門田“JAW”晃介さんインタビュー
ミュージシャンのこだわりから見る日々の幸せの見つけかた
サックス奏者。1999〜2015年まで5人組ジャズインストゥルメンタルバンド『PE'Z』にて活動。ジャズをベースに、ラテンやロックの要素も取り入れた楽曲は国内外で高い評価を受け、ヨーロッパ・台湾・韓国でCDをリリース。2016年からは、Yasei Collectiveの松下マサナオ(Ds)・中西道彦(B)、多ジャンルで活躍する宮川純(Key)と共に『BARB』を本格始動し、同年10月にアルバム『Brew Up』をリリース。また、SOFFet・YoYo(Key)とのデュオ『JAW meets PIANOMAN』で年末恒例のライブを開催し、2017年末に『Christmas Swing Jazz』をリリース。2018年以降、サックス独奏ツアー『JAW DROP TOUR』や、自身主催のセッションイベント『Jaw Jamming Yard』を開催。2019年4月14日(日)からはソロパフォーマンスツアー"JAW DROP TOUR 2019"を全国各地で展開。また各会場にてソロパフォーマンス音源集『JAW DROP 2』のリリースが決定。
Kadota "JAW" Kousukeオフィシャルサイト www.kadotakousuke.com
ジャズインストゥルメンタルバンド『PE'Z』のテナーサックスプレイヤーとして、日本のみならず海外でも高い評価を受け、国内外の大舞台でライブをしてきた門田“JAW”晃介さん。PE'Z解散後は、新バンドの結成やサックス独奏ツアーのほか、オリジナルのコーヒー豆やサックスストラップのプロダクトデザインを手がけるなど、ミュージシャンとしての活動以外にも活躍の場を広げています。人を魅了する音楽をつくり、演奏するために門田さんが心がけていることとは何か? ひとつの道を追求してきたミュージシャンの言葉から、私たちが豊かに暮らすためのヒントが見えてきました。
“古いもの”がもたらす、縁と居心地
—門田さんは、国立音楽大学ご出身です。音大の周辺は、独特の雰囲気がありますね。街のいたるところから音楽が聴こえてきて、学生たちがのびのびと音楽を楽しんでいるように感じます。
音大の周りには“楽器OK”の賃貸住宅が多いので、音大生はたいてい学校の周りに住みます。大学でも家でも、同じようなメンバーで音楽をやるので、大学時代のコミュニティは濃厚です。僕は、大学を卒業してバンドデビューをしたころに音大のコミュニティを離れて一般のボロアバートに住んでいたのですが、とにかく壁が薄くて、生活音の全てが聞こえるような家でした(笑)。そこで僕の下の階に住んでいる男の子と仲良くなって、「バンドでインディーズデビューして、CDをリリースした」という話をしたら、次の日の朝、下の階から爆音でそのCDがかかってきた(笑)。同じ世代の住人ばかりが暮らすアパートで、みんな兄弟という感じの仲の良いコミュニティがありました。
—音が漏れるような古い家であることが、ご近所との縁につながったのですね(笑)。今のご自宅ではどうやってサックスの練習をしているのですか?
“持ち運べる防音設備”というのがあって、2畳くらいの組み立てタイプの防音室を引越しのたびに持ち運んでいます。今はリビングルームの一角に防音室をつくって、そこで練習をしています。僕はもともと、古い日本家屋をリノベーションして住むという暮らしのスタイルに憧れがあって、学生のころから、いつか古民家で暮らせたらいいなと思っていたのですが、住まいの優先順位の一番が“音を出せること”なので、まだ実現できずにいます。仕事と住まいのバランスがうまくいけば、もしかしたら将来的に古民家に暮らすライフスタイルを送っているかもしれません。
—リビタの一棟まるごとリノベーション分譲物件・リノア三鷹で2018年10月に行ったイベントでは、1階に入居する『モリスケ+横森珈琲』でライブをしていただきました。門田さんと『モリスケ+横森珈琲』にはどのようなご縁があったのですか?
