和のエッセンスを日々の暮らしに
和モダンなリノベーション事例5選
「和」のエッセンスをかろやかに取り入れ、「モダン」なライフスタイルと調和させる。そんな「和モダン」な住まいは、洗練されながらも、どこか懐かしい、くつろぎの時間をもたらしてくれます。今回は5つのリノベーション事例を通じて、「和モダン」な暮らしを実現するためのヒントをご紹介します。
「和」と「モダン」を両立させるためのヒント
すっきりとしたモダンな住まいのなかに、和の素材や意匠を上手に取り入れることで、空間に静けさや温かみが生まれます。一方で、和の要素を盛り込みすぎてしまうと、全体の調和を損なってしまうことも少なくありません。ここでは和モダンな住まいを実現するためのコツを5つの視点から解説していきます。
・部分づかいで楽しむ「和」のエッセンス
和モダンなスタイルを考えるうえで、まず意識してほしいのは、住まい全体を和のテイストでまとめようとしない、ということです。和の要素は、あくまでもアクセント。たとえば、リビングの一角に畳の小上がりを設えたり、寝室の内窓を障子貼りの格子窓にしてみたり。そうしたひと工夫だけでも、空間に奥行きと表情が生まれます。和のニュアンスを、気負わず自由に取り入れられることも、和モダンというスタイルの魅力です。
・自然素材でくつろぎを演出
い草や和紙、無垢材、漆喰など、歴史のなかで受け継がれてきた自然素材は、そこにあるだけで心身を整えてくれます。自然素材を生かした家具や建具、内装は、風合いもやわらかで、色味も穏やかなものばかり。自己主張しすぎることなく、空間にゆるやかに溶け込みます。見た目だけではなく、ふれるたびに素材ならではの質感がやさしく五感を満たし、気がつけば自然と呼吸が深くなっている。そんな心からくつろげる空間を紡ぎ出してくれます。
・古道具や建具をアクセントに
使いこまれた古道具や建具を、暮らしにそっと取り入れている住まいには、ほかにはない独特の温もりが宿ります。たとえば、祖母の家で使われていた桐たんすをリビングの収納に使ってみたり、古民家で見つけた格子戸をリペアして室内の仕切りにしたり。そうやって新しい空間に古いものが加わると、そこに「時間」の重なりが生まれます。誰かが大切に使ってきたものを、また別の誰かが受け継いでゆく。そんな「再生」や「継承」の物語が、住まいの個性となっていきます。

・和の手法で空間をゾーニングする
伝統的な日本建築で用いられてきた手法を生かすことで、空間をゆるやかにゾーニングできることも、和モダンというスタイルの特徴です。壁をつくって空間を仕切るのではなく、小上がりや床の間のような段差を設けたり、床材を変化させたりすることで、自然とその空間ならではの役割やリズムが立ち上がります。開きすぎず、閉じすぎない。住まいのなかに、目には見えない小さな「間(ま)」をつくることで、そこで暮らすみんながひとつの場を共有しながらも、それぞれの時間を楽しめるようになります。
・素材・色・余白で“引き算”の美を
「もう少し足してもいいかな?」と思ったときこそ、あえて引いてみる。和モダンの空間づくりには、そんな“引き算”の発想がよく似合います。ベースとなるのは、白やグレー、アースカラーなど、穏やかで落ち着きのある色合い。そこに、無垢材や和紙、漆喰など自然の質感を重ねれば、空間そのものが上品な落ち着きをまといます。家具や小物を詰め込みすぎに、空間にゆとりを持たせることも意識しましょう。余計なものを削ぎ落とすからこそ生まれる余白や陰影も、和モダンならではの美意識です。

暮らしに趣を添える、和モダンなリノベーション事例5選
和モダンの基本を抑えたところで、実際のリノベーション事例をみていきましょう。懐かしさと新しさを心地よく調和させるために、どのような工夫をしているのか。きっとヒントがみつかるはずです。
1:古道具が映える、シンプルモダンな和の住まい
子どもの頃からずっと和室で暮らし、「畳のない生活は考えられなかった」というYさん。51㎡の中古マンションをリノベーションする際にも、リビングにつながる玄関側の個室をスタイリッシュな和室へと仕上げました。

