暮らしへの「やさしさ」から始まるサステナブル
一歩先の当たり前を「くらしのスタンダード―RSS(ReBITA Sustainability Standard)」として、価値づくりの基準にしてきたリビタ。そのRSSの視点は、日々の暮らしの中に、新たな価値を見いだすヒントをもたらしてくれるかもしれません。今回は、環境や社会のための大きな取り組みとして語られることの多い「サステナブル」を、身近な暮らしから見つめ直してみましょう。
「サステナブル」って難しそう?
私たちの暮らしの中でよく耳にするようになった「サステナブル」という言葉。「環境や社会のために良いことをしよう」「未来に負担を残さないようにしよう」――そんな文脈で語られることが多く、特別な取り組みのように感じてしまうこともあります。
でも、本来のサステナブルは「持続可能な」という意味で、環境、社会、経済などあらゆる分野で、よい状態を維持できる仕組みや考え方を指します。これは、私たちの身近な暮らしにも当てはまることで、「今の暮らしをこれからも心地よく続けていくための工夫」も、立派なサステナブルです。暮らしの中でサステナブルという視点をもつことは、環境や社会のことを思うと同時に、自分自身へのやさしさにもつながります。
たとえば、少しの工夫で夏や冬を過ごしやすくする断熱について知ることは、生活に不可欠なエネルギーの使用量を減らすことにつながります。あるいは、ものを購入するときに、使い勝手やデザインを吟味して、自分好みのものを選び、長く愛用することは、限りある資源を大切にする行動ともいえますよね。
暮らしの中で「これを続けると、自分が楽になるな」「心地いいな」と思える選択が、実はそのままサステナブルになり得るのです。
暮らしをより豊かに快適にすることにもつながる、身近なサステナブルについて、今回は「エネルギー」と「ライフサイクルコスト」という2つの視点から考えてみたいと思います。
暮らしのエネルギーについて知る
私たちの暮らしに必要な電気、ガスなどのエネルギーは、将来的により少ない量で、快適さを保つという方向へ進んでいきそうです。年々、暑さが厳しくなる真夏に「エアコンの設定温度を適切にして、省エネしよう」と、誰もが感じていることと思います。
エアコンの使い方を工夫するなど、エネルギー量を節約することはもちろん大切です。しかし、それだけではなく、住まいそのものの熱の出入りを少なくして、外気の影響を受けにくくすることが、実は暮らしの快適さと省エネの両立になり、住む人の命や健康を守ることにもつながります。
「人間は発熱体で汗も出ます。だからスポーツウェアは『肌に触れるところに何を着るか』『その上に何を重ねるか』といったレイヤーが考えられているんです。一番下には熱を逃がす速乾性の下着、さらに化繊のシャツ、その上にウィンドブレーカー。よくアウターに採用されるゴアテックスは、雨風を防ぎながら湿気を外部へ逃がす、とても優れた繊維なのです」
そう話すのは、建築・省エネコンサルタントの黒田大志さん。住まいの断熱性能を、人と服の関係にたとえて、わかりやすく教えてくれました。
戸建ての外壁側(通気層の内側)に使われる透湿防水シートは、スポーツウェアのゴアテックスのようなもの。外部からの雨水の侵入を防ぎながら、壁内の湿気を外に逃がしてくれる存在なんです。
▼引用元:
「性能」の先にある「自分らしい」暮らし ちょっと先、のくらし #03
また、住まいをリノベーションするときの窓ガラスの選び方は、断熱性能の向上に大きく関わります。これまで一般的だったアルミ製の枠と単板ガラスの窓は、熱を伝えやすく、空調によって暖められた空気がすぐに冷やされてしまいます。室内外の気温差で結露やカビが発生しやすく、快適性だけでなく健康への影響も心配です。
そこで最近では、樹脂製の枠と空気をガラスで挟んだ「ペアガラス(複層ガラス)」が選ばれるようになってきています。空気は熱が伝わりにくい性質をもつため、ペアガラスを選ぶことで、断熱効果が格段に高まります。
どんな素材が熱を通しやすいか、あるいは通しにくいかを示すのが「熱伝導率」という指標です。
「素材にはすべて『熱伝導率』と言って、熱の伝わりやすさを表す値があります。素材の厚さが1mで両面に1℃の温度差がある時、1秒間で伝わる熱量をW/mKで表します。
熱伝導率が高い → 熱が伝わりやすい(断熱性が低い)
熱伝導率が低い → 熱が伝わりにくい(断熱性が高い)
と考えます」(黒田さん)
アルミや鉄は熱が伝わりやすい素材の代表。一方、樹脂や木材は熱を伝えにくい素材なので、サッシに使うと断熱性が高まります。素材の違いを知っておくだけでも、どこから改善すればいいのかが見えてきますね。
窓は新築やリノベーションのときだけでなく、今住んでいる家でも比較的簡単に変えることができるパーツです。また、マンションの規約などで窓ガラスを変えられない場合は、内窓(インナーサッシ)を設ける方法もあります。
▼引用元:
「住まいの断熱性能」はなぜ必要?高性能なマンション選びのコツとこれから目指したい断熱レベル
では、これからリノベーションをするなら、どこまで断熱を考えるべきなのでしょうか?
