「住まいの断熱性能」はなぜ必要? 高性能なマンション選びのコツとこれから目指したい断熱レベル|住まいのヒント

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住まいのヒント

「住まいの断熱性能」はなぜ必要?
高性能なマンション選びのコツとこれから目指したい断熱レベル

目 次
  1. 1熱を断って、快適な環境をキープしよう
  2. 2まずは各素材の断熱性を知っておこう
  3. 3中古で買うならタワーマンションが有利?
  4. 4暮らす人が快適に暮らせるように断熱性を高める
  5. 5まとめ

さまざまな専門家にお話を聞いて、「リノベーション」や「住まい選びのコツ」をわかりやすく身につけていくための「学ぶシリーズ」がスタート。第1回目は、建築・省エネコンサルタントの黒田大志さんをお迎えして、「断熱性」のあれこれをお聞きしました。黒田さんはかつてリビタで戸建てのリノベーションに携わり、多くの耐震・断熱性を高めてきたプロフェッショナル。ご経験や知識にもとづいて、初心者さんにもプロの方にもわかりやすく解説いただきました。

熱を断って、快適な環境をキープしよう

健康と命に関わる断熱

みなさんは断熱と聞くと、どう感じますか? 「熱を断つ」と書くので「断熱するとあたたかい」というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。でも実際は冬だけではなく、夏も断熱が必要です。せっかく冷房をONにしているのに、隙間から冷気が逃げたらエネルギーの無駄ですよね。だから「少ないエネルギーで、冬はあたたかく、夏は涼しい環境をキープしよう」というのが断熱の考え方です。

「どうして住まいに断熱が大切なの?」「それよりも間取りやデザインを重視したい」と思うかもしれませんが、住まいの断熱性は健康や命に大きく影響します。たとえば暖房を入れても足元が冷える、というのはとても不快な状態で、冷え性を引き起こします。また窓際が結露すると空気中にカビの胞子が舞い、それを吸い込んだ人がアレルギーを発症することだってあります。

とくに古い戸建てに多いのがヒートショックです。リビングはあたたかいけれど浴室は0度、そこから40度のお湯に浸かると血管が頻繁に収縮・膨張を繰り返し、高齢者の体は耐えられなくなります。実は地域の気温差は関係ありません。実際に、寒い北海道の住宅ほど断熱性が高いためヒートショック事故の発生率が低く、本来暖かいとされる四国や九州の方が高いとするデータもあります。断熱意識の差が、健康面での大きな差になっていることがわかりますね。

断熱は省エネにも直結

もちろん「エネルギーをいくらでも使っていいよ」ということなら、冷暖房を強めて快適な環境を作ることはできます。でも断熱で熱の出入りを少なくすれば、少ないエネルギーで快適性をキープできる。つまり断熱は省エネに直結します。「健康であり、省エネであること」が誰にとってもベストな住まいです。その環境をつくるためには、次でご紹介する素材の熱伝導率や、断熱材の種類について知っておいた方がよいでしょう。

まずは各素材の断熱性を知っておこう

空気や木材は熱伝導率が低い=断熱性が高い

素材にはすべて「熱伝導率」と言って、熱の伝わりやすさを表す値があります。素材の厚さが1mで両面に1℃の温度差がある時、1秒間で伝わる熱量をW/mKで表します。
熱伝導率が高い → 熱が伝わりやすい(断熱性が低い)
熱伝導率が低い → 熱が伝わりにくい(断熱性が高い)
と考えます。

引用・参考元:https://www.jfe-rockfiber.co.jp/about/insulation.html

こちらをご覧いただくと、アルミや鉄はかなり断熱性が低いですね。つまり、アルミと単板ガラスでできている一般的な窓は、断熱性がとても低いことがわかりますね。そこでよく採用されているのがペアガラスです。0.024W/m・Kと熱伝導率がかなり低い空気を、ガラスで挟んだペアガラス(複層ガラス)は、かなりの断熱効果を期待できます。
また断熱材の熱伝導率が低いのは当然ですが、木材も熱伝導率は低いため、サッシなどに使うと断熱効果を得られます。こうした素材ごとの数値を知っておくと、家のどこから順番に断熱していけばいいか、どういう素材を使えばいいかわかりますね。

