街とゆるやかに混ざり合う景色をつくる
リビタの多機能交流型賃貸住宅
『Well-Blend』
マンションをはじめ、シェアハウス、ライフスタイルホテル、シェアオフィスなど幅広くリノベーション事業を手掛けるリビタ。ここでは、リビタで働く「中の人」にスポットを当てます。外からは見えない作り手たちの思いに耳を傾ければ、意外な暮らしのヒントが見つかるかもしれません。 今回は、2022年から始まった賃貸住宅シリーズ『Well-Blend』のブランド立ち上げに関わり、同シリーズの企画を担当した戸成圭さんに話を聞きます。
用途と人の“ブレンド”が心地いい距離感をつくる
ーー『Well-Blend』シリーズはどのような賃貸住宅でしょうか?
リビタが提案する『Well-Blend』シリーズは、水回り付きの居住スペースに加え、ワークスペース、カフェ、ジムやサウナなど日々の暮らしを充実させる様々な機能を兼ね備えた賃貸住宅です。『Well-Blend』の名前には、「心地よく混ざり合う」という意味が込められています。住まいの中に地域住民の方など入居者以外の人も利用できるセミパブリックな場を設けて、違う属性の人が同じ空間の中で「混ざり合う」ことで、利用者同士のゆるやかな繋がりから新たな気付きや価値観に出会うきっかけが生まれる暮らしを提案しています。
あと実は、「well」の部分にウェルネスの意味も込めているんです。入居者が心身ともに、そして周りとの付き合いにおいても健康で健全な状態でいられるように、物件が縁の下の力持ちとしてサポートしたいと思っています。
ーー『Well-Blend』シリーズはどんなふうに始まったのですか?
僕はもともとシェア型賃貸住宅『シェアプレイス』の企画を担当していました。『シェアプレイス』は、比較的大型のシェアハウスで、生活に必要な水回りやキッチンなどを共有しながら生活するので、入居者同士が自然にコミュニケーションをとりながら暮らせるのが特徴です。現在の『シェアプレイス』の稼働は好調ですが、コロナが流行していた当時、衛生意識の変化から退去をする方も中では増えていました。一方で、世の中としては単身者のテレワークにおける「ワンルーム疲れ」といわれる現象が浮き彫りになっていました。一日外出せず、仕事する、食べる、寝るなどのあらゆる用途を狭い個室の中で行うことへの心身の疲れを表しているものでした。
そのような状況を受けて、入居者同士の距離感や関係性を改めて考えてみたとき、『シェアプレイス』とはまた違った住まいの形がないか?と考えるようになりました。入居者が多様な用途で使えて、様々な属性の人がゆるやかに混ざり合うおおらかな空間がつくれたら、単身者の住まいの課題を解消しつつ、さらにおもしろいことが起きるかもしれない、と思ったんです。
ーー多様な用途と人を受け入れる「おおらかな空間」。面白そうですね。
社内の企画メンバーで話していた時に、家では人と積極的に交流するよりも、「ゆっくり休みたい」「趣味の時間を過ごしたい」と話す人が意外と多かったことがヒントになりました。以前、僕も『シェアプレイス』に住んでいたのですが、たしかに、屋上のテラスでリラックスしたり、シアタールームで映画を見たりしている一人の時間が好きでした。このように一般的な賃貸住宅にはない、気分や目的に合わせて選べる多様な共用部に価値をおいた物件があったら、僕も住みたいと思ったんです。
一方で、単に共用部をつくればいいものでもないとも考えました。『シェアプレイス』でも、他の入居者に話しかけるなど積極的なコミュニケーションをとりたいタイプの方がいれば、ある程度人がいる中で一人過ごすのが心地よいと思う方も一定数いるなと感じていたのです。入居者同士の交流レベルにグラデーションをつけられるような空間の作り方だけでなく、ソフトの設計も加えることで、入居者それぞれの方にとって心地の良い適度な距離感が生み出せると考えました。そこで『Well-Blend』では外部の運営パートナーに入っていただき、物件内でサウナやカフェを運営してもらっています。入居者と外部の方が混ざり合うことで個人の匿名性が保たれ、自宅でも職場でもない“第三の場所”が生まれるのでは、と考えました。
ーー『Well-Blend』と『シェアプレイス』の2ブランドがあることで、リビタの提案する賃貸住宅でも住まいの選択肢の幅が広がったということですね。
そうですね。営業担当者からは、水回りの有無だけでなく、「どの程度の交流度合いを希望しているかに応じて、『Well-Blend』か『シェアプレイス』か、案内するようにしている」と言ってもらっています。『Well-Blend』ができたことで、今までの駅名や賃料を軸にした住まい探しから、一歩踏み込んだ提案ができているようです。
最近はコロナ禍の自粛生活からの反動なのか、リアルなコミュニティを求める人が増え、『シェアプレイス』の稼働率はコロナ前よりも回復してきています。一方で、シェアハウスほどの交流を求めていない方や、初めて上京して一人暮らしをする方で、いきなりシェアハウスは敷居が高いと感じる方が『Well-Blend』を選んでくれています。実際に物件に行くと、入居者同士で一緒に料理をしたり、一人の時間を楽しんでいる方もいたりと、入居者自身がその日の気分によってチューニングできているような印象を受けています。
街の人にも歓迎される住まいの在り方
ーー『Well-Blend蒲田」はサウナとパーソナルジム、『Well-Blend板橋大山』と『Well-Blend十条』にはカフェが入っています。建物内にある“第三の場所”として、サウナやカフェを選んだのはなぜですか?
