植物で心身を癒す
生花を取り入れた暮らしのすすめ
さまざまな専門家に話を聞いて、「リノベーション」や「住まい選びのコツ」を身につけていくための「学ぶシリーズ」。今回お話を伺ったのは、フラワーサイクリスト®︎の河島春佳さん。「フラワーサイクリスト®︎」とは河島さんが作った造語で、Flower+Upcyclingを組み合わせたもの。河島さんは規格外や結婚式場等で役目を終えて廃棄予定の花を「ロスフラワー®︎」と名付けて、空間装飾や企業とのコラボアイテムに活用されています。ここでは、花の命のサイクルを意識しながら生花を暮らしに取り入れて、心と体を整える方法について学んでいきましょう。
日本には、生花を楽しむ感性が根付いている
生花は、私たちにとって暮らしの中の必需品だと思っています。体の栄養を食べ物から摂るとしたら、心の栄養は生花からもらえます。例えば、コロナ禍でロックダウンした時のパリでは市民が食材と花を買い集めました。結果として、花屋の花が売り切れるという現象が起きたんです。ヨーロッパの人たちにとって、家に生花があるのは当たり前で、生花がある暮らしのほうが精神的に満たされるということを直感的に理解しているのだと思います。
日本では、生花を日常的に暮らしに取り入れる習慣はあまりありませんが、「花の命を長く楽しみたい」「捨てるのはもったいない」という思いが根付いていると思うんです。私は、あらゆるものに神が宿っているという八百万の神の概念が日本人独特の感性として潜在的にあると思っていて、生花を長く楽しむ意識は日本人に合っていると感じるんですよね。ですから、生花をもっと身近に感じて癒されたり、楽しんだりする人が増えるといいなと思っています。ここからは、生花を気軽に暮らしの中へ取り入れる方法を紹介していきます。
空き瓶やグラスを花瓶に代用して、自分らしい空間に
花を飾る場所はどこでも、家の中の自分が好きな場所に置いてください。いつも使うテーブル、好きなコスメを置いている鏡の前、窓際など、目に触れる時間が長い場所ほど生花に癒されると思います。
例えばテーブルに生花を置くなら、対面で人と会話をしたり食事をする場所なので、低くて安定感のある花瓶を選びます。花瓶がない方はコスメなどの空き瓶をとっておくと便利。そこにウンベラータやアイビーなど観葉植物を剪定した後の葉っぱを活けるだけでも十分です。アイビーは伸びて根が出てくるので、成長する様子も楽しめます。お客さんをおもてなしするテーブルであれば、グラスにチューリップやアネモネを一輪さしておくのも良いでしょう。
ワインボトルは一輪挿しにも代用できます。一輪で咲いて可愛いのは、ガーベラやダリア、ケイトウなど存在感があるもの。今回はケイトウとスプレーバラを合わせてみました。
香水や化粧品の空き瓶など安定感のある瓶は、ドレッサーや寝室の照明の下に置くなんてどうでしょうか。今回はスプレーストックを入れていますが、ユーカリ、ハイブリッドスターチス、スイートピーなど2〜3種類の花を組み合わせても可愛いと思います。
私は洗面室にも生花を置いています。毎日使う場所なので顔を洗うたびに生花が目に入るし、洗顔のついでに水を入れ替えられるので良いですよ。
これから春先にかけておすすめの花に、ミモザがあります。ミモザだけをざっくりと活けるのも可愛いですし、真っ白なチューリップとユーカリを合わせて黄色・白・緑の爽やかな色合いにすると、家の中に春らしい景色が広がると思うので、ぜひやってみてください。
「時には直感で」花の形と色の組み合わせ方
花の組み合わせを迷う方もいるかもしれませんが、花屋で買うときはお任せするのではなく、ぜひ自分で選んでほしいです。「花を選ぶ楽しさを体験してもらいたい」という花屋は多いと思いますよ。正解・不正解のあるものではないので、考えすぎずに直感で自由に選んでみてください。人それぞれですが、お祝いごとでないかぎり私は花言葉は気にしません。どんな植物も等しく愛でたいので、花言葉に縛られず取り入れています。ここからは組み合わせの参考として、花の形と色についてお話しますね。
