第1回 これからの本屋めぐり「Cat’s Meow Books」
1980年生まれ。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。2012年、東京・下北沢にビールが飲めて毎日イベントを開催する本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。著書に『本の逆襲』(朝日出版社/2013)、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版/2009)、共著に『本の未来を探す旅ソウル』(朝日出版社/2017)がある。
「BUKATSUDO」にて「これからの本屋講座」を主宰。
猫専門書店、として2017年8月にオープンした「Cat’s Meow Books」。
店長、店員は猫。本の売り上げの一部を保護猫の活動団体に寄付するほか、店内で提供するコーヒーも保護猫シェルターを運営する一般社団法人から仕入れるなど、本を読むことで猫をより好きになり、購入も保護猫のためになる、というコンセプトの本屋です。なんと、それだけでなく店主の安村さん(人間)のご自宅は二階という、自宅兼店舗の本屋でもあります。そんな安村さんに、本屋と暮らしについて、お話を伺いました。
本屋をやるなら(本×◯◯)の掛け算
内沼さん 安村さんは「これからの本屋講座」という僕がやっている講座に来てくださったのがきっかけで、そこでのアイデアが実際に「Cat’s Meow Books」になったわけですが……。改めて聞くんですが、どうして本屋をやろうと思ったんですか。
安村さん 内沼さんに騙されたからです(笑)。
内沼さん 人聞きの悪い(笑)。講座に来てくれた時点で、本屋をやることには興味があったんですよね。
安村さん 最初のきっかけはビブリオバトル(参加者がそれぞれ本を紹介して、読みたくなった本(=チャンプ本)を投票で決定する書評ゲーム)です。ビブリオバトルにはまって、いろいろな所に参加しているうちにイベントの会場でもあった赤坂にある「双子のライオン堂」という本屋に通うようになりました。そこでビブリオバトル以外にも「本屋入門」という講座を開催していたんですね。その講座で世の中の本屋の事情や業界のことを初めて知ったんです。そのあとBUKATSUDOでも内沼さんの「これからの本屋講座」が開催されていることを知って、通い始めました。最初のきっかけからここまで一本に繋がっていて、出会いも運命だなと思いますね。
内沼さん 最初に本屋講座で「Cat’s Meow Books」の原型となるアイデアをプレゼンしてくださったとき、本当に自分がそういう店を開業する、と思っていましたか。
安村さん そこまで本気じゃなかった、と言っていたんですが、実際はそうじゃなかったかもと思い直しています。その時期はいろんな本屋さんのトークイベントに積極的に参加していて、自分だったらどういう本屋をやるか、ずっとシミュレーションしていたんです。でも講座で本だけを売っていても経営が難しいことも知っていて。内沼さんが「本屋をやるなら(本×◯◯)の掛け算」ということもおっしゃっていたので、自分でやるなら「猫」かな、と。そういう想像まではしていたんですね。それを講座でプレゼンしたら、内沼さんにもすごく背中を押していただいて。クラウドファンディングでたくさんの共感を得るはずだ、というアドバイスもいただいて、だんだん具体的になっていった形です。
接点としての猫、という気持ちです。
内沼さん オープンしてから、この3ヶ月はどうですか。
安村さん オープン当初は、話題が先にあったこともあって猫だけ触りにくる人や、ドリンクの注文だけの人が多かったんですが、いまはお客さんの数は落ち着いた代わりに、本を買ってくださる方が増えましたね。最初は新刊ゾーンと猫+古本ゾーンを完全に分けていたんですが、猫もいたずらしないことがわかってきたので、猫+古本ゾーンに新刊も置くようにしました。そうしたら、猫とドリンクで滞在されていた方が新刊を買ってくださることも増えて。
内沼さん 品揃えは猫の本、といっても幅広いですよね。一見タイトルだけじゃ猫がどこにいるかわからない本も多い。
安村さん 読みやすいビジュアル本やエッセイが平台には多いんですが、固い読み物ももっと売っていきたいんですよね。
内沼さん 棚を見れば、本当はこの辺が売りたいんだな、とわかります。けれど、安村さんが今まで読んできた本は、必ずしも猫の本ばかりじゃないですよね。
安村さん 本当に趣味だけの本だと一般的には全然売れない本屋になっていたと思いますし、「猫」という良いテーマを与えてもらったという感覚です。選書の接点としての猫、という気持ちですね。
本屋の生活は楽しいですか?
内沼さん 生活はどう変わりましたか? 安村さんは平日昼間は会社員。その間は奥様が店番をしていて、会社から帰ってきたら店頭に立って、終わったら店の二階の自分の家に帰る、というライフスタイルですよね。
安村さん 自宅兼店舗なので、生活の仕事と店の境目は薄いです。店を閉めたあとでも、一階で生活することが多いですね。ただ、生活サイクルが一定になりました。引っ越す前は、休みの日は昼まで寝ている時もあったんですが、いまは店員猫が最優先なので(笑)。この子たちが起き出して「ごはんー」と鳴くので、毎日同じ時間にちゃんと起きるし、店のリズムに合わせて同じ時間に寝るようになりました。
内沼さん やってみて、本屋という仕事は楽しいですか。
安村さん 楽しいですね。続けるためにまず自分が飽きないように、というのは一番腐心しているんですが、予想外のことも多いです。ただの本屋だったらともかく猫のいる本屋ですから、猫だけ見に来るお客さんもいらっしゃるんですね。本屋としては残念でもあるんですが、だからこそ不意に1冊本を買って帰っていただけるとすごく嬉しいです。
内沼さん 僕が焚きつけた面があることは間違いないので、ひとまず、楽しくないと言われなくてよかったです(笑)。またお話し聞かせてください。今日はありがとうございました。
【「Cat’s Meow Books」安村さんオススメの一冊】
「建築知識特別編集 猫のための家づくり」 (エクスナレッジ刊行)
この家は「猫と暮らす家」としてフルリノベーションしました。そこで、これから猫と暮らすには、と思っている方も”猫と暮らす家”として見学目的で来られることもあります。そういう方にもこの本はオススメです。
(店舗情報)
店名: Cat’s Meow Books (キャッツ・ミャウ・ブックス)
住所: 154-0023 東京都世田谷区若林1-6-15
営業時間: 14:00〜22:00(火曜定休)
本記事は、ブック・コーディネーター内沼晋太郎さんが主宰するBUKATSUDOの人気講座「これからの本屋講座」受講生の手がける、全国のユニークな本屋を巡るコラムです。