菅野有希⼦さんインタビューVol.5
モノを捨てない循環させる暮らし
テーブルコーディネーター/プロップスタイリスト
会社員を経て2016年に独立。雑誌・書籍・WEBメディア等で、食からインテリアまでライフスタイル提案のスタイリングを幅広く手がける。”暮らしを楽しむ”をテーマに、小規模な撮影ではフォトフラファーを兼ねることも。うつわ好きが高じ、公私にわたる知見を生かして食器ブランドの商品開発にも携わる。
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リノベーションした住まいで暮らすテーブルコーディネーターの菅野有希子さん。インタビューVol.1〜4では、サステナブルな食べ物の選び方や、地球にやさしい家事の取り入れ方を語ってくれました。今回は、おうちの中にあるモノを生かして、なるべくモノを捨てずに循環させていく暮らし方について話を聞きました。
エコロジー&エシカル視点で、服を探す・譲る
ー近年は地球環境にやさしいアクションの一環で、なるべくモノを捨てずに循環させる暮らし方に注目が集まっています。菅野さんも身近なところから暮らしを見直しているということですが、まずはファッションについてどんなアクションをしていますか?
古着を買うようになりました。ファッション性で古着を選ぶというよりも、新しく作られた服ではなく、すでにある服を着るという選択肢でも良いという考え方になりました。古着を探しはじめると、宝もの探しみたいで面白いんです。今は、代官山にあるジャンヌバレとかVINIVINIで買っていて、部屋着や外着にしています。
ーファッションには古着というジャンルが確立しているので、洋服の循環は取り入れやすいエコロジーなアクションと言えそうです。
そうですね。私は、メルカリなどのCtoCサービスの使い方も変わりました。これまでは要らなくなったモノを売ってお小遣いを稼ぐという考え方だったのが、捨てずに誰かに使ってもらうという視点で利用するようになっています。
ーエシカルの視点から、菅野さんが注目している取り組みはありますか?
基本的に不要になった服は売ったり、友だちに譲ったりしていますが、どうしても面倒な時はBRINGという服の回収サービスを使っています。同じようなサービスは様々ありますが、自社ブランドしか買い取らないなど規制があったりするんです。でも、BRINGはブランドのしばりがなく、ポリエステルの繊維から再生ポリエステルを作るなどリサイクル技術も高いそうです。私は、服を手放した後にどんな技術で、どうリサイクルされて使われるのか見えているサービスを使いたいと思い、BRINGを使っています。
ファッションアイテムでいうと、co×co(ココ)というブランドの服を着ています。co×coは素材に着目しているブランドです。服を作る過程にはサンプル生地が必要で、サンプルとして使った後は倉庫に眠ったり、廃棄されたりするそうです。co×coは、このサンプル生地を新しい服に生まれ変わらせています。サンプルといっても質がとても良いし、デザインも可愛いです。
私はco×coの取り組みを知って初めて、服を作る手前に環境負荷があることを知ったんです。新しい服を買うなら、どのように素材を調達しているかという観点で選ぶのもいいなと思っています。
ーファッションにエコやエシカルの視点を取り入れることで、周りからどんな反応がありますか?
古着屋で古いバッグを買った時、「革のバックを手入れしながら長く使っていくように、自分自身も手入れをしながら、バックと一緒に生きていくんだ」とSNSに書いたところ、けっこう反響をいただきました。SNSを見てくれる方も周りの人たちも、環境に優しいアクションをしたい気持ちはあるけれど、どこでどんなモノを買ったらいいか分からないんです。だから、私が着用してみて良かったモノやブランドは情報交換をする気持ちで発信するようにしています。
ーファッションに関して、これからやってみたいアクションは?
ダーニング(補修・繕い)に興味があります。服に開いた穴を、カラフルな布と糸で繕うんです。お直しがワンポイントになって、元の洋服よりもおしゃれに見せるアップサイクルの技術として注目しています。
あと、染め直しもやってみたいです。私は白い服が多いのですが、漂白が難しいくらい汚れてきたら藍染をしてみたいと思っています。
自分で作るインテリア、ヴィンテージの懐の深さを生かすインテリア
ーインテリアについてお聞きします。菅野さんは、新しいモノを買わずにどのようにインテリアを楽しんでいますか?