例えばコンビニや飲食チェーン店などが入れば、事業者目線としては、それなりの収益性が保てるでしょう。しかし、『Well-Blend』のコンセプトに照らすと、カフェやサウナで入居者や街のひとがリラックスできる時間の豊かさをつくったほうが望ましいと考えました。近年はスマホから離れる時間が重要視されていたり、カフェで仕事をしたほうが集中できる時もあります。日常でそんな時間を過ごせる場が建物内にあるのは、大きな付加価値になると考えました。
とはいえ、集客も大切です。『Well-Blend蒲田』は共用部と店舗が2階にあるので、目的を持って人が集まってくる場が必要だと考えて、サウナとジムになりました。外から来た方もスタッフがいる時間は共用部のラウンジを使えるようにしています。近年のサウナブームを見ると、好きなものが共通している人同士は強い共感が生まれると感じます。ゆくゆくは『Well-Blend蒲田』にサウナやトレーニングが好きな方が集まり、価値観が混ざり合う場が生まれると良いなと考えています。
ーー『Well-Blend十条』では『PERSON’S COFFEE HOUSE』が入っています。カフェが入った背景を教えてください。
十条は23区の中で高齢化が進んでいる地域で、昔からの住人が多い街です。一方で、大学のキャンパスが点在する学生の街でもあります。エリアを調べるうちに、学生も高齢の方も気軽に入れるカフェのような場所が少ないことがわかってきたのです。そこから十条という地で『Well-Blend』に求められているのは、地域の交流拠点となるような日常づかいできるカフェだと考えました。
『PERSON’S COFFEE HOUSE』は、縁側席を設けて外部と内部を一体的につくり、連続性のある空間にすることで店舗へ入りやすくなるように計画をしています。一般的な賃貸マンションではセキュリティやプライバシーの観点から敷地を生け垣などで囲うことが多いですが、『Well-Blend十条』では、接道部分の植栽帯にカフェのドリンクとしても使える果樹やハーブを植えることで、外を歩く地域の方にも香りや彩りを楽しんでもらえる工夫を施しました。植物の周りに置いたベンチは、テイクアウトしたコーヒーを飲んだり、散歩中の小休憩の場所として使われています。
ーー戸成さん自身が、『Well-Blend』の企画に込めた思いを教えてください。
前職は、賃貸マンションをつくる会社で設計をしていました。建設中の現場に行くと、近隣の方が「何ができるのですか?」と期待感のある面持ちで聞いてくれるんです。僕が「マンションができます」と答えると、ちょっとがっかりした表情をされていたんですよね。おそらく、地域の方に喜ばれるようなレストランや店舗が入ると嬉しそうな顔が見れたんだろうなと感じていました。いずれは、住まいを企画する中で入居者はもちろん、地域の方にも喜ばれるような建物をつくりたいと考えていたのです。リビタに入社して今の部署へ異動した時に、当時の気持ちを思い出しながら『Well-Blend』企画を進めました。
新たにマンションを建てたりするとき、地域住民から反対運動が起きるのはよくある話です。特に工事中は近隣の方に迷惑をかけてしまうこともありますが、竣工後に地域の方から「できてよかった」と言われるような、街に還元できる場を持つ住まいをつくりたいと思っています。
『Well-Blend』では、入居者、地域住民、運営パートナーで、“三方よし”の関係をつくりたいと思っています。入居者は、匿名性を担保しながら共用部や店舗が使えて、入居者同士だけではない交流が生まれます。地域住民の皆さんは、街の新たな”第三の場所”として利用していただけます。運営パートナーのメリットは、建物内に店舗があるため、入居者という一定の固定客が見込めることです。いずれは入居者向けのサブスクサービスや新商品のテストマーケティングの場としても活用できるといいですよね。このような“三方よし”が循環することで、持続可能な運営モデルが構築できると考えています。
もう一度、「おかえりなさい」がある光景をつくりたい
ーーこれからの『Well-Blend』について、戸成さんが描いている理想像はありますか?
以前『シェアプレイス』のある物件で、入居者と下校途中の近所の小学生が建物の前のベンチで話している光景を見かけました。話を聞くと、その二人はベンチに座って会話をするのがルーティンになっているそうでした。こういう平和な光景って、最近あまり見ないですよね。思い返せば、僕が小学生の時は、下校途中に近所のお母さんたちから「おかえりなさい」と声をかけてもらっていたことを思い出しました。今の時代に、このような光景が『Well-Blend』をきっかけに生まれてくれると良いなと思っています。
そのための一歩はすでに踏み出していて、『Well-Blend』に入っている店舗のスタッフが入居者と地域の方のハブになって、人と人を繋ぐような役割を担いつつあるようです。僕にも経験がありますが、行きつけのお店ができて、用事がなくても立ち寄って気兼ねなく話せる場があると、お店だけでなく、その街への愛着が湧くと思います。その後に引越しても、街への良い印象は消えません。一般的に、単身の方は地域から一歩引いた姿勢を取ることが多いのですが、一人ひとりの愛着が積み重なることで、『Well-Blend』を中心に温かな光景が生まれてくると思っています。僕たちが意図的につくれる光景ではないので、これからも入居者と地域の方、運営パートナーと伴走した結果として、数年後に「こんなことがあったよ」と話を聞けると嬉しいです。
あとがき
戸成さんのお話を聞いて、もし近所に新しく建物ができた際に1階がカフェだったら、きっと行ってみたいと思うだろうなと想像しました。戸成さんがいうような思いをもって街に開いた共用部をつくることがあたりまえになったら、“第三の場所”という価値が広がり、通り過ぎるだけだった場所が街の人にとっての立ち寄る場所となる。そんな未来の可能性にわくわくしました。地域の人と入居者を繋ぐ『Well-Blend』は、これからもその街に温かな景色をつくっていくでしょう。