旭市多世代交流施設「おひさまテラス」から考える、地域拠点を成功事例とするためのチーム体制とは|まちとのつながり

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まちとのつながり

旭市多世代交流施設「おひさまテラス」から考える、
地域拠点を成功事例とするためのチーム体制とは

目 次
  1. 1多世代交流施設「おひさまテラス」
  2. 2背景にある、行政や企業の思い
  3. 3地域内外の力を集めたチーム体制
  4. 4多様性実現のために必要な、場づくりの専門性
  5. 5「おひさまテラス」の未来
  6. 6地域の交流拠点を、成功事例にするために

「まちづくりとのくらし」では、これまでにリビタと関わった自治体や、まちづくりに携わる人々との対談や取材を通して、暮らしにまつわる可能性を様々な切り口から発信していく予定です。

本シリーズの第二弾は、千葉県旭市の旭市多世代交流施設「おひさまテラス」から考える「まちづくりとのくらし」です。

おひさまテラス」は、千葉県旭市にある商業施設「イオンタウン旭」のなかに2022年4月にオープンした多世代交流施設。「一人ひとりが新たな可能性を発見できる場」を目指すこの施設では、はやくも住民たちの交流や個性が表現される機会など、それまでまちになかったような光景が生まれています。

今回は、そんなユニークな施設である「おひさまテラス」が生まれた背景にある、行政や企業、そして個人の思いや、プロジェクトの成功に欠かせないチーム体制、そしてこれからの展望を、関係者の話から紐解いていきます。

プロフィール

永井 大輔
大学卒業後、日本一周の旅に出るなど一通り迷走した後、建築を学び直すべく大学に編入学。設計事務所勤務を経て2017年よりイオンタウンへ入社。地域連携や公民連携による“まちづくり”の重要性を唱え、新設された新業態推進部にて「みらいあさひ」と「おひさまテラス」の企画に従事。2022年2月いよいよ旭市に移住(単身赴任)し現地に駐在。プロジェクトを通じて商業施設と地域との新たな関係を模索し続けている。

赤座 剛
10代よりストリートカルチャー・現代アートに触れ、専門学校時代の芸術祭や個展が評価され、キャラクター制作会社に入社。また音楽活動ではラップを担当するなど様々な経験を活かしデザイン事務所として独立。結婚を機に旭市へと移住する。友達作りの延長で始めたイベント「VILLAGE」がきっかけとなりアドバイザーとして当事業に参画。現在カフェオーナーとしても施設の運営に携わり、地元を知り遊ぶ楽しむためのきっかけを創っている。

力丸 朋子
2016年リビタへ入社。「働く」「学ぶ」「遊ぶ」等を軸としたシェアスペースやコミュニティスペースの企画立ち上げ・運営・コンテンツ企画を行い、地域と連携した場の活性化事業を担当。主な担当施設及びプロジェクトは、大人のシェアスペース「BUKATSUDO」、ローカルの発信拠点「the C」、ワーカー専用シェアスペース「ハマラボ!!!」、令和の社交場「SHAKOBA」等。利用者との日々のコミュニケーションの中で、場を居場所化するための運営施策に従事する。

多世代交流施設「おひさまテラス」

千葉県旭市は千葉県の北東部、千葉市から50km圏、都心から80km圏にあるまち。その中心部にある総武本線旭駅から徒歩約15分の場所に、「イオンタウン旭」があります。

出典:イオンタウン株式会社コーポレートサイト

「イオンタウン」は、イオンタウン株式会社が運営するネイバーフッド(近隣型)ショッピングセンター(SC)。日本全国に152 SC(2022年8月現在)展開されています。
そんなイオンタウンのなかでも、「イオンタウン旭」はユニークな存在。というのも、今回ご紹介する「おひさまテラス」があるからです。

施設を2階に上がると、広々とした空間がお出迎え。この空間が、「おひさまテラス」です。

「おひさまテラス」のなかには、約6千冊の本がならぶ本棚や、子どもたちが遊ぶことができる屋内公園のほか、音楽スタジオやキッチンスタジオ、ものづくりスペースやコワーキングスペースも。訪れると、ビジネスパーソンから主婦、親子連れなど、さまざまな人が思い思いにすごす光景に出会うことができます。

