菅野有希⼦さんインタビューVol.3
おいしく⾷べて考える、食卓のサステナブル
会社員を経て2016年に独立。雑誌・書籍・WEBメディア等で、食からインテリアまでライフスタイル提案のスタイリングを幅広く手がける。”暮らしを楽しむ”をテーマに、小規模な撮影ではフォトフラファーを兼ねることも。うつわ好きが高じ、公私にわたる知見を生かして食器ブランドの商品開発にも携わる
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Instagram @yukiko130
リノベーションした住まいで暮らすテーブルコーディネーターの菅野有希子さん。2021年には、暮らしに取り入れ始めたという『エシカルのくらし』について語ってくれました。今回はその続編として、住まいにおける”食べる”シーンから考える地球にやさしい暮らしについて話を聞きました。
ー今回は菅野さんに「住まいにおける”食べる”シーンから出来る地球にやさしい暮らし」を伺ったところ、「どのように作るのか」「何を選ぶのか」「どう消費するのか」という3つの行動からアプローチするアイデアをいただきました。
食べ物は、買って食べる時も作って食べる時もそうですが、目の前にある食べ物しか見えていないことが多いと思います。自分が食べる物を、「どんな人が、どのように作っているのか」という部分までは、なかなか意識が向きません。しかし、フードロスに興味があるなら、フードロスが起きる現場だけに目を向けるよりも、食べ物の始まりから終わりまで流れ全体を通して知ることが大事だと思いました。今回は、食べ物にまつわる一連の動き……誰がどのように作り、何を選び、どのように消費するかというサイクルを、美味しいものを食べながら思いを馳せるきっかけが作れたら嬉しいです。
そこで、私たちの食卓に出てくるまでのストーリーで、サステナブルな取り組みをされている3つのブランドを紹介しながらお話ししていきたいと思います。
どのように作られた食べ物を選べばいいか?
ーまず「どのように作るのか?」食べ物の生産過程にも目を向けて、自分の納得感がある作り方をしたものを選べるといいなと思います。
私が環境問題について知りたいと思って調べていた時に、どの話題を見てもパタゴニアのサイトにいき着く時期がありました。パタゴニアは洋服だけでなく、パタゴニア プロビジョンズとして食べ物の分野でもエコロジーな取り組みをしていると知りました。パタゴニア プロビジョンズのビールは、耕起や農薬なしで成長し、一年生穀物よりも多くの炭素を大気中から吸収する多年生穀物の”カーンザ”を使用しているそうです。作物をつくる過程から環境に配慮しているという新しい観点で食べ物を見るきっかけとなった商品です。
店頭でスタッフが「地球を救うビールです!」と大声で宣伝していて、臆せずに「環境に良い」と話しているのがいいと思いました。実際に、ビールも美味しいんです。3種類展開していてそれぞれに個性のある味ですが、私はロング・ルート・IPAがお気に入りです。
ーパタゴニア プロビジョンズは、生産地の社会課題解決や食べ物を生産しながら土壌改善を目指すなど、生産過程を重視して作られた食べ物を取り扱っています。
ROチリ・マンゴーは、世界で初めてリジェネラティブ・オーガニック認証を取得しているそうです。最近、リジェネラティブ農法(※)が話題になっていて、私も興味がある分野です。環境問題のことを考えていくとマイナスなことが多くて憂鬱になりますが、リジェネラティブ農法はこれからの環境をプラスに持っていけるアクションの一つだと思います。何かを我慢する・削減するのではなく、環境に対してプラスに働きかける作り方の商品を食べていると思うと、とてもポジティブな気持ちになります。
※リジェネラティブ農法:日本語では環境再生型農業と呼ばれる。土壌を修復しながら自然環境の改善に寄与することを目指す農法。健康な土壌は地中に多くの炭素を吸収するため、リジェネラティブ農法の推進によって気候変動の抑制が期待される
ー工業化された農業(※)が、こんなにも環境負荷が高いなんて知りませんでした。
私も知りませんでした。単一品種で作ることに弊害があること自体知らなかったですし……でも、まずは知っていくことが大事です。知らなければ何も考えずに食べて、なんとなく地球環境に負荷をかけながら生きていくことになってしまいます。
※工業化された農業:広い面積で大量の作物を収穫するために単一品種で作られ、生産量を増やすために農薬が使われている。大規模農業によって排出されている温室効果ガスは、世界で排出されるガスの4分の1に相当すると言われている
”美味しい”にこだわりながら、食べる物を見直してみる
ー次に「何を選ぶのか?」ここでは、食べるものを選ぶうえで美味しいことはもちろん、体にも環境にも良いものを選べるといいなと思います。
私は2年ほど前から、プラントベース(植物由来の原材料を使った食品)の食事を増やしたいと思って、いろいろ試しています。コクや旨味を出す動物性素材を使わないプラントベースを作るのは難しいようですが、8ablish(エイタブリッシュ)のスイーツは、動物性素材・精製された白砂糖・保存料・化学調味料を使用していないのに、しっかり甘味があって満足感があるし、何より美味しいんです。8ablishはヴィーガンスイーツのお店としては老舗で、以前からランチやスイーツを食べに行っていました。プラントベースにトライしたい人にとっては入りやすいブランドだと思います。
ー菅野さんが、プラントベースを意識するようになったきっかけは?
