関 祐介さんインタビュー多拠点間の移動が発想の発露 複数の居場所が結ぶ縁|まちとのつながり

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まちとのつながり

関 祐介さんインタビュー
多拠点間の移動が発想の発露 複数の居場所が結ぶ縁

目 次
  1. 1日本と海外という境界線をつくらない
  2. 2多拠点を持つと、発想の刺激が増える
  3. 3物々交換で成り立つ、京都の拠点
  4. 4関祐介的、常識の先の発想方法
  5. 5職人さんにも刺激を与えられる現場でありたい
  6. 6人が本質的に美しい、楽しいと思うものは
  7. 7地元の名湯で、心身をリセットする
  8. 8生活に必要なものを、茶箱で線引きする
  9. 9移動の必需品は、とことん機能を追求する

Yusuke Seki studioを主宰する関 祐介さん。波佐見焼・マルヒロの直営店など話題の建築デザインやリビタのTHE SHARE HOTELS『KUMU 金沢』『TSUGU 京都三条』を手掛け、海外からの注目も高いデザイナーです。神戸・東京・京都の3つの拠点を持ち、日常的に国内外の長距離移動を続ける関さんに、移動中に考えている思索の道のりを話してもらいました。身の回りにあるものに好奇心を持ち、オープンマインドに他者とつながり、タフなメンタルで仕事に取り組む姿勢は、私たちに多くの気づきを与えてくれます。

日本と海外という境界線をつくらない

関さんはこれまで、あまり日本のメディアに出てきませんでした。ホームページも英語表記です。これは、活動の対象が海外ということですか?

海外とつながっておきたいという思いがあります。僕はもともと、裏原宿のファッションに影響を受けています。裏原宿のブランドは自分たちの好きな服をつくって、それが世の中に面白がられて海外に広がっていった流れがあって、そこに憧れます。それに、海外の人は物事の見方も文化も違うから、彼らとの交流が自分の刺激になって見解が広がる。実際、人との距離の取り方は、海外の人たちと交流したことで相当変わりました。

― 一方で、関さんが手掛けるプロジェクトは日本国内のものも多いです。

なんというか……、謎を残したいんです。存在感のある作品をつくりながら、それをつくっているのが誰なのか謎っていう、ふわふわした感じでいたい。なんでもインターネットで調べられる今、情報が無い人というのもいいと思う。『誰よ、この人? よく分かんないけど知りたくなるよ』って。ただ、最近は日本のメディアに出すことも増えています。

関さんは、日本と海外といった“国”で境界線を引かず、シームレスに活動しているイメージを持ちます。

日本と海外では施工レベルもコミュニケーションの取り方も違うから、どうやっても取り組み方は変わっちゃうんです。だったら、最初からフラットにいこうと思う。海外だからって合わせにいっても、そこからさらに変わったら最悪でしょう? 違うということが僕の経験になるし、仕事相手にしてみたら、『これが日本のやり方なのか』って、彼らの経験にもなる。それでいいんじゃないか。そこで仕事が無くなるなら仕方がないし、それを面白がってくれるなら最高。どんなクライアントにも常にフラットでいるのが大切で、そういう心持ちでいるために多少のノイズが入っても自分をぶらさないように心がけています。自分のやり方とか考えている時間を常に一定にキープするようにして、心の中に波風を立てないようにするんです。

関祐介さんインタビュー
拠点のひとつ、京都『せきのや』で行ったインタビュー。国内外を移動し続ける関さんに、京都で会えたのはなかなかの僥倖

多拠点を持つと、発想の刺激が増える

関さんは東京・京都・神戸の3拠点を持っていて、今年はベルリンにも拠点を持つそうですね。多拠点を持つことで、移動時間が増えますが、時間の使い方で気をつけていることはありますか?

移動することは重要です。『この時間までに必ず移動しないといけない』という区切りができて、体ごと空間を超えちゃうから、締め切りの作り方が楽になる。同じ場所でだらだらと仕事をするよりも、移動するほうが頭も切り替わります。

ただ、移動中にボーっとしていてはダメで、常に考えるようにしています。移動することで見ているシーンは切り替わるんですが、考え続けることで移動している場所や状況、自分のいる条件の変化っていう刺激が、考えに影響を与える。体もマインドも一定なんですが、『場所を移動した』という事実が、体やマインドに刺激を与えて、そこから何かが生まれる瞬間になっている気がします。

関さんがプロジェクトを手掛ける場所は、国内外に点在しています。どうやって、その土地の力を汲み取っているのでしょうか?