例えば、カップ咲きのチューリップと、放射状に花びらを広げるアネモネのように、咲き方の異なる花々をいくつか組み合わせるだけで洗練された雰囲気になります。色は同系色でまとめてもいいし、あえて白と黒、赤と緑のように反対色の組み合わせを楽しむのも良いでしょう。もちろん、好きな色を自由に組み合わせても楽しいと思います。先日、息子に花を選んでもらったのですが、「ピンクがママで黄色が僕」と言いながら、ピンクと黄色の蘭とバラを選んでいました。大人ではなかなか選ばない強烈な色と花の組み合わせでしたが、新たな発想の楽しさを教えてもらった気がします。
左脳的に「どうやったらよく見えるか」と考えるのもいいですが、ぜひ、直感で選ぶことも大切にしてみてください。右脳的なセンスとかアートや自然物を美しいと感じる感性は誰もが持っていると思うのですが、日常生活ではそれを活かす機会があまりありません。花を選ぶという行為は、その右脳的でアーティスティックな一面を引き出してくれるきっかけになると思います。
生花を長く楽しむために、お家でできること
花を買ってまずやることは、清潔な水に入れてあげること。バケツのような大きな容器があれば、その中で茎の先端を切って水揚げをしてください。水揚げとは、生花が水を吸収しやすいように茎の中の空気を出したり、傷んだ部分を取り除くことです。
切り口は、茎の繊維が潰れないようにスパッと切ってあげるといいです。花鋏があればベストですが、なければカッターやハサミでも。切り方は、花の種類によって変わります。例えば、アネモネは水が大好きで斜めに切ると水を吸いすぎて一気に咲いて命が短くなってしまうので、まっすぐ切ることをお勧めします。同様にガーベラも真っすぐに、バラやカーネーションは斜めに切るといいでしょう。ミモザなどの枝物は、十字に割ってから活ける方法があります。水揚げは花によって様々なので「迷ったら斜めにスパッと切る」と覚えておいてください。日々の咲き方を観察していくと、花によってベストな切り口がつかめてくると思います。
水換えは毎日、できれば花瓶も洗うようにしてください。そうすることでバクテリアの発生を防ぐことができるんです。ちなみに水は入れすぎに注意です。ガーベラのような宿根草は2〜3cmぐらいの水で十分、元気がなさそうなら少し多めに水を入れると、水圧で水を吸ってくれます。
最初の一歩はここから。
長持ちする花・育てやすい植物を紹介
今まで生花を暮らしに取り入れてこなかった方は、最初の一歩が難しいかもしれません。でもまずは直感で好きだと思った花を持ち帰ってみてください。先ほどお話ししたように、花瓶に代用できる器はいろいろあるので、花の咲いた状態を長く楽しめるトルコ桔梗やランのバンダ、アルストロメリアなどを活けることから始めるのはどうでしょう。
枝物はきちんと手入れをすれば新芽が出てくるので、1ヶ月以上楽しめることも。今回はアセビを合わせましたが、花瓶の1.5〜2倍の長さで枝を入れるのがポイントです。
鉢物であれば、パキラやポトフ、ガジュマルは初めての方でも暮らしに取り入れやすいです。ある程度の日当たりがあれば育ってくれますよ。コウモリランは水が大好きなので、しっかり水をあげられる環境であれば枯れることはないでしょう。
最近では、生花を定期的に届けるサブスクリプションサービスも増えてきていますよね。RINでも、産地直送や廃棄予定の花をアップサイクルしたブーケを届けるサービスを展開しているのですが、季節ごとの花を楽しめるので、暮らしに気軽に花を取り入れる方法としておすすめです。
私は、毎朝植物に水をあげるのを日課にしています。水を入れ替えて花を眺めるだけで癒されて、幸せホルモンといわれる「オキシトシン」が分泌されるような気がするんですね。家事や仕事で忙しいと、朝起きてすぐにスイッチオンしてしまいがちですが、家族が起きる前の数分でも自分と花だけの静かな時間を持つと、心に余裕が生まれてゆっくり深呼吸ができると思います。生花を取り入れた暮らしは心の栄養になるし、視覚や嗅覚を通じて五感に働きかけることで、豊かな気持ちにしてくれるはずです。
まとめ
植物のライフサイクルを考えると、花が咲く瞬間は植物がもっとも輝く特別な時間です。暮らしの中に生花を取り入れることで、いつもの空間が華やぎ、植物が持つエネルギーを身近に感じ取ることができます。河島さんのように生花から自然の癒しをもらいながら、心身を満たす暮らし方を実践してみてください。