ローカルなまちの魅力を再編集
企業価値と社会価値の両立を目指す
地域連携事業部
ローカルながらもポテンシャルの高いまち。まだ知られていない魅力をたくさん持っているまち。そんなローカルなまちが持つ魅力を再編集し、その場の体温を温め続けているのが、リビタの地域連携事業部です。そのなかでも、さまざまな課題をもったクライアントに寄り添い解決し、伴走し続けている増田亜斗夢さんにお話をうかがいました。
さまざまな場・コトづくりを推進する地域連携事業部
ー増田さんは地域連携事業部として『if design project~茨城未来デザインプロジェクト~』『メーカーズキャラバン』『PlanT』『MOYORe:』などさまざまなプロジェクトを担当されていますね。そもそも、地域連携事業部はどのようにスタートしたのでしょうか。
当時、シェア型賃貸住宅『シェアプレイス』の企画・運営を行っていた中で生まれた「居住者の共用空間を街中に展開させる」という発想から、『BUKATSUDO』等のシェアスペースの企画・運営をはじめたのがきっかけでした。社会的にも「サードプレイス」という自宅でもオフィスでもない居場所が求められつつあった中で、「遊ぶ・学ぶ・働く」などをキーワードとした居場所の企画・運営を行う部署として、地域連携事業部(当時はコミュニケーションマネジメントグループ)がスタートしました。
今では、シェアスペースの企画・運営はもちろんのこと、再開発における地域貢献スペース、行政の産業連携施設、移住促進事業等、様々な場やコトの企画・運営に携わっています。
ー増田さんは2017年に入社され、まずはどのような業務に携わっていたのでしょうか。
入社した当初は『BUKATSUDO』や『the C』といったシェアスペースの運営に携わっていました。また、私の前職が都市計画コンサルタントで、以前より日野市の住宅マスタープランづくりや多摩平団地の再生にも関わっていたこともあって、日野市の公共施設でもある、多摩平の森産業連携センター『PlanT』の運営にも携わることになりました。
ー前職での経験やノウハウが期待されたのですね。『PlanT』ではどのような取り組みを?
『PlanT』は日野市にある企業とまちの人々、また利用者同士がつながり、イノベーションを生み出すための公共施設として誕生しました。リビタは当時、施設の企画から携わり、初動期の3年間は運営も担うことで、『PlanT』のコンセプトでもある地域・企業連携のサポートを行っていました。
そのサポートのひとつが『メーカーズキャラバン』という企業課題解決型のプログラムです。これは日野市にお住いの方から、コンテンツ自体に興味のある日野市外のクリエイターまで様々な職種の方を集め、日野市のものづくり企業に足を運び、サービスや技術を学んで、『PlanT』で新しいサービスやアイデアを考えるというものです。リビタでは、プロモーション・集客をはじめ、全体のワークショッププログラムの企画や当日の進行・ファシリテーションまで、一気通貫で実施し、参加者の視点を通して日野市内の企業の課題や魅力を再発見するきっかけづくりをしてきました。
それと並行して、茨城県結城市からも仕事の依頼をいただきました。築90年の旧呉服店をリノベーションしたコワーキングスペース『yuinowa』の開業支援や、結城市への関係人口づくりが主な業務です。比較的自由度の高い働き方をしている方や感度の高い方々に街を知ってほしいという結城市側の想いもあり、リビタが運営する『BUKATSUDO』と『the C』に結城市の移住相談窓口を開設しました。ただ、それだけでは結城市に人は行かないので、『BUKATSUDO』を普段利用されている方々を巻き込みながら、結城市の魅力を自然に触れられるコンテンツを企画。日本酒講座や出張カメラ部など、数回に分けて約90人ほど実際に足を運んでもらうきっかけづくりをしました。
ー『BUKATSUDO』と結城市、それぞれお互いによい効果が生まれそうですね。
そうですね。『BUKATSUDO』にとっては、利用者様同士が普段とは異なる場に出かけることで、学生時代の修学旅行のように横のつながりがより強固になる一方、結城市においてはターゲットだった感度が高くフレキシブルに働ける方々を中心に街を知ってもらうきっかけとなりました。この体験を通じて結城市が好きになり、プライベートで訪れていた方もいました。
このような取り組みが評価され、翌年度には茨城県からも移住促進事業の依頼をいただくことに。『メーカーズキャラバン』のような様々な人を巻き込んだ企業課題解決型プロジェクトの企画・運営実績や、『BUKATSUDO』『シェアプレイス』といった都内周辺でのコミュニティを持っていることが、地域の関係人口づくりに強みを発揮できるのではないかとリビタに声がかかったんです。それが2018年、『if design project~茨城未来デザインプロジェクト~』(以下、『if design project』)のはじまりであり、そこから4年間実施しました。
