「期待」と「当たり前」を手放す。
シェアハウス暮らしで腑に落ちた「異文化コミュニケーション」の楽しみ方
近年、多様化するライフスタイルや働き方に合わせて、一人暮らしや実家暮らし、友人やパートナーとのシェア生活など、住まいの選択肢が広がっています。特に、都心近郊のシェアハウスは、一軒家から元企業寮をリノベーションした大型物件など規模も特徴もさまざま。
シェアハウスと聞くと、一般的には「入居の初期費用や生活費が抑えられる」などの金銭面のメリットや、入居者同士の賑やかな交流の様子が思い浮かびますが、そこで過ごした時間が人生のターニングポイントになることもあるようです。
今回は、JR中央線豊田駅にあるシェアハウス「りえんと多摩平」での暮らしを通して、「いい意味で、自分と他者は別の生き物だということが腑に落ちました」と話す岡本悠さんにインタビューしました。
縄跳びのギネス世界記録保持者として活動し、また外資系企業という異文化環境で働く岡本さんの“コミュニケーションに対する価値観”は、どのように変化したのでしょうか?
見知らぬ土地で、10〜50代との共同生活がスタート
-岡本さんは、本業で機械系エンジニアの仕事をしながら、副業で“縄跳び名人”として活動されていると聞きました。
岡本悠(以下、岡本):はい、化学分析装置をつくる会社で機械系エンジニアとして働いています。例えば、水道水に重金属が多く含まれていたら困るじゃないですか。そういった物質の数値を正確に測れる機械をつくっていて、僕は「装置のどのあたりにボタンを配置するか」とか「ボタンにどういう機能を持たせるか」など、使う人のことを考えながらハード面の設計を担当しています。
そして、副業で縄跳びを仕事にしています。地域のお祭りなどでパフォーマンスしたり、小学校の授業で子どもたちに技を教えたり。あとは海外で買い付けた縄跳びを販売したり、競技ルールを制定する組織で活動したりしています。縄跳びをはじめたのは大学生1年生の頃ですが、あっという間にのめりこむようになって、現在はギネス世界記録を9個持っています。
-どちらの分野も、突き詰めて探究していらっしゃるのですね……!
岡本:そうですね、凝り性だと思います(笑)。「りえんと多摩平」を選んだのは、新卒入社後の配属先が東京・八王子エリアで、職場まで自転車で通える範囲内に住みたかったからです。そして、地元大阪からの上京ということもあり、知らない土地で職場や縄跳び以外のコミュニティが欲しくて。シェアハウス暮らしは、生活のなかで自然と人との出会いや交流が生まれるので、自分にぴったりだと思いました。
どうしても研究開発職とか、縄跳びというスポーツの世界って、専門的になるし関わる人も限られてくるので。年齢は10〜50代までと幅広く、職業は学生や会社員やフリーランス、そして着ぐるみ職人や美容師や放射線技師といった、多様な人たちと気軽に話せるシェアハウスの環境はありがたかったです。
いい意味で、他者への「期待」を手放せるようになった
-シェアハウス暮らしをしてみて、何かを「極める」だけではなく、「広げる」ような動きも生まれましたか?
岡本:情報や人脈の幅はもちろん、人付き合いに対する考え方の幅が広がったと思います。まずは何かを説明するときに、「対象になる人」や「求められている内容」をより意識できるようになりましたね。
学校とか会社とか、自分と似たような人たちとの関わりだと、共通言語があるぶん言いたいことを伝えやすいじゃないですか。でも、異なるバックグラウンドを持つシェアメイト同士だと、適切な言葉を選んだり、順序を組み立てたりする必要があると思うので。コミュニケーションの取り方を見直すきっかけになりました。
岡本:あとはいい意味で、自分と他者は別の生き物だということが腑に落ちましたね。僕は人間が好きで、興味を持ちやすいぶん、相手から思ったような反応が返ってこないとガッカリしやすいタイプだったんです。
シェアハウスに住みはじめた頃も同じで、例えば「会社を辞めたい」とすごく辛そうにしている人が居るとするじゃないですか。僕はそういうときに、自分なりに親身になって相談に乗ったり、改善策を考えてアドバイスしたりするんですけど……結果、同じ環境に身を置いて辛そうなままだったりするんですよね。
-社会人同士の集まりで、目にしがちな光景かもしれません。
岡本:さまざまな事情があるだろうし、僕が望んで相談に乗っているという自覚はありつつも、一生懸命伝えた言葉が届いていないことにショックを受けていました。でも、そういう経験を重ねるうちに「最初から答えはその人のなかで決まっているんだな」と身をもって実感できて。
