アートプロデューサー 高山健太郎さんインタビュー旅の視野を広げるアート鑑賞のすすめKUMU 金沢・MIROKU 奈良・KAIKA 東京|まちとのつながり

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アートプロデューサー 高山健太郎さんインタビュー
旅の視野を広げるアート鑑賞のすすめ
KUMU 金沢・MIROKU 奈良・KAIKA 東京

目 次
  1. 1館内アートで金沢の武家文化を感じる
  2. 2館内アートから奈良観光の視野を広げる
  3. 3これから「KAIKA 東京」で花開く才能がある
  4. 4カクレザトのコーヒーでひと休み
  5. 5『金沢民景』片手に、歴史と地続きの金沢を感じる
  6. 6香りと旨味のあるほうじ茶、『献上加賀棒茶』

「Sharing with locals」をコンセプトに、地域との共生をめざすライフスタイルホテル THE SHARE HOTELS。今回は「KUMU 金沢」「MIROKU 奈良」のアートキュレーション、「KAIKA 東京」のアートコーディネートを担当した高山健太郎さんに話を聞きました。

館内アートで金沢の武家文化を感じる

The Fall / 高本敦基

ー「KUMU 金沢」には13点のアート作品が置かれています。作品はどんなふうに選んだのですか?

どういうアートのコンセプトにするか、リビタさんとは事前に長く話をしました。話し合いの中で、”金沢の武家文化を汲み取る”というコンセプトが出てきました。ひと言に街・文化と言っても、人によって捉える部分が異なります。“金沢らしさ”を掘り下げる必要がありました。

金沢は江戸時代に武家文化が花開いた場所です。当時は加賀百万石と呼ばれる豊かな地域でした。加賀藩主を務めた前田家は徳川家との確執もありながら、先端的な技術を平和的なやり方で武家文化として継承していきました。いま金沢に残っている禅やお茶や工芸は、江戸時代から受け継がれてきたものです。海外や遠方から「KUMU 金沢」へ訪れた方に、アート作品の鑑賞を通して、“金沢らしさ”を汲み取れるような機会になればと思いました。

ー「KUMU 金沢」のキュレーションにおいて、印象に残っていることは?

禅を知るために鈴木大拙館の学芸員・猪谷聡さんと出会ったことです。鈴木大拙は日本の禅文化を欧米に広めた金沢市出身の仏教学者です。鈴木大拙館に行くと、猪谷さんはいつも丁寧にこちらの問いかけを受けてくださいました。たまに明確な回答をせず”問いかけをうむこと自体が回答への道筋”という姿勢をとられることもありました。このやりとり自体も禅を実践として伝えるためのものだったと思います。いま「KUMU 金沢」にある作品にも、猪谷さんとの出会いを通じて知り得た禅の要素を感じられるものがあります。猪谷さんとの対話は、「KUMU 金沢」のキュレーションにおいてとても大きな影響を受けました。

 

牛 / 華雪

ー「KUMU 金沢」にあるアート鑑賞のヒントを教えていただけますか。

2階の共用部とジュニアスイートルームには彫刻家の橋本雅也さんの鹿の角・骨からつくられた作品があります。生の象徴でもある花を、死の象徴でもある骨からつくり、生と死が矛盾なく同居しているような不思議な佇まいです。有名な豊臣秀吉と千利休のやりとりで、美しい朝顔が利休の屋敷に咲き乱れているという噂を秀吉が耳にし、秀吉が利休の屋敷へ訪れると、庭の朝顔は一株残らず引き抜かれていて、何もありません。茶室に入ると、床には見事な朝顔が一輪だけ入れてあり、秀吉も大いに感心したという話です。橋本雅也さんの作品は、ある意味で、連綿と続く生命のバトンという大きな現象を一輪の花に感じることができます。

ニホンスイセン / 橋本雅也

館内アートから奈良観光の視野を広げる

piano note / 澤井 玲衣子

ー「MIROKU 奈良」のアート作品は、どんなふうに決まっていったのですか?

