心地いい暮らしかたを実感。 『縁側で花火と麦酒』イベントレポート
夏のよく晴れた気持ちのいい夕方、『吉祥寺南町の家』には多くの人が集まっていました。この日は、筒井時正玩具花火製造所による線香花火づくりのワークショップと、清州橋醸造場のクラフトビールを飲むことができるちょっと特別なイベントの日。
住まいに興味がある人や、子どもと一緒にワークショップにやってきた家族、ビールを楽しみにきたカップルなど多様な人たちが集まったイベントは、終始和気あいあいとした雰囲気でした。今回は、奥の深い線香花火の世界に浸りながら、実際に使ってみてわかったサンルーム(縁側)の居心地の良さと、縁側庭のある暮らしを楽しむアイディアをレポートします。
“縁側”の特等席で、無心になって花火づくり
広いリビングルームに、キッチン・お風呂などの水まわりと階段室を“カポッと”はめ込んだような回遊性のある間取りが特徴の吉祥寺南町の家。今回のイベントは、このリビングルームとそこに併設された、増築によりできたサンルームを使って行いました。庭から入ってくる風が吹くサンルームは、昔の一戸建てにある縁側に屋根がついたような気持ちの良い特等席。
最初に、筒井時正玩具花火製造所の筒井さんご夫妻から線香花火の作り方をレクチャーしてもらいました。
和紙に火薬を入れて捻っていくシンプルな作業ですが、これがとっても難しい! 筒井さんがやると簡単そうなのに、いざやってみると捻っていく間に和紙が浮いたり、持ち手が斜めになったり……、各テーブルで個性豊かな線香花火ができあがっていきます。
線香花火は全て手づくりであること、現在日本に流通している線香花火の99.9%が海外で手づくりされていることなど、今まで何気なく楽しんでいた線香花火にまつわる話を聞きながら、ワークショップが進みます。筒井時正玩具花火製造所の職人さんは、1日に400〜500本の線香花火を作ると聞いて、参加者の皆さんはびっくり! 根気のいる作業を延々と繰り返して花火を作ってくれる職人さんに、頭が下がります。
夕方からスタートしたワークショップ。花火づくりに夢中になるうちにだんだん陽が暮れてきて、夜の気配がサンルームを包みます。今回は、サンルームにテーブルと椅子を並べて作業場として使いましたが、12人が座って作業できる広さがあるので、実際にここで暮らしたら食事をしたりテレビを見たりと家族が集まるメインの場所にもできそうです。もちろん、椅子を置かずに縁側のように庭に足を投げ出して座っても気持ちいい。花火づくりが終わった参加者たちは、縁側にぺたんと座って、庭の木のあいだから入ってくる夜風を楽しんでいました。
サンルームの窓は天井まである大きなものなので、刻々と移り変わる太陽の光が直接感じられます。部屋の中にいながら、屋外の気持ち良さも感じられるこの場所は、まさに住まいの外側と内側を繋ぐ縁側。昔の家の縁側は、干物を作ったり漬物の準備をしたりする第2の台所であり、ご近所さんとお茶をする応接間でもあったりと多目的に使う場所として機能していましたが、このサンルームも同じような役割を果たしてくれそうです。
暮らしの自由度を高めてくれる、余白の場所
花火づくりが終わったところで、物件の担当者と設計者の納谷建築設計事務所の納谷学さんから、この住まいの特徴が紹介されました。
「昭和56年に建てられた木造2階建ての一戸建てをリノベーションした『吉祥寺南町の家』は、233平米の敷地と、1・2階合わせた建物面積が129平米という広さが特徴の一つです。元の状態でも暮らすのに十分な部屋数と広さが確保されていたので、縁側スペースを追加して、室内と外の中間領域を楽しめる住まいにしました。
庭をメインに住まいのことを考える家族は、サンルームを通してリビングまで植物が進出してもいい、リビングを広く使いたい家族であれば、サンルームをリビングの一部として使ってもいい。家族が暮らしかたを自由に選べるように、余白を残した設計をしています」
特別な初夏の夜に、ビールと自作花火を楽しむ
夜の帳が下りたころ、参加者に清州橋醸造場のオリジナル『清澄アンバー』が振舞われました。ビール酵母を殺さず、ろ過をしないことでコクと深みを出しているのが特徴のビールは、すっきりした飲みくちと爽やかな味でとっても美味しい! 今回は、リビタと共同でイベントを企画した白金台のコンセプトショップ『雨晴』で取扱っている『fresco』の美しいグラスでいただきます。線香花火づくりに没頭した後のビールが最高で、この日一番の特別な時間が流れます。
ここで、線香花火のワークショップを担当した筒井時正玩具花火製造所の筒井ご夫妻が、花火に関するお話を聞かせてくれました。
「昭和4年に開業した筒井時正玩具花火製造所は、現在、福岡県みやま市で線香花火をはじめ様々な種類の花火製造をしています。花火製造は火薬を扱うため、電化製品が使えません。工場には電気やクーラーが無く、晴れた日の昼間だけ作業をして、暗くなったらやめるんです。
線香花火の原形は、300年間かたちが変わっていないと言われる『スボ手牡丹』という花火です。藁スボの先に火薬を付けた花火で、火花を上に向けて楽しみます。米作りが盛んだった関西地方は藁が豊富にあったため、このスボ手牡丹が線香花火として親しまれてきました」
いよいよ花火に点火。庭に出て、自分たちで作った線香花火を楽しんでいたら、ご近所さんが興味深そうに覗きこんでいきます。考えてみれば、都会では花火禁止の公園も多く、花火で遊べる場所が限られます。庭のある都会の住まいは、ご近所さんとのコミュニティの場になる可能性を秘めているのかもしれません。
花火のあと、参加者の皆さんに、“もし吉祥寺南町の家に暮らすなら、サンルームをどう使いたい?”と聞いてみると、「簡易テーブルと椅子を用意して、“縁側朝ごはん”を家族の習慣にする」「細長い庭を動線にして、縁側から入るお店やギャラリーを作る」「飼っている鳥を縁側で放し飼いにする」など、様々なアイディアが出ました。
「こんな使い方をしよう」と決めるのも良いですが、家族構成の変化や、家族の好みに合わせて柔軟に使いかたを決められる良さもあるのが、縁側という余白の空間。さて、皆さんならどんな使いかたをしますか?
■雨晴/AMAHARE
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■HOWS Renovation
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