シェアハウスの存在がまちの新陳代謝に繋がる?
「シェビア恵比寿」から考える恵比寿のまちづくりとは
「まちづくりとのくらし」では、これまでにリビタと関わった自治体や、まちづくりに携わる人々との対談や取材を通して、暮らしにまつわる可能性を様々な切り口から発信しています。
本シリーズの第四弾は、「恵比寿ガーデンプレイス」のすぐそばにあるシェアハウス「シェビア恵比寿」から考える「まちづくりとのくらし」です。
2013年2月にオープンした「シェビア恵比寿」は、サッポロ不動産開発株式会社の複合用途ビルの住宅部分(3階〜7階)をリノベーションした、全32室のシェア型賃貸住宅(シェアハウス)です。個室と共用ラウンジ、そして恵比寿を一望できる屋上があり、30〜40代の入居者さんを中心とした落ち着きのあるコミュニティも特徴です。
今回は、オープンから10周年を迎えた「シェビア恵比寿」のオーナーでもあるサッポロ不動産開発の担当者と、運営会社であるリビタの担当者が、恵比寿のまちづくりに対する思いや、まちとシェアハウスの関係性、今後の展望などについてお話しします。
プロフィール
松本 直也|サッポロ不動産開発株式会社 恵比寿事業本部 賃貸統括部 賃貸第1部
兼 経営企画部 REIT準備室 リーダー
埼玉県出身。大学卒業後、サッポロビール株式会社に入社。業務用営業として九州、首都圏を経験。当時担当していた外食企業のオーナーに新規出店に向けた物件提案をしている中で「不動産やまちづくり」に興味を持ち始める。ヱビスビールが誕生したまちであり、いち商品のブランド(ヱビス)が駅名やまちの名前となっているめずらしいまちである恵比寿のまちづくりが経験できるサッポロ不動産開発株式会社に2019年出向。
現在、恵比寿ガーデンプレイスタワーに入居する企業や同社が恵比寿に保有するレジデンス物件やオフィスビルを担当。恵比寿で住む人・働く人・訪れる人との直接のコミュニケーションや現場の声を大切にしており、同社が中長期的なまちづくりビジョンとして掲げている「居たいまち、NO.1を実現する」に向けて尽力中。
奥泉 吉功 |株式会社リビタ シェビア恵比寿コミュニケーションマネージャー
山形県出身。学生時代は水産学校で栽培漁業、マリンスポーツなど海の勉強をし、卒業と同時に上京してから25歳までの間、国内外のシェアハウスで生活しながら音楽活動とバックパッカーを経験。
国内外の複数シェアハウスに滞在した際に「人との出会いは非常に価値のあるものだ」と感じ、26歳から現在まで不動産業界でシェアハウスを中心とした「住まいにおける人対人のコミュニケーション」をモットーに価値ある不動産づくりを実践中。
サッポロ不動産開発が考える“居たくなるまち”づくり
松本:ご存知の方も多いかもしれませんが、サッポログループはこの地でヱビスビールの製造を開始しました。そこから、ビールを運ぶためのヱビス停留所という駅ができて、まちの名前が恵比寿になったんです。
ヱビスというまちの名前を冠するブランドがあり、エリアの代表的な複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」もそのブランドと一体となっている。こうした背景から、私たちはまち・ブランド・施設の三位一体で、恵比寿のまちづくりに取り組みたいと考えています。
奥泉:「恵比寿ガーデンプレイス」は、多くの人が思い浮かべるまちのシンボルですからね。商品名が駅名と地名、施設名にもなっているめずらしい事例ですよね。
松本:エリアの歴史を受け継ぎながら、住む人、働く人、訪れる人が“居たくなるまち”を目指しているところです。住んでみたいまちではなくて、住み続けたいまち。仕事や遊びで訪れた方々にも「恵比寿に居続けたい」と思ってもらえたら嬉しいですね。
奥泉:「恵比寿ガーデンプレイス」とその周辺にある企業のオフィスで毎年開催されている「恵比寿文化祭」にも、そのような想いが込められているのでしょうか。
松本:そうですね。2011年から、恵比寿ゆかりの企業や団体とコミュニケーションを取りながら、ステージや物販、展示やワークショップなどのコンテンツを企画しています。リビタさんも、毎年参加企業として盛り上げてくださってありがとうございます。
奥泉:例年、オフィスの1階を開放してワークショップを実施させていただいてますが、まちの大きなイベントに参加することができて嬉しいです。会社としても、地域に根差した活動ができている実感があります。
松本:恵比寿エリアにお住まいの方が、ご家族で遊びに来てくださることも多いですよね。今後は、少子化が進む社会環境を踏まえて、子育て世帯に魅力を感じていただけるようなまちづくりに取り組みたいとも考えています。
シェアハウスでの日常を通して、まちに愛着を持ってもらう
-そもそも、なぜシェアハウスをこの恵比寿の地で企画・運営しようと思われたのでしょうか?