約6千冊の本がならぶ本棚。
屋内公園では天候に左右されず親子で遊ぶことができます。
音楽スタジオやキッチンスタジオ、ものづくりスペースやコワーキングスペースも。ここに来ればなにか新しい発見がある。そんな空間です。

背景にある、行政や企業の思い

他のショッピングセンターとは異なるユニークな施設は、どのようにして生まれたのか。きっかけには、旭市の構想があります。

他の自治体と同じく少子高齢化という課題に直面していた旭市では、国が推進する「生涯活躍のまち構想(※)」に基づき、平成28年2月に「旭市生涯活躍のまち構想」を重点戦略として位置づけ。「生涯活躍のまち・あさひ形成事業」が始まりました。

(※)大都市地域の中高年齢者が移り住み、多世代と交流しながら健康で活動的な生活を送り、必要に応じて医療・介護を受けることができるような地域づくりを行う構想。

市の構想を受けて、イオンタウン株式会社らが提案したのが、「みらいあさひ」という計画。診療圏人口90万人を誇る「旭中央病院」から道の駅「季楽里あさひ」のエリアを一体的に捉え、高齢者だけでなく子どもたちや若い世代まで、誰もが健康な生活を楽しみながら活躍できるまちを目指す計画です。

「イオンタウン旭」のなかに、生涯活躍のまち実現に向けたさまざまな機能を集約することが計画されました。

「おひさまテラス」プロジェクトで全体プロデュースを担当したイオンタウン株式会社の統括マネジャー永井大輔さんは、計画について次のように語ります。

永井:国が推進する「生涯活躍のまち構想」は、都心のアクティブシニアを地域に呼び込むことに重点が置かれています。でもまちの将来を考えれば、高齢者が増えるだけでは持続可能ではないですよね。
だから私たちは「生涯活躍のまち」を再解釈して、「子どもから高齢者まで、すべての世代の人々が交流し、誰でも生き生きと活躍できるようなまちをつくりましょう」と提案させていただいたんです。

「おひさまテラス」統括マネジャー、永井大輔さん。

その提案が採択され、「みらいあさひ」の計画実現にむけた交流機能を持つ施設として、「おひさまテラス」をつくるプロジェクトが始動しました。その背景にはイオンタウン株式会社としての課題感もあったといいます。

永井:イオンタウン株式会社としても、商業施設をつくるだけではなく、まちづくりにコミットすることが重要であると考えていました。商業施設の周りの地域が衰退してしまえば、私たちの事業は成り立ちませんから。これまではなかったような公民連携や地域の事業者との連携を、積極的に行っていく必要性を感じていたんです。

地域内外の力を集めたチーム体制

永井さんは、「おひさまテラス」のプロジェクトに取り組むにあたって、どのような機能がこの施設にあったらいいか、そしてその機能を誰に担ってもらうのかがいいのかを考え抜いたそう。その結果、地域内外の企業や団体を巻き込んだ、力強い体制が生まれました。

「おひさまテラス」の体制図

旭市から指定管理者として指定されたイオンタウン株式会社が運営主体となり、総合企画業務を「コミュニティ」を軸とした数々の場のプロデュースを手がけてきた「株式会社リビタ」へ委託。

また、カフェ・レストランの運営は、旭市を中心に造園・ガーデニングショップ、デザイン事業などを展開する「有限会社あかざ」に、一時預かり保育室の運営は旭市で幼児教育を30年以上行ってきた「学校法人旭鈴木学園」に、本棚の企画・選書・イベント運営等は「箱根本箱」「文喫」などを手がけてきた「株式会社ひらく」に声がけするなど、永井さんはプロジェクトに地域内外の企業やプレイヤーを巻き込んでいったのです。

「おひさまテラス」プロジェクトの体制で特筆すべき点は、地域内の企業やプレイヤーの力を存分に活かしていることです。

永井:「イオンができると、商店街など地域の経済が衰退する」ということを言われることもありますが、そうではなく、施設を地域経済の活性化にもつなげたかった。なので「おひさまテラス」も、なるべくローカルな事業者と一緒に取り組みたかったんです。だから旭市内、もしくは県内で声をかけて、外から力を借りるべきところに絞って、他地域の事業者さんにお声がけをしました。

地域への思いを語る永井さんですが、実は茨城県在住で、「おひさまテラス」プロジェクトの担当になるまでは旭市に縁もゆかりもなかったそう。地域とのつながりを意識するのは、ある言葉と出会ったからだといいます。