断熱材選びは性能・施工性・条件で選ぶ

断熱材を選ぶときは、種類にも注目しましょう。それぞれに特徴があります。

引用・参考元:https://cellulosefiber.biz/contents/cellulosefiber-about/

グラスウール、ロックウールなどの繊維系はふわふわしていて空気を含むため、断熱性が特に高く、コストを抑えられる点がメリットです。ただしデメリットは結露に弱いこと。仮に何十年も結露が発生していたら、繊維系の断熱材は濡れてカビが発生します。さらに水分で重くなり、壁から落ちてしまうこともある点は、デメリットとして認識しておきましょう。発泡ウレタンは施工性が高く、躯体に直接吹き付けることで断熱性をアップできます。しかし工事現場の電圧が足りなかったり、トラックに積載された吹き付け用のホースが届かなかったりする場合は施工できません。高層階のマンションはまず不可能です。
断熱材はそれぞれ一長一短。選ぶときは施工性・コスト・環境の安定性によって総合的に判断することになります。

リノベーションあるある「既存の断熱材はどうするの?」

古い住宅にはすでに断熱材が入っていることがありますが、建物の年代や物件によって状態が違っています。リノベーション会社は図面を見ながら、「何mmの厚みの断熱材がどのくらい入っているか」を確認します。
そこで出てくるのが「既存の断熱材はどうするの?」という問題です。できれば既存を活かしたほうが経済的ですが、一般的な厚みの10~15mmのウレタンの断熱材を剥がすのはとても大変で、それだけで数十万円単位の工事費がかかってしまいます。そのため普通は、既存のウレタンの上からウレタンを吹いたり、ウレタンボードを張ったりします。

ここで気をつけたいのが「結露」です。ウレタンを吹き付けた表面には凹凸があるため、ウレタンボードと既存の断熱材との間に空気が入り、温度差によって壁の内側が結露し、カビの発生につながります。そのためウレタンボードを張る場合は、既存のウレタンとの間に空気が入らないよう施工部分の周りにもウレタンを吹いたり、気密テープを貼って結露を防ぐ必要があります。既存の断熱材を利用する場合は、結露にはとくに注意しましょう。

中古で買うならタワーマンションが有利?

「上下左右に別住戸・内廊下・ALC」の条件が揃えばあたたかい

マンションには中住戸、角住戸、最上階、階下がピロティ…などいろいろな住戸がありますが、同じマンションでもそれぞれの条件で断熱性が違ってきます。やはりあたたかいのは、左右上下を別の住戸に囲まれた中住戸。隣接する住戸が断熱の役割を果たしてくれるからです。

タワーマンションの場合はより有利。玄関側は内廊下で空調もあるため、外に接する面積が少なくなります。角住戸や最上階などは例外ですが、基本的にタワーマンションはとても好条件です。さらにタワーマンションの上層部にはALC(発泡コンクリート)が使われているケースが多く、木と同じくらいの断熱性を期待できます。
またタワーマンションは、防音や台風圧のためにペアガラスが採用されていることも少なくありません。内廊下・ALC 上下左右に別住戸・ペアガラスといった条件が揃っていれば、リノベーションで少し手を加えるだけで、とてもよい環境に。断熱性のことを考えてリノベーションを前提に物件を探すなら、2000年以降に建てられたタワーマンションがおすすめです。低層や中層マンションよりも、断熱性が高い住戸が見つかりやすいでしょう。

リノベできない共有部分もプランの工夫で解決

マンションの断熱リノベーションで気をつけたいのが、共有部分です。古いマンションだと「窓は単板ガラス」「玄関はスチールドア」を採用されていることが多く、どちらも断熱性がとても低いです。しかし共用部分の交換は管理組合の合意が必要なため、かなりの時間と労力がかかります。

「それならどうしたらいいの?」という話ですが、プランニングで工夫さえすればできます。窓にインナーサッシ(二重サッシ)を設ける、玄関ホールをしっかりつくるなど、方法はいくらでもあります。窓も玄関ドアも「先進的窓リノベ2024事業」の補助対象ですし、省エネリフォームをした場合は住宅ローン控除の対象になります。そうした制度を上手く活用し、コストを抑えながら快適な住環境を整えるのがおすすめです。

暮らす人が快適に暮らせるように断熱性を高める

「スタートライン」と「目標基準」の距離はどのくらい?

