当たり前を問い直し、時を受け止める住まいへ|住まいのヒント

Housing Tips
暮らし再発見マガジン のくらし by ReBITA
住まいのヒント

当たり前を問い直し、時を受け止める住まいへ

目 次
  1. 1時を重ねたマンションと家具が出会った
  2. 2「繋ぎ手の杜」が生まれるまで
  3. 3建築と家具を繋いで、ひとつの風景にしたい
  4. 4つくり手の思いを、まっすぐ住まい手へ届ける

2025年11月、リビタはリノベーションマンションの協業型プロジェクト「icco+c(イッコプラスシー)」を発表しました。これは、多様な外部パートナーとともに新たな価値創出を目指す新たな取り組みです。そのフラッグシップ物件として誕生したのが、マルニ木工をパートナーに迎えた「代々木の杜ハイツ」。ここでは、マルニ木工の祖業であるクラシック家具を現代の視点で再構築した「Tradition Project」のディレクターを務める相馬英俊さん、一級建築士事務所knofの永澤一輝さん、リビタの濵中亮輔による3社対談を通して、時を経て生まれる新たな価値について、そして、本当に住み手に寄り添う住まいづくりとは何かを紐解いていきます。

プロフィール

マルニ木工Tradition Projectディレクター 相馬英俊(写真左)
金沢生まれ。福岡で幼少期を過ごし、その後東京へ。工藝・インテリア等のバイヤーを経て、コンセプト設計やディレクション・MDなどを行う。住まいは、古家を改修した真鶴の家とリノベーションした東京のマンションの二拠点暮らし。

一級建築士事務所knof 永澤一輝(写真中央)
1984年生まれ。岐阜県大垣市出身。京都工芸繊維大学卒業、同大学院修士課程修了。2016年菊嶋かおりとともに一級建築士事務所knofを設立。

株式会社リビタ 濵中亮輔(写真右)
2018年にリビタに入社。プロジェクトマネージャーとしてリノベーションマンションの仕入・企画・販売を担当。

時を重ねたマンションと家具が出会った

――今回のプロジェクトが生まれたきっかけを教えてください。

株式会社リビタ 濵中亮輔(以下、濵中) マルニ木工さんの「Tradition Project」のレセプションに行って、その世界観に圧倒されたのです。話を聞くうちに、昔からつくってきた家具を新しくするのではなく、創業以来培ってきた思考や技術を継承して、その延長線上に成立しているプロジェクトだと知って、魅力を感じました。マルニ木工さんとは、2024年に「東急ドエルプレステージ代々木公園」のプロジェクトで協業しましたが、「次はTradition Projectを空間に落とし込みたい」という声が社内で多く上がり、もう一度ご一緒しませんかとお誘いしました。

――マルニ木工の「Tradition Project」は、どんな経緯で生まれたのでしょう。

マルニ木工Tradition Projectディレクター相馬英俊さん(以下、相馬) Traditionシリーズとは、マルニ木工が1966年から発表してきたフランスやイギリスの伝統的な家具様式を取り入れた家具の総称です。マルニ木工 山中洋社長の「祖業に立ち返ってTraditionシリーズを再構築したい」という思いからTradition Projectが始まりました。

Tradition Project
写真提供:株式会社 マルニ木工|Photograph:市川昂佑|アートディレクション:ミズタユウジ

――1973年竣工の代々木の杜ハイツ、1966年から続くTraditionシリーズ、どちらも長い時を経て存在している点で共通しています。代々木の杜ハイツはヴィンテージマンションと呼ばれますが、ヴィンテージになりうる条件とはなんですか?

濵中 明確な定義がないので難しい問いですが、不動産の視点から考えると、3つの要素があると思います。まずは、立地環境が良好であること。次に、建物の維持管理が行き届いていることです。この建物を住み継いでいこうという意識で住人が管理するから、時間が経っても愛され続ける。最後に、つくり手が明確な思いを持って十分に考え抜いて建てたかどうかです。いまヴィンテージマンションと呼ばれている多くの建物は、開発当初から建築家が深く関わって、「ここでこんな暮らしをしてほしい」という世界観が示されています。立地やデザインは時間が経つと変化する部分もありますが、つくり手の思いは本質的に変わりません。この3つの要素が揃うことで、ヴィンテージマンションと呼ばれる存在になると思います。

一級建築士事務所knof永澤一輝さん(以下、永澤) 代々木の杜ハイツが建てられた当時、おもしろい建物はたくさん存在していたはずです。そのなかで50年以上経って「ヴィンテージ」と呼ばれるようになった建物は、次の世代に手渡したいと思わせる力を持っていた。マルニ木工のTraditionシリーズも同じように、当初の意思を尊重しながら、相馬さんが丁寧に時代に合わせてアップデートされているのを感じます。

「繋ぎ手の杜」が生まれるまで

――デザインコンセプトの「繋ぎ手の杜」は、どんなふうに生まれたのですか?

