SOL’S COFFEE代表 荒井利枝子さんインタビュー人と街をゆるやかにつなぐ自家焙煎コーヒーちょっと先、のくらし #02|シェアする暮らし

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SOL’S COFFEE代表 荒井利枝子さんインタビュー
人と街をゆるやかにつなぐ自家焙煎コーヒー
ちょっと先、のくらし #02

目 次
  1. 1コーヒーは飲めない、でもその世界が好き
  2. 2人生を変える一杯に出会う
  3. 3はじまりはキッチンカーのコーヒー屋さん
  4. 4お客さまの理想の1杯を提供するために
  5. 5混じり合うための心地よいつながり

のくらし副編集長 宮嶋が、多様な皆さまにちょっと先の未来をお聞きする「ちょっと先、のくらし」第二回。今回の対談相手は「毎日飲んでも体にやさしい」をコンセプトに、コーヒーのある暮らしを提案する〈SOL'S COFFEE〉代表の荒井利枝子さんです。コーヒー嫌いだった少女がおいしいコーヒーと出会い、魅了され、コーヒー屋さんをスタートするまで。荒井さんがこれまで経験してきたセレンディピティを通して、これからの街と人の繋がり方についてお話を聞いてみました。

コーヒーは飲めない、でもその世界が好き

宮嶋:〈SOL’S COFFEE〉さんは現在5店舗のロースタリーカフェやコーヒースタンドを経営されてますが、そのひとつがリビタの多機能交流型賃貸住宅〈Well-Blend板橋大山〉の2階にあります。つぎつぎと色んなことにチャレンジされている印象ですが、やはりコーヒーが大好きでこの業界に?

荒井さん(以下敬称略):…実は、もともとコーヒーが苦手だったんです。

宮嶋:えっ…。

荒井:でも、コーヒーをとりまく環境にはずっと憧れがありました。そのきっかけが、親戚の見舞いでオーストラリアを訪れた中学3年生のとき。日本以上にコーヒーカルチャーが根付いていて、「みんな健康のためにコーヒーを飲んでるんだよ」と聞いて、子供ながらに衝撃を受けました。

高校生になり、憧れていたコーヒーチェーン店ではまだ働くことができなくて、そのためになればと、まずは他のコーヒー屋さんで働いて経験を積むことに。

宮嶋:そのときもまだコーヒーは苦手だったんですか?

荒井:はい。コーヒーを飲めたらかっこいいな、いつか飲めるようになる日が来るのかな…と思ってはいましたけど。それよりも「いつものちょうだい」「今日こんなことがあって」のような常連さんとのやり取りがすごく楽しくて、「この世界が自分には合っているな」と感じていました。

大学に進学してからは、念願だったコーヒーチェーン店でアルバイトを開始。そこもすごく楽しかったですね。経営理念もしっかりしていて、スタッフのことも大切にしてくれていることがわかって。会社自体がとても好きでした。

人生を変える一杯に出会う

宮嶋:荒井さんにとって、コーヒー屋さんは居心地がよい環境だったのですね。2009年には卒業を迎えますが、その後の進路は決まっていたのでしょうか?

荒井:大学で建築を学んでいたので、当然その道を進むつもりでした。実家は葛飾区で町工場を営んでいて、私は下町の外れのほうで育ったんです。今は下町のよさがわかるんですが、当時は「ごちゃごちゃしてるな」と。だから建築を勉強して、街や世の中を変えるような仕事をしてみたかったんです。「お父さんが現場に出て、私が図面を描いたらみんな喜んでくれるかな」なんて、子供なりに密かに考えてみたり。父は「絶対継がせない」なんて言ってましたけど、母は応援してくれてました。

そんな風に過ごしていたときでした。友人のお父さんが趣味で研究していたコーヒーを飲ませてもらったんです。それを飲んで、生まれてはじめて「コーヒーがおいしい」と感じました。それだけじゃなくて、「このおいしさを伝える仕事をしたい」と純粋に思えて。それくらい感動的だったんです。

