「小さな幸せ」は、花のある暮らしから
花の命を最後まで愛でる暮らしのアイデア集
さまざまな専門家に話を聞いて、「リノベーション」や「住まい選びのコツ」を身につけていくための「学ぶシリーズ」。前回に引き続き、お話してくれたのはフラワーサイクリスト®︎の河島春佳さんです。後半では、花が枯れた後もドライフラワーや加工品として活用し、最後まで無駄なく楽しむためのアイデアをお聞きしました。河島さんが実践している買いものの考え方や日々の暮らし方を通して、無理なく取り入れられる持続可能なライフスタイルのヒントを学んでいきましょう。
生花を楽しんだ後は、ドライフラワーで住まいを彩る
前回は、生花を暮らしに取り入れて心身を整える方法をご紹介しました。今回は、花がもっとも美しい瞬間を過ぎた後に目を向けてみましょう。ドライフラワーなど、花の新たな楽しみ方を通じて、暮らしを彩るアイデアをお伝えしていきます。
枝が短かったり花が小さいなどの理由で規格外になって出荷できない花や、市場や生花店で売れ残った花、結婚式やイベントで使った後の花などを「ロスフラワー®︎」と名付けています。私たちはロスフラワー®︎を買い取って、ドライフラワーやアクセサリーにしたり、空間装飾に活用したり、企業とのコラボレーションを通じて製品化したりと、花をアップサイクルする活動を展開しています。
住まいを彩る花についても、どれだけ無駄にせず長く楽しむかを考えています。生花を楽しんで、枯れたらそのまま捨てるのではなく、ドライフラワーにしたり、花の力を活かしたアイテムに生まれ変わらせることで、花を最後まで大切にしてほしいと思っています。まずは、ドライフラワーにするコツからお伝えいたします。
ドライフラワーにしやすい花としては、ドライになっても茶色くなりにくいスターチスやかすみ草、カーネーションがあります。花をめいいっぱい楽しむために、「ドライにしやすい花」という視点で生花を買うのも一案ですね。バラやこれから春に向けて出てくる芍薬などは、朽ちてからドライにしようとすると花びらが落ちやすいので、なるべく鮮度のいいうちにドライにすると良いです。あと、ドライになっても香りが残る花もおすすめです。花として香りが良いのはスイートピーやユリ、バラなどがあります。
ドライにする方法ですが、花を束ねて輪ゴムで留めて、S字フックでカーテンレールやピクチャーレールなどに逆さまに吊るしてください。高温多湿を避けて、風通しが良く直射日光の当たらない場所がベストです。夏で2週間前後、冬は1週間程度でドライフラワーになります。
ドライフラワーができたら、家の中でも陽の入りにくい日陰に飾ると長持ちします。直射日光に当たると褪色しやすくなるし、高温多湿の場所に置くと朽ちるのが早まります。私は、廊下やトイレの壁にボリュームのあるドライフラワーをバサっと吊り下げて飾るのが好きです。
ドライフラワーをきれいに楽しめる期間はだいたい1年ほどです。でも、うちではミナヅキアジサイやスモークツリーを3年くらい飾っていますね。少しずつ褪色していくのですが、私は、アンティークカラーに変化したドライフラワーの独特な雰囲気が好きなんです。そんなドライフラワーに、素焼きで土の質感が感じられる器を組み合わせて、乾燥した風合いを楽しんでいます。ドライフラワーをインテリアとして捉え、花器や周囲の家具と素材感を統一して空間全体で調和をとるのも素敵だと思います。
花の香りと自然の美しさを活かす方法
ここまでドライフラワーをそのままインテリアとして活用する方法をご紹介してきましたが、ここからは趣向を変えたドライフラワーの楽しみ方をお伝えしていきます。
まずは、香りを楽しむ方法から。ドライフラワーの花びらを集めてボトルに入れると、ディフューザーとして楽しめます。球状に咲く千日紅はボトルに入れた佇まいが可愛いですね。また、花びらを布の袋に詰めれば簡単にサシェが作れます。どちらもそのままでは香りが弱い場合があるので、好きな精油を数滴垂らして香りを足してあげましょう。