濱中 最初の打ち合わせで相馬さんが持ってきたコンセプトシートに、「繋ぎ手」という言葉が書かれていたんですよね。

相馬 このマンションのような集合住宅は、住み手一人ひとりの意識が積み重なった“集合知”のような存在だと思うんです。今回は、その積み重ねを次へ繋いでいきたいという思いがありました。すでにある古いものの価値を見出して、その固有の個性を引き出していくためには、歴史を遡ることがもっとも誠実な方法だと思うし、住まいというフィールドで取り組むべきテーマだと感じました。ただ、「繋ぎ手」という言葉だけでは味気ないので、手書きで1本の線をすっと引いて、そのイメージをコンセプトシートに描いたんです。

永澤 相馬さんが描いたその線が、なんとも言えない表情をしていて。見たときに、アンリ・マティスの《ダンス》が浮かびました。人が輪になって手を取り合う絵が、このプロジェクトを表しているように感じたんです。

相馬 1本の線から《ダンス》を想起して、そこからコンセプトへ展開していく流れは、とても素敵でしたね。堅苦しい打ち合わせを重ねるのではなく、自然なやり取りから形となっていきました。

――「繋ぎ手の杜」というコンセプトを、空間として具体的に表しているのはどこでしょう。

永澤 建築当初の配置図を見ると、代々木八幡宮の杜と敷地内の樹木との関係性を大切にしていたことが伝わってきます。そして、大きく育った樹木が今も残っているのは、長く丁寧に管理されてきたヴィンテージマンションの特徴です。建築当初の思想を敷地だけでなくて住戸内にも取り込みたいと考えて、外壁に使われていたタイルの素材感を室内へ引き込み、外部と内部の境界を曖昧にしています。

永澤 もともと使われていたガラスブロックを、寝室とLDKの境界に取り入れました。建築当時はオイルショックの影響で、本来の意図どおりにガラスブロックを使えなかった事情があったと想像しています。今回は竣工当初の思いを繋いで、寝室から差し込む光をリビングへ届ける役割を持たせました。

濵中 元の間取りで和室だった場所は、小上がりの和室にしています。襖を開ければリビングと一体になるオープンな空間になり、小上がりに腰掛けると縁側のような居場所にもなる。今回のプロジェクトは、元の住戸を物理的に残すというより、建築当初の考え方を引き継いでいる部分が多いですね。

永澤 われわれなりに「この建物は、当初どんな暮らしを目指したのか」を深読みしながら設計しました。1973年は高度経済成長期の名残で、社会全体で効率性が重視されていたと思うのですが、このマンションはむしろ、ゆったりとした暮らしを目指したと感じたんです。

相馬 代々木の杜ハイツ自身が当時なりたかった姿に、もう一度このチームで戻してあげたい、という気持ちでしたね。

永澤 「繋ぎ手の杜」というコンセプトに通じますが、このマンションが本来目指していた姿を読み解いて、繋いでいく。現代の技術や素材を使ってその姿を叶えることも、今回のプロジェクトの大切なテーマだったと思います。

建築と家具を繋いで、ひとつの風景にしたい

――キッチンの間柱に組み込まれた、スツールの脚が印象的です。

永澤 マルニ木工の「エジンバラ」スツールがキッチンカウンターに並んでいます。このエジンバラの脚を、キッチン構造上どうしても太くなってしまう壁の小口に設えました。リビングに入ると、まずスツールが目に入り、その奥に同じ意匠の柱が見えてきて、キッチン空間の一体感が生まれています。

相馬 スツールの脚を柱に使うと聞いたとき、「すてきなアイデアだな」と思いました。

永澤 今回はマルニさんにダイニングテーブルを造作していただいて、そのテーブルのモールディング材(装飾材)を、カウンターキッチンや天井、縁側にも使っています。スツールの脚と柱も同様ですが、目に入る要素をバラバラにせず、シームレスにつなげることで、建築と家具の境界をできるだけなくしていきたいと考えました。

――なぜ、建築と家具の境界をなくしたいのでしょう。

永澤 建物をつくってから家具を選ぶ、もっと言えば、土地を取得してから建築を考えるといったように、不動産と建築と家具はどうしても工程が分断されてしまう業界的な状況があります。ここを使う人にとっては関係ないのに。そんな中で、今回の代々木の杜ハイツのように、最初から家具も含めて一体で設計を考えられるのは幸せなことです。その状況を最大限に引き出すために、家具と建築の境界をなくす作業をしたいと考えました。結果生まれる空間は、建築だけを考えてつくられたものとは違っているはずです。

