東野 唯史さん・東野 華南子さんインタビュー
誰もが「楽しくたくましく生きる」、そんな世の中をデザインする。
東野唯史(あずの・ただふみ)
『ReBuilding Center JAPAN』代表。大学卒業後、展示会場の設計デザインを手がけたのち独立。2014年の結婚を機に妻・華南子とともに空間デザインユニット『medicala(メヂカラ)』として全国で仮暮らしをしながら店舗のデザイン・施工・運営アドバイスを行う。2015年夏、新婚旅行先のアメリカ・ポートランドで『ReBuilding Center』に出会い、2016年秋、『ReBuilding Center JAPAN』を長野県諏訪市に立ち上げる。
東野華南子(あずの・かなこ)
『ReBuilding Center JAPAN』の広報、イベント企画、カフェ調理などあらゆる業務を担当。大学卒業後、コーヒーショップ店長やゲストハウスの女将を経て、2014年から夫・唯史と空間デザインユニット『medicala』の活動をスタート。運営アドバイスに加え、施工時の「現場めし」も担当。
長野県諏訪市にある『ReBuilding Center JAPAN』。空間デザインユニットとして活動してきた東野唯史さん、華南子さん夫妻が2016年にオープンした建築建材のリサイクルショップです。役目を終えた古材や家具にもう一度光を当てることで、新しい文化の構築を目指すふたり。昨年には中古住宅を購入し、エコハウスへのリノベーションもスタートしています。自分らしく豊かな暮らしとは何なのか、現在進行形で考え続けるおふたりにお話を聞きました。
文化をつくるために、普通の人を巻き込みたい
ー『ReBuilding Center JAPAN』(以下、リビセン)は、「建材のリサイクルショップ」と一言では語り尽くせない場所ですね。
唯史さん:解体が決まった建物から古材や建具、家具を引き取る、これを僕らは「レスキュー」と呼んでいるんですが、そうして集めた物をここでは販売しています。僕らの理念は“ReBuild New Culture”、新しい文化をつくりたいという思いがある。古く美しいものを次世代につないでいきたいということはもちろん、それらを通じて地域を豊かにしていけたら、と考えています。
ー建材と言うと敷居が高く感じますが、カフェがあるので気軽に入りやすいですね。カフェの窓から古材売り場が見えるのも楽しいです。
唯史さん:文化をつくっていくためには、建築のプロよりも「普通の人」を巻き込まなきゃいけないと思っています。そのためにカフェという場所が必要でした。たとえばカレーを食べに来た人が「古材で何かできるかも」と感じたり「うちにレスキューに来てもらおうかな」と思えたり、自分ごとに感じられるから。
カフェの家具は古材でつくったものですがつくりはシンプルだし、普通の人がちょっと頑張ればできるものも多いんです。働いているスタッフも、見た目に戦闘力高そうな子はいない(笑)。普通の子が楽しそうに働いていて、でも何かできている、という空気が分かってもらえたら嬉しいです。
ーリビセンを始めるより前、おふたりで空間デザインユニットとして古材を使ってゲストハウスやレストランを手がけていたことが、今につながっているのでしょうか?
唯史さん:そうですね。予算を抑えながらかっこいい仕上げにするために、古材をよく使っていたんです。でも、いつも近くの解体現場で交渉して譲ってもらうような行き当たりばったりのやり方だったので、「気軽に行けて安く買える古材屋を誰かやってくれないかな」と思っていました。
そんな時に「空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法)」(※1)ができたんです。自治体が行政代執行で空き家を解体できる法律ができた!という、僕らにとってインパクトのある出来事でした。今では良い意味で機能している法律だと思いますが、当時は「このままいくと古いものが全部壊される、世の中の流れがやばい方に向かってる」と直感して。
僕らも地方の現場で仕事をすることが多かったから空き家を壊さなきゃいけない事情は分かるし、家主さんの気持ちも尊重したい。それなら解体で出た古材を資源として再利用して、その販売で雇用を生む仕組みを地方でつくれるんじゃないか、と思いました。それが古材屋をやろうと思ったきっかけです。
ーそこから『ReBuilding Center JAPAN』を立ち上げたのは?
