自己変容を楽しむことから始める、サステナブルな暮らし服部雄一郎さん・服部麻子さんインタビュー|住まいのヒント

Housing Tips
暮らし再発見マガジン のくらし by ReBITA
住まいのヒント

自己変容を楽しむことから始める、サステナブルな暮らし
服部雄一郎さん・服部麻子さんインタビュー<後編>

目 次
  1. 1どこに住んでいてもできる、サステナブルな買い物
  2. 2自然エネルギーの活用と間取りの工夫で、サステナブルな家づくり
  3. 3楽しい暮らしがあれば、エコアクションは取り入れやすい
  4. 4自分が望む暮らしを、自分から掴みにいく

自分にできることから無理なく楽しんで、環境に優しいアクションを学ぶ「エシカルのくらし」。今回のゲストは、サステナブルな暮らしに関する書籍の翻訳を手がけ、実際に様々なエコアクションを取り入れている服部雄一郎さんと麻子さんです。
お二人は高知県の山のふもとに、「本当にエコな家とはなにか」を考えながら建てた一軒家で暮らしています。後編は、住まいを拝見しながら家事や家づくりに関するアクション、サステナブルな暮らしを実践する姿勢について聞きました。

どこに住んでいてもできる、サステナブルな買い物

ーー高知で暮らしはじめてから、買い物のしかたで工夫していることはありますか?

服部雄一郎(以下雄一郎):最近は、使い捨てせずに長く使える商品が増えています。本当はローカルで簡潔に買い物をしたいのですが、近所には蜜蝋ラップなどのいわゆるエシカルなアイテムは売っていません。僕は環境配慮型の商品が増えることは大事だと思っているし、消費者が商品を求めてこそマーケットも拡大すると思うので、エシカルなアイテムを買いたい場合は都心部や海外から取り寄せることもあります。買い物に対する考え方は、ローカルの思想に全て従う必要はなくて、都市部の試みをレンタルするぐらいの気持ちで暮らしています。

ーーエシカルな買い物の第一歩として、日常で誰でもできるアクションがあれば教えてください。

服部麻子(以下麻子):買う「もの」ではなく、買う「場所」を変えてみるのはどうでしょうか。また、自然素材のものや応援したい企業のもの、意外と思いつきにくい「電力会社を変える」など、お金を渡す先を変えることで社会を良い方向に変化させることができると思います。

これまでとは違う選択をしてみることで見え方が変わって、今までの暮らしを見直すきっかけにだってなるかもしれません。たとえば、今の私は使い捨てのものを使うほうが負担を感じてしまいます。使い捨て容器に入っている食べ物を家に持ち帰り、洗って捨てることを考えるとどうしても気が重くなってしまう。でも、持ち込んだマイ容器に入れてくれるお店で買えば、ストレスはゼロ。ゴミを減らす目的のためではなく、自分の感覚に素直になってアクションを起こすと、「自分は本当はこうしたいんだな」とわかってきます。様々な選択肢があるので、まずは自分がやりたいこと、できることから選ぶといいのではないでしょうか。

雄一郎:選ぶことは本来誰にとっても楽しいはず。僕たちは都市部に住んでいた20代の頃から、好きな服やレストランを選ぶのと同じ感覚で、無農薬野菜を育てている農家さんから食材を買っていました。いいものを選べるのはシンプルにうれしい。楽しく選んできた延長線上に今があるので、「エコな選択」にも義務感はないんです。

ーーエコな買い物をしたいけれど、欲しいものが見つけられなかったり、予算オーバーで選べないこともあります。そんな時、お二人はどうしていますか?

雄一郎:「プラスチックフリーなものを選びたいのに、学校指定でプラスチック製のものを買わないといけない」といった相談がよくあります。僕もジレンマはありますが、学校の方針はすぐには変わらないし、そこは「自分の責任範疇ではない」と割り切ることも多いです。「できない」部分については、なるべくエネルギーを使いすぎないようにしていますね。

麻子:私は常にワンアクションはしたいと思っています。たとえば、卒業した子どもがいる友人に連絡して、「使わない絵の具セットがあったらゆずってくれない?」と聞いてみる。それで見つからなければわりにあっさり諦めますね。働き方や家族構成によって家族の思いは変わります。たとえば「妻はごみを減らしたいけれど夫はそうでもない」なら、ごみを減らすよりも家族の幸せをとるほうが大事かもしれないですし。選び方に正しさはないですから。

自然エネルギーの活用と間取りの工夫で、サステナブルな家づくり

ーー服部さんは、2021年に高知に新居を建てました。サステナブルの視点から、家づくりでやってよかったことはありますか?