畳のデザイン、押入れ、格子戸の建具、床の間など、細部にまでこだわり抜いた和室は「シンプルモダン」そのもの。客間としても使っているため、押入れと床の間の寸法にも心を砕いたと言います。

和室だけではなく、リビングにシンメトリーに並べた桐箪笥や、キッチンの背面のカウンターとして利用している食器棚など、日本の古い家具を随所に配置。素材やテイストを吟味することで、古いものの素材感とリノベーションの仕上げが調和した住まいとなりました。

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<リノベーションデータ>
所在地:東京都渋谷区
居住者構成:大人1人
専有面積:51.57㎡
間取り:1LDK
既存建物竣工年:1985年
リノベーション竣工年:2012年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/3765
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2:伝統と素材が響き合う、無垢と漆喰の和モダン空間
物件選びの段階から「無垢の床」「漆喰の壁」というイメージを持っていたというKさん。都内に55㎡の中古マンションを見つけてからは、空間がもともと持っている雰囲気から、昭和テイスト、日本的なもの、伝統工芸品などを使うというアイデアが湧いてきたと言います。

家の中心であるリビングとキッチンの間の壁、寝室の壁には、和紙にさまざまな装飾を施した「江戸からみ」を壁紙として選択。さらに、寝室とリビングの間を格子壁で仕切ることで、江戸からかみの柄がちらりと透けて見えるようになっています。

ベランダ側にある大きな窓には雪見障子を設置。壁の上部には長押をつけることで、白い壁面をデザインとして引き締めました。「伝統工芸や和のデザインは、経年変化を楽しみながら育てていくことで味わいが出る」と語るKさん。漆喰の壁に入るひびや、日焼けによる無垢の床の色合いの変化なども含めて、暮らしを楽しんでいます。

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<リノベーションデータ>
所在地:東京都目黒区
居住者構成:大人1人
専有面積:55㎡
間取り:1LDK
既存建物竣工年:1972年
リノベーション竣工年:2010年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/3966
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3:「白い和室」と「土間」が彩る、手づくり感のある暮らし
Kさん夫妻が暮らすのは、横浜の静かな住宅街に佇むリノベーションマンション。既存のスタイルにとらわれるのではなく、風や光の心地よさ、素材のてざわりなど、「シンプルな気持ちよさ」にこだわりながら、自分たちらしい住まいをかたちにしていきました。

玄関を開けると、まず広がるのが「土間」。自転車など大きなものもそのまま置ける、ゆとりのある収納スペースとなっています。ちなみに、手前に佇むイスは、奥様がヨーロッパの蚤の市で購入したもの。土間という日本的な空間と、異国の趣をまとったアンティーク家具が、無理なく調和しています。

もともとあった和室も、既存の障子や天袋を白く塗ることで、正統派の和室でも、クールでモダンな洋風の和室でもない、「手作り感のある白い和室」へとリノベーション。畳は、質感やにおい、素足感にこだわって、本物のい草を使っているものを選びました。また、陶芸が趣味という奥様のため、リビングの一角にも電動ろくろを置ける土間を設え、ものづくりの時間を楽しめる場も確保しています。
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<リノベーションデータ>
所在地:神奈川県横浜市
居住者構成:夫婦
専有面積:77㎡
間取り:3LDK
既存建物竣工年:1984年
リノベーション竣工年:2008年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/4650
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4:素材の質感が共鳴する、主張しすぎない和モダンリノベ
西荻窪にある築30年以上の一戸建てをリノベーションしたSさんご夫妻。内装に関わる素材やパーツ、職人サービスなどを集めたウェブショップtoolbox(ツールボックス)のアイテムを活用して、素材感豊かな空間を自らの手でつくりあげました。

「和室もほしかった」というご主人の希望で、クローゼットを設けたオープンなスペースの一角に畳を敷き込み、仕切りを設けることなく和の空間を実現。畳の上には、レトロで味わいのある文机がそっと佇み、無垢の床や合板の壁となめらかに調和しています。