MIROKU 奈良」のアートのコンセプトを決める過程で、”文化のるつぼ”というキーワードが出てきました。るつぼとは、様々なものが混ざり合って渦巻いている様子です。奈良は日本初の都がつくられた土地で、固有の文化が生まれつつ大陸からの文化も持ち込まれました。多種多様な文化や自然が混ざり合い、今もそれらが色濃く残っている土地です。「MIROKU 奈良」では、”相違なるものの融合”をコンセプトにアーティストへ作品を依頼しました。

ー「MIROKU 奈良」にあるアート鑑賞のヒントを教えていただけますか。

1階のカフェにあるARKOさんの作品は稲藁でつくられています。稲藁は稲を育てて、米を収穫した後にできるものです。これまで稲藁は編むことで姿を変え、しめ飾りや生活道具など暮らしの中で使われてきました。この作品は稲藁の1本1本が独立し、植物であったことを強く感じることができます。植物のもたらす恵みを活用して、自然と共生してきた私たちのルーツに触れられるような作品です。

万世不刊 Banseifukan / ARKO

地下1階には本堀雄二さんの『弥勒』という作品があります。日常生活のなかで使い終わった段ボールなどの素材から仏像をつくっています。捨てられてしまう紙から仏像がつくられることで、リサイクルやサステイナブルという現代的な解釈ではない、古くから伝わる輪廻転生という仏教の教えに興味を持つかもしれません。身近な素材が新たに生まれ変わった姿を目の当たりにすることで、誰でも生まれ変わることができることを表しているようにもみることができる作品です。

弥勒 MIROKU / 本堀 雄二

ー館内アートを鑑賞することで、旅の視野が広がるかもしれません。

旅の動機には、特別な体験をそこでしたい・普段はできない体験に出会いたいという思いがあると思います。「KUMU 金沢」や「MIROKU 奈良」の館内アートを鑑賞することで、その街の魅力や物語を直感的に感じとれるような体験を提供したいと思っています。アートを鑑賞するときに、友人や家族と話しながら鑑賞すると良いと思います。会話のなかで自分の気づかなかったことや、気づきが深まることがあると思います。館内アートの鑑賞で新しい自分に出会えるような、視界がひらけるきっかけになれば良いなと思います。

これから「KAIKA 東京」で花開く才能がある

ー高山さんは、「KAIKA 東京」で空間の使い方のアドバイスをされたと聞きました。

KAIKA 東京」は、元々は倉庫として使われていた建物のため、駅から遠く旅の滞在拠点として選ばれにくいという課題がありました。それで元倉庫という特性を活かして、アート作品を預かるような場所にできないかとリビタさんから相談を受けました。

都心でアート作品を扱うギャラリーさんは倉庫の課題を抱えています。例えば、作品を見たいというリクエストがあると数時間かけて比較的地価の安い郊外の倉庫へ作品を取りに行き、都内まで運んで、見てもらった後また倉庫に持ちかえるというものです。KAIKAとは、見せる倉庫を意味する開架式収蔵庫から名前がつけられていまして、見せる収蔵庫として使っていただける方をリビタさんにご紹介しました。

―「KAIKA 東京」では開館から2年がたちました。

倉庫が見つかり退去するギャラリーさんもいますが、また新たに借りたいという方も出てアートのエコシステムの中に組み込まれてきたと感じています。また大型作品の展示場所を探しているアーティストへ向けた2年に1度開催する「KAIKA TOKYO AWARD」の企画運営に携わっています。場所がなく倉庫に普段は眠ってしまうような大型作品を常時公開することで、発表機会の創出や新たな作品制作の場がうまれ、アーティストとしてのキャリアアップや才能を開花する機会になってきています。

ー予約が取れないほど人気の美術展もありますが、アート業界の抱えている課題はありますか? 

