中東で受け継がれてきた「ハルヴァ」
〜甘さに刻まれた、世界のおやつの原風景〜

立教大学卒業後、株式会社バーニーズジャパンに入社。アパレル業界を経てパティシエに転身。ザ・ペニンシュラホテルのフレンチレストランやパティスリーなどで修行を積んだ後、会員制レストランでシェフパティシエに就任。退職後は約1年にわたり世界各地でお菓子を作る旅へ。これまで50カ国以上を訪れ、500種類以上の世界のおやつを学んだ経験をもとに、お菓子ブランド「世界のおやつ」を主宰。企業や自治体、大使館などのプロモーション、レシピ開発、ワークショップ講師、お菓子ケータリングなどを通して、旅とお菓子のストーリーを届けている。
本シリーズでは、鈴木文さんが主宰する「SEKAI NO OYATSU」とともに、世界各地で受け継がれてきたおやつを紹介します。その国の歴史や文化が息づくひと口には、暮らしの多様性や人々の想いが込められています。読むだけで旅気分を味わえ、台所で実際に作れば、その国の暮らしをちょっと身近に体験することができるかもしれません。
第2回で取り上げるのは、中東エリアを中心に長く親しまれてきた伝統菓子「ハルヴァ」。古代メソポタミアに起源をもつともいわれ、世界のおやつの歴史を語るうえで欠かせない存在です。
古代メソポタミアから広がった、ハルヴァの系譜
ハルヴァの特徴は、穀物のペーストに油脂と砂糖のシロップを合わせて固めるという、きわめてシンプルな構造。材料も工程も素朴ながら、その成り立ちは非常に奥深さがあります。
「ハルヴァはイスラム文化とともに広がっていったお菓子なんです。イスラム教が伝播したルートと同じように、お菓子も各地に渡っていった。だから地域ごとに少しずつ姿を変えながら、今も食べられ続けているんですよ」と文さん。
中東では白ごまのペースト(タヒニ)を使うのが一般的で、ピスタチオやバラの香りを加えたものも多く見られます。一方、フランスのヌガーはハルヴァの原型のひとつともいわれ、南米やロシア、インドにもよく似たお菓子が存在する。ひとつのレシピが、宗教や交易とともに世界へ広がっていったことがうかがえます。
エルサレム旧市街で出会った、暮らしのおやつ
文さんがハルヴァを深く知るきっかけになったのは、イスラエル・エルサレム旧市街での体験でした。イスラム教徒の家族が営む小さなお菓子屋さん。ショーケースをのぞいていると、「中に入っていいよ」と声をかけられ、そのまま作り方を教わることになったといいます。
「家族経営のお店で、子どもたちも自然にお手伝いしていて。少し話しただけなのに『明日もおいで』『ごはん一緒に食べよう』って、本当にウェルカムな雰囲気でした」
現地ではハルヴァは特別なお菓子ではなく、量り売りで日常的に買われる存在。石けんのような大きな塊を「何グラム」と指定すると、その場で切り分けてくれるのが当たり前の光景です。
イスラム教の祭礼、ラマダン明けの時期には栄養補給としても重宝され、コーヒーと一緒に家族で囲むおやつの時間に欠かせない存在でもあります。
日本の台所で作る、文さん流アレンジ
現地のハルヴァは、油脂も甘さもかなりしっかりとした味わい。そのまま再現すると、日本人の舌には少し重く感じられることもあります。
そこで文さんが考えたのが、ピーナッツペーストを使ったアレンジ。砂糖はきび砂糖に置き換え、スパイスの香りを立たせながら、どこか懐かしさの残る味に仕上げました。
「ピーナッツって、日本ではすごく身近な食材ですよね。だからハルヴァの構造はそのままに、素材を変えることで、暮らしに取り入れやすくなると思ったんです」
口どけのよさもハルヴァの魅力。凝固剤を使わず、シロップの温度だけで食感が変わるため、やわらかくも、ヌガーのようにしっかりとも仕上げられます。日持ちするのも特徴で、2週間ほど保存できるため、少しずつ切り分けて楽しむことができます。
「朝のコーヒータイムに少し添えたり、家族が集まるときに出したり。クッキーよりも体にやさしくて、エネルギーにもなる。そんな“日常のおやつ”としてちょうどいいんです」
【レシピ】 Halva(ハルヴァ)
■材料
・ピーナッツペースト 400g
・きび砂糖 220g
・水 80g
・ゲランド塩 1g
・ナツメグパウダー 1.3g
・シナモンパウダー 1.3g
・ナッツ類(計40g)
・ピーカン 30g/アーモンドスライス 5g/ピスタチオ 2g
■下準備
・ナッツはオーブンでロースト
・容器にラップを敷き、ナッツ類を並べておく
■作り方
1.ピーナッツペーストに塩とスパイスを加え、なめらかになるまで混ぜる
2.鍋に水ときび砂糖を入れ、加熱。117〜118℃まで加熱してシロップを作る
3.1に2を少しずつ加えながら混ぜる
4.ナッツを敷いた型に、3を流す
5.平らにならす
6.完全に冷めたら、好みの大きさにカットする
時を重ねて、日常にある味
ハルヴァは、派手さはないけれど、土地の歴史や人々の暮らしをそのまま映し出すお菓子。古代から受け継がれてきた構造をベースに、今の生活に合うかたちで作ることで、遠い国の文化がぐっと身近になります。
「特別な日に食べるもの、というよりも、いつものおやつ時間に自然にある存在。その感覚こそが、ハルヴァらしさだと思います」
世界のおやつの原点ともいえる1品を、自分の台所で。そんな小さな旅を、ぜひ味わってみてください。