「ハワイ」「プロレス」「ロック」を詰め込んだ“世界で一番やさしい本屋”-第2回 これからの本屋めぐり「Pono books & time」
1980年生まれ。numabooks代表。ブック・コーディネイター、クリエイティブ・ディレクター。2012年、東京・下北沢にビールが飲めて毎日イベントを開催する本屋「B&B」を博報堂ケトルと協業で開業。著書に『本の逆襲』(朝日出版社/2013)、『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版/2009)、共著に『本の未来を探す旅ソウル』(朝日出版社/2017)がある。
「BUKATSUDO」にて「これからの本屋講座」を主宰。
岩手県盛岡市にある「Pono books & time」は2017年3月11日にオープンした本屋です。「世界でいちばんやさしい本屋」をコンセプトに、中古本と新刊の両方を扱います。また、盛岡では数少ないコワーキングスペースでもあり、仕事と家の中間の場所として、手帳を開き静かに自分と向き合う時間として、誰かと出会う場として、たくさんのお客様に親しまれています。今回は、Ponoの始まりの場である「これからの本屋講座」を主宰するブック・ディレクター内沼晋太郎さんと、店主小山由香理さんのトークセッションの模様をお伝えします。
「本屋さんには、本屋さんと結婚しないとなれないんだよ」?
小山さん こういう対談は初めてでちょっと緊張していますが…今日お話しのお相手をしてくださる内沼さんとの出会いからお話ししたいとおもいます。えーと、横浜の「BUKATSUDO」 という場所で本屋の講座に参加したのがはじまりですよね?
内沼さん (舞台袖から)はい、そうですよね…というか、ぼく、そろそろ出ていかなくて大丈夫ですか(笑)?
小山さん はっ!失礼いたしました、NUMABOOKSの内沼さんです!
(会場内に拍手と笑い声)
内沼さん そう、出会ったきっかけ、ですよね。
小山さん twitterでたまたま目にした「これからの本屋講座」という文字に惹かれて、これは行くしかない!とおもって。それで横浜まで行ったのがはじまりです。
内沼さん そもそも、小山さんはいつごろから本屋になろうとおもっていたんですか?
小山さん 我が家は母親が幼稚園の先生をしていて、絵本がたくさんある家でした。それから本屋さんに憧れはじめて。あるとき母に「わたし、ほんやさんになりたい」と話したんです。そしたら母が「本屋さんと結婚しないと、なれないんだよ」って(笑)。それから、ああなれないんだ、とおもってしまって。「やりたいこと」より「やれること」を選んできました。
小学校のときの将来の夢には「アルバイト」って書いたほどです。
内沼さん つらい……。
小山さん 進路も「入りたい学校」ではなく「入れる学校」。そんな感じで大人になりました。自分の気持ちにがっちりとフタをしちゃったんですよね。それが、今の会社でコーチングの研修を受けることになって、他人に対するコミュニケーションを学びながら、自分自身とのコミュニケーションも深めていきました。その中で、押さえ込んでいた自分の夢を思い出したんです。
気持ちを表現することでスタートが切れた
内沼さん それから「これからの本屋講座」に参加するまでにはどのくらいの時間が?
小山さん 本屋になりたいという気持ちを思い出してから、1年くらいです。その間に各地の本屋さんを回ったりしていました。
内沼さん たしか…最初は…マウンテン?
小山さん そうなんですよ!覚えてくれてる(笑)。
内沼さん ちゃんと覚えてますよ(笑)。
小山さん 講座で「こんな本屋があったら」をそれぞれ作ってくる、という課題があって。プレゼンのときに、自信満々で「オーマウンテンブックスにします」って発表したんですよ。そしたら、内沼さんにかなりダメ出しされて(笑)。
内沼さん ダメ出ししましたっけ?! みなさんわかります? 「小山」だから「オーマウンテン」、なんですよ。
小山さん 妹からも「ダッサ……」と言われました。でもこの、名前を決めたことってすごくよかったと思っています。気持ちを表現することでスタートが切れたというか。
この場所は長年の通勤経路上にあったんです
内沼さん 準備の話をもう少し聞きたいです。講座で「青いカーペットにしたいんです」って小山さん、言ってましたよね。
小山さん そうです、でも内沼さんには「結構高いよ」って言われて(笑)。 本とカーペットの組み合わせが好きで実現させたかったんです。だから今の店のタイルカーペットを見つけた時は本当に嬉しかった。
内沼さん 講座に参加している途中で物件も見つかったんでしたよね。参加者は都内近郊の方が多かったから、盛岡の相場にみんな驚いて「安い!広い!やりなよ!」って。
小山さん そうでしたね、ちょっとけしかけられました。それに、ここは私にとっては長年の通勤経路で「いい感じの本屋さんできないかなあ」「誰かやらないかなあ」ってずっと思っていた場所でもあるんです。でも全然できる気配もないし、「だれもやる人がいないなら、自分がやるか」と。
内沼さん たしか、最初は会社をやめるか副業としてやるか、まだ迷っていましたよね。
小山さん はい、かなり迷いましたね。会社に報告したのはOPEN目前でした。上司に退職も覚悟した上で「今こういう本屋をやりたくて準備をしている。副業としてやりたいけれど、会社の規則として難しければ会社を辞めようと思っている」と伝えたんです。そしたら、一言「大丈夫じゃない?」って。「会社より、自分の人生の方が大事でしょ。就業時間以外を縛る規則はないし」ということで受け入れていただきました。その上司も今はお客様として来てくれていますよ。最近、副業解禁が話題ですが、かなりさきがけだと思います(笑)。
内沼さん いい上司ですねー。そしてそこからポンポンッと、早かった。あらためまして、1周年おめでとうございます!
