風、ひと、酒-横須賀【後編】2つの国が混ざり合うカオスを体験する街
1984年生まれ、神奈川県出身。 美容師、美容雑誌編集者、リクルートにて美容事業の企画営業を経験後、独立。「美容文藝誌 髪とアタシ」、渋谷発のメンズヘアカルチャーマガジン「S.B.Y」編集長。渋谷のラジオ「渋谷の美容師」MC。web、紙メディアの編集をはじめ、ローカルメディアの制作、イベント企画など幅広く活動中。8年住んだ逗子から、三浦半島最南端の三崎に引っ越しました。アタシ社の蔵書室「本と屯」を三崎の商店街で12月にオープンさせた。
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―近い将来、湘南で暮らしたい ―
滞在だけでは知りえなかった湘南の魅力をお届け。 BUKATSUDOの人気講座「近い将来、湘南で暮らしたい学」でモデレーターをつとめるミネシンゴさんによる連載コラムです。
戦後史を横目に日本人とアメリカ人が交流するドブ板通り
岩崎さんに次に案内してもらったのは、三笠商店街を通り抜けた先のドブ板通りのバー「グリーンスタンド」。オーナーの永津さんとも合流です。
岩崎:「永津くんとはいつのまにか知り合ってましたね、同い年だから割とすぐ仲良くなって。狭い街だから共通の知り合いも最初からたくさんいたかな。
YBSの井上さんもそんな感じで知り合った仲です。」
永津さんも岩崎さんと同じく、生まれも育ちも生粋の横須賀人。アメリカ人と日本人が特に行き交うこの場所を見つめていて感じた変化はありますか?
「グリーンスタンド」オーナー 永津さん:「僕も中学生の頃はドブ板は怖い場所というイメージがありましたが、今ではすっかり変わりましたね。以前だったら夜中まで酔っ払って出歩く米兵も多かったのが門限規制がかかって、ベースの警察が出回るようになって治安がよくなり、横須賀を出入りする日本人の気質が変わったのもあるかも。デート相手を探す目的の人も多かったのが、もっとフラットに飲み屋で出会うようなスタンスになったり。あとは観光地化して舗装とかもきれいになって…色々影響してるかもしれないですね。僕がグリーンスタンドをはじめ飲食店を経営して、そこに日米の人が集うようになったのもこの状況のおかげかもしれません。」
岩崎:「例えば日本人のヤンキー同士が殴り合っても特に何も起こらないけど、それが片方がアメリカ人になっただけで新聞沙汰になってしまう。そうなると心理的な距離もできちゃうし、変な特別視は自分はしたくないなと思ってます。
ドブ板通り、そして横須賀が面白いのって、アメリカ人のおかげだと思うんですよね。特にこういうお酒が出る場所ではそういうことを身をもって実感しやすい。お酒の飲み方や興奮した時の表現の仕方にもお国柄が出て面白いんだよね。最初から豪快にショットを飲むのがわりと普通で、スポーツ観戦してる時のノリで流行りの音楽に興奮したり。」
永津さん:「美味しく味わうというよりは単純に酔っ払いたいという感じだよね。人種によっても違いがあって、黒人は女の子がいる前だと高いお酒でカッコつけたがる人が多いかも(笑)」
ドブ板通りが面白いのはアメリカ人のおかげ。その言葉を確かめるべく、街の外に出てしばらく散歩をすることに。
永津さん:「戦後、横須賀に限らずGHQ占領下にある地域ではアメリカ政府からこのA看板をもらわないと飲食店を営業できないという時代があったようです。ここはもう閉店してるけど、ドブ板で唯一A看板が残ってる場所です。」
ちょっと探ると戦後の日米史が垣間見えてくるのも横須賀ならでは。他にも日本のソウル音楽好きなら知らない人はいない名店バーがあるなど、意外に「日本で初めて」や「日本一」という店が潜んでいるのも横須賀をじっくり掘る理由の一つかもしれません。
至るところの個人商店にもぎっしり詰まった日本とアメリカのカオス。小さい新鮮な発見を積み重ねるのが、この街で暮らす毎日の醍醐味になるはずです。
日本の風景が残る場所に垣間見えるアメリカ
岩崎:「ドブ板から少し坂を登ったあたりは緑ヶ丘と言うんだけど、そこは見晴らしがよくて空が近い。暗くなると何にも見えなくなるからこれからの時間がちょうどいいよ。」
そう言われて階段や坂を登ること15分ほど。
そろそろ永津さんともお別れの時間。日米の人の憩いの場を通して横須賀の未来はこうあってほしいという構想はありますか?
永津さん:「僕のお店を通して、アメリカと日本それぞれの人や文化、遊びが混ざり合う街として残っていってほしいなと思いますね。この思いを日本人にも共感してもらえると嬉しいです。」
岩崎:「ぜひ市外の人にも共感して来てもらいたいよね。イメージ先行しがちだからこそ実際に体験して楽しい、面白いと感じてもらいたい。」
その後、横須賀中央駅の隣、汐入駅に向かって歩いた先で訪れたのはヒデヨシ商店。
岩崎:「角打ち営業の客の9割が外国人というユニークな酒屋として評判のお店で、今日を締めくくるにはぴったりの場所としておすすめです。」
岩崎:「この辺りでは、転勤族の米兵が任期を終え帰国する時に手持ちのドル札にサインをして行きつけの店の壁に貼り付けていく風習があります。こんなにたくさんの人に愛されてきたんですね、この店は」
岩崎さん、名前も知らない日本人(右)とアメリカ人(左)とわずかな間にすっかり盛り上がり記念に一枚パシャリ。
ちなみに右の方はいつのまにかおつまみを奢ってくれました。「混ざりあう」ことが当たり前な街の一角にあるヒデヨシ酒店に集まる人が作る、底抜けにオープンな空気は他の街のそれとはまた別格の懐の深さがありました。
街の空気は、そこ住む人がつくる。
横須賀の魅力はまだまだこれだけじゃありませんが、通うたびにそのカルチャーの深さに触れることができそうです。