永井:商業施設と地域とのあり方を模索して受講した「都市経営プロフェッショナルスクール」という社会人スクールで、地域再生プロデューサーとして活躍する清水義次さんに出会いました。彼の「まちづくりに関わるんだったら、そのまちに飛び込みなさい」という言葉が強く印象に残っているんです。
その地域に商業施設を建てるにあたって、車でその土地の景色を見てまわって、わかった気になるようなことだけはしたくなかった。このまちの人と出会って、このまちの食材を食べて、このまちのにおいを知らないで、地域のためになる場所なんてつくれるはずがない、と思っていました。

そうして、旭市に飛び込んだ永井さん。旭市の食材を使ったメニューが評判だったレストラン「Kitchen Tsunagu」(2021年12月に閉店)を訪れ、地域のキーパーソンの一人である豊田維さんたちと出会ったことがきっかけで、地域の人々とのつながりが広がっていきます。

そこで出会った人の一人が、現在「おひさまテラス」にあるカフェ・レストラン「レディメイド・イン・ワンダーランド」の運営を担う有限会社あかざの赤座剛さんでした。赤座さんは、永井さんに声をかけられた時のことをこう振り返ります。

赤座:以前から、この場所にイオンタウンができるという話は聞いていたんです。正直「イオンができると、まちが画一的になってしまうんじゃないか」みたいなイメージもあって。
でも永井さんと会ってみたら、地域への想いを熱く語ってくれて、イメージがガラッと変わったんですよ。正直お店をやるかは最後まで悩んだんですが、「絶対面白いよ!やろうよ!」って誘い続けてくれたので、じゃあやってみようかなと。

赤座さんは、旭市の青年会議所の理事長や、市内外から数千人が来場するフードフェス「VILLAGE」の主催者を務めてきた、旭市のキーパーソンです。
カフェ「レディメイド・イン・ワンダーランド」の店内。店名には、「ちょっとユニークだけれど、既製品みたいに地域にとって日常の存在になっていこう」という思いが込められているそう。

そんな赤座さんですが、「おひさまテラス」でカフェの運営に踏み切った背景には、地域への思いがあるといいます。

赤座:旭市って移住者だったり、面白い活動をしてるプレイヤーだったりがたくさんいるんですけど、お互いの付き合いがないような状態だったんですよね。「移住してきたけど友達ができない」っていう声も耳にすることがありましたし。
それが、「おひさまテラス」があることによって集まる場所ができたら、つながりが生まれる。さらに、誰かが活動している姿を見て別の誰かが「自分もやってみたい!」と思えるかもしれない。ここでそんな化学反応が起きるんじゃないかなって期待してます。

多様性実現のために必要な、場づくりの専門性

「おひさまテラス」のプロジェクトを進める体制のなかで、地域外の存在でありながら欠かせない役割を担っているのが株式会社リビタ。全体方針、各種企画を推進・コンサル、運営のノウハウ提供など、総合企画業務を行なっています。

ローカルで経済を回すことを大事にしている一方で、なぜリビタに運営サポートを依頼したのでしょうか。

永井:イオンタウン株式会社やローカルの企業だけでは、場づくりの経験やノウハウが不足していますし、我々だけだと視点が凝り固まってしまうので、限界がありました。そこで、首都圏を中心にシェアハウスやコワーキングスペースなどの場づくりを手がけているリビタさんの力を借りたいと思ったんです。それと、私たちディベロッパーと共通言語があるので仕事がしやすいと思ったのも、声をかけさせていただいた理由でした。

リビタの担当として「おひさまテラス」に関わる力丸朋子は、プロジェクト参画当初をこう振り返ります。

力丸:リビタの地域連携事業部は、行政や企業とともに地域課題の解決に取り組んでいるのですが、地域には「施設をつくって終わり」のような取り組みもある中で、思いを持ったメンバーが企画から運営まで一気通貫して関わることが重要だと考えていました。
その点「おひさまテラス」は、永井さんや赤座さんたちが思いを持って取り組んでいらっしゃる。我々もとても共感した取り組みだったんです。

リビタのプロジェクトに対する役割として象徴的だったのは、「多様性発見施設」という裏テーマの設定。「おひさまテラス」のコンセプトは「多世代交流施設」ですが、リビタ側の提案により、運営側の裏テーマが生まれたのだといいます。

