フェイバリット・ビュー 私のくらし
#12 民藝
気づいたら集めているもの。見かけると、ついつい手が出てしまうもの。
どんなに忙しくても、大事にしたい時間。自分らしくいるために、欠かせない瞬間。
そんな、日々を彩る「もの」やホットな「こと」がつくりだす、お気にいりの景色=favorite view。
くらしにフェイバリット・ビューをもたらす「もの」や「こと」を、くらしをリノベーションする、リビタの社員がご紹介します。
日常の生活道具
今回リビタ社員・永長がご紹介するのは「民藝」です。
大学時代、デザインの授業で「民藝」という言葉に触れ、卒業研究のテーマにして以来、民藝はずっと私の身近にある存在です。
民藝とは「民衆的工藝」、民衆の暮らしのために名もなき職人の手で生み出された生活道具のことです。
華美な装飾の観賞用作品がもてはやされた大正時代に、思想家の柳宗悦、陶芸家の河井寛次郎・濱田庄司らが「美は生活の中にある」と唱えたことから始まったそう。
彼らが陶芸に精通していたこともあって、民藝から派生して器にも興味を持つように。
きっかけは2020年のコロナ禍。在宅中の楽しみが料理をすることで、料理の写真をSNSにアップするうちに食器にもこだわりたくなり、実際に窯元を訪ねるようになったんです。
初めて買ったお皿は、愛知県の常滑焼。釉薬のヒビがバラの花びらのような、氷裂貫入が入ったお皿に一目惚れでした。
窯元をめぐる旅
最初に訪れた窯は、京都河井寛次郎記念館の敷地内にある窯。
当初は研究の一環としてめぐることが多かったのですが、そのうち、研究目的ではない観光旅行でも「ここは九谷焼が有名だね。じゃあこの窯元に行ってみよう」と、公開されている窯を調べては行くようになりました。
先日も、友人と大阪までライブ鑑賞に行った際、信楽焼の窯元に寄ってみました。
面白いのは、窯の造りが土地によって違うこと。
煙突の数や長さ、窯の大きさなどは地域ごとに特徴があります。外に向かって自然光のもとで作業する工房もあれば、内向きの所も。各地で新しい発見を楽しんでいます。
窯元めぐりでは「心から気に入った器を一個だけ買う」がマイルール。現地の思い出も大事なので、なるべく都心では購入しないようにしています。
と言いつつ、表参道のショップで好みの器に出会った際には、一ヶ月悩んだ末、買ってしまいました。
共に暮らしたい器たち
民藝は生活の道具だから、使うことが前提。購入の際は、自分が使っているイメージがわくかどうかを大切にしています。
例えば、食器洗いが苦手なので、洗いにくそうな器は買いません。スポンジが引っかかりそうなザラついた質感は避けます。どんなに素敵でも、暮らしで使えなければ意味がないですから。
逆に、魅かれる器は目にした瞬間「こう使いたい!」と想像が広がります。
「梨が似合いそう」と、光景が浮かんで購入したお皿があるのですが、梨の季節にいよいよ実現できた時は嬉しかったですね。お料理を盛りつけたときに魅力を発揮する、これぞ民藝です。
よく手に取るのは、ガラス質のキラキラしたもの。ガラス釉薬は表面がツルツルして洗いやすく、使い勝手がいいんです。
なんでもない普段の食事でも「このお皿を使おう」と考えると楽しいし、お気に入りを使いたいがために、ホームパーティーを催したこともあります。
益子の風景に出会う
数ある器のなかでも、益子焼はすこし特別な存在。
濱田庄司が移築した茅葺の建物を研究するために、何度も訪れた益子。都内から日帰りできるので、ことあるごとに通いました。
昨年は茅葺の保存活動のひとつである、茅刈りボランティアに参加しました。それをきっかけに、地元の方ともよく喋るように。民藝との関わりから、人と繋がる面白さも感じています。
柳宗悦の言葉で「直観で見る、自分の目で見て考えることが大切だ」というのがあって。私自身はインドア派ですが、研究対象の建築は動いてはくれません。
現地に出向いたから見えた景色があることは、民藝に与えられた影響のひとつです。
「用の美」と私
このところ考えるようになった事は、伝統工芸をただ文化として保存するのではなく、道具としてどう今の生活に落としこむか。現在携わっているホテル事業でも、地域の工芸や文化を取り入れたホテルづくりをするブランドに関われていて、嬉しく思っています。
民藝のマインドを活かして働けることが、とても幸せです。
好きな言葉は「用の美」。
生活のために作られたものの持つ美しさ、使うからこその美しさを表した言葉です。自分の部屋で好きなお皿やマグを手にするとき、新しい器をどんな風に使おうか考えるとき、「用の美」を実感します。
飾って眺めるアートとは違う、暮らしの道具。その美しさが、いつも私にお気に入りの景色を見せてくれるのです。