『叢』代表 小田康平さんインタビュー”いい顔してる空間”が宿泊者のステージを上げるKIRO 広島|まちとのつながり

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『叢』代表 小田康平さんインタビュー
”いい顔してる空間”が宿泊者のステージを上げる
KIRO 広島

目 次
  1. 1植栽は、空間を受け取る側の気持ちを上げる装置になる
  2. 2今の叢は、植物の未来を見ている
  3. 3植物は人間を利用しているのかもしれない
  4. 4瀬戸内海の倉橋島
  5. 5平和大通りを散歩
  6. 6『長崎堂』のバターケーキ

”ローカルの新しい魅力をシェアする”ライフスタイルホテル THE SHARE HOTELS。「KIRO 広島」は”瀬戸内ローカルへの分岐路”をテーマに、広島市から新たな旅路を提案するホテルです。今回は、屋内プールを改装したバーラウンジ「THE POOLSIDE」を中心に館内の植栽を手がけた『叢(くさむら)』代表の小田康平さんに話を聞きました。

植栽は、空間を受け取る側の気持ちを上げる装置になる

ー『叢』といえば、”いい顔してる植物”をコンセプトに一点もののサボテン・多肉植物を扱うイメージがあります。商業施設の植栽も同じコンセプトでセレクトしているのですか?

叢は2012年のオープンから”いい顔してる植物”をコンセプトにしてきましたが、2016年に銀座のメゾンエルメスのウインドウディスプレイをしたことが大きな分岐点になりました。それまであまり興味のなかった大量生産の植物を使って、エルメスのショーウインドウを”いい顔してる空間”にしようと考えたんです。これが自分の中でうまくいった感覚があって、どこにでもある大量生産の植物でもセレクトや配置の方法によって自分なりの空間が作ることができる、しっかりしたコンセプトを立たせられることに気が付きました。そのあと2018〜19年はホテル植栽の案件が多く、その一つに「KIRO 広島」があります。

ー植物屋目線の小田さんには、「KIRO 広島」の空間はどう映りましたか?

3階の屋内プールがあった場所を初めて見た時、テンションが上がりました。ここは、ガラスの屋根があって光がたくさん入る植物にとって理想的な場所です。一般的にホテルの植栽は室内環境か屋外植栽の依頼が多いのですが、ここは我々が普段仕事をしているビニールハウスに近い環境です。この空間で、どんな植物が適応して育っていくのか考えながらセレクトしました。ユーフォルビア・アガベ・チランジアは、叢として面白いと思う少し変わった植物として空間のポイントに使っています。黄色いモンステラはKIRO 広島のオープン当初は普通に手に入りましたが、今は人気が高まって価格が10倍まで高騰しています。

ただ、空間にある全ての植物が叢らしい独特のものというわけではなく、構成や編集によってこの場所らしい植栽をしています。僕の植栽はそんなに珍しくない、様々なトラブルに負けない普及種を使うことが多いです。空間を作るというのは一瞬の装飾ではなく、長く育ってより良い空間になっていくのが理想だから。でも市場で仕入れた普及種をそのままたくさん使うのはつまらないので、”普及種だけど個性を持っている”叢らしいセレクトを感じる植物を使うようにしています。

ーKIRO 広島の植栽をするにあたって、小田さんの中にテーマはありましたか?

日常と非日常をきちんと分けるのが重要だと思いました。特に旅行やショッピングなど人が行動する時に、非日常が強く感じられると人の中にあるスポンジみたいなものが乾いた状態になるんです。例えばフランス旅行に行く時は、時間もお金もかけて飛行機に乗っていく。その行為には度胸が必要だけれど、ワクワクして自分の中のスポンジが乾いていく感じがする。そしてフランスに到着して街並みを見た時に、スポンジにぎゅっと風景が吸収されるんです。「あー! きれい。すごい! 感動する」って。でも日常の中だと心のスポンジの吸収力は落ちてしまう気がするんです。

KIRO 広島の植栽は「あ、いま遠くに来たな」という感覚を味わってほしいと思いながらセレクトしました。大きな葉っぱの植物や南国の植物、サボテンのように見える植物を入れて非日常感を出しています。KIRO 広島は建物も部屋もこだわっているけれど、泊まる人が落ち込んでいたら「あのホテル良かった」とはならない。植栽は空間を受け取る側の気持ちが盛り上がるように、ステージをワンランク上げていく装置だと思っています。

今の叢は、植物の未来を見ている

ー植物の生長速度は、人間の経済活動の時間軸と合っていません。小田さんはどうやって植物の時間と人間の時間のバランスをとっていますか?