力丸:「多世代交流」も大切なのですが、一方で他の地域でもあてはまるような言葉でもありました。運営側の「こういう場にしていこう」という意思統一をはかる意味でも、旭市ならではの言葉をつくる必要があると考えたんです。
永井さんや赤座たちと打ち合わせを重ねていくなかで、旭市には本当に面白いプレイヤーがたくさんいることが見えてきた。そんな、一人ひとりの市民の個性が発見される施設になったら、地域にとって大きなインパクトがあるんじゃないかと考え、「多様性発見施設」という裏テーマを提案させていただきました。

永井さんも、「ブレストで自由に話したことを、力丸さんがすごく整理された資料にまとめてくれたので、ありがたかったですよ」と、笑いながら振り返ります。

永井:力丸さんに言われて納得したのは、「多世代交流の前に、まずは可能性を発見することから始めたほうがいい」ということです。
子どもも大人も高齢者も、個人の可能性が発見され、育まれると、他の人も触発されて「自分もやってみよう」となり、結果的に街が良くなっていく…。「そんなサイクルを長期で考えましょうよ」って言ってくれて、「確かにそうだ!」と共感したのを覚えてます。

「でも、多様性って聞こえはいいけど、手間がかかるんですよ」と、力丸さん。

力丸:私たちリビタは、シェアハウスやコワーキングスペースなど、多様性を大事にした場づくりを数多く手がけているんですが、多様な人がいるほど、いろんな行為と気持ちのすれ違いも起きるんです。
だから、手間がかかるけれど、個々と向き合い、コミュニケーションを工夫しながら場をチューニングしていきます。これまでの場をいい状態に整える経験は、今回のような地域と連携したプロジェクトで活かせると思っているんです。

「おひさまテラス」の未来

最後に、永井さん、赤座さん、力丸さんに、今後の「おひさまテラス」のことを妄想してもらいました。

赤座:おひさまテラスで、コラボレーションがどんどん生まれたらいいですね。すでにママ友同士がここで繋がって仲良くなる、みたいなことは起きてるので、そういうことが増えたらいいなと。
僕の夢は、「おひさまテラス」やイオンタウンの敷地を使って、フェスみたいなイベントをやることなんです。駐車場にいろんな面白い出店者をよんで、出し物をやって。そうしたら、もっと面白いコラボレーションが生まれるはず。駐車場を借りるとなったらいろんな人に迷惑もかかると思うので、簡単ではないと思いますけど(笑)。

永井:それはおもしろいね。「おひさまテラス」で出会って結婚する人もあらわれたらうれしいなぁ。ここでパーティーをやっちゃったりとか、商業施設のエスカレーターで下に赤いカーペットを敷いて、降りてくる新郎新婦にフラワーシャワーをやるとか(笑)。そういうことを何年か後にできるたらいいですね。
あとは、「おひさまテラス」がきっかけで活躍する人が生まれて欲しいです。たとえばここのイベントがきっかけで起業したり、商店街でお店を出すようになったり。「おひさまテラス」だけで完結しないで、地域で活躍する人が出てきたらいいですね。

力丸:私も同じようなことを思ってます。「おひさまテラス」で自分の可能性を発見した人が、街に飛び出して欲しい。そういう人が増えて、さらに「おひさまテラス」が盛り上がって、新しい個性が発見される…っていう循環が生まれるといいですね。
街に飛び出して何かチャレンジするときも、いつでも戻ってくれるような、愛着を持てるよりどころってきっと必要だと思うんです。なので、心の中に「おひさまテラス」を持った人が増えるといいな、と思いますね。

永井さん、赤座さん、力丸さん。それぞれが本当に思いを込めて「おひさまテラス」のことを語る姿が印象的でした。きっと3人も、「心の中に『おひさまテラス』を持った人」なのでしょう。

地域の交流拠点を、成功事例にするために

いま、各地で地域住民が交流する拠点が生まれています。なかには、計画段階で練られた構想があっても、それが運営レベルまで落とし込まれず、ハコモノだけが残る…といった結果に終わってしまう例も起こるかもしれません。

構想を実現できるかどうかは、「地域をよくしたい」という共通の思いを持った行政や民間、そして個人が良好なチーム体制を築くことができるかに大きく左右されるはず。その点で、「おひさまテラス」の事例はヒントを与えてくれそうです。

おひさまテラスの詳細はこちら

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