RINでは、ショップカードにマスキングテープで花びらを留めて、花を購入されたお客様にお渡ししています。家庭で使うなら手紙に花びらを貼ったり、おもたせの中に入れておくのもおすすめです。ちょっとした工夫が喜ばれますよ。
あとは、押し花にしてフォトフレームに入れて、ポスターのように飾るのもインテリアとして素敵です。ドライフラワーをキャンドルに閉じ込めたボタニカルキャンドルも種類が増えてきました。自分でボタニカルキャンドルを作るのはハードルが高いと思うので、好きな作家を見つけて応援する気持ちで購入するのもいいのではないでしょうか。また、オーガニックのカモミールが手に入れば、ドライにした花を茶漉しに入れてお湯を注ぐだけで、ハーブティーとして楽しめます。
暮らしに花を添える人は「小さな幸せ」を知っている
ここまでご紹介してきたように、花はきれいに咲いている時期を過ぎても、様々なかたちで暮らしを彩ってくれます。私は人間の都合で花を捨てるのではなく、どんな花も大切にする文化を定着させたいと思っています。最終的には「ロスフラワー®︎」という言葉をなくしたい。そのためには、花の販売先を増やすことが必要だと思っています。例えば、コンビニのレジ横に生花を置いたり、駅構内の土産物店の中に生花店があってもいいかもしれません。
ロンドンでは駅周辺に2〜3軒の花屋があって、手土産に花束を贈る習慣が根付いています。一方で、日本では花を贈る文化があまり広がっていません。その理由を考えると、家での過ごし方に違いがあることが分かります。日照時間の短い国は日が暮れてからの時間が長いので、家の中での過ごし方が洗練されていったと思うんです。花を活けたり、キャンドルを灯したりして、家で過ごす時間を大切にするんですね。対して、日本は外出して楽しむ場所が多く、家の中の過ごし方はまだ成熟していない部分があると思います。これから少しずつでもいいので、人間の暮らしには植物が必需品で、暮らしに取り入れることで「小さな幸せ」が感じられる文化が広まってくれると嬉しいですね。
花のある暮らしが日本で根付かないもう一つの理由は、価値と価格のギャップにあります。最近は燃料費が高騰して生花の価格も上がっており、花の価値が十分に理解されないまま「高いから」といって敬遠されている部分があると感じます。一方で、フランスやドイツでは買い物は投票という意識が根付いていて、どのように生産されたものにお金を使うか、自分が払ったお金がどのように使われるかを考えながら買い物をしている印象があります。特に自分や家族、大切な人など周りの小さなコミュニティが幸せであることを大切にしていて、そこにお金を使うという価値観があります。
対照的に、東京は生産性を高めて、とにかく売り続けることで経済的な豊かさを追求することが軸になっているなと感じます。でも、このまま効率性を追求して経済的な豊かさを求め続けても、どこかできっと限界がきてしまいます。最近は少しずつ日本でも暮らしを見つめ直す人が増えてきていると感じます。そして、自分の幸せのかたちを見つけるのが上手な人ほど、花を暮らしに取り入れるのが上手だなと思うんです。花で空間を彩って心身を整えることが、自分自身だけでなく周りの人の幸せにつながることを知っているんですね。多くの人に、花を取り入れた暮らしが心の安らぎをもたらすと知ってもらうことで、小さな幸せの循環を作るきっかけにしてほしいです。
まとめ
「生花は心の栄養の必需品、ドライフラワーはインテリアに最適なアイテム」という河島さんの言葉が印象に残っています。花を飾る行為を通じて自分の内面に目を向ける時間は、忙しい毎日の中で忘れがちな心の余裕を取り戻す大切なひとときになるのではないでしょうか。
今回の取材では、「花の命」を通して、自分の周りから「小さな幸せの循環」を作るヒントも学ぶことができました。ぜひ皆さんの暮らしの中でも取り入れてみてください。