目安となるのは、住宅の脱炭素化の実現に向けて国が目指している基準。すでに新築建築物にはZEH(ゼッチ)※1基準の適合が義務化されていて、補助金がもらえる制度も始まっています。今後、リノベーション住宅にも、省エネ性能は当たり前に求められることが予想できます。
「住まいに快適性能はあって当然で、わざわざ訴えるまでもないものだということは、心に留めておいてほしいと思います。自動車を売る時に『この車ってブレーキがついていてすごいんです』なんて言わないですよね。それくらい断熱や省エネは基本的なものなんです」と黒田さんも話します。
だからこそ、中古住宅を購入してリノベーションをするときには、まず住まいの健康状態を知ることから始めるのが大切です。その上で「どこまで性能を上げる?」「その先にどんな暮らしがしたい?」と順番に考えていくのが、自然な流れなのです。
しっかりと断熱性能を備えた住まいは、エコで省エネというだけではなく、カビの発生を防ぎ、家の中の温度差を小さくすることで、ヒートショックやアレルギー対策にもつながります。つまり、環境にやさしい住まいは、住む人の体にもやさしい住まい。エネルギーの使い方や断熱のことを知るのは、日々の暮らしを快適にし、自分や家族の健康を守ることにもつながっていくのです。
▼引用元:
「性能」の先にある「自分らしい」暮らし ちょっと先、のくらし #03
※1 ZEH:ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス。外皮の断熱性能等を大幅に向上させるとともに、高効率な設備システムの導入により、室内環境の質を維持しつつ大幅な省エネルギーを実現した上で、再生可能エネルギーを導入することにより、年間の一次エネルギー消費量の収支がゼロとすることを目指した住宅。(引用・参考元:国土交通省ホームページ)
心地よい選択と使い使い続ける工夫
ものを購入するとき、少し予算をオーバーしても、気に入ったものを選ぶことで、長年大切に使い続ける愛用品や、かけがえのない宝物になることがあります。壊れたらすぐ捨てて買い替えるのではなく、手入れをしながら使い続けられるものを持つ。こうした選択も、サステナブルな暮らし方の1つです。
たとえばお気に入りのヴィンテージ家具は、デザインも魅力ですが、手入れをすれば将来的に長く使うことができ、時間とともに愛着が育っていくものだといえます。
「ダイニングテーブルは古材、椅子も木製のヴィンテージで、長く使うためのお手入れをしています。ウエスに蜜蝋ワックスを染み込ませて拭くんです。お肌にクリームを塗る感じで家具の手入れをすると、木がツヤッとして嬉しそうなんです(笑)。木は手入れを続けることで愛着が湧きます」
そう話すのは、テーブルコーディネーター、プロップスタイリストとして活躍する菅野有希⼦さん。お気に入りのダイニングテーブルを手入れする時間は、大切なものと向き合い、自分の暮らしを丁寧につくっていくことにつながります。
▼引用元:
菅野有希⼦さんインタビューVol.5 モノを捨てない循環させる暮らし
ある商品に対して生涯に使うお金をライフサイクルコストと呼びます。ライフサイクルとは、人やものの誕生から衰退への周期のこと。つまり、ライフサイクルコストとは、ある商品がつくられてから、役目を終えて廃棄されるまでにかかる費用のことです。少し堅い話に聞こえるかもしれませんが、考え方はとてもシンプル。住まいや家具、雑貨など、あらゆるものを、購入から手放すまで、長い時間軸で捉える視点ともいえます。