唯史さん:同じタイミングでアメリカのポートランドにある『ReBuilding Center』に行く機会があって、そこで受けた衝撃や感動みたいなもの、ああいう空気感を持った古材屋が日本にあったらすごくいいなと思ったんです。彼らはNPOとしてリサイクルショップを運営していて、古材を売って儲けることより、活動を通して街やコミュニティを良くすることを目的にしているし、それができると信じてる。その理念が、売り場から伝わってくるんです。あの景色を見た時、「日本より20年ぐらい先を行ってるな」と感じました。
僕らが日本で古材屋を始めてもし迷うことがあっても、あそこに行けば日本の未来の景色が、答えがあるような気がしたから、『ReBuilding Center JAPAN』を名乗りたいと思いました。それに、世の中の流れが変わりそうなところに少しでも抗うには、ただの「東野古材店」ではダメで。「ポートランドの『ReBuilding Center』が日本にやってきた!」っていうメディア受けがいい話ならバーッと取材がきて広まるはずだ、と考えました(笑)。
華南子さん:正にその通りになりましたね(笑)。あの頃はポートランドがすごく流行って、いろいろなメディアで取り上げられていたから。
古材の難点も許容して楽しむ、その先にあるもの
ーレスキューする物の判断は、本国のポリシーに照らし合わせているんですか?
唯史さん:細かいルールはこちらで決めていて、「次の世代に残したいものか」という基準でレスキューしています。木材なら、基本は無垢材。ベニヤは放っておいても20年後30年後も残っているだろうからレスキューしなくてもいい。自然に還る素材かどうかも重要で、プラスチックだとかフェイクの素材は外します。鉄も残すし、錆びて一枚ずつ表情が違うトタン、縄、竹などもレスキューします。
古材は実際に見に来て選んで買わなきゃいけないけど、フェイクの素材ほど発注すれば確実に届くから使われることが多いんです。設計者はみんな忙しいし、電話とオンラインで完結しないような材料は確かに使いづらいと思う。
それに古材の難しいところは、ものが一個一個違うところ。「この形はこの量しかないし、次いつ入るか分からない」というものばかりだから、同じ材料で床を100㎡張りたいと言ってもまず確保できないんですよ。同じ時代の同じ家からレスキューしても、均一な床はできないんです。玄関に近い部屋は良い材料だけど、奥の部屋は安い材料を使っている、だとか。しかも木材なら曲がったり反ったり割れたり状態がバラバラなので、普通の無垢材よりずっと手間がかかってしまう。そこを住み手や設計者が許容して楽しめないと、難しいですね。
ー古材というと、日本ではアメリカのバーンウッド(納屋で使われていた古材)が多く使われていますね。
唯史さん:安くて大量にあるから使いやすいんです。でも国内で古材を使いこなせず捨てまくってるのに、外の古材を買ってる状況って矛盾がある。冷静に考えれば運搬のために船の石油が大量に使われているし、外国にお金が流れてるということ。目先の目的は果たせても、日本としての価値はちょっと下がるはずだと思う。
国内の古材ならCO2の発生が少なくて済むし、そもそも燃やされるはずだったものだから使えば使うほど環境負荷を減らせる。古材はそういう特殊な材料です。僕らはリビセンのショップやデザインした空間を通じて、「日本の古材でかっこいい空間をつくれる」ということを見せていきたいと思っています。
※1
2015年に完全施行された法律。空き家とは何かを定義し、自治体が空き家に立ち入って実態を調べたり所有者に適切な管理の指導をしたり、空き家の活用を促進できるよう定めたもの。問題となる空き家を自治体が「特定空家」に指定し、住宅の除却などの助言・指導・勧告・命令をしたり行政代執行(強制執行)もできるようにした。
古くても快適で、かっこいい家をつくりたい
ーリビセンは昨年、築50年の中古住宅を購入してリノベーションを進めています。今年の冬に完成予定で、東野さん夫妻の住まいになるそうですね。これまでおふたりがデザインした空間はほぼ100%店舗でしたが、住まいをつくろうと思ったのはどうしてですか?
唯史さん:僕らが日々レスキューする古材は板材が多くて、住宅一軒あたり500kgぐらいの量しかレスキューできていないんです。でも木造住宅を一軒解体すれば、約17tの材料が出る。全部バラしてレスキューするよりも、丸ごとリノベーションして活用する方が救える量は多いんですよ。
ただ下手なリノベーションで快適に過ごせない家になっても良くないし、「リビセンの理念に合ったリノベーション提案ができないだろうか」と考えるようになったんです。それができれば、レスキュー総量も増えることになりますから。
ー「快適に過ごせる家」とは、冬暖かくて夏涼しい、ということ?
