも可能

yuinowaのチャレンジキッチンを活用した市街地への新規出店支援も、オープン以来続けられています。これまで支援してきた事業主は、およそ20店舗。

野口:「結城商工会議所の創業支援セミナーを受けた方も、腕試しの場所として出店されていました。創業の相談もできるので、街のシャッターを開けていく流れにもつなげやすかったですね」

現在この物件には、yuinowaのチャレンジキッチンを経た喫茶店が入店している

現在、yuinowaを通じて市街地に出店した店舗は、サウナ、焼き菓子屋、古民家カフェ、ジェラート屋などさまざま。北部市街地の魅力と価値は、少しずつですが、確実に向上しています。

増田:「yuinowaができてから、関係人口が増え、エリアリノベーションがどんどん進んでいったと実感しています。結い市に出展していた人が、結城の街に店舗を構えるようになった例もあり、ソフトからハードの好循環を感じます」

 

まちづくり13年目、宿を作る

結いプロジェクトが始まって以来、「街なかに宿が無い」という課題も持ち続けていたそう。リビタが都心のコミュニティを引き連れ結城へ訪れた際、ふと出てきた「ここに宿があったらいいのに」というコメントからも、より必要性を感じたそうです。

コロナ禍を乗り越え、満を持して2023年にオープンしたのが、一棟貸しの宿、HOTEL(TEN)

yuinowaからほど近く、路地の奥にある築90年の空き家を買い取り、リノベーション。

宿の名前「TEN(てん)」は、そこに泊まる旅人にとって、結城における最初の出発点になってほしいという気持ちから。

次世代の活躍に期待しつつも、二人は次の展開を作りはじめているようです。

野口:「結城はアクセスがいい場所だし、結城紬や街の歴史の深さも大きな魅力だと思っています。それらを生かしながら、この先の展開を自由に作っていけたら最高ですよね。」

飯野:「人と街がつながり、我々のようなプレーヤーが増えていくことで、街の代謝が活発になり、豊かな街へと向かってゆくはず。イベントづくりに拠点づくり、宿作りといろいろな取り組みを続けてきましたが、一貫しているのは『人と街との縁をつなぐ』こと。それが、結城の土壌を作っていくのだと思います」

飯野さん、野口さんという2人のキープレイヤーを中心に、変化を続ける結城の街。その様子から、地方でのまちづくりは、少数のキープレイヤーが覚悟とリスクを持って、スモールステップの活動から徐々に拡大、継続していくことが大事なのだと教えてくれます。

増田:「結城でのお二人の長年の取り組みに共感し、yuinowaの運営コンサル業務契約が終了した今もなお『結いのおと』への企業協賛という形で応援させていただいています。お二人が作り出す、今後の結城の展開を陰ながら楽しみにしています」

人と街をつなぐ手段として地域資源を生かしたハードウェア的・ソフトウェア的接点を作り続け、次第に輪が大きくなっていった結城の関係人口。足を運ぶたびに、少しずつ盛り上がる街の変化を感じます。
着実に地方創生を進めてきた、結城のまちづくり。その足跡をたどるなかで、これからの地方エリアリノベーションのあり方のヒントを垣間見ることができました。

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