身近なところでは、毎日の食料品を買うときに、ライフサイクルコストの視点をもつことができます。日々大量に購入する使い捨ての容器が実は日常の小さなストレスになっていることも。お気に入りのマイ容器に、量り売りで買ったものを入れてくれる「ゼロウェイスト」の店も少しずつ増えてきました。生涯にわたり、使い捨て容器に入った食料品を買い続けて、さらに洗って捨てるまでの労力を考えれば、マイ容器に入れてもらったほうが、結果的に、かかる手間やコストが少なくなるかもしれません。
日々の買い物で選択肢を広げ、どこで買うか・誰にお金を払うかを考えることも、サステナブルな行動です。無理や背伸びをするのではなく、自分にとって心地よいと思う選択肢を選んで、少しずつ暮らしを整えたり、工夫を重ねたりしていくことが、最適なライフサイクルコストを導き、結果的に暮らしをよくしていくことになりそうです。
「買う『もの』ではなく、買う『場所』を変えてみるのはどうでしょうか。また、自然素材のものや応援したい企業のもの、意外と思いつきにくい『電力会社を変える』など、お金を渡す先を変えることで社会を良い方向に変化させることができると思います」
そう教えてくれたのは、サステナブルな暮らしに関する書籍の翻訳を手掛け、実際にさまざまな実践を暮らしに取り入れている、服部雄一郎さんと麻子さんです。
これまでとは違う選択をしてみることで見え方が変わって、今までの暮らしを見直すきっかけになるとも話します。
「今の私は使い捨てのものを使うほうが負担を感じてしまいます。使い捨て容器に入っている食べ物を家に持ち帰り、洗って捨てることを考えるとどうしても気が重くなってしまう。でも、持ち込んだマイ容器に入れてくれるお店で買えば、ストレスはゼロ。ゴミを減らす目的のためではなく、自分の感覚に素直になってアクションを起こすと、『自分は本当はこうしたいんだな』とわかってきます。様々な選択肢があるので、まずは自分がやりたいこと、できることから選ぶといいのではないでしょうか」と麻子さん。
▼引用元:
自己変容を楽しむことから始める、サステナブルな暮らし 服部雄一郎さん・服部麻子さんインタビュー<後編>
自分にとって心地よい選択肢を選び、長く使われてきたものを、手入れや修繕を重ねて大切に使うことは、ものへの愛着を生み、暮らしを楽しむことにつながります。また次の世代へものを循環させることにもなります。
前の住人から受け継いだ住まいをリノベーションして住むことも、その循環の中の一部。長い時間軸でライフサイクルコストを考えてみると、リノベーションで住まいをつくることが、より豊かに感じられるかもしれません。
未来のために、今できることは小さくていい
暮らしを見直してみると、私たちは小さな工夫や選択を積み重ねながら生きています。「住まいの断熱性能を上げて、少ないエネルギーで心地よく暮らす」「長く使えるものを選び、手入れしながら大切にしていく」「日々の買い物で、自分が気持ちよく続けられる方法を選ぶ」。そうした選択は、どれも身近なサステナブルの実践です。その1つひとつが、長い時間軸で見たときに、あなたの暮らしの豊かさを育ててくれるはず。そして未来の自分や家族を守り、結果的に環境や社会にもやさしい暮らしをつくることにつながっていきます。
未来のために、今できることは小さくていい。まずはできるところから、自分自身の暮らしにとってのやさしさを見つけることから始めてみませんか。