『モリスケ+横森珈琲』は、三鷹を中心にカフェやインテリアショップなどを展開するデイリーズグループの系列なのですが、僕はもともとデイリーズグループのカフェ1号店『デイリーズカフェ』によく通っていたんです。今から20年前のことで、時期的にはカフェブームの走りだったと思いますが、デイリーズカフェのようにインテリアショップに併設されたおしゃれなカフェはとても新鮮でした。当時の僕は、バイトとバンドで忙しくて、バイトの給料が出たらデイリーズカフェでランチをするのがご褒美だったんです。
それからPE’Zでメジャーデビューして十数年が経ち、ある時僕からデイリーズカフェで音楽イベントをやりたいと話を持ちかけてライブをやらせてもらいました。そこからデイリーズグループが企画する音楽イベントで演奏する機会が増えていきました。今年の5月には、『デイリーズカフェ』でソロツアーのライブも予定しています(ライブの詳細はこちら)。
—初めてカフェでライブをしたときの感想は?
ずっとデイリーズカフェに通っていた僕にとって馴染みのある空間だったので、演奏していて違和感はありませんでした。古い建物(※デイリーズカフェが入居するマンションは築48年)の独特な空気感が、お客さんとのアットホームな距離感を演出してくれたと思います。ライブハウスと違ってほぼ生音をお客さんに届けるので、僕の息遣いとかライブハウスでは聴こえない音まで聴こえるという点でお客さん側も緊張感があるようですが、そういう良い緊張感とアットホームさが混ざり合う空気感が好きになりました。
—今日お持ちいただいたサックスも約60年前のものだそうですね。門田さんは、古いものに特別な思いがあるのですか?
これは“アメリカンセルマー”といって、フランスの楽器メーカーであるヘンリー・セルマー・パリが、アメリカのジャズ最盛期にアメリカにパーツを持ち込んで、組み立て・調整・塗装まで行ったものです。U字管の脇の塗装が剥げているところを見ると、おそらくビッグバンドの奏者の持ち物だったと想像できる。古い楽器には、それが持つ佇まいから歴史を推測できることがあって面白いです。また、古い楽器ならではの一音だけ鳴らしたときの音の響き方の違いを感じると、楽器が経験してきたものは音に出るのだなと感じます。一方で、どんな楽器で演奏しても、結局は演奏している人の個性が出るので、メンテナンスの手間がかからず、音程も合っている新しい楽器を選ぶ選択肢もある。持ったときのビジュアルも含めて、どんな楽器を選ぶかはミュージシャンの個性です。機能性重視で選ぶ人もいれば、ヴィンテージにこだわる人もいる……服と同じですね。
自分の音楽で“そこでしか体験できない空間”をつくる
—PE’Z時代は、海外公演や野外フェスなど、何万人という観客の前で演奏されてきました。ソロになってからは、カフェやリノベーションされたスペースで演奏する機会も多いそうですね。
何万人というお客さんを集めるライブでは、その環境じゃないと絶対に出てこない音や雰囲気がありますね。ひとりでやろうと思って実現できるものではなく、まずはお客さんが数万人集まらないといけないし、収容する場所も聴かせる設備も必要で、そこでステージに立つためには、努力だけでなく運や巡り合わせが必要です。大きなステージに立つと、何万人という観客が出す“気”のようなものがステージまで伝わってくるから、バンドもその気持ちの大きさと同じ熱量の音楽を返していく。そういう音楽をやっているときの幸福感やお祭り感を味わえたのは、とてもラッキーでした。
一方で、たとえば、弾き語りで何万人ものお客さんを相手にするミュージシャンがいるでしょう? そういう人はきっと、カフェで5人のお客さんを相手にしても良い空間をつくると思うんです。言葉のない楽器だけの演奏では同じようにはいかないですが、僕のミュージシャンとしての理想像はそういうイメージに近いものです。
—数万人の前で演奏するという普通の人では味わえない経験をしてきたから、真逆にある価値も大事にしているのですね。
お祭りの非日常感は気持ちが高揚して楽しめるけれど、普通の暮らしをゆるやかに送るという日常的な幸せもありますよね。僕は、小さな空間でもいいので、その場所のその時間でしか成し得ない、暮らしで言えば、日常的な幸せに当たるような空間を味わえるライブも大事にしています。それに、音楽という視点だけで見たら、たとえば僕のことを知らない人が、僕が演奏しているカフェの前をたまたま通りかかって、その音楽を聞いて少し気分が上がって家に帰れたら、それは純粋に僕の音楽に惹きつけられたのだと言える。それは、「○○バンドの○○さん」という肩書きがないところで勝負できている、と感じられるんです。
ひとりのミュージシャンとして考えるのは、人生のシチュエーションによって、どこでライブをやりたいのかという欲求は変わるということ。今の僕は、お客さんとの距離が近い場所で演奏する機会に恵まれていて、技術レベルを含めてそういった空間をつくり上げるチャレンジができる。それは僕にとって、挑戦しがいのあることです。
—今年の門田さんは、『BARB』の活動以外に、七夕と年末に開催する『JAW meets PIANOMAN』のライブや、ソロツアー『JAW DROP TOUR』も控えています。ひとつひとつのライブによってセッションする相手も場所も違うという状況で、門田さんが届けたいものはなんですか?