きちんと境界線を引くようになってからは、相手の反応が気にならなくなりました。人ってそんなに簡単に変われるものじゃないし、僕だって同じなんだろうなと、客観視する癖がついたのかもしれません。
お互いに、違う「当たり前」を持ち寄っていることに気づいた
-確かに、適度な境界線を引けるようになると、心が楽になりそうです。
岡本:もちろん、僕がシェアメイトにガッカリされることもありましたよ。もともと団体行動が得意じゃないのと、学生時代に3年間海外で生活していたこともあり、単独行動が自分にとって当たり前になっていて。
あるとき、何人かで外食の約束をしていたのですが、たまたま近所のお店が休みで「遠くのお店まで行こうか」という話になったんです。「それなら距離もあるし、人数も多いから、僕は別行動でいいかな」と家に帰ろうとしたら、シェアメイトに「せっかくみんなで集まっているのに、どうして1人で帰っちゃうの?」と聞かれて。特に悪気は無かったのですが、そのときに協調性や調和を重んじる人も居るのだと気づきました。
-自分にとっての「普通」と、他者にとっての「普通」が違った。
岡本:はい。こうした感覚の違いを体感できてから、より生きやすくなりましたね。僕は学生時代はいわゆる「キレキャラ」で、特にスポーツに取り組んでいるときに感情がたかぶって怒ってしまうことが多くて。真剣すぎるあまり、チーム全体の雰囲気を悪くしたこともありました。でも、5年以上のシェアハウス暮らしを経て「人によって大切なものが違うんだ」と気づけてから、そんなに怒らなくなった気がします。
-シェアハウスでの気づきは、仕事面にも活かされましたか?
岡本:縄跳びの輸入販売の仕事をしているときなど、海外の取引先からなかなか返事が返ってこなくても、焦らずに対応できるようになりました。「対応が遅くても仕方がない」とは思いつつも、以前の自分ならイラっとしていたはずなので(笑)、心にゆとりが生まれたのかもしれません。
「異文化コミュニケーション」をたのしみながら、暮らしのストーリーを創造する
-暮らしと仕事で相乗効果が生まれるのは素敵ですね。
岡本:「異文化コミュニケーション」をテーマにした自社の研修の内容にも、改めて納得できました。僕は外資系企業で働いているので、さまざまな国籍の社員同士がお互いを理解し合えるように、コミュニケーションのコツや心得などを学ぶ機会があって。
そのときに教わったのが「お国柄、こういう特徴があるよね」と分かりきっていることに対しては、例え価値観が違っていても、そこまで怒りの感情がわかないということです。それよりも、まだ言語化されていない、認識できていない違いに対して、人間は反応しやすいみたいで。
-想定外のことや、理由がよく分からないものってモヤモヤしますよね。
岡本:僕たちは、「自分にとっての当たり前」を侵されると、感情的になりやすいそうです。でも、そう考えてみると、国籍や人種の違いに限らないというか……同じ日本人でも、違う文化を持った者同士の関わり合いだと考えると、すべてが「私とあなた」の異文化コミュニケーションなんですよね。シェアハウス暮らしを経験したことで、そうした知識に体感がともなって、より深く理解できるようになりました。
-人間同士の関わり合いは、すべて異文化コミュニケーション。
岡本:そうですね。一つ屋根の下での共同生活は、たのしいことはもちろん、何かしら壁にぶつかることもあるかもしれませんが……でも、そのぶん思いがけないストーリーが詰まっていると思います。
岡本:僕、ストーリーがあるモノが好きなんですよ。例えば、まな板や汁椀を買うときに、どんな職人さんがつくっているのかとか、素材や製造工程にどんなこだわりがあるのかを知りたいタイプで。ストーリーがあったほうが愛着がわくし、心を込めてつくられたモノに囲まれていると、温かい気持ちになるじゃないですか。
そういう意味で、シェアハウス暮らしは「シェアメイトや地域の方々との交流から生まれるストーリー」に溢れているので、家やまちに対して愛着を持てたし、心が満たされました。就職という人生の区切りのタイミングから5年ちょっとの間、見知らぬ土地でも孤独を感じずに穏やかに過ごせたのは、「りえんと多摩平」という環境があったからだと思います。
「おかえりがある、ひとり暮らし。」をコンセプトにした、プライベートな時間が守れる個室と、コミュニティが広がる共用スペースをあわせ持つシェアハウス。
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