田中苑子さんインタビュー
Ciftが提案する新しいつながりの形
拡張家族という実験的な試み
株式会社Zebras and Companyにて、「社会性と経済性の両立」「相利共生」等を大切にするゼブラ企業の支援や、その概念自体の普及に従事。人や自然の共生のあり方に関心があり、その一つの思考実験として、2023年よりCiftに参画。月の半分をCift、残り半分は地域や自然の中で過ごしている。
「家族」とは何か――血縁や同居といった伝統的な概念として長く受け継がれていく中で、「拡張家族」という新しい提案をするCift。この社会実験的な取り組みは、家族の再定義を通じて、現代社会の課題と向き合っています。今回はCiftの参加者であり、「拡張家族」の実践者でもある田中さんにインタビューし、Ciftでの生活やその考え方についてお話を伺いました。
現代社会における家族の再定義
ー「拡張家族」とは何を指すのでしょうか?
「拡張家族」は、血縁や婚姻関係に縛られず、価値観や目標を共有する仲間が集まることで形成される新しい家族の形です。単に同じ場所で暮らすだけではなく、お互いの存在を大切にし、必要なときには支え合う関係性を築きます。家族というと、一緒に住むことや頻繁に会うことを連想するかもしれませんが、Ciftでは必ずしもそれに限られません。思いやりや信頼をベースにした柔軟な関係性が重要なんです。
「家族」という言葉には温かさやつながりのイメージがありますが、その定義は人それぞれです。
Ciftでは、家族に対する固定観念を捨て、メンバー同士で新しい形を模索しています。
ーなぜこのような取り組みを行っているのでしょうか?
現代社会では、孤立や孤独感が大きな問題になっています。一人暮らしや核家族化が進む中、家族という存在が昔ほど身近ではなくなっていますよね。それでも、人間はつながりを必要としているなと感じていて、Ciftは、そんな家族という形を再定義し、血縁や同居に頼らずとも人間関係を深められることを証明する実験的な取り組みをしているのだと思います。
それと、個々の価値観や自由を尊重しながらも、思いやりを持ち合うことで、孤立感を解消できる仕組みが必要だと感じています。Ciftの考え方は、今の社会に欠けている「つながり」を再び見つけるためのヒントになるのではないでしょうか。
拡張家族の日常生活
ー日常生活はどのような暮らしなのでしょうか?
自立しながらも他者と助け合うバランスが取れていると思います。各自が自由に暮らすことが尊重されている一方で、必要なときには手を差し伸べ合える環境があります。例えば、熱で寝込んでいる時にさっと差し入れを持ってきてもらったり、部屋を長期不在にするメンバーがいたら部屋の植物に水をやりに行ったり、不在時の宅配物を受け取り合ったり。気楽に助けを求めあえる人たちが身の回りにいるのは精神的な安心感も高いと感じますね。
共用部には広いコモンキッチンがあるので、タイミングのあったメンバー達で一緒にご飯を作ったり、友人を招いてホームパーティを開いたり、みんなで食卓を囲む機会もほど良い頻度であります。一緒の時間を過ごすことで自然と仲が深まり、信頼関係が生まれる仕組みになっていると思います。
ー小さなお子様と住んでいる方はいらっしゃいますか?
はい、その子どもたちにとっては非常に特別な環境になっていると思います。普通の家庭では両親以外の大人と接する機会が少ないですが、Ciftでは多様な価値観を持つ大人たちが関わってくれるので、子どもたちの選択肢や学べることの幅が広がっていると思います。それぞれの大人が持つ知識や経験を自然と吸収できる環境は、核家族にはない魅力だと思います。
より豊かになった生活の変化
ーCiftでの生活を通じて、価値観は変わりましたか?
Ciftに入る前は、プライバシーや個人のスペースを優先する意識が今よりもより強かったと思います。でも、Ciftで他者と生活を共有する中で、自分にとって「本当に大切なもの」が何かを考えるようになったんです。自分が何を優先し、何を譲れるのかを再認識した感じです。自分1人の考えに固執せず、他者の価値観を尊重することで、生活がより豊かになることを実感しましたね。
ーキャリアにも影響はありましたか?