街じゅうを歩き回って感じる街の違和感を、どんどん写真に撮ります。Instagramのストーリーズには、その違和感がたくさん上がっています。撮影をするというのが最低限で、それをオンラインにアップする一手間をかけることで、情報をふるいにかけている。アンテナを張って、面白いと感じるものを見てどんどん蓄積をしています。

感覚的には、自分の中に面白いものごとを詰めた引き出しがあって、それをプロジェクトごとに自然と取捨選択している。プロジェクトは条件が違うということでしかなくて、『このプロジェクトだからこの引き出しを出そう』という感覚ではない。一つのプロジェクトを特別なものと捉えてしまうと、バランスがくるってしまう気がするんです。

物々交換で成り立つ、京都の拠点

今日は、京都の拠点である町家『せきのや』でお話を聞いています。ここは、関さんがいないときは友人たちに貸しているそうですね。

海外の友だちが京都に来たときに泊まってもらったり、友だちの友だちを紹介されて泊めたり……僕が会ったことのない人も泊まっていて、面白いですよ。宿泊料はもらっていないんですが、生活に必要なモノを用意しておかなくても、泊まった人たちが布団、本、お酒や器などを置いていくので生活できます。ビジネスの貸し借りとは違って、ここでは物々交換による価値の交換という原始的な行為が成り立っている。利益がないところの交換ってすごく面白いし、置いてあるものすべてにエピソードができる。すでに家具が入っている東京や神戸の拠点ではできないことですね。

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築100年以上の町家は、まさに『うなぎの寝床』。奥に細長い空間は、借り受けた当時からほとんど手を入れずに生活している

場所があることで出会いが重なって、さらに厚みのある場所になる。そこから新しく楽しいことが始まっていくなら、拠点が多いほど毎日は楽しくなりそうです。

3拠点あれば、3倍以上楽しいし、周りには楽しい仲間がいっぱいいます。海外の仲間も多いのですが、僕は正直なところそんなに英語を流暢に話せるわけではないんです。でも、コンセプトを持って表層的ではないものをつくっていると、『コイツには何かあるな』って思ってもらえる。特にヨーロッパの人たちは、そういうコンセプチュアルなものが好きです。

あと、人と仲良くなるコツは、美味しいものを知っていることかな。お店を知っていると人から誘われやすいし、『いまココにいるんだけど、どのお店に行ったらいい?』って連絡がくる。美味しいもの、自分が食べたいもの、興味があるごはん……好きなものを食べることを大切にしています。

長距離を移動することが当たり前の暮らしをしていると、住まい観は変わりますか?

住む場所があることのありがたみは変わりますね。最初はホテルでいいと思っていたけれど、拠点を持って自分の場所ができたら、すごく安心するようになりました。拠点が一つだったときの家は寝る場所でしたが、多拠点になったら、それぞれの街に『自分がいるな』というのを確認しに来ている気がします。

先日NYに滞在したときは、NYの友だちのアパートメントに泊まったのですが、ホテルに泊まるよりもこの街に自分がいる感覚、街に入り込んだ感じがあって、それがすごくよかった。極端な話、ここは自分の街だという勘違いが起きる。その感覚を友だちに話したら『僕が“せきのや”にいるときの感覚も同じだ』と言っていました。一方で、自分が所属していない場所に行きたいって欲求も出てくるんです。その街に自分はいないという心地よさ、その街の人ではないという解放感が味わいたくなるんです。

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2階に置かれたソファは、トラフ建築設計事務所が国内の展示会に出品したもの。宿泊利用のお礼としてせきのやに運び込まれた
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関祐介的、常識の先の発想方法

関さんが手掛けるプロジェクトはクールでありつつ、きちんと楽しいです。奇をてらわないけれど独特というスタイルは、どうやって作り上げていったのでしょうか?