一般の方は古いマンションを買う時に「断熱性に差があるかどうか」など気にしないはずです。どちらかと言えば暮らしてみてから「結構あたたかいな」「結露しないな」と感じるもの。それくらい人が感じる断熱性は曖昧なんですね。だから快適な環境は、リノベーション会社側がつくってあげる必要があります。日本はようやく2025年に省エネ性能適合義務化がスタートしますが、残念ながら対象は新築のみ。リノベーション業界も、その基準を満たすのが当然にならないといけないと思います。

リノベーションで国の断熱基準を目指すとしたら、まずは「スタートライン」と「目標」の距離を把握しなければいけません。その目利きがとても重要なんですね。タワーマンションか、中層・低層マンションか、築年数、外壁に使われている素材…。先ほどお話ししたように、タワーマンションはもともとの断熱レベルが高いので、目標基準までの距離が近いから有利です。しかしその他の中層・低層はそうはいかず、目標基準にするまでにさまざまな工事が必要でコストもかかります。目指す基準までの距離を把握することで、「買う」「買わない」の判断もしやすくなります。

「国の基準」よりも「自分の基準」で断熱

実は国が義務化している基準は、あくまでも安全安心の最低ラインです。わかりやすいのは耐震基準。
建築基準法では最低基準として「耐震等級1」が求められていますが、命は守ることができても、住まいは建て替えが必要になる可能性がある、という基準です。避難する時間を確保するだけで、2回目の地震で潰れてしまうことだってあるのは熊本地震でも実証済みです。
その1.5倍の等級3は、現行の耐震性の最高基準で建物という資産そのものを守る基準です。絶対に等級3の方がいいんだけれど、国が求めているのは等級1なんです。一応等級1なら、国はマンションや戸建てでもOKとしています。だから日本で義務化されている断熱性能等級4も、暮らすための最低ラインなので、決して快適ではありません。

引用・参考元:https://shiseihousing.com/archives/5535

等級4は「冬の室内温度が8℃を下回らない程度」のため、ほとんどの方が寒いと感じるはずです。快適だとは言えませんが、日本にはそれよりも断熱性が低い住宅がたくさんあるので「とりあえず最低基準を満たしましょう」というものです。その上にZEH(ゼロエネルギー住宅)の基準と同じ等級5があり、2030年以降はすべての新築住宅に断熱等級5への適合が義務づけられることが決定しています。でももっと快適に過ごすためには13℃や15℃を下回らない等級6や7を目指したほうがいいですね。

これから住まいをつくるみなさんも、ご自身がどんな環境で暮らしたいか、誰の健康を守りたいのかをじっくりと考えてみてください。そんな暮らし方の理想を汲み取り、そのレベルまで住まいの性能を引きあげるのが、リノベーション会社の役割だと思います。

まとめ

今回は黒田さんから、断熱の定義や素材ごとの熱の伝わり方、ポテンシャルの高いマンションの特徴、本当に心地よいと感じる断熱等級など、たくさんのお話をお聞きすることができました。

黒田さんによると、イギリスやフランスでは「寒い家は人権侵害に値する」という考えのもと、「室内の最低気温は18~23度でなければならない」という法令があるそうです。
まだまだ断熱意識が低い日本ですが、私たちの健康や命に関わることは明白。住まいをつくる人はもちろん、暮らす人もしっかりと断熱の意義を理解し、優先順位をつけながら断熱性を高めていくことが大切です。これから中古住宅を買ってリノベーションする方は、ぜひ「断熱」も意識してみましょう。

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