唯史さん:そうです。去年の秋に華南子が過労で倒れて入院してしまったことも、暮らしを見直すきっかけになりました。諏訪は真冬の平均気温が氷点下になるぐらい寒いんですが、それまで僕らが住んでいた古い家は全然快適じゃなかった。華南子が倒れたことで「ああ、しんどかったんだ」と気づいたんです。そこから築2年の集合住宅に引っ越したら、暖かさという意味ではすごく快適になりました。
華南子さん:古い家もいいけれど、豊かな暮らしとイコールではないと分かって、理想の暮らしと快適な暮らしのちょうどいいバランスを探りたいと思うようになったんです。
唯史さん:そんなときに「暮らしかた冒険家」の伊藤菜衣子さんが札幌でエコハウスのリノベーションを始めたのを知って気になって、住宅の断熱や気密について勉強を始めました。実際に山形や岩手県紫波町のエコハウスに泊まりに行って、「これはすごくいい」と感動した経験も大きかったです。外は気温マイナス4度の日に、室内はロンT一枚で快適に過ごせたんですよ。例えるなら、真冬なのに室内はGW明けの気持ち良い季節、という感じ。窓の近くも寒くなくて、全体に温度ムラが少ない。特に廊下やトイレでそのすごさを実感しました。
リノベーションで新築住宅と同等かそれ以上の断熱性能の家を新築と同等の値段でつくれるようになれば、親やその上の代から暮らしていた住宅を住み継ぎながら、今の価値観に合わせて暮らしていけるんじゃないかと感じました。しかも、デザインもかっこ良く。
ーこれまでのリノベーションはデザイン優先にすると快適性は二の次、というイメージがあります。地方では特に空き家問題は深刻だし、高性能でデザインもいい住宅ができることを示せれば興味を持つ人は多そうですね。
唯史さん:新しいことは、まず自分でつくらなければ広まらないと思うんです。この家ができたら興味がある人を招いてホームパーティーをしてもいいし、泊まってもらってもいい。体感してもらうなかで「自分たちもエコハウスをつくりたい」という人が現れたらデザインは僕らができるし、実施設計や施工は、地元の信頼できる工務店にお願いする予定です。
華南子さん:エコハウス分野では「みかんぐみ」の竹内昌義さんや「暮らしかた冒険家」の伊藤菜衣子さんが先頭を走ってくれているから、私たちの役割は「エコハウスってこういうことだよ」と分かりやすく伝えることだと思っています。ミッキーマウスとミニーマウスみたいに(笑)。
私、大学は普通の文学部だったんですよ。古材や断熱なんて全然興味がなかったし、まわりの友達もそう。そういう意味で自分は「一般人」だと思っています。自分と同じ感覚の人に「かっこいいし性能もいいこんな家ができるんだよ、普通なら捨てられる古材がこんな風に使えるんだよ」ということをどうすれば伝えられるかは考えていきたい。
この家は、オープンハウスもたくさん開催する予定です。解体中の中途半端な状態も見てもらいたい。家の骨組みはどうなっているのか、断熱材がどうやって入ってるかなんて普通の人は知らないし、見てみたいですよね。そうやって少しずつ、「自分ごと」にしてもらえるといいなと思います。
断熱工事と古材で、環境負荷の低い家に
唯史さん:ここは築50年ほどの建物で、元は諏訪湖の船大工さんが住んでいたそうです。増改築を繰り返していたみたいで、一番古い部屋は明治時代からある。解体前に調べてみたら断熱材が全然入っていない「無断熱」だったので、竹内昌義さんと諏訪の工務店さんに相談して壁と天井、基礎に断熱工事を行うことにしました。古いサッシも樹脂サッシトリプルガラスに交換します。
デザイン的にも機能的にもリノベーションていろいろな考え方があると思うんですが、今回はとことん断熱性能を高くして、下地材には全部県産材の木材を使って、トータルで環境負荷を減らす家を目指します。古材を使うことは環境にとっていいことだし、県産材なら輸送で発生するCO2も少ない。地域にお金も回る。そういうことを伝えるために、このプロジェクトがあるといいなと思っています。
この家、全部で180㎡ぐらいあるんですよ。けれど僕らは基本的に2人暮らしで子どもができても1人だろうから、半分で十分。だから室内に断熱ラインをつくって、部分的に断熱する「ゾーン断熱」という方法にしました。断熱ラインの向こうは外という認識で、暖かいのは内側だけ。180㎡全部を工事すると、お金もかかりますから。そういう方法もあるんだと見せられたらいいなと。
エコハウスのリノベーションには、気密性と断熱性を高めるきちんとした施工技術が必要だと当初から考えていました。この家をお願いした工務店はスワテック建設という会社で、地元で信頼されている老舗企業です。奇抜なデザインはやらないけど、仕事は質実剛健。実はリビセンのビルの大家さんなんですよ。僕らがデザインして、施工は信頼できる地元の企業にお願いできれば、すごくバランスがいいんじゃないかなと思っています。
ーどのぐらいの予算でできるのでしょうか?
