ポルトガルの祝い菓子「パォン・デ・ロー」
~分け合いたくなる、やさしい甘さ~

立教大学卒業後、株式会社バーニーズジャパンに入社。アパレル業界を経てパティシエに転身。ザ・ペニンシュラホテルのフレンチレストランやパティスリーなどで修行を積んだ後、会員制レストランでシェフパティシエに就任。退職後は約1年にわたり世界各地でお菓子を作る旅へ。これまで50カ国以上を訪れ、500種類以上の世界のおやつを学んだ経験をもとに、お菓子ブランド「世界のおやつ」を主宰。企業や自治体、大使館などのプロモーション、レシピ開発、ワークショップ講師、お菓子ケータリングなどを通して、旅とお菓子のストーリーを届けている。
本シリーズでは、鈴木文さんが主宰する「SEKAI NO OYATSU」とともに、世界各地で受け継がれてきたおやつを紹介します。その国の歴史や文化が息づくひと口には、暮らしの多様性や人々の想いが込められています。読むだけで旅気分を味わえ、台所で実際に作れば、その国の暮らしをちょっと身近に体験することができるかもしれません。
第3回で取り上げるのは、ポルトガルのハレの日に欠かせないお菓子
「Pão-de-ló(パォン・デ・ロー)」。半熟に焼き上げる、ふるふるとやわらかな食感が特徴の、素朴でありながら特別感のあるお菓子です。
修道院から生まれた、卵のお菓子文化
ポルトガルには、修道院を起点に生まれたお菓子が数多く存在します。その多くに共通するのが、卵を贅沢に使うという点です。
「ポルトガルのお菓子って、ショーケースを見ても全部が黄金色なんです。びっくりするくらい、卵の色がそのまま残っている」
その背景には、宗教と暮らしの関係があります。かつて修道院では、卵白が洗濯の糊として使われていました。余った卵黄をどう活かすか——その工夫から、卵黄をたっぷり使うお菓子が生まれていったのです。パォン・デ・ローも、そうした流れの中で育まれてきました。
名前の由来には諸説ありますが、「pão(パン)」と「ló(やわらかい)」を組み合わせた言葉とも言われ、絹のようにやわらかい、その質感が、お菓子の名前そのものに重ねられています。
半熟に焼き上げる、パォン・デ・ローというお菓子
パォン・デ・ローは、卵と砂糖、小麦粉だけで作られる、ポルトガルの伝統的な焼き菓子。日本のカステラの原型ともいわれ、シンプルな材料と製法でありながら、焼き加減によってまったく異なる表情を見せるのが特徴です。
今回紹介するレシピは、文さんが現地で学んだ作り方をベースに、日本の家庭でも再現しやすい形に落とし込んだもの。最大の特徴は、卵の力だけでふくらませるという点にあります。
「日本のスポンジケーキは、小麦粉の力で形を保つことが多いですよね。でもパォン・デ・ローは、卵の気泡だけで焼き上げる。だから軽くて、口の中ですっとほどけるんです」
焼き時間を短くすれば中央はとろりと半熟に、しっかり焼けば均一な食感に。失敗が少なく、焼き過ぎても “半熟じゃなくなるだけ” という懐の深さも、このお菓子の魅力です。
焼きたてを手でちぎって食べるのが、文さんのいちばんのおすすめ。一晩冷蔵庫で冷やすと、生地の弾力や卵の香りがより際立ち、また違ったおいしさに出会えます。
【レシピ】Pão-de-ló(パォン・デ・ロー)
■材料(直径12〜15cm型 1台分)
・全卵 60g
・卵黄 70g
・レモンゼスト 2.5g
・バニラペースト 2g(またはバニラオイル)
・きび糖 60g
・強力粉(キタノカオリ)25g
・ラム酒(あれば)10g
■下準備
・型に、クッキングシートをジャバラ状にセットする
■作り方
1.卵、卵黄、香りづけ材料をボウルに入れる
2.砂糖を加える
3.泡立て、白くもったりするまで混ぜる
4.粉を加えて艶が出るまで混ぜ合わせる
5.型に流す
6.190〜200℃のオーブンで約12分焼成(半熟)
※焼きたてを手でちぎって食べるのがおすすめ
ハレの気分を、暮らしのそばに
ポルトガルでは、家族が集まる食後に、デザートワインやポートワインを添えてパォン・デ・ローを囲むこともあるそうです。生クリームを添えたり、ワインをソース代わりにかけたりと、食べ方も自由。
「日本だと、3月は卒業や引っ越しなど、区切りの季節ですよね。宗教的な“ハレ”とは違うけれど、誰かを祝う気持ちは同じ。そんな場面に、このお菓子を重ねてもらえたらうれしいです」
卵の黄金色に、祝福の意味を託してきたポルトガルの人々。
パォン・デ・ローは、遠い国の文化でありながら、私たちの暮らしにもそっと寄り添ってくれるおやつです。