僕は昔、先輩と一緒にプロダクトデザインのユニットを組んでいたことがあります。そのユニットは変わっていて、プロジェクトの依頼がくるとそれぞれ案をつくって2案出すんです。お互いにどんな案を出すのか知らない状態でプレゼンに臨むっていう、ジャズのセッションみたいなことをやっていた。それをやっているうちに、僕のアイデアは先輩とは全く違うって分かったんです。先輩とはノリやテンションが違って、そこから出てくる表現方法やアイデアが全く違う。その経験で、自分のテイストはこれなんだって理解が生まれました。

そして、僕の案は通らないんですよ。先輩の案は現実味があって、資料を見ていても『これはできそうだな』という確信が持てるのに対して、僕の案は無茶というか、ハードルが高い。もちろん自分の案を通したいと思ってやっていましたが、途中からは『この案が通ったらめっちゃ面白いぞ』って感じになってきた。最後のほうは先輩の案を通すための比較案みたいになっていました。アイデアがビジネスになっていない以上は失敗です。でも、こういう失敗がないと学びがない。いろんな失敗をして、スタイルが出来上がっていったと思います。

関さんが独立して10年、今では海外のアワードで賞を獲る建築デザイナーになりましたが、振り返ってブレイクスルーしたと思うプロジェクトはなんですか?

2012年に手掛けた京都の『大塚呉服店』はけっこう無茶をしたんですが、完成してから評価を受けたことで自信につながりました。築40年の豆腐屋さんを呉服店にリノベーションしたのですが、建物を見たときに当時からの歴史を残したいと思ったんですね。それで、もともとある壁や床を削って、新たなテクスチャーを出そうと提案しました。

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『大塚呉服店 京都店』。Yusuke Seki studioは同ブランドのディレクションも手掛けている(photo Takumi Ota

一般的なリノベーションの手法だと、上から仕上げをし直したり、元の仕上げを剥がして躯体をあらわしにしたりしますよね。

当時、価値の変動というのをすごく考えていました。例えば石彫は、石の塊を削って作品というかたちにしていきますが、石の塊の純度の高さと、人の手と時間が入った作品のどっちの価値が高いんだろう? 一つのかたちにしたら元には戻せないから石の塊のほうが価値は高いのか? など答えの出ない迷宮について考え続けていて、そこから建物を削ることを思いついた。「剥がす」「壁をつくる」「塗装する」っていう従来の手法ではなく、第4の手法として削ってみようと思った。壁には現代では絶対につくられていないサイズのタイルが使われていて、それを削ることで目地の凹凸の影の落ち方が作用して手書きしたような線が引きたつ面白い空間になった。このプロジェクトが海外ですごくバズったんです。海外メディアの掲載も多くて、自信につながりました。

—築40年以上の豆腐屋だった『大塚呉服店』、1914年に建築された登録有形文化財が一部残る『TSUGU京都三条』と古い建物のリノベーションを手がけることも多く、ここせきのやも築100年を超えています。古い建物に対して、それを活かしたいという意識があるのでしょうか?

古い建物を壊して新しく建てることも文化なので、『断固として古建築を残そう!』という感じではないです。文化の流れとして解体するのは仕方がないこともあるし、古い建物を残すことで足を引っ張ることもあると思う。ただ、建物には建てた人たちの意思や意図が入っていて、当時の人たちはここを面白がったのかなとか……まあ、そこまでポエティックには読み取らないけれど、ある程度は気にしています。僕は、古い建築の力を借りているだけなんです。ゼロから何かを立ち上げるってすごいパワーがいるけれど、時間を経てきた建物のポテンシャルに乗っかればできることがあるんです。

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『TSUGU 京都三条』は、宿泊者専用リビング・キッチンの窓から、登録有形文化財である棟の尖塔が見えるように設計されている
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職人さんにも刺激を与えられる現場でありたい

考え続けること、移動を続けることで関さんの脳がアップデートされているのが分かってきました。それ以外で、発想するときに気をつけていることはありますか?

ひとつ大切にしているのは、そのプロジェクトに関わっている職人さんが「ネタ」にできる現場でありたいということです。理想は、職人さんが仕事終わりに飲み屋に行って『今さあ、こんなことさせられてんねん。まあ、出来たけどね』って、その日の作業について楽しそうに話してほしい。僕が提案するものはどうやら職人さんには厳しいみたいで、現場で『こんなん出来るか!』って金槌を投げられたこともあります。『仕様と違うからやり直し』って言ったら現場監督が怒って、『お前がやってみろよ』って。僕もむかついて『じゃあこのデザイン、あんた考えられんの?』って言い返した。あれは土俵の違う二人の言葉が瞬間に出てきて、面白かったですね。向こうは大人なので謝ってくれたし、相手が言っていることも分かるから、解決策を一緒に探りながら完成させました。