東京と茨城の密な関係性をつくる『if design project』のはじまり
ー『if design project』にはどのような構想があったのでしょうか。
茨城県は東京からのアクセスが良好で、気軽に行き来ができます。そこで「これまで身につけてきた自身のスキルを使ってチャレンジしたい」という東京圏の方と、地域で既に活動をされているプレイヤーがチームとなって、地元企業を通じて地域課題に対する企画提案を行うプログラムをつくりました。
この取り組みから、茨城県とつながりのある「関係人口」が増えるといいな、と。この企画提案をチームで考えていくプロセスの中で、何度も茨城県に足を運び、地元の人々とも関係を深めていくうちに「茨城っていいな」「茨城で活動してみたいな」と思う方が増えていく。そんなイメージです。
実際にこのプロジェクトを通して、移住された方や地域おこし協力隊になった方、複業として茨城県に関わりを持つようになった方から、チームで起業された方など、様々な人材を輩出するきっかけを作ることができました。
ー構想が決まった後、実際に実施された『if design project』の具体的な内容を教えていただけますか。
まず一番に行ったのは、茨城県の魅力の発掘です。茨城県は魅力的な場所やモノがたくさんあるのに、まだまだ可能性を深堀りできていないものがたくさんありました。茨城県庁の方や県内のパートナーとも連携しながら、各自治体や地域へヒアリングを行い、茨城県の魅力となるテーマを毎年3つ設定していきました。
「スポーツ」「食」「山」「酒」「海」「農」など、取り上げるテーマはさまざま。
参加者は約3-4ヶ月の間に、各分野で活躍しているメンター(講師)の講義を受けたり、都内でリビタが運営する施設を使って企画ワークショップを行ったり、現地へのフィールドワークを繰り返しながら、茨城県の魅力を新鮮な目で捉え、「自分たちだったら何ができるか?」を軸に企画をつくり、テーマオーナーになっていただいた企業に対してプレゼンまで行うというプログラムです。2年度目からは、実際にその企画の実現に向けて動き出すチームに対してのサポート(企画の壁打ち相手や実際に試行的なイベントをする際の当日運営支援や集客支援など)も行いました。
ー とても壮大で面白そうなプロジェクトですね。一方で、企画から運営まで考えることが多岐にわたり、大変そうでもあります。プロジェクトの1番の肝は何だったのでしょうか?
1番の肝は、「課題や問いの設定」です。リビタはリノベーションの会社ということで、遊休不動産の活用をイメージされる方も多いと思いますが、地域連携事業部としては、リノベーションを「既存の価値の再発見と再編集」と捉えてプロジェクトをつくっています。『if design project』で最もそれにあたるのが「課題や問いの設定」でした。
「その問いが地域の課題解決に繋がるか?」はもちろんのこと「その問いがこれまでにないアイデアを創り出すきっかけとなり、様々な人の興味関心を惹くものか?」といった視点でも見直し、参画する地域の企業(テーマオーナー)やクライアントの茨城県庁とも何度もすり合わせた上で公表してきました。
その成果と茨城県のポテンシャルの高さも相まって、毎年募集定員の2倍前後の応募を集めることができたんです。
『if design project』に限らず、地域連携事業部での企画づくりは、「何を解決するためのプロジェクト(コト・場)なのか?」「その社会的意義や社内的意義は何なのか?」をクライアントの皆さまと整理した上で実際に企画を進めていくことが多く、足元をしっかりと構築することが、良いプロジェクトに繋がると考えています。
クライアントと参加者の間に立つフラットな存在
ー一方的に魅力や課題を提示するのではなく、クライアント企業や関わる地域の方々と一緒に整理構築していく過程が印象的です。
そうですね。押し付けのようなコンサルティングはしないです。地域の方々や企業には必ず「こうなってほしい」という想いはありつつ、時に言語化できていない想いがあります。それを汲み取りながらも、第三者的な視点を持って「地域が求めていること」と「そこに参加してくる方が望むこと」の接点を見つけることが重要だと思っています。リビタのシェアスペースを利用してくださる方々と、クライアントが繋がりたいと思っている方との接点を作ってきた地域連携事業部だからこそ、持てる視点なのかもしれないです。
加えて「リビタを含めた参加者全員が楽しむこと」もポイントじゃないかな、と。私はプロデューサーの立場として参加していますが、クライアント、参加者、地域プレイヤーの垣根をなるべくなくしながら、プロジェクトを進行していました。そのため、事業が終わった今でも連絡を取り合っている方もいます。そういう意味で、個人的にも思い入れのあるプロジェクトです。
ー地域のことを知るために、域連携事業部として大切にしていることはありますか。
