好きなことに没頭する暮らしとは
大黒健嗣さんが「PATH高円寺」の壁画に込めたエール
高円寺を拠点に活躍するアーティスト、アートディレクター。2016年、アートホテルプロジェクト「BnA HOTEL Koenji」を共同代表として立ち上げ、東京、京都をはじめ、4拠点を展開。都市の外壁に壁画を描く「Koenji Mural City Project」のプロデューサーとして、高円寺をはじめ、虎ノ門や中野などでプロジェクトを手掛けている。2021年、大黒株式会社設立。アートを通じて高円寺のまちづくりに取り組む「みんなのまちアート実験室」の主宰など、さまざまなかたちで地域を盛り上げる活動を続けている。
「めいっぱいの自分らしさを」をコンセプトに、自分の趣味に没頭する暮らしを楽しみ、“好きと暮らす”住まいを実現するリノベーション賃貸住宅「PATH高円寺」が2026年3月に入居を開始します。「PATH高円寺」では、高円寺を拠点にアートやデザインの分野で幅広く活動する大黒健嗣さんが、共用部と専有部1室の壁面アートを手掛けています。アートを軸に、まちと人をつなぐ活動を続けてきた大黒さんに、高円寺への想いや、「PATH高円寺」のプロジェクトを通して表現したことなどを伺いました。
パブリックアートを通して、
高円寺のまちと人をつなぐ活動
――大黒さんは、アートとビジネスを掛け合わせながら、高円寺のまちの新しい楽しみ方や経済の仕組みをつくる活動を続けてこられました。プロジェクトに取り組む上で大切にしていることを教えてください。
大黒 自分たちの創造性が発揮されることを最も大切にしています。僕たちが手掛けるプロジェクトの関係者グループを「アートプロダクション」と呼んでいて、このジャンルを「スポーツ」と同じくらい、身体性やチームワークが求められるものとして捉えているのです。美術館やギャラリーで飾ったり、売られたりするものだけがアートではなく、創作する過程やそこから生まれるコミュニティを育てていくこと、派生するものや出来事など含めて一連の活動だと考えています。とくにパブリックアートの場合は、地域との関わりが必ず発生しますから、関わる人が「なぜこれをやるのか」という目的を共有することが重要です。僕自身もプロジェクトを進めながら考えることが多いのですが、ものづくりの過程で生まれる悩みや課題、目的を模索していく意識そのものを、丁寧に観察しながら共有していくことに意味があると思っています。
活動の軸となる会社としてのパーパスは「未来のあたりまえを、今から始める。」です。人の手でものをつくること、人の好みや癖なども含めて、誰かと一緒にものやことをつくり出し、その過程を共有すること自体が、生きる喜びにつながっていく。それが未来のあたりまえになると、僕たちは考えています。
――高円寺で多くのプロジェクトを展開されていますが、どのような事例がありますか?
大黒 代表的なものとして「Koenji Mural City Project」があります。「Mural」とは、建築物の外壁に描く巨大な壁画アートのことで、高円寺を壁画のまちにしていくため、さまざまなアーティストと協業して、パブリックアートとして壁画を描いています。現在まで高円寺で12ヶ所の壁にアートを展開。他の地域でも同様の試みに取り組んできました。壁画はさまざまな人の目に入り、影響を与えるものなので、その場所にどのようなアートがあるべきかなどのニーズを、アーティストやまちの人たちと一緒に考えていきます。壁画を描くまでには、地域の皆さんの理解を得て、壁面の所有者に納得してもらい、行政の許可を取るなど、さまざまな方とコミュニケーションを取る必要がある。一見すると面倒に思われがちなそのプロセスこそが、とても面白いのです。多くの方と関わりながら、地域のニーズを言語化していき、見えていない課題をすくい上げ、かたちにしていく。未来にメッセージを届けていくような感覚があります。
――壁に描くアートと聞くと、アーティストの作家性やインスピレーションによって生まれる印象がありましたが、「Koenji Mural City Project」は、地域の方と一緒につくっていく感覚なのですね。
大黒 自分が住んでいる高円寺でも始めたことが影響していると思います。例えば、広告のようにいきなり情報だけがまちに投げかけられると、住民の立場からすれば、違和感が生まれることも。壁画はそのようなものではなく、住みよい環境をつくる目的で描くものだと思っています。壁画を描く前に、商店会や町会で地域説明会をするのですが、そこで場所の歴史とか地域の人の捉え方などをお聞きすると、その場所に対する想いが必然的に生まれてきて、そこからモチーフやアイデアが出てくることもあるし、未来にどうなってほしいかを考えることになります。ワークショップみたいな感じで、商店街の人同士が考えを理解し合ったりする場面もあり、壁画をつくることで地域のビジョンが整っていくのです。プロジェクト自体がそのようなきっかけを生み出せたらいいと思うし、過去、現在、未来の時間軸で話し合いができる貴重な機会にもなるのではと感じています。
