ドイツのくらし【後編】”手を入れて環境先進住宅をつくる”
“みんなでつくる、環境先進都市”
環境先進国ドイツの取り組みをめぐる取材。3つ目は、ソーシャルエコロジー住宅。
【事例3】「ソーシャル・エコロジー住宅地」 ヴォーバン住宅地(フライブルク市)
フランス軍の軍用地跡地をフライブルク市が購入し、1997年~約10年かけてソーシャル・エコロジー住宅地として開発した約5,500人が暮らす街です。市は個人や建築グループ(コーポラティブ ハウスや、社会福祉住宅をつくるために出資者が集まる組合など)へ街の70%の土地を優先的に売却。そして残り30%をディベロッパーが開発した経緯もあり、住民ひとりひとりが自分ゴトとして街づくりに参加し、魅力をつくりあげている住宅地となっています。
新興住宅地であるものの、多様な建物のデザインを受け入れるゆるい空気が流れるこの街の魅力のひとつが、車に依存しない暮らし方。
車を所有する人は、住宅地の入り口につくられた立体駐車場の権利を購入しなければならないことに加えて、路面電車が発達しているこの街では、車に乗るよりも路面電車に乗るほうが利便性がよい!という暮らしの考え方が定着しています。そのため、カーシェアの利用も多く、2003年に実施されたアンケートでは、ヴォーバン住宅地への入居を機に57%の人々が自家用車を手放し、自動車普及率85台/1,000人というデータがあるほどです。
※ヴォーバン住宅地については、村上敦氏の著書「フライブルクのまちづくり」(学芸出版社)や、WEBサイト「club Vauban」で詳しく知ることができます。
“100年を経て人気の住宅地”
【事例4】「戸建て住宅地」ガーデンシティ(カールスルーエ市)
カールスルーエ市のガーデンシティは、100年以上前に建てられた庭付き一戸建て住宅地。居住形態は持ち家ではなく賃貸住宅となっており、建物は文化財保護されています。賃貸戸建てであるものの、入居する権利は例えば親世代から子世代へ継承できるためなかなか空室が出ず、新しくこの住宅地に移り住みたい人は7〜8年待ちということもあるという人気の住宅地です。
街を歩くと古本をシェアする本棚や、来なくなった服や靴のリサイクルボックス(発展途上国へ送られる)など、ゴミを減らす工夫があちこちに見られました。住宅自体に魅力があるだけでなく、こういった地域単位での暮らしが豊かであることが、本当に住みたいと思える街をつくっているのでしょう。
“燃費性能を見える化する”
【事例5】「建物の燃費性能を表示」エネルギーパス
ドイツでは2008年から、EUで義務化されている建物の燃費性能を表示する証明書である「エネルギーパス」という仕組みが用いられています。消費者がわかりやすく判断できるよう、建物の必要情報を入力すると自動車や家電のように、●KWh/㎡と燃費が示されるしくみです。
エネルギーパスは、売買・賃貸の場面においても主要な条件にひとつとして位置づけられており、性能が良い建物は高く貸せたり、売れたりするという結果にもつながっています。 「燃費のものさし」としてリノベーションした戸建ての省エネ性能が一体どれくらいなのかをわかりやすく表示するために、そして住まい手の方が将来売却をしたりするときに資産価値となるようにこの仕組みは働いており、さらには、年間の光熱費の想定も見える化されるため、自宅のリノベーションにおいてはBEFORE/AFTERでエネルギーパスを導入してみると、省エネ改修工事費をかけた分を何年くらいで回収できるかなどもシュミレーションすることができるのです。
※エネルギーパスについて詳しく知りたい方はこちら
日本エネルギーパス協会 :http://www.energy-pass.jp
“みんなでつくる、環境先進都市”
クリスマス時期に各地の大聖堂前などの広場で開かれるクリスマスマーケットでは、人々が冬空の下グリューワインとよばれるホットワインを飲みながら夜を過ごします。ここで使われるコップも使い捨てではなく、ガラスや陶器でリサイクルできるもの。コップは持ち帰ってもよいし、お店に返せばデポジットとして2€程返ってくる仕組みになっています。
また、改札がないこともドイツの考え方を印象づけています。ドイツでは多少の不正乗車がある前提のもと改札がありません。改札の導入やメンテナンスにコストをかけることなく、職員が車内を見回り切符をもっていない人に高い罰金を科すことで、それが抑止力になり、結果としてほとんどの人が切符を購入して乗車し、採算がとれているようです。
明快な国の戦略から人々の暮らしまで、環境に対して「なんとなくよいから」「なんとなくやらなくては」というあいまいな感情ではなく、とても合理的で明確な考えのもとに取り組まれているドイツ。その中でも、街並みや暮らしに関しては「ちょっとだけゆるい」という心地よいバランスを持ち合わせていることがドイツの魅力にもなっています。日本が目指すべき環境先進国へのヒントは、この「合理性」と「ゆるさ」の掛け合わせにあるのかもしれません。
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