宮嶋:荒井さんの人生を変える、大きなできごとだったんですね。

荒井:はい。そこから豆の焙煎や、ドリップなどをひたすら研究しました。基本は友人のお父さんの手法を受け継いでいて、とくにハンドピックの重要性はそこから学びました。今でも焙煎前と焙煎後の2回、欠点豆や虫食い豆を人の手で丁寧に取り除いています。時間も手間もかかる作業ですが、そうすることでクリアでやさしい味のスペシャリティコーヒーになるんです。

こんな美味しいコーヒーがあることをたくさんの人に知ってもらいたいと思いました。

はじまりはキッチンカーのコーヒー屋さん

宮嶋:コーヒー屋さんをはじめるとき、最初にキッチンカーを選ばれたのはなぜでしょう。

荒井:どこに出店するかを考えても「この街だ」と確信を持てなくて。そこで「まずはキッチンカーでいろんな街に行ってみよう」と思ったんです。最初は中目黒の川沿いからはじまって、代官山や青山にも。どこも素敵な街なんですけど、お客さまからは「どこがスポンサーなの?」「どこ出身なの?」と聞かれることが多くて。「何かおかしいな。コーヒーがおいしい・おいしくないということで見られていないのかもしれない…」と感じるようになりました。

宮嶋:荒井さんのイメージするコーヒー屋さんとズレがあったんですね。

荒井:そうなんです。常連さんたちがふらりと来て「いつものコーヒーちょうだい」って言ってくれるのが、私が理想とするコーヒー屋さん。もともと持っていたイメージがふつふつと湧いてきて、キッチンカーではなく固定の店舗にしたいと思っていたときに、「江戸川区でテナント空いているよ。」と声をかけてくださる方がいました。まずは地に足をつけて、常連さんが通ってくれるようなお店をつくろう、と。

お店のコンセプトやレシピ、パッケージやWebサイトのデザインなどは自分たちで考え、お店の設計や施工は学生時代の同級生たちに協力してもらいました。全部自分たちでやるよりは、仲間に助けてもらった方がいいプロジェクトになりそうだと思ったからです。

お客さまの理想の1杯を提供するために

宮嶋:その後は、蔵前や福井県にも出店し、ひとつの企業として成長されていますね。店舗マネージャー兼焙煎師の中島さんも加わり、『お客さまの理想の1杯を提供する』というミッションが生まれています。そこにはどのような想いがあったのでしょうか。

荒井:それを決めたきっかけは、私自身が「朝に飲みたいコーヒーと、お昼に飲みたいコーヒーは違う」と感じていたからです。お客さまもきっと同じで、時間帯だけじゃなく一緒に食べる物や天気、健康状態で飲みたいコーヒーは違うはず。そんなひとりひとりの気分に寄り添ったコーヒーを提供したいな、と。『毎日飲んでもからだに優しいコーヒー』というコンセプトにもつながります。

ありがたいことにうちのお店は常連さんが多くて、なかには毎日来てくれる方も。だから、どのバリスタが淹れてもおいしいのは大前提です。それに加えて、毎日来ても飽きないし、お店にいるだけでなんだかたのしい!ということがコーヒー屋さんの深みになっていくんだと思います。

宮嶋:そんな空間を作るために、どのような努力をされていますか?