いまアートは人気があると思います。東京オリンピックの開会式・閉会式では多くのアーティストが参加し、アート作品の売買も盛んです。そういったアートの文化的価値や経済的価値に注目が集まっていると思います。他方で、アートの社会的価値に関してはあまり関心が集まっていません。予約が取れないほど人気の美術展もありますが、展覧会を支える人の就労環境に気をとめる方はあまりいないと思います。

私も今まで表現や鑑賞の機会をつくることに徹してきたのですが、コロナ禍で外出自粛が長引き、鑑賞の場や表現の場が閉じたことで、アート分野全体として、アートを支える人の働き方やキャリアップの課題があることを実感しました。

ー高山さんは、「KAIKA 東京」を会場にして『ART JOB FAIR』開催に向けたクラウドファンディングを実施しています。

KAIKA 東京」は、アートストレージという普段は表に出ない舞台裏に光をあてました。同じく舞台裏を支える担い手に光をあて、働き方やキャリアアップの課題解決の機会をつくりたいと考えています。コロナ禍以前から課題はあったのですが、より顕著になっていると感じています。

『ART JOB FAIR』は、アートの現場の働き方を紹介する展示や説明会、トークイベントを2日に渡って「KAIKA 東京」で開催します。コロナ禍でもデジタル化に伴う事業拡大や新しい領域へ事業転換を行うなど、活動の担い手となる人材不足に悩んでいる団体があります。アートの仕事でキャリアアップをしたい人がそういった団体とマッチングし、ここからアートプロデュースやコーディネートをしている人たちの才能が開花する機会になればと考えています。

◎『ART JOB FAIR』
『ART JOB FAIR』とは、「アートの働き方に光をあて、未来のアートの仕事を考える」というビジョンのもと、立場や経験の異なる多種多様な人たちが集う、日本初のアートに特化したジョブフェア。2023年1月、KAIKA 東京を会場として2日間の開催を計画中。

クラウドファンディング詳細はこちら。(※22年5月末募集終了)
https://readyfor.jp/projects/artjobfair

高山健太郎さんの金沢のお気に入り

カクレザトのコーヒーでひと休み

金沢21世紀美術館から歩いて5分の『kakurezato coffee』は、コーヒーやパイが美味しくて、近くに行ったら必ず行くお店です。オーナーの京村亮太さん・棚田麻友美さんはコーヒーやスパイスに詳しく、行くたびにいろんなことを教えてくれます。お二人とも工芸が好きで、新しく手に入れた器でコーヒーを淹れてくれる。いつもあたたかく迎えてくれるお気に入りのカフェです。

『金沢民景』片手に、歴史と地続きの金沢を感じる

『金沢民景』を片手に、街歩きをするのが好きです。金沢民景とは、建築家の山本周さんが企画したzineで、金沢市の風景を一つのテーマでまとめた小さな冊子です。たぬき・カーポート・バス待合所など、市民の目線から風景を切り取っていて、いつもと違う視点で街を楽しめます。
金沢はお城を中心につくられたコンパクトな街で、戦火から逃れたため古い建物や昔からの営みの痕跡が保たれています。時間があればタクシーやバスではなく、ぜひ歩いてみてください。大通りから1本入った道や、用水沿いの道を通れば、歴史や文化が地続きに今に続いていることが感じられます。

香りと旨味のあるほうじ茶、『献上加賀棒茶』

冬になると毎日飲むのが、石川県加賀市の丸八製茶場がつくる『献上加賀棒茶』です。高齢になってから特に焙じ茶を好んだ昭和天皇への献上品として、試行錯誤して生まれたお茶だそうです。一煎目は香りが良く、二煎目は味が強くなります。この焙じ茶を飲んで、仕事の合間にほっと一息をついています。軽くて持ち運びやすいので、お土産として仕事先や旅先に持っていきます。

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