もともと窓横の壁スペースが閑散とした空間だったのですが、海外のインテリア写真で壁にいろんなカードや写真を貼っているのを見て、真似しました。旅先のホテルでもらったポストカードや撮った写真、好きなお店のショップカードを貼っています。子どもがいるなら、お子さんの描いた絵を額装して飾ってもいい。こんなふうに日常で手に入るものでインテリアは良くなると思っています。
旅の思い出を飾っておくと、お客さんが来た時の会話のキッカケにもなります。1点だけだと寂しいので、お気に入りの紙モノをたくさん貼ったり、仕事で使ったお花をドライにしてポイントとして飾ったりしています。
ー暮らしを見渡してみたら、新しく買わなくてもインテリアとして楽しめるモノはいろいろありそうですね。
そうですね。以前、キャンパスを自分でペイントしたこともあります。絵画に興味があるけれど買うのは高いなと思って、自分で描いてみようと思ったんです。キャンパスを好きな色でペイントして、上から金箔を貼ったら絵画っぽくなりました。自分で描くのは楽しいし、飽きたら上から塗り直してもいい。今は、お客さんが来たときにコードが出ている壁に立てかけて、みっともない空間を隠す用途としても活躍しています。
ーテレビ台にしているリンゴ箱も良いアイデアです。菅野さんのインテリアは、経年変化を楽しむモノが多いですね。
リンゴ箱を棚にするのは、インテリアが好きな方はよくやる手法だと思います。どうしてもテレビ台で欲しいものが見つからなくて、古い雰囲気があって部屋に馴染むモノを探していた時に、リンゴ箱を見つけました。
ダイニングテーブルは古材、椅子も木製のヴィンテージで、長く使うためのお手入れをしています。前回お話したウエスに蜜蝋ワックスを染み込ませて拭くんです。お肌にクリームを塗る感じで家具の手入れをすると、木がツヤッとして嬉しそうなんです(笑)。プラスチックと違って、木は手入れを続けることで愛着が湧きます。
ー菅野さんにとって、ヴィンテージの魅力は何ですか?
私みたいなズボラな人にとっては、もともと傷や汚れがあるモノは扱いを気にしなくていい気楽さがあります。使ううちに傷つけても、それがモノの味になってくれる。自分のダメな部分・雑な部分も受け入れて、一緒に暮らしていけるアイテムだと思っています。
この家の床も、もし普通のフローリングにしていたら少し傷がついただけでショックだったと思うんです。でも、リノベーションの床だったら傷は魅力としてプラスになる。棚の真鍮の取手も、最初はピカピカでした。まめに手入れをすれば今もピカピカだと思いますが、私は今のくすんだ色のほうが時間を蓄積した落ち着いた雰囲気になっていて好きです。
リノベーションした空間がくれるもの
ー菅野さんの話を聞いていると、リノベーションした住まいで暮らしているからこそ生まれるエコロジーアクションがありそうです。
リノベーションは、自分好みに住まいをデザインできるメリットが大きいです。壁と床は面積が大きくインテリアの基本だと思うのですが、リノベーションは壁と床を好きな素材・色にできます。モノを循環させる意識からヴィンテージ家具を選ぶということも、このリノベーション空間が無かったら考えられなかったかもしれません。
この家に暮らしはじめてから、モノを買わずに自分でDIYしてみようと思ったり、住みながら家を手入れしていこうという考え方になりました。新築の家だとなるべくキレイなまま維持しようという考え方になって、ここまで手を動かすことはなかったと思います。
ー前の住人から受け継いだ住まいを自分好みに染めて、いつかまた菅野さんの痕跡を残しながら循環していくのかもしれません。
家も家具も循環するものですよね。ダイニングの椅子は1970年代のものです。ずっと前からここには誰かが座っていて、今は私のところに来ているんだと思うと、ストーリーがあって楽しいです。
以前は、モノを買うこと=所有することだと思っていましたが、今は一時的にお借りしている、という感覚なんです。モノを長い時間軸で見ると、今は私のところにあるけれど、この後はまた誰かのところにいくんだという意識に変わりました。家も家具も服も所有しているというより、たまたま私のところにいるという意識を持つようになっています。