玄関から続く広々とした土間では、足場板とスチールの棚受けで組み立てた下足棚が印象的なアクセントに。和の要素を前面に押し出したわけではないものの、畳や土間のおおらかな佇まいが、住まいそのものの質感と響き合い、日本ならではの「間(ま)」や「余白」の美学を宿しています。これもまた、和モダンのひとつのかたちと言えるでしょう。

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<リノベーションデータ>
所在地:東京都杉並区
居住者構成:夫婦+子ども1人
専有面積:85.53㎡
間取り:1LDK
既存建物竣工年:1984年
リノベーション竣工年:2015年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/3221
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5:畳敷きの小上がりが紡ぐ、心地よい家族の時間
ケヤキ並木を見渡す築45年の中古マンションを購入し、リノベーションしたKさんご夫婦。オープンキッチンのある広々としたLDKを中心に、空間をゆるやかにゾーニングすることで、一体感のある住まいをつくりました。

家族の憩いの場となっているのが、LDKの一角に設えた畳敷きの小上がりです。布団を敷けば家族の就寝スペースとして、昼間はリビングの一部として。子どもと遊んだり、ごろんと横になったり、思い思いの使い方ができる場所となっています。さらに、小上がりの下を収納として活用できるのも、うれしいポイントです。

和の要素を取り入れながらも、LDK全体をモダンな雰囲気で統一するために、畳の「色」にもこだわりました。実際にサンプルを見比べながら選んだのが、焦げ茶色の畳です。一般的な緑色の畳とは異なり、和のニュアンスが主張しすぎることなく、壁や天井、床のテクスチャーとも自然になじみ、空間に落ち着きと温もりを添えています。

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<リノベーションデータ>
所在地:東京都武蔵野市
居住者構成:夫婦+子ども1人
専有面積:60.82㎡
間取り:1SLDK
既存建物竣工年:1972年
リノベーション竣工年:2015年
お宅拝見記事:https://nokurashi.com/ownersvoice/2507
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和モダンなスタイルを、暮らしに溶け込ませるために
さまざまな事例を通じて、和モダンな住まいでの暮らしのイメージが見えてきたでしょうか? 最後に和の要素を上手に取り入れるために、注意すべきポイントを整理していきます。
①和の印象が強くなりすぎないようバランスを意識
和の素材や建具は、空間の印象を大きく左右します。畳や格子、漆喰など、単体では味わい豊かな素材も、使いすぎれば単調で重たく感じたり、古めかしく見えたりしてしまうことも。大切なのは、ベースとなる空間のテイストや色合いとなじませながら、適度に和のニュアンスをにじませ、ほどよいアクセントとして活用することです。
②古道具や建具の寸法・納まりに注意
古い建具や家具を再利用できるのも和モダンならではの魅力。ただし、現代の建築寸法や設備とは規格が異なることが多いため、事前の確認が肝心です。寸法が合わない、建て付けが難しいなど、施工途中で予期せぬ問題が発生することも。寸法や金具、吊り方といった細部については、プロとも相談しながら調整していきましょう。
③素材感のコントロールもポイントに
無垢材・い草・和紙などの自然素材は、空間に温もりを与えてくれますが、使いすぎると雑多な印象になりがちです。大切なのは、どんな素材を、どんな分量で使うかをあらかじめ整理しておくこと。ベースとなる色や素材を絞り込み、アクセントとなる部分だけ和のテイストを添えれば、上質で落ち着きのある空間が生まれます。
和の豊かさと、モダンの快適さが調和する暮らしを
和モダンな住まいの魅力は、単なるデザインの枠を超え、日本ならではの豊かな質感や落ち着きを、毎日の暮らしへとやわらかく溶け込ませるところにあります。大事なのは、「和」に固執せず、「モダン」に偏りすぎない、ほどよいバランスを見つけること。素材や建具、家具の寸法や種類、配置を一つ一つ吟味しながら、余白や陰影も楽しめる空間を紡いでいきましょう。迷うときは、リノベーションのプロの力も借りながら、自身の暮らしや価値観にフィットする和モダンの姿を、ぜひ探してみてください。