麻子:断熱です。うちにある冷暖房設備は、今のところエアコン1台だけなんですが、冷暖房の効果を行き渡らせるために、ダイニングの天井にシーリングファンを取り付けました。住まいの断熱性が高ければ、快適さとエネルギー問題の両方が解決するんですよね。

麻子:あと、子ども部屋を小さくしたのも良かったです。この家は100年間暮らせることを視野に建てていますが、設計士さんから「100年の間に、子どもが子ども部屋を使う時間は10年ありません」と言われました。3人の子どもに3畳ずつの本当に小さな空間を作ったのですが、それが正解でした。実際に二人の子どもは寮に入ってしまったので、今子ども部屋は一人しか使っていません。

雄一郎:ほかには、リビングに子どもたちのものの置き場を作らないようにしました。置き場がないことで、子どもたちはリビングで荷物を散らかさず、自室に片づけることがベースとなったんです。家中を常にきれいに整理整頓するのは大変ですが、1Fのリビングだけは無理なく整えられるので、いつ来客があっても比較的迎え入れやすい住まいになったと感じています。

楽しい暮らしがあれば、エコアクションは取り入れやすい

ーー服部さんたちは、エコロジカルでありながらも効率的に家事をしている印象です。家事について、どんなことを心がけていますか?

雄一郎:自分たちが負担に感じることは、できるだけ省くようにしています。たとえば、20代の頃はスーツを持っていましたが、穴が開くと補修が難しいし、クリーニングに出すのも面倒なので持つのをやめました。常識に囚われず、自分たちの本当の必要性に応じて判断しています。また、現代は家の中に大量のものがあるので、それらをすべてプラスチックフリーに変えようとすると疲れてしまいます。プラスチックフリーな生活に近づく一番の近道は、そもそもの「ものの数」を減らすことです。

雄一郎:こういったことが軌道に乗ってくると、変化を楽しめるようになります。誰しも生活がマンネリ化するのは嫌なはず。変化というスパイスをみんな求めていますよね。僕たちの場合は、エコがスパイスになっている感もあります。

麻子:ただ、変化するのは大変な部分もありますし、何かを新しく始めるには手間もかかります。布おむつがエコだと言っても、暮らしに余裕がないと使うのは難しいかもしれません。選択肢はたくさんあるので、まずは自分にとって「簡単で楽しいこと」から選ぶのがおすすめです。

雄一郎:そうですね。ベースとして、日々の暮らしが楽しくなっていけばいいと思います。僕は、自分で作ったシンプルなおやつが美味しいし、拭き掃除をして家がきれいになるのがうれしいです。「楽しい暮らし」というベースがあれば、そこに一つエコなアクションを付け加えるのは、案外簡単かもしれません。

自分が望む暮らしを、自分から掴みにいく

ーー日本はごみの焼却割合が高く、リサイクル率が低いという現状があります。服部さんがやっている暮らし方と社会の現実にギャップを感じたりはしませんか?

雄一郎:僕は、むしろギャップがおもしろいと感じる部分もあります。以前は葉山町の役場でごみ担当だったので、一般的な家庭ごみ排出量の計算をしたことがあるのですが、計算上では、わが家のごみは大して努力もしないのに70分の1まで簡単に減ったんです。なかなか変わらない社会にフラストレーションを感じる部分もありますが、逆に「個人の変化でこんなにごみが減らせる余地がある」というのは、ポジティブなギャップとも言えますよね。

麻子:実際に起きていることをデータで見ると、環境問題は非常に厳しい状況です。けれど、環境問題は一人で背負える問題ではないし、私一人がどんなに大きなことをやったとしても、そのまますべてが解決することはありません。一方で、環境問題や人権問題などの社会活動をしている人はたくさんいて、その人たちの活動を目にすることで希望を感じています。環境破壊のスピードに追いつくかどうかわかりませんが、落ち込みながら生きるよりも、各々が持っている前向きな興味や才能を活かすほうが、社会的なインパクトは大きいはずです。

ーー環境問題に対する考え方は、人によって温度差があります。周りを巻き込みながらエコなアクションを起こすには、どうしたらいいと思いますか?

麻子:その人にふさわしいエコアクションかどうかは、心地いいかどうかで決まるような気がします。自分がやっていて気分が良くないなら、そのアクションはたぶん、単純に「合っていない」か「無理している」んです。

麻子:私たちは、環境負荷をできるだけかけないことをやりたいし、それは良いことだと思っています。だから、エコな意識が広まったらいいと思うし、お伝えすることも好きです。一方で、社会問題は環境破壊だけではありません。環境は気にしないけれど別の社会課題には興味がある人もいますね。どこに着目するかはその人の興味と才能なので、トータルで多くの人が「良い社会になったらいいな」と、それぞれ別の方向から考えてアクションを起こせばいいと思っています。

雄一郎:自分の意思で他人は変えられません。変えられるのは自分だけなので、まずは自分が変わることです。いわゆるカリスマ性みたいなものがなくても、自分という存在は常に周りに何らかの影響を与えています。まずは、自分が望みたい自分にシフトすることからスタートする。自分が望む暮らしの方向に進んでいくこと、この積み重ねが、結局はめぐりめぐって良い社会をつくっていくのだと思います。

>>前編はこちら

related SERVICE
関連のサービス
EVENT & NEWS
イベント&ニュース

ReBITA SERVICE
リビタのサービス

▲ 自己変容を楽しむことから始める、サステナブルな暮らし服部雄一郎さん・服部麻子さんインタビュー|住まいのヒント