つくり手の思いを、まっすぐ住まい手へ届ける

――このプロジェクトを終えた感想を聞かせてください。

永澤 ほんとうに楽しかったです。相馬さんの「ファッショナブル」という言葉が、印象に残っています。われわれの中には「建築はタイムレスであるべき」という固定観念があって、そこからはみ出したいと思いながらも、「やっぱりタイムレスでなければ」と考えてしまっていた。今回は、「ここはファッショナブルでもいい」と思考が切り替わって、空間をどんどん軽やかにできました。住まい手にとって、楽しく暮らせる余白を増やせたと思います。プロジェクトを通して、自分たちの枠を越えるヒントをたくさんいただきました。

相馬 どれだけミーティングを重ねても、まったく違和感が出てこないんですよね。プロセスが進むにつれて、ひたすらアップデートされていく感覚があって「あ、こうきたか。確かにそれはいいね」と、毎回素直に思える。とても楽しいプロジェクトでした。

今回、リビタさんから提示された条件は、安全性や気密性といった住宅性能を除けば「最低でも2部屋つくること」だけでした。一般的な住まいづくりは、子ども部屋は子どもの人数分、寝室は何平米以上といった数字から考えがちですが、今回はそうした前提の自由度をリビタさんが広げてくれました。今回のプロジェクトの本質は、住まいに対する固定概念をいい意味で崩していけたらという姿勢が、3社の根底に共有されていたことだと思います。

濱中 私たちは、リノベーション済みマンションの新ブランド「icco icco」を立ち上げました。一戸一戸の住まいと正面から向き合っていこう、という思いを込めたブランドですが、背景には住まいへの「愛着」が大切という考えがあります。住まい手に長く住んでいただくのはもちろんですが、手放すことになっても、愛着を持って暮らした住まいは、次の住まい手にもきっと長く受け継がれていくはずです。環境配慮の観点から見ても、愛着を持って長く住み続けてもらうことが、究極のエコだと思います。誰かの琴線に触れるような特徴ある住まいや、今回の「icco+c」のように、外部パートナーとの協業によって、その座組でしか生まれない住まいをつくることで、はじめてユニークな価値が生まれると思っています。

濱中 “普通”ではないぶん、届くお客様の数は限られるかもしれないけれど、気に入ってくれた方には長く愛していただける。その価値を信じて今回のプロジェクトに取り組みましたし、これからの住まいづくりでも、この姿勢を変えずにやっていこうと思います。

――最後に、この住まいで暮らす人に伝えたいことはありますか。

永澤 knofが設計をするときに目指したいのが、「静かで騒々しい」空間です。たとえば森の中は静かで落ち着きますが、立ち止まると鳥や虫の声が聞こえて、姿は見えなくても気配やうごめきを感じる。その感覚が好きなんです。自分が主役でありながら、同時に森の一員のような距離感でいられる空間が理想です。

この住まいで言えば、家具をつくったマルニ木工の職人さんやタイルを焼いた職人さんなど、直接は見えなくても、住まいづくりに関わった人たちの息づかいを、ふとした瞬間に感じてもらえると思います。まずは、この住まいを気に入ってもらって、その奥にストーリーがあることを、頭で理解するよりも感覚として受け取ってもらえたら嬉しいです。

相馬 ぜひ、その人らしく暮らしてほしいですね。この立地や空間を生かした最大限広がりのある住まいになっているし、日常のいろんな場面に応じた暮らしのシーンを広く受け止めてくれる余白も用意されています。あとは住まい手の感覚で、その人らしく暮らしてほしいです。

濵中 お二人が話してくださったことが、すべてです。私たちは、プロジェクトに関わる全員が前向きに楽しめることを大切にしています。事業主として条件を固めすぎず、それぞれの個性がぶつかり合って、アイデアを出し合い、思考と想いを昇華していく。結果的につくり手全員が納得できる住まいになれば、あとはその想いを、まっすぐに住まい手へ届けるだけです。

▼+Context企画ページ
+「マルニ木工」 プロジェクト
https://sumai.rebita.co.jp/context/marunisecond/
https://sumai.rebita.co.jp/sale/y-haitu/

▼関連記事
R100 tokyo curiosity記事
デザイン思考|Design Thinking
「古くて新しい、マルニ木工「トラディション」が生み出す愛着」
https://r100tokyo.com/curiosity/design/marunitradition/

related SERVICE
関連のサービス
EVENT & NEWS
イベント&ニュース

ReBITA SERVICE
リビタのサービス

▲ 当たり前を問い直し、時を受け止める住まいへ|住まいのヒント