松本:「シェビア恵比寿」が入っている建物は、もともと「恵比寿ガーデンプレイス」の開業に先んじて竣工した物件なんです。リノベーション対象区画をどのように活用すべきか社内で検討していて、ワンルームマンションや、各居室で音楽を楽しめる防音型マンション、SOHOへのリノベーションなどが候補に上がっていました。社宅や独身寮など、事業者へのアプローチも行っていたようです。
企画担当者からは「まちの魅力作りへの貢献、ライフスタイルの多様化を踏まえた商品設計、優良な住環境の提供といった観点を考慮した結果、シェアハウスに可能性を感じてチャレンジすることにした」と聞いています。開発当時は東日本大震災の発生から1・2年だったこともあり、人と人との繋がりや絆が見直されていたのかもしれませんね。
奥泉:挑戦するにあたって、リビタをパートナーとして選んでいただけたのは光栄です。
松本:数々の越えるべきハードルがありましたが、リビタさんをはじめ、設計事務所や施工会社など関係者のみなさまに助けていただき、素晴らしい物件に生まれ変わりました。10年前からいまに至るまで、企画を一緒に形にし続けてもらえて心強いです。
そして“「恵比寿ガーデンプレイス」にほど近いシェアハウス”に住んでいた日々が、入居者さんの心にいつまでも楽しい思い出として刻まれることを願いつつ、「シェビア恵比寿」での日常を通してまちに愛着を持っていただけたら嬉しいです。
「シェビア恵比寿」のオープン10周年を迎えて
奥泉:「シェビア恵比寿」のオープンから10年が経ちましたが、私たちもサッポロ不動産開発さんとだからこそできたことがたくさんあるなと感じています。シェアハウスの運営って、どうしても建物のなかだけで完結しがちですが、まちとの繋がりを考えながら「あんなことをやってみたいですね」と可能性を模索できてありがたいです。
松本:10年という歴史のなかで、双方の担当者は変わっていますが、リビタさんは一貫して入居者さんとの距離が近いですよね。コミュニティの作り方も上手ですし、みなさん担当物件のことを仕事の域を超えて好きなんだろうなと感じています。日頃から入居者の方々との関係を作ってくださっているので、我々もイベントなどに入っていきやすいです。
奥泉:入居者さんはあくまでもお客様なので、友だちのような距離感になるのも違いますし、バランス感覚が大事なのかなとは思いますね。シェアハウスにおいてコミュニティが付加価値であるのは間違いないので、コロナを経てこれからどんなコミュニティやイベントを企画・運営していくのか、社内でも深堀りしているところです。
基本的には、新しく入ってきた方をお迎えするウェルカムパーティーや、入居者さんのご提案を形にするイベント、そして他社さんと協業してのワークショップなどを実施しています。誰もが参加できて、ポジティブな繋がりを生むことができるような内容を意識しています。
松本:今年の春に、「シェビア恵比寿」の7階の共用ラウンジをメインにバリューアップ工事をしましたが、個人的にはそのプロジェクトも運営のターニングポイントだったと感じています。各社からリニューアルに関するご提案をいただきましたが、リビタさんのご提案には交流しやすい導線設計や、1人でも寛げるような空間デザインが盛り込まれていて、改めてシェアハウスの企画・運営に対する想いが伝わってきました。
松本:入居者の方々の生活環境を崩さない範囲内で、無事に工事が完了して安心しました。リモートワークが日常化した現在、「シェビア恵比寿」でも仕事というオンの部分と、コミュニティというオフの部分の比率をどう調整するかがポイントでしたよね。仕事があっての暮らしですし、交流があってこそのシェアハウスだとも思うので、今回その点を上手く両立できてよかったです。
奥泉:そう言っていただけて嬉しいです。
松本:私たちは立場上もあり、恵比寿にお住まいの方の声を直接聞ける機会が少ないんです。データをもとにまちづくりをしても、本当にそれで喜んでいただけるのかというと、やはり違うんですよね。リビタさんを介して、入居者さんの率直なご意見を伺うことができていますし、今後はイベントなどでみなさんと顔を合わせる機会をより増やしていきたいと考えています。
時代の変化を捉えながら、シェアハウスをアップデートする
ー今後の「シェビア恵比寿」の展望についてはどのようにお考えですか?
松本:まちづくりは、人の流動性も含めて新陳代謝を生み出すことが鍵になります。「シェビア恵比寿」の入居者さんがシェアハウスを卒業された後も、繋がりを保つことができたら素敵ですね。恵比寿のまちや、「恵比寿ガーデンプレイス」の将来像について一緒に語り合えるような関係でありたいです。
奥泉:先日開催した「シェビア恵比寿」の交流会でも、入居者の方々から「共用スペースをリニューアルしてもらえて嬉しい」「新しくなったキッチン家電を気に入っている」「近所に銭湯やジムを作ってほしい」などと声を掛けられていましたもんね。
今後はサッポロ不動産開発さんと、恵比寿のワンルームマンションやファミリー向けの物件を企画して、シェアハウスを卒業された方が戻ってきやすい場所を作っていけたら良いですね。
松本:ぜひお願いします。そして今後は、リビタさん企画のイベントに参加するだけでなく、我々からも発信していきたいです。年内に、弊社の社員が企画したスモールイベントを開催する予定なのですが、そういった機会にもみなさんをお誘いできたらなと。「恵比寿ガーデンプレイス」内に「サッポロ広場」という小さな農園があるのですが、そこで農作業や収穫体験をやるつもりです。
松本:「シェビア恵比寿」にお住まいの方はもちろん、「恵比寿ガーデンプレイス」内のレジデンスにお住まいの方や、ワーカーの方にも来ていただきたくて、準備を進めています。
奥泉:まちとシェアハウスの繋がりを感じられるイベントになりそうですね。
松本:コロナを経て様々なことが変化したように、10年後のワークスタイルやライフスタイルも、当然いまとは全く異なる状況になるだろうと考えています。需要の変化を敏感に捉えつつも、「シェビア恵比寿」らしさを大切にしながら、時代に合った暮らしをリビタさんと一緒に実現していきたいです。
おわりに
これまで縁が無かったエリアのよさを、暮らしを通して肌で感じること。そして、ライフスタイルが変化してもそのまちに“居続けたい”と思うこと。そんなふうに、シェアハウスの存在はまちの新陳代謝を生み出すためのきっかけになるのではないでしょうか。
「思い出すだけで笑みがこぼれてしまう、シェアハウス暮らしの日々」を実感してもらえるように、今後もコミュニティを軸にした場づくりへのチャレンジが大切になりそうです。