どの地域においても、リビタはあくまで外部の存在なので、「地域のキーマンとなるプレイヤーとのつながり」は意識しています。『BUKATSUDO』や『the C』を使って、ローカルのイベントはこれまでもよくやってきたので、そこで繋がった方や『THE SHARE HOTELS』を通じて知り合った方など、リビタだからこそのネットワークを活かして市町村・クライアントからご紹介いただきプロジェクトを推進することが多いんです。地域プレイヤーと連携することで、地域の魅力や課題の深堀りに繋がることはもちろん、実際の施設運営やプロジェクトの企画を一緒に行ったり、施設内でのイベントにゲストとして出演してもらったりすることもあります。
あくまでクライアントがいてのリビタではありますが、クライアントの目線だけに偏らず、そこを踏まえながら社会や地域目線で提案を行っていくために、地域プレイヤーとフラットな関係性を築くことも心がけています。「地元企業ではない」「地元に根付いてきたプレイヤーではない」そんな立場だからこそ、地域のさまざまなプレイヤーと企業の間にフラットな存在として立ち、翻訳者的な役割も兼ねながら、プロジェクトを推進しています。
「持続可能性と社会性の両立」を丁寧に紐解く
ーリビタの地域連携事業部は、どんな企業や行政からの仕事が多いのでしょうか。
近年、民間事業者は収益目線だけでなく、地域・社会に対しての貢献や課題解決についても事業に組み込んでいくことが重要な時代となっています。
また、地方自治体にとっては、人口減少や少子高齢化問題もあって、民間事業者との連携だけでなく、その地域の様々なプレイヤーを巻き込みながら新たな担い手発掘も目論んで、ビジョンやプロジェクトをつくっていくことが必要になってきていると感じます。
こうした社会背景のなか、民間も公共事業も、持続可能性(事業性・収益性や担い手発掘など)と社会性(社会課題解決に繋がるか?地域の共感は得られるか?など)の両立が求められています。ただ、その一方で、こうした両立を図ろうとすると、目的や属性が異なる多様な人たちの想いや機能を整え、共感や連携を図りながら、プロジェクトを進行していく必要が出てきます。この両立を図ろうと、もがいている企業・ご担当者様の支援ができればと思っています。
地域連携事業部の他事例
・地域の多様性発見施設 旭市多世代交流施設『おひさまテラス』
クライアントの「先にいる人」とつながるために
ーお話をお聞きすると、地域連携事業部としてだけではなく「増田さん個人」としても仕事に向き合っているように感じます。
そうかもしれません。前職の都市計画コンサルはやりがいはあったものの、リアルな実感がありませんでした。あくまで上位の構想をつくる仕事が多かったなかで「もっと実感値を持って、自らの経験も通した、熱量のある提案をしたい」とリビタに転職したんです。リビタでは『BUKATSUDO』などでの運営実績を新しい企画に活かすなど、経験に基づいた提案ができています。それに企画だけじゃなく運営や、その先にいる人との関わりを継続的に保つことができる。そんな環境で働けていることがうれしいです。
ーやはり最終的に暮らしを豊かにするのは「人とのつながり」ということなんですね。
そうですね。リビタでは「住む・旅する・働く・学ぶ・遊ぶ」といった様々な領域でのプロジェクトがありますが、コロナ禍を経て、その捉え方が、自分の中では変化していっている感覚があります。それは、この大半の行為が家の中でできるようになったからです。オンラインで働いて、学んで、VRで旅もできる世の中になってきました。そうした状況下では、それらの前に付く「代名詞」が大切だと思うんです。「誰と」暮らすか、「誰と」旅するか、「誰と」働くか…。その関係性を見つけて、ビジョンや想いを企画に落とし込んでいくことが地域連携事業部の役割だと思っています。それによってクライアントの先にいるたくさんの人々と、より深くつながることができるのではないかな、と思っています。
あとがき
コンサルティングの仕事は、クライアントの課題や解決策を提示し、実行を促す監督のようなイメージがありました。しかし増田さんのお話を聞くと、地域連携事業部の仕事は、それとは異なるイメージであることがわかります。クライアントやその地域の人々と一緒に同じ視線に立つこと。それぞれの意見に深く耳を傾けること。一緒になって課題を解決していくこと。
「ものごとを一歩引いて見ていることが多いです。施設運営にしても、利用者のニーズを聞くとどうしても実現したくなってしまう。でもクライアントが本当にそれを望んでいるのか? メリットにつながるのか? 冷静になって、現場とクライアントそれぞれ持つ想いを中和するようにしています」(増田さん)
施設をつくる人、プロジェクトに参加する人、地域の人、みんなが同じ目線で参加することで自然と人々が集まり、開かれた施設とまちに育っていく。地域連携事業部はそんな風に、しなやかなイノベーションを望んでいることがわかりました。