どんなライブでも考えているのは、お客さんに良い空気と良いバイブレーションを感じて帰ってもらいたいということです。基本的には場所やセッションの相手が違ってもこの考え方は変わりません。もちろんライブは音楽が軸ですが、空間そのものの魅力や、食事、ドリンクから、そのバイブレーションを感じても良いと思うんです。
—近年の技術革新で、音楽が鳴っている場所にいなくてもライブを体感できるようになりました。音楽体験の幅が広がっているように感じます。
最近のライブを見ていて思うのは、大きな会場でステージから遠い席の人は、スクリーンに映し出されたライブを見ていることが多いということ。会場技術が進んでいると、そのスクリーンをARで観れて、ライブ会場にいながら映像作品を観ている。さらにそれをテレビで観ている人もいて、ライブがオンタイムで作品になっていたりします。しかし、ミュージシャンが至近距離で出す生音や空間に音が響いていくといった繊細な体験は、電波にして届けられるものではない。そういう流れのなかでライブがつくる空間が貴重になっていくのは必然だし、ライブ体験に取って代わるものはないと思うんです。
以前、知り合いのミュージシャンに「ジョーくんの音には気配がある」と言われたことがあって、それがとても嬉しかった。僕が届けたいのは、僕とお客さんがつくりだす空間の“気配”であり、それを感じ取ってもらえるような体験を、ライブのなかにひとつでも多く残していきたいです。
良い曲づくりは、良い暮らしの延長にある
—私たちからすると、ミュージシャンの暮らしは謎に包まれているのですが(笑)、門田さんはどんな生活をしているのですか?
すごく波のある生活です。ツアー期間はひたすら移動の繰り返しで、ツアーが終わると地味で(笑)、ずっと家にいて練習と創作をしています。どちらが良いも悪いもありませんが、振れ幅は大きいですね。
—仕事とはいえ、ツアーで全国を回っているときは旅の気分になりますか?
日程と場所しだいです。お客さんが集まりやすいのは都市の駅から近い会場ですが、全国ツアーといってもそういう会場ばかりだと、新幹線の駅から会場までは似たような都市の風景が続いています。そんなツアーだと、「今は何県にいるんだっけ?」「これからどこに行くんだっけ?」という感覚になります。
ソロツアーの『JAW DROP TOUR』はある意味集客を度外視しているようなところもあって(笑)、人が来にくいところも会場にしています。佐賀県の嬉野では、電車の最寄り駅がないお茶畑の街の中の老舗温泉旅館でライブをしたのですが、お客さんは、主要都市から1日数本出ているバスを乗り過ごすと会場にたどり着けないというドキドキ体験がある(笑)。会場に行くまでの体験も、楽しんでほしいです。
—そういう強烈な体験はお客さんの心にもずっと残る思い出になりますね。なによりも、門田さんが楽しそうで羨ましいです!
ソロツアーはステージをつくるのがひとりなので大変ですが、独奏の音楽には独特の良さがあるので、僕自身も楽しんでいます。地方の美味しいものを食べたり、地元の人と出会ったりと、その土地のエネルギーをもらっています。
コーヒーでスイッチをONにする
—門田さんは、どんなふうに曲を創作していくのですか?
曲の作り方はいろいろあると思いますが、僕は、朝のコーヒーを淹れて、犬の散歩をして、サックスの練習をして、食事をして眠るといった普段の暮らしの延長から、アイデアの核を発見することが多いです。その核に、僕の経験や聴いてきた音楽、会話の中で心の引き出しに入れておいた言葉といったものをクリエイトして枝葉をつけていくと、良い曲になる感覚がある。核部分にモチーフがあって、その核を自分自身がどれだけ大切にしているか、自分なりのインスピレーションが含まれているのかどうかを問い続けます。その核に自分の気持ちが寄り添っているほど、どんなふうに枝葉を展開しても良い曲になるんです。
—門田さんの場合は、その“核”が、日常生活から発想されているということですね。たとえばライブの直後は興奮状態にあるでしょうし、暮らしのなかでストレスが溜まることもあると思います。そんなときは、どうやって気持ちをリセットするのですか?
