「食×職」でまちに開く。コミュニケーションを価値に変える、複合シェアオフィスの新たな挑戦|まちとのつながり

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暮らし再発見マガジン のくらし by ReBITA
まちとのつながり

「食×職」でまちに開く。
コミュニケーションを価値に変える、
複合シェアオフィスの新たな挑戦

目 次
  1. 1神田のポテンシャルから、シェアオフィスの新たな可能性を探る
  2. 2日常に溶け込むキッチンの観察から、「食×職」テーマが生まれた
  3. 3コミュニケーションの余白が、主体的な食のシーンを生み出す
  4. 4開業前のイベントで、全国の食関係者にアプローチする
  5. 5まちに開かれたオフィスが、社会に求められる場所になる

「まちづくりとのくらし」では、これまでにリビタと関わった自治体や、まちづくりに携わる人々との対談や取材を通して、暮らしにまつわる可能性を様々な切り口から発信しています。本シリーズの第7弾は、リビタが手がける複合シェアオフィス「12 KANDA」から考える「まちづくりとのくらし」です。 12シリーズは「暮らしを自由にするオフィス」をコンセプトに、これまで「12 SHINJUKU」「12 NISHISHINJUKU」「12 SHINJUKU3CHOME」を展開してきました。

今回は、12シリーズの新たなフラッグシップとなる「12 KANDA」の低層階部分の企画支援とプロモーションを担当した株式会社ジョージクリエイティブカンパニーの天野譲滋さん、企画・プロジェクトマネジメント担当の株式会社リビタ井上聡子さんの対話を通して、「食×職」をテーマにまちへ開いていくシェアオフィスの可能性を探ります。

プロフィール

天野譲滋|デザインビジネスプロデューサー、株式会社ジョージクリエイティブカンパニー代表取締役社長
京都市生まれ。京都で創業した「ジョージズファニチュア」から始まり、「George’s」「CIBONE」「スーベニアフロムトーキョー」「DEAN&DELUCA」など立ち上げる。その後、「ジョージクリエイティブカンパニー」を創業し、放送作家の小山薫堂率いる「オレンジ&パートナーズ」とグループ会社になる。「デザイン」をビジネスとして成立させる、「デザインビジネスプロデューサー」として活躍。ファッションの東京コレクション実行委員。

井上聡子|オフィス事業部 兼 アセットソリューション部
2級建築士・宅地建物取引主任者。大学で経営を学び、電機メーカーに就職。不動産部門に配属され、新築分譲及び賃貸事業を経験するも、既存利用可能なものを壊しハコをつくって終わり…の事業スタイルに疑問を感じ、新たな価値観やライフスタイル提案の可能性を感じさせる「リノベーション」に興味を抱く。前職を退社後、カナダへの短期留学を経てリビタに入社。以降、シェアプレイスやシェア型複合施設・シェアオフィス・一棟まるごとリノベーション分譲など多岐にわたる事業での企画・プロジェクトマネジメント、遊休不動産のコンサルティングに従事。

神田のポテンシャルから、シェアオフィスの新たな可能性を探る

2024年8月にグランドオープンした「12 KANDA」は、「“食”と“職”が暮らしを自由にする」がテーマの複合シェアオフィスです。大きな特長は、地下にある「KOAKINAI MALL」。お弁当・お菓子などの製造業や商品開発ができる業務用レンタルキッチンと、物販が可能な小商いオフィスを併設しています。

1階は、アメリカ発のチキンバーガー専門店「Hangry Joe’s Tokyo」が出店。2〜10階は、1名〜最大19名が入居できるオフィススペースです。7階には、12シリーズ共通であるキッチン付きの休憩スペース「LDK」が用意されています。これまでの12シリーズでは、入居者やその家族が利用できる「LDK」を中心に、誰でも使える「ラウンジ」も設置して、シェアオフィスの入居者や地域住民の交流を育む場として機能してきました。これまでに様々なスモールビジネスや新たなアイデアが生まれています。

「12 KANDA」はシェアオフィスという機能を持ちながら、1棟の中でさまざまな食のシーンが生まれるように工夫されています。では、「食×職」をシェアオフィスのテーマにする発想は、いったいどのように生まれたのでしょうか。2人のキーマンの言葉から、「12 KANDA」の背景を紐解いていきます。

井上聡子(以下井上):今回のプロジェクトが立ち上がったとき、リビタが企画するなら一般的なオフィスビルではなくて、まちに開かれたシェアオフィスがつくれると考えました。神田駅周辺はすでに多くのシェアオフィスがあるので、特長を出さないと埋もれてしまう可能性があったんです。