唯史さん:断熱気密工事、仕上げの変更、家具製作まで含めて1800万円前後で考えています。坪60~70万円ぐらいですね。リビセンがデザインするから、かっこ良くなるのは保証つき!ちなみにこの土地は150坪なんですが、600万円で変えました。家はタダ(笑)。トータル、2400万円ですね。
華南子さん:土地と家を買うと思ったら安いと思う。しかもこの景色!めちゃくちゃ気持ちいい。
もっと諏訪を深堀りしていきたい
ーもともと諏訪に拠点を構えたのはどうしてですか?
唯史さん:4年ほど前に、下諏訪町の「マスヤゲストハウス」のデザインと施工を手がけたことがきっかけです。リビセンをつくることを決めたときも、東京から公共交通機関で来やすい諏訪の立地はぴったりだと思いました。首都圏でマンションをリノベーションする人が直接見に来ることができて、持って帰ることもできる。駅からも徒歩10分ですから。
ー本格移住から2年、街に対する気持ちの変化はありますか?
華南子さん:オープン当初は9割近くが県外からのお客さんだったんですが、最近は県内のお客さんが増えてうれしいです。レスキューの依頼も、「いつか連絡しようと思っていたんです」という人が連絡をくれたり。
唯史さん:今まで全国各地に行って空間をつくる仕事が多かったんですが、これからは諏訪での仕事を増やしていきたいと思っています。この街にもっと、リビセンの価値観やマインドに触れられる場所を増やしたい。今はリビセン1カ所だけだからたまたまあるだけのように見えるけど、リビセンのような場所が一つできればそのエリアはこう変わる、ということを見せたいから。一つの場所がまわりに影響を広げてそこにしかない空気をつくっていく、そんな風に地域にコミットできたらいいなと思っています。
華南子さん:古材を使ったお店が諏訪に増えたら、普通の人も古材の使い方をイメージしやすくなるし、自分でつくることを暮らしに取り入れやすいと思うんですよね。家で古材を使いたいと思っても、今のリビセンの家具や内装だとどうしてもスケールが大きくてイメージしにくいところもあるから。
あとは純粋に、自分たちがつくったお店が大好きなんです。おいしかったり、心地いい場所だったり。今までつくったお店が全部諏訪にあったらめちゃめちゃ楽しい街になるのに、と(笑)。やっぱり自分たちが暮らす街が楽しいのがいいなあ、と思います。
働き方もデザインして、世界を良くしていく
ーおふたりは空間をデザインするとき、いわゆる「デザイン」だけでなくそのお店のコンセプトや予算計画、全部ひっくるめてアドバイスしますね。それはどうしてですか?
華南子さん:特に私は「収支計画大丈夫?何人でお店回すの?1人じゃ大変よ!」だとか、どんどん口を挟むのが仕事です(笑)。「いつか結婚したくても子どもがほしくてもその収入じゃ無理だよ、やめたら?」ということまで言います。
自分たちがデザインしたお店で働く人が幸せじゃないのも嫌だし、そこにくるお客さんが不幸せなのも嫌なんです。働く人も、お客さんも地域も幸せを感じるお店をつくりたいと思うと、どうしたら長く働けるかはすごく大切なこと。お店は店主がほとんどの時間を過ごす場所になるから、そこをつくるということは人生を背負うようなものなんです。だから数年後に光が見えないようなプロジェクトに手は貸せないな、と思う。そういう話をすると、打ち合わせの段階で来なくなる人もいますね。
唯史さん:僕はずっと、大学時代に学んだ「デザインは世界を良くできる」という気持ちで仕事に取り組んでいて、お店の仕組みをつくるのもデザインの一つだと思っています。最近気をつけているのは、お客さんを喜ばせる前に、まず自分たちが幸せでないとダメだということ。自分で会社やお店をやって、無理して体を壊しながら働いた結果、「人のために頑張るだけじゃダメだ」と気づきました(笑)。
僕らにお店づくりを相談してくれる人たちのなかには、「Uターンして頑張って地元を元気にしたい」とか「ゲストハウスをつくってみんなを喜ばせたい」という人がいて、彼らは最初の収支計画で自分の給料を10万円で設定していたりする。それで本当に食べていける?続けていける?と聞くようにしています。例えばゲストハウスならベッド数を増やすか単価を上げるかすればもっと収入は増やせる。そういう提案を、僕らからできるから。
誰でも「楽しくたくましく」生きられる世の中へ
ー空間デザインや古材販売、カフェと、いろいろなフィールドで仕事をしているおふたりですが、どんなときに喜びを感じますか?