大工仕事は、職人さんにとっては請負でやる作業でしかないかもしれないけれど、実際に空間をつくるのは彼らで、デザインする側は手を出せない。だから、職人さんたちのテンションを上げたり、モチベーションを支えるのは、実はクリエイターのあるべき仕事なんです。決められた面積の壁を塗って1日を終えたという達成感ではなく、大変だけど嬉しそうに文句を言ってもらえるような、ベクトルの違う達成感を感じてほしい。そういう現場が現代の職人不足や職人離れを抑制する材料になればいいなって、いつも思っています。

フロントと現場の温度感については、どのフィールドでも同じ課題がありそうですが、扱うものが大きいぶん、建築の現場にある課題は、コミュニケーションロスの最たるものかもしれません。

コンプレックスなのは、図面なんです。本来のクリエイターの仕事は、人が見たことないもの、体験したことがないものを世の中に提示、位置づけすることだと思うんです。それがクリエイティブの超メインストリームだし、やらないといけないことです。ただ、それを表現したり、再現するための手法は、自分の業界でいうと図面です。図面とは何かというと、自分以外の人が理解できる情報に落とし込んだもので、世界の共通言語である数字の集合体でしかない。今までに見たことのないもの、こういうものだと表現できないものを、急に数字という超現実的なものに落とし込んじゃう。その矛盾がすごく嫌で、抵抗があります。建物の時間軸に力を借りるのは、そこの思いもあります。古建築は、数値化できない情報の塊ですから。

我々は今でも図面でやっているけれど、それも限界が来ているのかなと思います。ただ図面をやめるというのは、コミュニケーションの方法を変えるということで、テクノロジーの進化があっても付いていける人は多くないと思う。このジレンマは、世の中に対しても自分自身にも、これからも興味を持ち続ける部分です。

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せきのやの一部の部屋は床に合板を張り、この部屋は天井仕上げも剥いだ。古建築の仕様から発想に影響を受けることも多いそう

人が本質的に美しい、楽しいと思うものは

最後に、建築デザイナーとして「人が見たことのないもの・体験したことがないもの」を生み出すために関さんが考えていることを教えてください。

脳が面白がるのは、図面で数値化できる造形に、たとえば街の情報を注ぎ込んで多元的なものにするか、逆に超単純な数値にするかがひとつの方法論だと思います。それと、日本のミニマリズムや禅の考えは海外の人に受け入れられやすいです。あれは分かりやすくいうと、一本の線に見えているものが実際に近くで見ると一つの文章だったということだと思う。ぱっと見は超シンプルなのに、そこに入っている情報量は膨大という見た目と中身のギャップがあるほど、人の本能として気が付くと思う。人はそこに気が付くんだと、そう思いたいです。

世の中にはミニマムでシンプルなデザインがたくさんあるけれど、表層しか追っていないものはただ線が少ないだけなんです。シンプルだけれど何かが美しい、何か楽しいって感じるものには中身がある。ミニマリズムを目指しているわけではないですが、情報量の操作は考えています。ただ僕も、すべてが数字で見えているわけではないので、そこはもう自分のセンスに、自分の可能性に、期待しています。

関祐介さんインタビュー
関さんの活動の幅を示すように、せきのやの用途も様々。直近ではベルリンのファッションブランドの展覧会が予定されている

関 祐介さんのお気に入り

地元の名湯で、心身をリセットする

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関さんの地元・兵庫にある、開湯1300年の歴史を持つ名湯地。メインストリートには7つの外湯が点在しており、外湯めぐりも楽しい。城崎にあるビストロ『off.kinosaki 』は、Yusuke Seki studioとご友人のデザインスタジオ・Little Recordの共同設計。「off.kinosakiの定期検診という名目で、年に何度か訪れます。城崎は蟹が美味しいので、蟹の季節に行くことが多いです」(関さん)

生活に必要なものを、茶箱で線引きする

関祐介さんインタビュー

静岡で一つ一つ手作りされている、防虫・防湿性に優れた茶箱。関さんは、京都滞在時、着替えや日用品を茶箱に入れて生活しているという。「京都では、この茶箱1つでおさまる荷物で過ごすように心がけています。手作りなので一つとして同じ表情がないし、この機能美が好きです。価格が高くないのも、好ましいです」(関さん)

移動の必需品は、とことん機能を追求する

関祐介さんインタビュー

USBの急速充電器とモバイルバッテリーが一緒になった優れもので、移動の多い関さんの必需品。スマートフォン・タブレット・ゲーム機など様々な機器を充電できるので、各機の充電器を持ち歩く必要がなく、移動時の荷物を減らせる。「色は赤がおすすめです。荷物に埋もれず、かばんをのぞいたらパッと手に取ることができます」(関さん)

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