荒井:働いているバリスタたちを理解して、よい人間関係を築けるようにしています。それから「お店を任せているみんなに、どうやったら楽しく働いてもらえるか」をいつも考えて、少しづつですがその環境にできるように努めています。バリスタひとりひとりが個性を発揮しながらたのしく働けば、お客さまもそれを感じて、楽しんでくださいます。お互いによい相乗効果になっているのではないでしょうか。

混じり合うための心地よいつながり

宮嶋:今年3月には、リビタが運営する多機能交流型賃貸住宅〈Well-Blend板橋大山〉にご出店いただきました。今回「リビタと一緒にやってみよう」と思われたのは、どうしてでしょう。

荒井:リビタさんとは2013年のイベントではじめてご一緒させていただいたのですが、それからずっとリビタさんに好感を持っていたんです。私たちのようなお店を集めてイベントをやるなど、ユニークなアイデアでおもしろい取り組みをやられている印象。スタッフさんの対応もおだやか。そんなリビタさんと「もっと関係性を築きたい」と思ったのが、今回の出店のきっかけです。

宮嶋:ありがとうございます。『居場所が混ざり合う暮らし』のコンセプトではじめた〈Well-Blend板橋大山〉は、入居者同士や地域の方が交流できる場になればと考えています。しっかり話し込むのもいいし、挨拶程度でもいい。多様化する暮らしのなかで、ここにくれば自分の好きなつながり方ができる。そんなリビタが考えるつながり方、混ざり方を一緒につくれると思ったのが〈SOL’S COFFEE〉さんでした。

このお店を通して、これからどんなちょっと先の、未来を描いているのでしょうか?

荒井:新しい街に密着することで、また新しいご縁ができることを期待しています。今まで板橋エリアとは特別なご縁がなかったので、リビタさんにお声がけいただいて本当によかった。今までは目の前にいるお客さまだけを見ていたけれど、リビタさんと出会って「街に対して自分たちがどう向き合うべきか」を本気で考えるようになりました。たとえば福井のお店は過疎化した宿場町にありますが、コミュニティを作ることでまわりにもお店が増え、住む人も観光客も増えはじめました。そういう効果がコーヒー屋さんにはあるのかもしれない、と気がついたんです。

だから板橋でも、お祭りや地域の交流に参加するなどしてもっと街へ出ていきたいと思っています。簡単なことではないけれど、人や街とお店が直接つながることが大切なんじゃないかな、と。

宮嶋:お話を聞いていると、店名の由来(※)にもなっている「セレンディピティ」が荒井さんの人生には多いですね。
※「SOL’S」はSerendipity Of Lifeの頭文字

荒井:そうですね。私は人生計画を練るのが好きで、毎年更新しているのですが、それでもリーマンショックなど社会情勢に翻弄されてしまうことがあります。計画が大幅にくずれることもあるけれど、そのなかでも自分の本質をとらえ、人との出会いを大切にしてチャレンジしてきたから、今があるんです。

昔「主体性のある人にしかセレンディピティは訪れない」と言ってくれた人がいました。偶然の幸せは待っていてやってくるのではなく、行動した人にだけ訪れるもの。行動と言っても大げさなものではなく、たとえばコーヒー屋さんに行ったら隣の人と話がはずんで、なんだか心があたたかくなるような…。そんなささやかなできごとの積み重ねなんです。だから私自身もセレンディピティを大切にしたいし、お客さまにもそういう瞬間を楽しんでいただけたらうれしいです。

宮嶋:一昨年からは、お父さまの会社も受け継がれたそうですね。

荒井:はい。実はその会社で今、焙煎機を開発しています。日本はまだまだ自家焙煎のコーヒー屋さんが少なく、どうしても大手メーカー経由で豆を仕入れることになってしまいます。でももう少し選択肢があってもいいかな、と思うんです。こだわりの自家焙煎屋さんのマニュアル操作はもちろんのこと、セミオートな電気焙煎機を開発して、焙煎師がいないコーヒー屋さんやレストラン、パン屋さんなどでも、気軽においしい生豆を仕入れられるようにしたいと思いました。フェアトレードで農園の方々に正当な価格が支払われれば、労働環境の改善にもつながります。

世界に誇れるメイド・イン・ジャパンの焙煎機をつくることで、誰でもおいしい生豆を仕入れておいしいコーヒーを提供し、地域も国も超えてみんなが心地よくつながっていく。そんなちょっと先の未来を思い描いています。

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