華南子さん:リビセンのスタッフの子がのびのびし始めたな、と思ったときですね。私は就職活動をしていたときから「週5日の仕事を我慢してこなして、アフター5や週末だけ楽しむなんて効率悪すぎる!」と思ってきたから。ここでの時間が彼らの生活を豊かにしているような気がしたときは、すごくうれしいです。
唯史さん:僕は、いわゆる「ちゃんとした会社」や「ちゃんとした人」からリビセンを評価されて、一緒に何かやろうという話がきたとき。僕らの考えが少しずつでも世間に浸透してきている気がして、うれしいです。
今進んでいるプロジェクトの一つはある電鉄会社さんとの企画で、解体される駅舎の木材をレスキューしてスツールをつくるワークショップをします。それから、長野県内のスターバックスコーヒー全店に県産材の古材で僕らがつくった木箱を置いて古本を集めて、売上を寄付するプロジェクトも始まっています。期待された役割を担えるように、相手もリビセンをいい意味で利用できるように、僕らがブレずに存在することが大事だと思っています。
ーリビセンの活動はすごく社会的意義があるし、エコハウスリノベーションもこれからの住宅を変えていく予感がします。おふたりはどんな社会を目指していますか?
唯史さん:楽しくたくましく生きられる社会、かな。
華南子さん:そう。ポートランドの『ReBuilding Center』に行ったとき、80歳ぐらいのおばあちゃんが3mぐらいある古材をひょいっと売り場から持ってきて自分のトラックに積んで、「じゃあね!」って帰って行ったんです。スタッフはそれを見て「頑張って!」と声をかけるだけで、手伝わない。
おばあちゃんが「何かつくろう」と古材を買って帰る光景もすごく衝撃的だったし、私ならつい手伝いたくなってしまうけど、スタッフはおばあちゃんが自分でやる姿を応援するんですね。運んであげればそのときは楽かもしれないけど、家に着いたら結局は自分で降ろさないといけないでしょう。「ReBuilding Centerは自分でやることを応援する」という姿勢が感じられました。ああいうことがやりたい、と思ったんです。
私たちもお客さんにいろいろやってあげたくなるけれど、そうじゃなく「自分たちの力で何かできる」という心強さを誰もが持てる世の中、そういうものに貢献できたらいい。例えば「いい器を買いたい」と思っても、もし割れたらもったいない、と迷いますよね。けれど「自分で直せるから割れても大丈夫」と思えたら、本当にほしいと思うもの、価値があるものにお金を払えるようになっていく。リビセンが、そういうたくましさや心強さが芽生えるきっかけになれたらいいと思います。
東野 唯史さん・東野 華南子さんのお気に入り
靴職人の友人にオーダーしたとっておきの一足
ふたりの友人でもある山口市在住の靴職人、池間貴幸さんによる革靴。スニーカーとワークブーツの中間のようなシンプルなデザインはきちんとしたいときにも便利で、「おしゃれしたい休日に履きます」と華南子さん。イタリアの家族経営のタンナー(なめし工場)による植物タンニンなめしのヌメ革にこだわっていて、履き込むにつれ味わいも愛着も増していく。すべてフルオーダーで、注文してから1年待ちの人気ぶり。
『IKEMA』
味わい深い表情に惹かれて思わず購入
近頃はなかなかレスキュー現場に行けないというおふたり。レスキュー品は基本的に各担当スタッフに委ねているので、「たまに店内を見て回ると、素敵なものをたくさん見つけてしまってどれも欲しくなってしまうんです」。このランプはひと目で気に入り、入荷後しばらくは耐えていたもののついに購入してしまったそう。華南子さんのベッドサイドに置き、眠る前の読書に使っている。
植物素材のリングをお守りがわりに
植物や貝殻を使ったアクセサリー作家、川井有紗さんのリング。お守りをテーマにつくられていることもあり、華南子さんは仕事以外の外出時はいつもつけて力強さをもらっているそう。緻密に編まれたベースの上にアンティークビーズが縫い付けられている。2018年夏には、リビセンで川井さんと夫の似顔絵作家、笑達さんとの二人展を開催予定。
http://kawai-arisa.jp/