ドイツのくらし【前編】”手を入れて環境先進住宅をつくる”
“日本とよく似た国、ドイツ”
世界一の環境先進国と言われるドイツ。
そんなドイツには、実は日本と似ている点がたくさんあります。
例えば・・・
国土面積がほぼ同じ
経済力(GDP)は、日本3位・ドイツ4位 (出典:IMF)
資源が少ない国
工業・技術先進国で産業構造が似ている
人口動態のピラミッドが似ている
日本と似ている点がたくさんあるドイツが、「環境先進国」と呼ばれるに至った理由。その答えのひとつが、2010年に策定された国のエネルギー戦略でした。そこには、2050年までにドイツが進むべきロードマップが明快に提示されています。
「①建物における熱の消費量を削減(=つまり、建物の省エネルギー化)」
「②エネルギーの高効率での利用(=例えば、電気自動車へのシフトやコージェネレーションシステムと呼ばれる発電の排熱をお湯として利用するしくみなど)」
「③再生可能エネルギーへのシフト(=例えば、風力・太陽光・地熱発電・木質チップの利用など)」
この3点をこの優先順位にて実行し、2050年までにエネルギー消費量を50%削減しよう、という計画実行があります。優先順位も、費用対効果等によって定められてます。「建物の省エネルギー化」はその中でも大きな位置付けにあります。
90年代後半〜2000年代前半にかけて、新築住宅への優遇政策は打ち止められ、結果ドイツの新築着工件数は日本の1/10以下。意図的に供給量を調整している点は、市場原理に任せて供給がなされる日本の状況とは大きく異なっています。
新築供給の代わりに存在感を示すのが、既存住宅の省エネ改修です。既存ストック約4020万戸のうち、毎年約40-50万戸(1%相当)が省エネ改修されています。ドイツのリフォーム全体市場は約25兆円/年、そのうち省エネ関連市場は約7-8兆円/年。この数字は2013年の日本のリフォーム全体市場とほぼ同規模です。ドイツの環境先進国たる所以がわかります。
環境先進国の実情を探るべく訪れたのは、ドイツ南西部を中心に「フライブルク」「カールスルーエ」「フランクフルト」という3都市。環境に配慮する取り組みとその根底にある合理的な考え方を学び、豊かな暮らしをつくるヒントを探します。
“省エネは集合住宅から”
【事例1】「団地省エネ改修1」ヴァインガルテン団地(フライブルク市)
フライブルグ市は人口約22万人の学園都市。日本でいうとつくば市のようなイメージでしょうか。この街では、高度経済成長期(1965~80頃)に建てられ、行政が所有する団地群の省エネ改修事例をレポートします。
建物1棟まるごと断熱性能を上げる工事を行っていますが、特に注目すべきはその大胆な手法。
室内床とバルコニー床の躯体がつながる部分は、ヒートブリッジ(熱橋)という熱が逃げやすい部分になるため、「既存バルコニーを室内にとりこみ」、建物外側からPCコンクリートの新設バルコニーを後付けする、という大胆な改修をしています。
ドイツでは、住宅の省エネ改修においては戸建て住宅よりも共同住宅の優先度が高いとされています。理由は外壁面を中心に行う断熱工事において、戸当たりの外壁面積が少ない共同住宅の方が、費用対効果が高いため。省エネ改修というと戸建て事例が圧倒的に多い日本とは大きく違います。
さらに、多くの区分所有者からなる分譲住宅よりもワンオーナーの賃貸住宅のほうが決断も容易であるという理由から、分譲住宅よりも賃貸住宅の優先度が高くなっています。
戸建てよりも共同住宅、分譲よりも賃貸、と優先順位が明確なのは、冒頭でお伝えしたエネルギー戦略における優先順位の考え方に共通します。環境に対して、「なんとなくやったほうがいいから」「なんとなくやらなきゃいけないから」という感情的な動機ではなく、合理的な考え方で環境と向き合う姿勢が随所に感じられます。
“価値ある建物を住み継いでいく”
【事例2】「団地省エネ改修2」ダンマーシュトック団地(カールスルーエ市)
こちらは、先ほどのヴァインガルテン団地(1965〜80年頃)よりもさらに古く1930年代に建てられた団地の省エネ改修事例です。
特筆すべきは、この団地がバウハウスの創立者であり、近代建築を代表するドイツの建築家グロピウスの設計であること。
バウハウスは、20世紀初頭のドイツで生まれた建築・美術の学校の名前ですが、その思想でつくられた、建築・家具・プロダクト・グラフィックなどの世界に多大な影響を与えた様式、ムーブメントでもあります。合理主義、機能主義ともいわれます。そんな歴史的に価値ある建物を、現在も改修を繰り返しながら、多くの人々が暮らしています。
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