菅野有希⼦さんインタビューVol.7
ゴミを土へ還す「キエーロ」のある暮らし
テーブルコーディネーター/プロップスタイリスト
会社員を経て2016年に独立。雑誌・書籍・WEBメディア等で、食からインテリアまでライフスタイル提案のスタイリングを幅広く手がける。”暮らしを楽しむ”をテーマに、小規模な撮影ではフォトグラファーを兼ねることも。うつわ好きが高じ、公私にわたる知見を生かして食器ブランドの商品開発にも携わる。
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リノベーションした住まいで暮らすテーブルコーディネーターの菅野有希子さん。これまでのインタビューでは、器や食について普段から取り入れやすいエシカルな暮らしかたを語ってくれました。
今回は、菅野さんが暮らしに取り入れた生ゴミを土へ還す「キエーロ」の体験談を聞きました。「キエーロ」とは、黒土に存在する数億個の菌の力を利用して生ゴミを分解する装置のこと。手軽にできるエコロジーな食のリサイクル方法として、近年注目を集めています。
食べた後も、エシカルなアクションを起こしたい
ーー菅野さんが「キエーロ」に興味を持ったきっかけは何ですか?
環境について考えはじめた頃から、自分が出すゴミを減らしたいと思っていました。生ゴミを減らす方法として「コンポスト(※)」は知っていましたが、大掛かりでスペースを取るし土も増えていくので、マンション暮らしの私には難しいと諦めていました。
その後、キエーロを知ったんです。容器に入れた黒土で生ゴミを発酵させて分解するシンプルな仕組みで、名前の通り生ゴミが消えていくと聞いて。マンションのベランダで試してみようと思ったのがきっかけでした。
※コンポスト:家庭で出した生ゴミを家庭で堆肥にする食のリサイクル手法。庭の土を掘ってコンポスターを設置したり、密閉型コンポスターで生ゴミを発酵させるなど様々な方法がある。土が堆肥化するため、定期的な土の入れ替えが必要。
ーー菅野さんには「食卓のサステナブル」記事で、食べる前のエシカルな行動として、食べ物の選び方をお聞きしました。今回は、食べた後のアクションをされたのですね。
フードロスの話になってきますが、野菜の皮をきんぴらにして食べるか生ゴミにするかで、ゴミの総量が変わります。私が出した生ゴミを焼却処理する場合、ゴミの水分量が多いため焼却の熱効率が下がるそうです。これって、エシカルな行動とは言えないですよね。ですから、そもそも自分で出す生ゴミを減らしたいと思ったんです。
キエーロとうまく付き合う方法は?
ーーキエーロは、どうやって始めたのですか?
無印良品のケースに黒土を入れました。方法はいろいろあって、木箱を使う人もいるようです。私は、木箱の隙間から虫が入ってくるのが嫌だったのと、重くて扱いが難しくなりそうだったので、無印良品のケースを選びました。ケースの取っ手から虫が侵入するかもしれないので、にんにくのネットを再利用して取っ手部分を塞いでいます。どれも手頃な価格ですぐに手に入るものばかりなので、キエーロを始めるハードルは低かったです。
ーーキエーロに入れられるのは、どんな生ゴミですか?
あくまで私の経験でお話すると、調理の準備段階で出る野菜くずや食べ残しです。それぞれ分解する速度が違っていて、肉や魚の食べ残しは分解が早いです。分解に時間がかかるのは野菜や果物の皮、難しかったのは卵の殻やパンです。コーヒーかすも入れたのですが、土と同じ色なので分解されたのかわからなくて。もしかしたら、消臭に役立っていたかもしれません。
ーー生ゴミを入れる時に、注意したことはありますか?
