高橋洋子さんインタビュー
好きな街に住みたいFPが選んだリノベーションの暮らし
1979年生まれ。暮らしのジャーナリスト、ファイナンシャルプランナー。大学在学中からライターとして経験を積み、情報誌の編集者を経てフリーランスに。主に暮らしをテーマに執筆活動をし、取材した家は1,000軒以上。現在はファイナンシャルプランナーとして家探しの基本やリノベーションの魅力について伝えている。
FPに聞いたお金のはなしー住み続けてきた好きな街で家を買いたい。そんな想いを持つ人は多いことでしょう。でもロケーションの良い場所であればあるほど、予算の面で折り合いがつかないことがあります。フリーランスのジャーナリスト、ファイナンシャルプランナーとして活躍する高橋洋子さんは、長年住み続けた中野区でどうしても家を買いたいと考え、中古物件を購入してリノベーションをするという選択をしました。中野区は新宿まで電車で5~10分の距離でありながら、下町の雰囲気を醸し出すとても住みやすい人気エリア。自宅の最寄り駅から徒歩5分、使える駅は3駅あるという便利な場所に、理想に近い家を手に入れるまでどのような道のりをたどったのか、住まいにどうお金をかけたのか−−。家を購入するときに気になるお金の話について、お金の専門家であり働く母親でもある高橋さんにお話を伺いました。
中古なら好きなエリアに理想の住まいを手に入れられると思った
――新築ではなくリノベーションを選んだ理由は何ですか?
家を購入したのは8年前ですが、それまではここから徒歩2分のところに10年ほど住んでいました。魚屋さんやスーパーなど馴染みのお店があって中野区がとても好きだったので、どうしてもこのエリアで家を買いたいと思い、立地ありきで家探しを考えました。
当時、このあたりで新築の家を買うとなると5,000万円近くしました。夫も私もフリーランスとして仕事をしているので、5,000万円近くのローンを背負うのは怖いなと思っていて。
そこで中古物件に目を向けたら、2,000万円から4,000万円くらいでいろいろな物件があることを知りました。新築物件であれば買える場所が限定されてしまいますが、中古であれば同じ予算で好きな場所に好きな家を手に入れられることが分かったんです。
特に戸建てであれば土地を買う感覚で古い空き家を買い、ガラッとリノベーションすることで自分の理想の住まいに近づけられる、家を作る楽しさも味わえると思いました。
最近のリノベーションの技術は素晴らしく、見違えるように変わるということを知っていたので、築年数や見た目にとらわれず購入しましたね。
――リノベーションは戸建てだけじゃなくマンションという選択肢もあったと思います。戸建てにした理由は?
夫と私は戸建てで育ってきたため、もともと戸建て派で、最初からマンションは選択肢にありませんでした。ゴミ出しが24時間できるなどマンションの利便性も考えましたが、賃貸のアパート暮らしをして音の問題で気を遣っていたんです。子供も欲しかったですし、マンションだと子供の足音を気にするという話も聞いていたので、そういった音のトラブルは少ないだろうと戸建て限定で探しました。
――この物件を中古で見つけたときはどんな物件でしたか?
印刷会社兼住居で、前の持ち主が事業をやめて手放した状態でした。1階の和室の障子がボロボロだったり、トタン屋根が雨漏りをしていたり。2階はオフィスとして使っていたようですが、カビだらけでだいぶ傷んでいました。
――そういう物件を見ると購入をためらうような気がしますが、どうでしたか?
夫はまさにそうでした。私はリノベーションすることを前提に考えていたので、この立地でこのスペースでこの金額だったらいいと思いました。空き物件はなかなか出ない場所だし、出たら出たで不動産業者がスクラップアンドビルドして、高く売るというエリアですから。
それが2,500万円で綺麗にリノベーションできるということだったので購入することにしました。道路に面していますし、再建築不可ではないので建て替えもできるし、3階建ても建てられるので自由度はあるかなと。
――最初から問題ないと思ったんですね。
はい。2,500万円で買っても、1,000万円ぐらいでリノベーションしてトータル3,500万円で理想の家が手に入るならいいかなと。古家ですからリノベーションしても家の価値は上がりませんが、20~30年後、土地が2,000万円くらいで売れたら、1,500万円くらいを自分たちで使ったと考えると、月10万円で賃貸に暮らした場合と同じくらいの支出だし、10年間で元が取れるかなという計算をしました。
デメリットは銀行の融資を受けられなかったこと
――具体的にどんなローンを選んだか教えてください。
物件購入に2,070万円、これにリノベーション費用が1,180万円かかり、住宅ローンとリフォームローンを組みました。
ネックになったのは住宅ローンです。建ぺい率オーバーだったため銀行が融資をしてくれませんでした。融資をしてくれたのがノンバンク1社だけでしたので、選択の余地がなく金利が通常よりも高くなってしまいました。銀行の融資が受けられない物件を購入することはデメリットだったなと思います。建ぺい率オーバーの物件は、その度合いによっては、銀行の融資を受けられなかったり、受けられても借入額や借入期間が違ったりすることがあるので注意したほうがいいですね。
(ただし、今では、建ぺい率オーバーなどの融資を受けにくい諸条件が無い場合、リノベーション費用も含めて金利の低い住宅ローンで都市銀行から借りることが可能です。)
リフォームローンはリフォーム会社が提携しているローンを使いました。月々の返済は住宅ローンとリフォームローンをあわせると11万円ですので、この金額でこの土地の戸建てに住めるのはなかなかないと思います。
住宅費を上手にコントロールして「豊かな暮らし」をする
――住宅ローンの選択肢がないと知った時に失敗したと感じませんでしたか?