はっきりとしたきっかけはありませんが、Netflixのドキュメンタリーをよく見ていました。ドキュメンタリーは映像として面白いし、内容が入ってきやすいです。最も影響を受けたのは『地球に暮らす生命』(デヴィッド・アッテンボロー、イギリス、2020年)です。Podcast『Emerald Practices』(TAO & LILLIAN、Apple Podcast、Spotify等)もよく聴きます。環境問題の話は専門用語が出てきて難しいことも多いですが、誰かが話していると理解しやすくなります。
ちょうどテーブルコーディネートの仕事でも、撮影現場で使っていたプラスティックのカップやカトラリーをやめることが増えて、この流れに取り残されてはいけないと感じていました。広告の撮影でビールを注ぐ人が女性ではなくなるなど、倫理的な見直しもあり、エシカルやサステナブルに関する情報を追っていたのもきっかけになりました。
商品の背景にあるサステナブルな取り組みに注目する
ー最後に「どう消費するのか?」販売されている商品だけでなく、その商品がどのように作物を消費しているのかまで目を向けてみたいです。
以前、恵比寿を歩いていたら可愛い外観のお店を見つけました。野菜ジュースの店と知って飲んでみたら、雑味のない自然な野菜の味がとても美味しかったんです。サンシャインジュースというブランドで、他にはスープもあるのですが、畑をそのままいただいているようなフレッシュな野菜の味が気に入りました。
サンシャインジュースは、スーパーで扱われない規格外の野菜を使っていること、ジュースの搾りかすを出汁や染料にしたり、発酵させて堆肥にもするなど、野菜を余すところなく使っているそうです。サステナブルな取り組みをしているブランドは増えていますが、どのくらい本気で取り組んでいるかは違いがあります。取り組みが少ないから悪いということはありませんが、やっぱり応援するなら徹底的に取り組んでいるブランドを応援したいです。
ー規格外の作物を活用する取り組みが増えているのを見ると、スーパーに並んでいるきれいな野菜に違和感が出てきます。
そもそも、野菜がそこまできれいである必要はあるのかなと感じます。根本的には、規格外かどうかの基準が変わっていかないといけないのだと思います。
私は『きほんのうつわ』というブランドに携わっていますが、器の製作過程でも釉薬の揺れがあったり、規格から外れた”B品”と呼ばれる器があります。壊れて使えないわけではない、独特の味がある「規格外品」であればお客様に届けたいという話をして、新作発表会で”一点ものの器”として販売したんです。個体差を個性と捉えて購入してくださるお客様がいて、規格外のものの魅力が伝わる人にきちんと届けばいいのだと感じました。
ー今後は、「どんな消費者になっていきたいか」を自分で考えることが必要そうです。
今回のブランド以外でも、いろんな取り組みをしている企業が多いです。取り組みを知ったら、身近な人たちへ共有することに加えて、「環境に配慮した作り方をしているから選んだ」と発信することが大事だと思います。よく”買って応援”と言いますが、今後は買って食べて、美味しかったらシェアしていこうと思っています。消費者でありつつ、自分も発信者になろうとする気持ちを持っておく。発信することで、生産者側にも声を届けることが出来るかもしれません。
また、食べ物を消費する時の意識だけでなく、自分が食べ物をどう扱うかも大事になってくると思います。その中でやってみたいことの一つはベジブロスです。自炊で出た野菜の皮などを取っておいて出汁にするんです。食べ物は毎日の暮らしに直結しているので、小さなことでも1年続けたら大きな取り組みになります。この小さな積み重ねを楽しく続けることが毎日の暮らしのエッセンスにもなるのではないかと思っています。