小山さん わ、ありがとうございます!本当に濃い一年でした。
コンセプトは「ハワイ」と「プロレス」と「ロック」
内沼さん たしかコンセプトがハワイとプロレスと……?
小山さん ロックです。でも講座に参加している時はコンセプトがなかなか絞れなくて。曖昧な状態でOPENを迎えました。それから「わたしの好きってなんだろう?」って考えた時にさっきの3つがでてきて。
内沼さん 共通点は「愛」でしたっけ?
小山さん おしい! 「やさしさ」です(笑)。ハワイとプロレスとロック、この3つにわたしが感じる共通点は「やさしさ」だなあって。それでPonoのコンセプトを「世界で一番やさしい本屋」にすることに決めて、本屋+αにしたいって思って、時間貸しと組み合わせることにしました。盛岡にはコワーキングスペースってほとんどないので、自分が「あったらいいな」と思える場所にしたかった。
内沼さん 実際にやってみてどうですか?
小山さん お店に立っていて思うのは、自分のような普通の人に向けて「自分のやりたいことをやっていいんだよ」と伝わる場所でありたいということです。意識高い系だけが集うみたいなのにはしたくなかったんです。普通の人にこそ「あなたも、おもしろいことを考えているんでしょ?やろうよ!」と言いたい。
内沼さん それは実現してきてると感じますか?
小山さん 感じているんです……実は。
このお店に来て、新しいことを始めたよっていうお客様も多くて。ここで出会うことが、誰かの人生に少なからず影響をあたえられてということに、喜びを感じますね。
内沼さん books & time のうちtimeのほうなのかな、コミュニケーションや、チャレンジが育っていってる感じがしますね。
今、毎日楽しいですか? 会社にいって就業後に本屋って休む暇ないじゃないですか。体調とか大丈夫ですか?
小山さん 楽しいです。友達100人! じゃないですが、たくさんのおもしろい出会いがありました。会社や趣味以外の、誰が来るかわからない状況の中で、あらためて「ああ、わたしは人と話をするのがすきだったんだなあ」と。
疲れは正直ありますね(笑)。仕事が9時から18時まで、お店が19時から22時までなので。でも、わたしお店をやる前から夜型だし、お休みの日にたっぷり休んで帳尻を合わせています。
内沼さん 小山さん、2年目の目標はなにかありますか?
小山さん 本の並べ方や、棚の魅せ方は工夫していきたいと思っています。
本棚を眺めている時間って自分自身と対話する時だと思っているので、その時間をもっと楽しめる場所にしていきたい。あとはPonoのある場所が駅に近いこともあり、外国人観光客の方に盛岡を案内することも多いので、盛岡を楽しんで散策できるようなマップを作ったりすることも考えています。観光案内所のようになるかも(笑)。
これからも、本だけではなくていろいろな出会いが生まれる場所として、お客様と一緒にどんどん進化していく本屋でありたいですね。
(店舗情報)
店名: Pono books & time (ポノ ブックスアンドタイム)
住所: 020-0022 岩手県盛岡市大通3丁目7-9 東北堂ビル 2階
営業時間: 平日17:00~22:00、土日祝14:00~20:00(月・水曜定休)
本記事は、ブック・コーディネーター内沼晋太郎さんが主宰するBUKATSUDOの人気講座「これからの本屋講座」受講生の手がける、全国のユニークな本屋を巡るコラムです。