天野譲滋(以下天野):僕も「12 KANDA」の場所を見た時に、人が集まるきっかけとなる企画が必要だと感じました。神田駅から徒歩3分という利便性の良さはメリットですが、利便性のみを押し出したシェアオフィスは、価格競争になりかねない。別視点で見ると、ここは良いチャレンジができそうな場所だなと思いました。

「12 KANDA」は大通りから1本裏道に入っていて、土地勘がないと通らない場所にあります。あえて足を運ぶ場所ではないため、2人とも企画内容や見せ方に工夫を凝らした取り組みが必要だと感じたそう。一方で、神田というまちのポテンシャルは十分に理解していたと言います。それは、リビタが2014年に「the C」というシェア型複合施設をつくり、神田のまちを見てきたからです。

井上:神田は、昭和初期に建てられた建物から新築のオフィスまで混ざり合っているおもしろいまちです。住宅も多いから住民がたくさんいて、日本三代祭りの神田明神祭もすごく盛り上がる。まちとしての魅力が高いからこそ、今回のシェアオフィスでも、まちと関わることでおもしろいことが起きる予感があったんです。

リビタの井上

日常に溶け込むキッチンの観察から、「食×職」テーマが生まれた

リビタは、これまでに12シリーズのシェアオフィスを3物件つくってきました。中でも1号店の「12 SHINJUKU」はシリーズを代表する物件でしたが、新宿再開発のため2023年にクローズしています。だからこそ、「12 KANDA」を新たな12シリーズのフラッグシップとして位置付けています。

「12 SHINJUKU3CHOME」
「12 NISHISHINJUKU」

「12KANDA」がこれまでの12シリーズと違うのは、新築だということ。井上さんは新築のメリットを活かして、空間に「食×職」のテーマを盛り込んでいきました。

井上:リノベーションの場合は、元から入っているテナントがあるなど、どうしても使えない区画があります。与えられた条件の中で企画をつくっていく必要があるんですよね。でも今回は新築なので、私たちの発想と収支が合えば自由に用途を組み合わせた空間をつくれます。「12 KANDA」は、12シリーズを3物件手がけた中で培ってきた知識や反省点も含めて、できる限りのアイデアを企画に盛り込みました。

結果として地下に「KOAKINAI MALL」があるというユニークなシェアオフィスが生まれたわけですが、「食×職」というテーマが生まれた背景には、これまでにリビタが手がけた事業のノウハウが詰め込まれていると言います。

井上:リビタのオフィスにもキッチンがあるし、他事業のシェアプレイスや一棟リノベーションの共用部にもこれまでキッチンをつくってきました。様々なキッチンを企画して実際の使われ方を見ていくうちに、「食」には他人同士が緩やかに繋がる力があると感じるようになったんです。

「12 SHINJUKU」でのキッチンを囲んだイベントの様子

井上:例えば、「12 KANDA」の地下にサウナをつくってもコミュニケーションは生まれると思います。ただ、サウナは暮らしの延長上にないコンテンツで、意図しないと行かない。一方で、キッチンは日常の中にあり、普段の何気ない振る舞いに組み込また場所です。賑わいをつくるためにキッチンがあるのではなくて、コーヒーを淹れたり、お弁当を温めたりする動作の中でコミュニケーションが生まれて、いずれ賑わいに醸成されていく。景色みたいに当たり前に日常に溶け込んでいて、「ちょっといいな」ってことが起きるような、そんな場所をシェアオフィスの中につくりたかったんです。

「食×職」というテーマが固まると、井上さんは事業パートナーに天野さんを選びました。飲食業界に明るく、全国の飲食業にかかわるプレイヤーにアプローチできるネットワークを持つ天野さんは、「12KANDA」の企画・プロモーション支援に適任でした。そして、天野さんも「食×職」というテーマに大賛成だったそう。

天野:コロナ以降、オフィスの考え方が変わりましたよね。きっかけとモチベーションがないと、オフィスに行かなくなってきている。僕はもう一度、オフィスでのコミュニケーションを通じて、仕事の喜びを生み出したいと思ったんです。コミュニケーションのきっかけとして、人類共通の話題である「食」は有効です。それに、神田というまちは個性的な飲食店も多いですから。将来的にまちのプレーヤーを巻き込んでいくことも考えると、食と職を掛け合わせるのはすごく良いコンセプトだと感じました。