悩ましいところです。叢で扱っているサボテン・多肉植物は20〜30歳ぐらいですが、叢オープンから10年でかなりの量を売りました。生長に30年かかる植物を10年で売ったら足りなくなりますよね。すでに枯渇して大変です。
これまで叢の植物は、過去と現在がある植物はかっこいい=”いい顔してる”という見せ方でした。10年前に苦労した時期があったと分かる傷やねじれは、植物が持っている価値です。

いま僕の中でその見方がだんだん変わってきていて、植物の価値は未来にあると思っています。新しく花が咲いたり枝が出たりするのは、植物の可能性であり価値ではないか。植物には、人間の思惑にとらわれない作為のない不思議なことが起きます。それが植物を育てる感動や発見につながる。そうしたらもっと多くの人が植物を好きになって、育てることに魅力を感じるのではないか? この考え方は叢の植物が枯渇してきたから出てきたのか、植物に携わっているから出たのか分かりませんが、今の僕は植物の一番の魅力は未来だと考えています。

ー植物が持っている未来の魅力で言うと、小田さんが担当したTHE SHARE HOTELSの1つ『TSUGU 京都』の植栽は、オープンから2年過ぎた頃にアガベの花が咲いて話題になりました。

あのアガベは約25年の株でした。アガベは花が咲くと枯れてしまうので取り替えてほしいと言われることもありますが、TSUGU 京都は最後まで見守りますと言ってくれました。普段見られない花なので町の人も気にかけてくれたし、新聞にも取り上げられたそうで嬉しいです。
人間には、赤ちゃんで生まれて右肩上がりに成長し、20〜30代が最もアクティブで頂点となり、そこから緩やかに落ちていく成長曲線がありますよね。植物にとっての生長曲線はずっと右肩上がりだと思っているんです。植物の目的は花を咲かせて種をつけることなので、花を咲かせていよいよ倒れる時がアガベのクライマックスで最高のシーンです。TSUGU 京都のアガベは、最も美しい姿を多くの人に見てもらえて良かったと思います。

ー朽ちていく美しさに価値を見出すのは素敵です。一方で、植物をインテリアの置き物として扱うシーンもありそうです。

そうですね。過去・現在・未来という時間軸の中で、商業施設は現在をすごく重んじます。「この植物は5年後にめちゃくちゃカッコよくなります」と言っても通じない。植物を植える場合、少しゆとりを持って小さなものを植えるのが理想的です。しかし、実際は現時点で完成しているものを求められることがほとんどです。現在重視の現場では自分の思い通りにはなりません。
ただ、植物は山にポンと放置しても勝手に育ちますが、コンクリートばかりの環境や鉢植えの植物は必ず人の手入れが必要です。そして、育てる人が植物を愛していないと植物は不幸になっていく。僕たちは植物が愛されるための努力をしています。「この植物はこんな風に育つこともある」「こんな由来で明治時代に日本に入ってきた」「現地ではこんな動物が食べている」など植物のストーリーを伝えます。それを聞いた人に愛着を持ってほしいし、他の人にも「知ってる?」って話してくれたら嬉しいです。

ー植物に愛着を持つ人が増えて人間の相棒になれば、植物の可能性はもっと広がりそうです。

建築やアパレル業界から見ると園芸は遅れています。例えば、京都で植栽をする時は和風の植物を入れなければいけない暗黙のルールがありますが、植物に注目を集めて話題を生んだり、「植物っていいね」と思われるためには普通は見られない植物を入れることも必要です。ルールをぶっ壊すつもりはありませんが、植物に愛着を持ってもらうためには多少の変化がないといけない。
いずれは、特定外来植物や絶滅危惧種を使った植栽をやって一石投じたいと思うんです。もちろん特定外来植物の増加を助長するのはダメです。しかし、例えば鴨川はすでに外来植物だらけで、僕が外来植物を使った植栽をしようがしまいが結局は増えてしまう。であれば、植物の生命力のポテンシャルを活かした植栽をすることで、外来植物について対話が生まれたらいいと思うんです。反論はすごくあると思いますが。

植物は人間を利用しているのかもしれない

ー植物の視点に立てば、特定外来植物や絶滅危惧種は人間が勝手に決めたことです。植物の視点から見て、自然の中に人の手が介在するポジティブな面はありますか?