自分の世界に集中していくための、
ワープトンネルのようなアート
――リビタから「PATH高円寺」のアート制作の依頼を受けたとき、どのように感じましたか?また共感した点などがあれば教えてください。
大黒 僕の活動は、高円寺でこそ一番輝けると思っています。 場所の特性や多くの住民のキャラクターなども理解していて、自分自身も住民でもあり、自然な流れで自分が関わることになるのだろうなと感じました。「PATH高円寺」も、おしゃれにするためにアートを取り入れるのではなく、何のためにやるのか、そのためにどういうアプローチを取るかという目的が丁寧に整理されていて、自分たちがこれまで手掛けてきたプロジェクトにも通じるところがあります。リビタのチームのメンバーが全員でアトリエに来てくれて、関わる人たちの顔やキャラクターが見えるコミュニケーションが取れたことも、よいプロジェクトになるという期待につながりました。
――「PATH高円寺」は、「めいっぱいの自分らしさを」「趣味に没頭する暮らしを最大限楽しむ」というコンセプトの賃貸住宅です。その空間に描くアートに、どのような想いを込めたのか教えてください。
大黒 賃貸住宅ということで、人が暮らす場所であることを意識しました。趣味の要素をモチーフにするとか、説明的なことを描くよりも、壁画があることで異次元に吸い込まれるような、時空を超えて心がスッと整うような、精神的なモードを切り替える作用が働くものになるといいなと思いました。
――今回は共用部と専有部の1室に壁画を描かれますが、まず共用部のアートはどのように考えていったのですか?
大黒 リビタのチームメンバーの皆さんにも、10年後に「PATH高円寺」がどんな場所になっていてほしいかを考えたりする、ワークショップのような時間を取ってもらいました。そのプロセスも参考にしながら、趣味に没頭する人たちが自分の世界に集中できるように、ワープトンネルみたいなイメージを考えました。
住まいに帰ってきたときに、いつも目に入るものだから、刺激的なものをつくるのではなく、気持ちいい曲線が流れて、美しいグラデーションが連なっていくようなアートで、抽象的なラインと色を表現しました。何度も手でラインを描いて、「これが気持ちいい」みたいな感覚的なものを重ねて、いろいろなパターンを試しましたね。
――専有部の1室は、これから描かれるとのことですが、どのような壁画になる予定ですか?
大黒 僕自身が実際にその空間に滞在し、趣味に没頭している住まい手のような状態を疑似的につくった上で、そこで浮かんできたイメージを描いていきたいと考えています。実際にその空間の中で作品を制作して、その制作風景の記録もプロジェクトの一部にできればと。共用部の外壁についても作画案は決定しているのですが、実際に描くのはこれからなので、外壁を描きながら、部屋に戻ったときのオフモードを自分で体験しながら描いていこうと思っています。たくさんの人の想いが集まって、その1室がつくられているからこそ、それをどう盛り込み、趣味に没頭する世界観をどう表現するか。楽しみながら悩んでいるところです。
自分らしい暮らし方を応援する
これからの住まいのかたち
――「PATH高円寺」に期待することや、入居者へのメッセージなどがあれば教えてください。
大黒 一瞬でピンとくる人が選び、暮らす住まいになると思います。「こういう空間を探していた」という感じで、コンセプト通り、自分の好きな世界に没頭したい人が集まってくるのではないでしょうか。そんな生活に誇りをもっている人が入居してくれたらいいですね。僕もそういう人間なので、僕がプロジェクトに参加したことで、同じような人へのエールとなって、「PATH高円寺」を住む場所として選んでもらえたら嬉しいです。
住宅は1人ひとりの暮らし方に合わせて、すごくたくさんのパターンが必要だと思うけれど、一般的には同じ間取りで量産されていくことが多い。「PATH高円寺」のようにターゲットを絞って、自分らしく暮らしたい人たちを応援するような賃貸住宅のつくり方が、もっと広まっていくといいなと思います。
長年にわたり高円寺のまちと向き合い、地域のコミュニティ形成や魅力を高めることに取り組んできた大黒健嗣さん。「PATH高円寺」という個性の輝きを応援するキャンバスに、どのような壁画が完成するのか、期待が高まります。趣味やものづくりに没頭したい人には、うってつけの環境になりそうです。
▼PATH高円寺
https://path-pass.com/koenji/