低層階部分の企画支援とプロモーションを担当した天野譲滋さん

コミュニケーションの余白が、主体的な食のシーンを生み出す

「12 KANDA」の大きな特長である「KOAKINAI MALL」は、どんなふうに生まれたのでしょうか。2人は、地下への導線の難しさを解決するという現実的な理由に加えて、様々な食のプレーヤーを集めることで新たな風景を生み出そうとしていました。

「KOAKINAI MALL」

井上:地下にある空間は、目的がないと人が降りてきません。人を集めることを考えた時に、コーヒーやお弁当、スイーツのテイクアウト専門店があれば地下に来る動機になると考えました。それに、「KOAKINAI MALL」は小商いの皆さんが日替わりで営業しているので、毎日来ても飽きないんです。

天野:建物自体のデザインも良いですよね。各階にテラスがあるし、「LDK」もあるから、地下でテイクアウトした食事をいろんな場所で食べられる。一般的なオフィスだと、社員が溜まる場所が限られますから。

「KOAKINAI MALL」には業務用キッチン区画をレンタルできる「レンタルキッチン チカシツ」があります。ここでは、飲食ビジネスに挑戦したい人やメーカーの新商品用のテストキッチンとしての利用を想定しており、すでに様々な人が活用しているそうです。

天野:いきなり店舗を出すのはリスキーなので、レンタルキッチンから挑戦してみたいという人は多いと思います。しかし、気軽に試せるレンタルキッチンは少ないんですよね。「12 KANDA」はプロ仕様の設備をレンタルできるし、同じビル内にたくさんのオフィスワーカーがいますから、テストマーケティングの機会にもなると思います。

これまでの12シリーズで様々なストーリーを生み出してきたキッチン付きの休憩スペース「LDK」でも、さっそく食を介したコミュニケーションが活性化しているそう。

井上:料理好きの入居者が、「僕の料理を食べてほしいからランチ会をしたい」と提案してくださったんです。「LDK」に手作り料理を用意して周りの入居者を誘ったら、昼からワインを持ってくる方もいたりして(笑)、盛り上がりましたね。私たちから仕掛けるイベントもありますが、入居者が自発的に発信するイベントも増えています。

「“食”と“職”が暮らしを自由にする」という「12 KANDA」のコンセプト通りのシーンが生まれているようです。ではなぜ、入居者が主体的に動く環境が生まれているのでしょうか。天野さんはこう分析します。

天野:いい意味で、リビタさんには隙があるんです。物件を管理する立場でありながら、入居者が「こんなことをしたい」と言える雰囲気をつくっている。コミュニケーションに余白を持たせることで、自由に発言できる空気感があるんですよね。

さらに、「12 KANDA」には「フクリコウセイ」というサービスがあります。これは、12シリーズ入居者専用アプリを介して飲食店の割引チケットが配布されたり、12シリーズ入居者に向けてテストマーケティングができるアンケート配信など、ビジネスをサポートする機能があります。まだ始まったばかりのサービスですが、井上さんは「誰かが一方的に得をするサービスではなく、12シリーズの入居者が得意分野を活かし合い、施設内で思いと行動が循環して良い影響を与え合うようなサービスに育てていきたい」と話します。

開業前のイベントで、全国の食関係者にアプローチする

「12 KANDA」は新築のため、「食×職」というテーマが決まってから2年ほど工事期間がありました。この間に東京・京都・福岡で開催したのが、食に関するコミュニティ形成を目的としたイベント「12 KANDA NIGHT」です。プロモーションの一環としてイベントをプロデュースした天野さんは、「12 KANDA NIGHT」をこう振り返ります。

天野:僕らの周りには、東京で飲食店を出したいと思っている地域の人がたくさんいます。しかし、東京に視察に来ても拠点が無いので、「喫茶店で仕事する」「夕食を一緒に食べる人がいない」など、もったいない状況がありました。本当は、東京で飲食店を経営している人やフードコーディネーターと繋がりたいというニーズがあるんですよね。神田は日本の各地域への玄関口である東京駅に近いので、「12KANDA」を拠点にすれば、様々な巡り合わせが生まれると考えました。

天野さんの予想通り、「12 KANDA NIGHT」に参加した地域の食関係者からは、具体的な賃料や東京の飲食業事情などの質問が飛び交ったそうです。全国展開したプロモーションは、すでに目に見える成果を上げていました。