ここにいるメンバーは、クリエイターや経営者が多いのも関連してか、仕事を通じて社会に対して何かしらの自分なりのメッセージを発信したり、表現アプローチをしている人がとても多いです。ここで暮らす中で、私自身も自分なりの表現を社会へ提起できる仕事をしようという思いが強くなり、自分の価値観に近い「ゼブラ企業」を広めたり支援する仕事を始めました。
Ciftで暮らした時間があったからこそ、自信を持ってそのキャリア選択を踏み出せたんだと思います。
ー日常生活では何か発見はありましたか?
毎日の生活の中で、自分のこだわりが意外なところにあるなって気づくことも多いです。例えば、水回りの清潔さには結構こだわりがあったんですよ。自分ではあんまり意識してなかったんですけど、他の人と一緒に暮らしてみて気づきました。逆に、インテリアとかには無頓着だったりして、そこは他の人にお任せしたり。
他のメンバーのこだわりを知ると、『へぇ、そういう視点もあるんだ』って感心することも多いです。自分にない考え方に触れるのって、すごく新鮮で面白いんですよ。そうやって、ちょっとした違いから学び合えるのが、この生活のいいところだと思います。
ー人とのつながりの変化はありましたか?
Ciftでは、完全に依存し合うような関係じゃなくて、お互い自立しながら必要なときには助け合う関係が作られています。このバランスがちょうど良くて。信頼して頼れるけど、相手に依存するわけではない。そういう距離感が自然とできるんですよね。
それに、普段の生活の中ではなかなか話せないような事柄や未来についての話ができるのも、Ciftの魅力だと思います。社会に対して自分なりの視点を持っている人が多いので、家族や友達ともまたちょっと違う角度の話がさらっとできるんです。そういう話をしていると、『もっと自分も頑張ろう』って思えたり、新しいアイデアが浮かんだりするんですよ。
今後の展望について
ー社会全体にどのような影響を与えると考えますか?
現代社会における「つながり」の概念を再考するきっかけを提供しているのだと思います。これまでの家族や共同体の形は、血縁や同居に依存していることが多かったですが、Ciftはそれらを超えた柔軟な関係性を提案しています。人々が「家族」や「共同生活」という言葉に対して持っている固定観念を壊し、新しい価値観を社会に示していく。それは、単にCiftの中だけにとどまるものではなく、社会全体への影響力を持つと思います。
例えば、Ciftでの生活を経験した人々が、その理念や価値観を持ち帰り、自分たちのコミュニティや職場で活用していくことで、拡張家族の考え方が少しずつ広がっていくのではないでしょうか。
ー今後についてはどう考えていますか?
Ciftは、「拡張家族」という概念に対して固定の解(≒ゴール)を見出そうとしていません。固定された形にとどまるのではなく、参加するメンバーや社会の状況に応じて、生き物のようにその在り方を常に変化し続けていくと思います。
あえていうのであれば、メンバーそれぞれの社会実験を深化させるためのホームベースのような環境であれたら面白いなと思います。社会に対して自分なりの問いや仮説を持ったメンバーが集い、互いに影響を受け合いながらそれぞれの思考を深めたり実際のアクションを行い、世の中に還元していく。それが、程よい安心感のあるホームの中で、かつ「暮らし」という極めて日常的な環境の延長でナチュラルに接続されていく。安心できる環境があるからこそ社会に対しても前向きなアプローチができる、そんなバランスの良い循環を生み出していきたいですね。
あとがき
インタビューを通して感じたのは、Ciftが単なるシェアハウスや共同生活の場ではなく、家族や個人、そして社会との新たなつながりを築くための試みであるということです。「拡張家族」という理念のもと、参加者は多様性を認め合い、専門的な話題や未来について自由に語り合える関係を育んでいます。これは、家族や同僚といった従来の枠組みでは得られない新しい交流の場を提供しています。支え合い、学び合いながら個人の成長を目指し、その成果を社会全体に還元するというこの取り組みには、人々がより自由で深い関係性を築くためのヒントが詰まっています。Ciftのような新しいつながりの形は、現代社会における次なる選択肢となるのではないでしょうか。