普段の生活で、感性のセンサーを正常に動かすことを大切にしているので、日々のルーチンを意識して回すようにしています。自分で決めた手順でコーヒーを淹れるのもルーチンのひとつで、淹れたコーヒーが美味しくないときは、どこかで自分のバランスが崩れていると感じます。そういうときは、長く体を動かすなど、心と体をリセットする時間を持つようにしています。
—門田さんは、かなりのコーヒーマニアとお聞きしています。コーヒーに目覚めたのはいつですか?
最初に飲み始めたのは高校生です。いわゆる“中二病”のはじまりですね(笑)。コーヒー豆やポットにこだわっていて、誕生日には、コーヒーミルとポットを買ってもらいました。家で父親が豆を挽いてコーヒーを淹れていたし、近所の喫茶店のマスターがコーヒーを淹れる仕草がかっこよくて影響されました。
—家では必ずコーヒーを飲みますか?お気に入りのコーヒーはなんでしょう?
お気に入りは、野性味を感じるエチオピアの豆です。エチオピアはコーヒー発祥の地と言われていて、飲んでいて原始的な味がするというか、最近よくある洗練されたコーヒーとは真逆の豆という感じが好きでよく飲んでいます。
僕にとってコーヒーを淹れる動作は“儀式”になっていまして(笑)、仕事をするときは必ず家でコーヒーを淹れて飲みます。逆に、「今日は1日休もう」という日は、コーヒーは飲みません。僕のなかでは、コーヒーを淹れるのは仕事感覚になっているんです。
—門田さんは、コーヒー好きが高じて『JAW BLEND COFFEE』というオリジナルのコーヒー豆も販売されています。この豆が好評で今年も販売されるということですが、このままいくと、いつかこだわりのコーヒーを飲ませる“門田カフェ”をオープンしていそうです(笑)。
そのときは、古民家をリノベーションしましょうね(笑)。僕は何かを好きになると、行き着くところまでいかないと気が済まないんです。コーヒー豆の販売についても、そこで商売をしようとは思っていなかったけれど、美味しい豆にこだわった結果として、周りの人たちにも飲んで欲しいというところから始まっています。
—ひとつのことを追求してきた人は、もうひとつの道を見つけても突き詰める速度が早いと思うんです。それだけ集中して物事に取り組めるということだと思うのですが、今日はお話を聞いて、とても豊かな人生を送っていらっしゃるなと羨ましくなりました!
門田“JAW”晃介さんのお気に入り
肩肘を張らないセンスの良さが魅力
家具や寝具から生活雑貨までを販売するインテリア&ライフスタイルショップ。門田さんが20年来、通い詰めているカフェ『デイリーズカフェ』が併設されており、まちの人々の憩いの場になっている。2019年5月26日には、デイリーズカフェで門田さんのソロツアー『Jaw Drop Tour 2019』の東京公演が開催される。ライブ当日は、門田さんのオリジナル限定ブレンドコーヒーも販売される予定。
デイリーズ
東京都三鷹市下連雀4-15-33 2階
TEL 0422-40-6766
営業時間 11:00~22:00 カフェ営業時間 11:30~22:00 (ランチ15:00ラストオーダー) (ディナー21:15ラストオーダー)
定休日 年中無休(年末年始を除く)
www.dailies.tokyo.jp
練習用の椅子にも、とことんこだわりたい
飛騨高山に移住した門田さんの幼馴染が手がける『まる工芸』に依頼して、オーダーメイドでつくったサックス練習用スツール。門田さんの体を計測し、サックスを吹くのに座ってちょうどいい高さが計算されている。足の設置の仕方や座面の大きさなど、門田さん自身がどんな態勢でサックスを吹いているのか把握しやすいようにつくられている。
プレーヤーの発想が生んだ、負担が少ないストラップ
2019年春に一般販売される、門田さんオリジナルのサックスストラップ。一般的に販売されているストラップは首からかけるものがほとんどだが、門田さんが考案したのは、両腕をくぐらせるハーネスタイプのストラップ。脱着がしやすく、革製品のため裏表がわかりやすいのも特徴。門田さんがハードな練習で体への負担が重くなってきた時期に、なるべく体に負担をかけないストラップを追求して生まれたもの。