井上:「12KANDA NIGHT」に参加した方たちが情報を広げてくださって、それで「12 KANDA」を知って、地域の会社が「12 KANDA」を東京拠点に選んでくれたというケースもあります。また、別の会社の社員の方はコーヒーが好きで、「KOAKINAI MALL」にあるコーヒーショップの常連さんなんですね。その方が、「副業でコーヒー豆を輸入して『12ブレンドコーヒー』をつくろうかな」なんて話していました。「12 KANDA」で新たなビジネスの種を見つけて、実践しようとしている動きが嬉しいですね。

「12 KANDA NIGHT」は、「KANDA FOOD LAB」と名前を変えて、誰もが参加できる少人数の双方向型イベントとして継続開催しています。ランチ会や日本酒の飲み比べワークショップなど、ゆるやかに人を繋げるイベントから飲食業の資産管理や東京で飲食店を続けるためのポイント、将来的に飲食店を開業したいシェフの集まりなどの具体的なテーマまで、食を切り口に様々な企画が出ているそうです。

まちに開かれたオフィスが、社会に求められる場所になる

近年になって、会社員で副業をする人や個人事業主を選ぶ人、子育てのかたわらに空いた時間帯だけ働く人など、業務スタイルの多様化が進んでいます。柔軟性の欠けた従来のオフィスでは、多様化した働き方を受け止めるのが難しくなっているのを感じます。

また、コロナ禍以降は在宅勤務がスタンダードなワークスタイルになり、「行く価値のあるオフィス」が求められています。そんな状況下で新築のシェアオフィスを手がけた井上さんは、「オフィスをまちに開いていくこと」の大切さを訴えます。

井上:以前から12シリーズでは、「LDK」やラウンジを使った入居者の自主企画が盛り上がったり、家族を連れて館内イベントに参加したりと素敵なシーンが生まれていました。ただ、外部の人はオフィス内で起きていることが見えないので、単なるシェアオフィスと捉えられることに葛藤があったんです。「12 KANDA」を新築で建てることが決まった時に、館内の振る舞いが外に見える設計を希望しました。「食×職」というテーマには、まちの人たちが気軽に入ってくるきっかけとしての「食コンテンツ」を充実させたいという思いも込めています。

井上さんは、「12 KANDA」として神田の自治会にも出ているそうです。イベントでは、自治会で知り合った酒屋から仕入れをするなど、まちに存在をアピールしている段階。目標は「12 KANDA」の入居者とお神輿を担ぐこと。一方で、天野さんは「距離感が大切」と話します。

天野:「リモートでいいじゃん」ではなく、「おもしろいから12 KANDAに行こう」と思える場所になりたいですね。疲れてしまうようなウェットなコミュニティではなくて、入居者、神田住民の皆さん、各地域の人が良い距離感でゆるやかに繋がれるといい。今後のオフィスは、距離感をうまく保ちながら、誰もが働きやすい環境をつくることが大切だと思います。

最後に、「12 KANDA」の今後の展望についてお二人に聞きました。

井上:「12 KANDA」「12 NISHISHINJUKU」「12 SHINJUKU3CHOME」の入居者が混ざり合い、そこに神田で暮らす皆さんが参加するイベントを企画してみたいです。数あるシェアオフィスの中から12シリーズを選ぶ方には、何か共通点があると思うんです。新宿と神田の入居者が知り合うきっかけがつくれたら新しいビジネスが生まれる可能性があるし、暮らしにちょっとした彩りが加わると思います。これからも「12 KANDA」を起点に、様々な方たちを繋げていきたいです。

天野:「12 KANDA」はチャレンジングな試みをしているし、新しいオフィスの在り方を提案していると思います。一方で、これからシェアオフィスは淘汰されていくフェーズになると考えています。そんな中で、僕たちは様々な関係者との繋がりを育んでいく部分を、リビタさんと一緒に取り組んでいきます。
「12 KANDA」の横展開もいいなと妄想しているんです。「KANDA FOOD LAB」と「地域FOOD LAB」が繋がって、東京と地域のシェフが一緒にフードロスの課題に取り組んだり、地域のシェフが地元の食材を持ち込んで東京に出店したり……東京と地域の双方向で12シリーズが機能していくとおもしろいなと思っています。

12シリーズでは、家族を連れてオフィスに来るという光景が当たり前にあります。多様化している働き方に求められるのは、日常にこんな光景があるオフィスではないでしょうか。入居者や近隣住民とのコミュニケーションをコストではなく、管理運営に欠かせない行動と捉えることで、シェアオフィスの事業成長に繋がると考えてみる。コミュニケーションが活性化したシェアオフィスは、当事者や周囲を幸せにするだけでなく、新たなビジネスが育まれる場になるはずです。

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