やってみて気がついたのは、どんな生ゴミも細かく砕いて入れたほうがいいということです。キエーロ用にキッチンバサミを用意しておいて、調理後にキエーロに入れる生ゴミを刻みました。本当は一次発酵として、1日ぐらい刻んだ生ゴミを室内に置いておくと良いそうです。でも、私は生ゴミを家に置きっぱなしにするのがつらくて、すぐにキエーロに入れていました。
最初は乾燥した生ゴミを入れていたのですが、乾燥していると分解しにくいことに気がついて。その後は、深く土を掘って生ゴミを入れて、土がドロドロになるまで水を入れました。要は、土の中で生ゴミが腐ってほしいわけです。でも、ドロドロの土が表面にあると虫がわくかもしれないので、乾いた土を表面に被せていました。
ーー分解を早めるために、工夫していったのですね。
5月からキエーロを始めたのですが、2ヶ月ぐらいほとんど分解しなくて困りました。水の他に油を入れると分解が進むという情報を見て、揚げ物の残りの油も入れてみたりしました。油は何度も試していないので、実際に分解を早めたのかどうかわかりません。あと、土の中の酸素が多いと分解が進むそうなので、定期的にスコップで土をかき混ぜるようにしていました。
何よりも分解が進んだのは、気候の変化です。7月に入って暑くなったら、急に分解の速度が上がったんです。結局、外気温の上昇が一番効果的でしたね。
ーー最も分解が早い夏の場合、どのくらいで分解されるのですか?
1週間程度です。3ヶ月ほど経つとコツが掴めてきて、キエーロの中を4ブロックに分けて分解の進み方を確認できるようになりました。例えば、最初はキエーロの右上に生ゴミを入れて、二度目は左上に入れる。次に右下・左下と入れて1週間ぐらいで一巡すると、最初の右上のゴミが減っていることが確認できました。
ーー真夏でも、すぐに分解されてゴミが消えるものではないのですね。
そうですね。「生ゴミがすぐに消える」と思っていると、期待外れかもしれません。キエーロで生ゴミをどんどん減らすというより、キエーロがあると減らせる生ゴミがある、という感じです。分解が進まないからといって神経質にならず、「果物の皮は分解に時間がかかるんだなあ」ぐらいの気持ちで、気長に付き合っていくのがいいと思います。
「微生物にお任せ」を楽しむ暮らし
ーー菅野さんの暮らしは、キエーロを取り入れて変わりましたか?
今までは自分が出したゴミの捨て方は、ゴミ収集所に持っていく選択肢しかありませんでした。でも、キエーロがあることで、ゴミの捨て方にもう一つの選択肢が生まれました。
それに、食材を買う時や調理方法を工夫するようになりました。自分の適量を意識した買い物をして、料理中にキエーロに入れられるものは分別しておく。小さなことですが、自分の出すゴミが少なくなることで、環境を汚す罪悪感が減った気がします。
ーー逆に、キエーロを取り入れたデメリットは感じましたか?
物理的にベランダのスペースを取るのと、キエーロのケアをする手間がかかります。出張が多くて家にほとんどいない人などは、取り入れるのが難しいかもしれません。私は家にいることが多いし、土いじりの感覚でキエーロのケアをしていたので続けられました。
ーー日常で取り入れるエシカルなアクションは、それぞれのライフスタイルによって変えればいいですよね。
冷蔵庫を買う時に体験したのですが、最近の冷蔵庫は共働きで忙しい人のために冷凍機能が充実しています。固くならない、解凍しやすいなど冷凍の種類が多いんです。でも、私は生鮮食品が長持ちする機能が欲しくて、野菜室の性能を基準に選びました。今の冷蔵庫は数日間ラップをしなくても野菜の鮮度を保つので、使うラップの量が減らせます。
ーー新しいテクノロジーを使うことも大事ですね。
そうですね。最先端のテクノロジーを使いながら、キエーロのように微生物に任せるといった昔の人の知恵を取り入れるのが良いと思います。
ーーキエーロは人間の食べ残しを微生物がゆっくりと分解してくれる、穏やかな世界観が良いです。
買った切り花が少しずつ枯れていく様子を見ていると、東京のマンションでは命の巡りを感じる瞬間が少ないなと思います。キエーロを取り入れてからは、食べ残しの肉や野菜が腐って分解されて土に還っていく様子をダイレクトに体感できて、小さな命の循環を見ている気分になりました。この経験を暮らしの楽しみだと捉えられたら、豊かな気分が味わえると思います。