僕が最もデリケートに感じている部分です。もともと僕は、自然の植物がかっこいいと思っていました。サボテンで言えば、アンデス山脈やメキシコのサボテンは現地の風や光を受けて育ったいわゆる本物です。ただ、現地に生えている植物を取ってくることはできないから本物を入手するのは難しい。では日本でかっこいい植物は何かと考えると、本物から一部を切り取った本物感があるものや本物風に育ったものです。叢を始めて4年くらいはそう考えていました。
それから様々な植物を見ていく中で自分が好きな植物はどういうものかを考えると、頭で考えるのではなくドキドキするものだと思ったんです。僕がどういう時にドキドキするかというと、町の中で見かけるアスファルトを破るように生えている草だった。「本物っぽいサボテンもかっこいいけど、アスファルトから出ている草ってすげえ」と思ったわけです。植物が人工的なアスファルトを破ったり、覆い尽くして凌駕していくさまは、怖いしすごい。アスファルトのような強固なものでも、植物は種を残すためになんとかして生長しようとするんです。そのエネルギーみたいなものを僕はかっこいいと思うようになりました。この考え方は、いまの叢のセレクトにも繋がっています。

僕はサボテンの接木をします。一部を切り取って他の個体に接着させる接木は、すごく人工的なことです。でも、サボテンは切られても植物の唯一の使命である種を残すために頑張って生きるわけです。その姿に元気や勇気をもらえるし、知恵を見出すことができる。この経験を多くの人に味わってもらいたいと思っているんです。

ー人の手が介在しても、植物は思うままに生長していくと。

数年前に、人の手で植物を移動させて植えることが本当にいいことなのか考えるきっかけになった案件がありました。植物を不自然な場所に置くことが僕の生業の一つですから、その案件以降はいつも自然か不自然か、植物にとって良いことか悪いことか考えています。鉢植えの植物は幸せなのか、虐待なのか、人間のエゴなのか……答えは出ていませんが、植物が幸せかどうかよりも、多くの人に植物を見て育てて幸せになってもらいたいと思うんです。野生にいたら100年生きる植物が、鉢植えにすると10年で枯れてしまうかもしれません。観葉植物は人間のエゴで持ってきたものなので、愛着を持って可愛がって、育てる人がハッピーになることがせめてもの報いになるのではないか。

視野を広げれば、建物を作ったり肉を食べることも何かが犠牲になっています。人間というのは、自然を壊して命をいただいて様々なものを犠牲にしながら生きているわけです。すでにいろんなものを壊している中で、綺麗ごとを言っちゃダメだと僕は思うんです。

植物の視点に立つと違う考え方も出てきます。サトウキビの輸出で生計を立てる島では、ジャングルを切り拓いてサトウキビを植えています。これは人間がサトウキビを利用しているのか、逆にサトウキビが人間を奴隷にして繁殖を続けているのか……難しいです。人間はサトウキビから作る砂糖を使うわけですが、結果だけ見ればサトウキビはどんどん増えている。
いつも人間が植物を利用していると考えるのは違うのかもしれない、実は人間のほうが植物の奴隷なのではないかという見方もできます。植物は勢力拡大を企んでいるので、単体では大陸から出られなかったものが人間をコントロールして、鉢植えとして一般家庭まで侵入してきている。実は植物はそんなに可哀想でもなくて、人間を利用しているのかもしれません。

『叢』小田康平さんの広島のお気に入り

瀬戸内海の倉橋島

瀬戸内海の島が好きです。先日、瀬戸内海の倉橋島に行って、高さ4m・横幅5mのサボテンの一部を切り取ってきました。樹齢100歳以上で、おそらく明治時代に植えたサボテンです。倉橋島の穏やかな気候が合っていたようで、巨大に生長していました。
広島にいると倉橋島までの道中は当たり前にあるものですが、よく考えたら瀬戸内海に点在している島の風景はすごく気持ちが良いものです。改めて気候や風景を見渡すと、広島は贅沢な場所だと感じます。

平和大通りを散歩

僕は散歩が好きです。叢の原点は、がらくたみたいなサボテンがかっこいいという視点です。その視点で町を歩くと、思わぬところに苔や草が生えているのに気がつく。植物が頑張っている姿がいちいちすごくて勉強になるから、僕の散歩はなかなか進みません(笑)。
おススメの過ごし方としては、KIRO 広島から歩いて3分のところにある平和大通りを散歩してみてください。広島に原爆が落ちて「75年間は草木が生えない」と言われた場所ですが、「この植物なら生きられる」と国内外の精鋭植物たちが寄付されました。今の平和大通りは、カシ・スギ・銀杏・クスノキ・メタセコイアなどがぐちゃぐちゃに混ざり合い、戦後77年を経て大きく生長している姿が見られます。

『長崎堂』のバターケーキ

お気に入りの広島土産としては、KIRO 広島の近くにある『長崎堂』のバターケーキが好きです。僕が小学生のころ、父親が町で仕事をしてきた時に買ってきてくれるのが楽しみでした。開店して2〜3時間で売り切れるので早めに行ってみてください。カステラやバターケーキを「まあ、こんなもんかな」と思っている人がいたら、長崎堂のバターケーキを食べてみてほしいです。きっと「うまい!」って言うと思います。

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