私の場合、住宅ローン20年、リフォームローン15年で組んでいますが、繰り上げ返済をしているので、住宅ローンもリフォームローンもあと7年ほどで、子どもが小学校に入る頃には終わります。
同時期に新築のマンションを35年フルでローンを組んで購入した場合と比較すると、総額を抑えることができた結果、その半分くらいの期間でローンが終わるのは強みだと思います。教育費が一番かかる子どもの学生時期に住宅費がかからないのは大きいですね。
無理して高い家を購入し35年のフルローンを組み、将来的に家を売ればいいという考えもあります。35年後に家を売ろうと思っても、これだけ空き家が増えているので希望通りの金額で売れるとは限りません。ここ数年は変わらないかもしれませんが、2033年には空き家率が30%を超えると言われています。
売ることありきで家を購入するのではなく、余裕のある住宅ローンを組んだうえで、その土地や家を気に入って住まう、ということが大事だと思います。固定費である住宅費を賢くコントロールして日々の生活に余裕を持たせたほうが、豊かな暮らしができると思いますね。
人生の3大支出の中でコントロールできるのは住宅費だけ
――住宅ローンの選択肢がなかった中でも中古住宅は魅力的だとおっしゃいましたが、それはどうしてですか?
いわゆる人生の3大支出といわれているものに教育費、住宅費、老後費用があります。教育費は子どもの数である程度、自動的に決まってしまいますし、老後費用も自分の意志とは関係なく医療費がかかったりする可能性があります。でも住宅費だけは自分であらかじめコントロールできると思っています。
例えば新築は高くて手が出ないなら中古を選択するとか、駅から離れてもいいから少し物件価格を安くしたいとか、何千万円は無理だとしても数百万円なら自分でコントロールしようと思えばできるんです。
そしてリノベーションであれば間取りを自由に設計できます。自分の暮らしに合わせて家を作ることができる楽しさを、注文住宅よりもずっとリーズナブルに実現できます。私自身、リノベーションの打ち合わせは今振り返っても楽しくて、トイレ一つにしてもこんなに種類があるのかとか、浴槽も壁の色とバスタブはコーディネートできるとか、いろいろな掛け合わせの面白さを楽しめるし、家を自分たちの手で作っていく過程がとにかく面白かったですね。
理想の家づくりと予算の折り合いを上手につけることが大切
――リノベーション費用は予算オーバーすることが多いと聞きます。高橋さんは予算内におさまりましたか?
予算内におさまるように、担当営業の方とよく話し合って決めていきました。私は3階に大きなルーフバルコニーをつけたかったのですが、それをつけるとプラス2~300万円かかってしまうといわれました。お金が貯まってからつけようと、自分の中で折り合いをつけました。項目によっては後から変えられないものもありますから、優先順位をつけて考えました。
――やはりリノベーション費用は、予算内に収まるようにしたほうがよいものでしょうか?
それぞれの許容量はあると思いますし、予算オーバーしても頑張って働いて稼げばいいのでしょうが、あまり出過ぎるのは結局自分の首を絞めることになると思います。
生きていれば教育費、医療費など予期せぬ出費が絶対にあるので、そうなると住宅費をフルに組んでいたら身動きがとれなくなってしまいます。またローンを組んで最初の10年で返そうと思っても、意外と子どもに手がかかって思うように働けずに返せなかったりします。あまり余裕のないローンの組み方はおすすめできませんね。
リノベーション費用は、追加料金の有無を必ずチェックすること
――今回のリノベーションで良い選択をしたと思うことはありますか?
私たちがリノベーションのプランで選んだのは坪数×工事費のパッケージプランでした。例えば予想以上に木の腐食があったとしても追加料金を取らないものだったので、見積もりどおりの費用で済みました。いろいろ話を聞くと、最終的に見積もりよりも倍以上の金額がかかったということも聞きますので、パッケージプランなのか、かかった分だけ請求するプランなのかをよく調べたほうがいいですね。
もう一つ、アフターメンテナンスもよく確認したほうがいいです。私がお願いした会社は、24時間365日電話がつながります。最近雨漏りしたんですけど、それも費用負担なしで修理をしてくれました。会社のアフターメンテナンスが頼りになるかどうか、何年保証なのかというところも見たほうがいいと思います。
――もしもの時の備えには、どんなことをしましたか?
団体信用保険はローンとセットになっているものが多いので、絶対に入るべきです。これに入ったら、それまで入っていた保険の死亡保障を見直して縮小するのもアリかと思います。
また特に戸建ては地震や災害に強い備えが必要なので、住宅総合保険に入って、地震保険もオプションでつけたほうがいいですね。最近水害が多いですから、エリアによっては水害にもきちんと対応しているものを選ぶといいと思います。
人生にはお金の貯め時がある
――これからリノベーションをしようかと思っている人にアドバイスをお願いします。
今は私が買った時よりも、中古の戸建てやマンションがいっぱいあります。新築よりも中古に目を向けてみれば、エリアを問わず、割安で理想的な住まいが手に入るようになっていると思います。家の購入資金を新築物件の3分の2ほどの金額で抑えられたら、そのあとの人生に備えられます。ぜひ住宅費を上手にコントロールしていただきたいと思います。
また、人生にはお金の貯め時がいくつかあるという話があります。つくづく20代の独身時代は貯め時だったなと実感していますので、貯められる時に貯めておいてください。そして働けるうちに働く。女性なら、子育てが始まると思うように働けなくなるときもあります。自分の可能性に線を引かないで、どんどん仕事にチャレンジすることも大事だと思います。
実際にリノベーションをしようと決めたのなら、第三者の意見をなるべくたくさん聞くことがいいと思います。違う人が見れば費用の面では削れるところがいろいろありますから、じっくり時間をかけて満足できる家にしてください。