竹俣 勇壱さんインタビュー暮らしを美しくデザインする「いいもの」づくりKUMU 金沢|住まいのヒント

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竹俣 勇壱さんインタビュー
暮らしを美しくデザインする「いいもの」づくり
KUMU 金沢

目 次
  1. 1金沢のつくり手とつくった「KUMU」の茶道具
  2. 2「自分がつくりたいものをつくる」生き方がしたい
  3. 3食べる姿を美しく見せ「使いづらい」スプーン
  4. 4 「ものづくり」への価値観を変えるものづくり
  5. 5 暮らしをデザインする道具のブランド「tayo」
  6. 6築200年の町家で営む「sayuu」は金沢の多様性を提示する場所
  7. 7四季折々の草木のあり様を愛でるトリップスポット
  8. 8「自分がいいと思うもの」に囲まれて仕事をする
  9. 9機能をカタチにしたロングセラーバイク

加賀百万石の時代から培われたものづくり精神が息づく街・金沢を拠点に活動する竹俣勇壱さんは、オーダージュエリーとカトラリーなどの生活道具を手がける金工作家。「食べる姿を美しく見せる使いづらいスプーン」など、竹俣さんがつくる道具は独自の美学が詰め込まれています。伝統や手工芸といった枠にこだわらず、「自分がいいと思うものづくり」に真摯に取り組み続ける竹俣さんに、ひがし茶屋街にある築200年の町家を改装したお店「sayuu」でお話を聞きました。

金沢のつくり手とつくった「KUMU」の茶道具

—竹俣さんには、2017年8月に金沢にオープンしたリビタのリノベーションホテル「KUMU 金沢 by THE SHARE HOTELS」で、ティーサロンの茶道具の選定・制作をしていただきました。茶釜といえば丸っぽい形で鉄製というイメージがあったので、竹俣さんが制作なされた直方体でステンレス製の茶釜に驚きました。

茶道で使う茶釜が鉄を鋳造してつくられている理由は、お湯を適温で沸かし続けるのに適しているためです。でも、「KUMU」ではお客様が来るたびにお湯を沸かす必要があるし、鉄の茶釜は手入れに手間も掛かるので、素早くお湯を沸かすことができ、手入れもしやすいステンレスでつくりました。

—使う場や使う人の実用から生まれた形なんですね。他の茶器には、竹俣さんと同じく石川県を拠点に活動するクリエイターの方々と製作なされたものもあります。

漆塗りの茶入れは、輪島に拠点を置いて活動している赤木明登さんに製作してもらいました。白い磁器の茶碗は、3Dデジタル技術を使ったものづくりをしている「secca」に製作を依頼したもの。実は底が二重になっていて、熱いお茶を淹れても持ちやすいようになっています。茶杓は、茶人としても知られる戦国時代の武将、古田織部の茶杓をもとに3Dプリンターでつくったものです。竹に比重が近いチタンを素材に使い、重量も再現しました。

竹俣勇壱さんインタビュー
竹俣さんが選定・製作をした「KUMU」ティーサロンの茶道具は、最先端技術と手工芸、伝統と現代の作家の感性の競演。

—古田織部の茶杓を3Dプリンターで再現! 新旧クリエイターの時代を超えたコラボレーションですね。

リビタから今回の依頼があったとき、すべてお任せしますと言っていただいて、だったらすべてを自分でつくるよりは、自分の世界観に近い人たちと一緒にやりたいと思ったんです。僕はもともと、自分だけの個展というのをやらなくて、うつわの作家仲間などと一緒にする二人展やグループ展がほとんど。もともとオーダージュエリーをつくっていた僕が生活道具をつくり始めたのも、作家もののうつわに合うカトラリーをつくりたいという動機からでした。

「自分がつくりたいものをつくる」生き方がしたい

—ジュエリーづくりを続けながら、現在はカトラリーなどの生活道具も手がけている竹俣さんですが、金工の道を歩み始めるきっかけは何だったのですか?

20歳くらいの頃、ファッションジュエリーに興味を持って、地元・金沢にあったジュエリー工房に弟子入りしたんです。そこではジュエリーのデザインから製作、販売までやっていました。当時はシルバーアクセサリーが大流行していた頃で、そうしたジュエリーを勉強するためにジュエリーをつくる外国の村に滞在したこともありました。

そんなふうに、世間で売れているデザインのジュエリーをいろいろ研究してはつくっていたんですけど、自分が身に付けたいと思うものとはちょっと違うなと思って、ある時、好きなデザインでつくってみたんです。そうしたら、全然、売れなかった(笑)。だからまた、売れそうなデザインのものをつくり始めたんですけど、「ここに居たらずっとこのままで、自分が本当につくりたいものはつくれないんだ」ということに気づいて、準備を何もしていなかったのですが、工房を辞めることにしました。

竹俣勇壱さんインタビュー
さまざまなジュエリーの製作を経て得た彫金技術の高さと、研究心の深さが伺える竹俣さんの作品たち。

—何も準備をしないまま独立して、仕事はあったのですか?

まったくありませんでした(笑)。資金はおろか、道具も持っていなかったんです。当時の僕が持っていた金目のものは、古いヴィンテージバイクだけ。それを買った店に持って行って、かれこれこういう事情だから手放したいと話したら、とてもいい値段で買い取ってくれて。そのお金で道具を買い、6畳一間のアパートで仕事を始めました。

—工房が6畳一間のアパート!

しばらくはそこで洋服屋のアクセサリーのサイズ直しや修理などをやっていました。友人の紹介などでだんだんとオーダージュエリーの仕事が入るようになったんですが、6畳一間のアパートには来てもらえないので、ファミレスとかで出来上がった品を渡していたんです。でも、若者がファミレスで毎回、何かを受け渡ししている。しかも当時僕は金髪だったので、どう見ても怪しいですよね(笑)。これではいけないと思って、犀川沿いにあった元喫茶店を借りて、友人に手伝ってもらい工房兼ショップにしました。

—ついに「自分がつくりたいもの」をつくれる場所を手に入れることに。

それが、工房兼ショップと言っても、中身は工房と商談テーブルだけ。お金がないので、つくりたくてもつくれないんです。そんなときにアンティークジュエリーの修理の仕事をもらうようになりました。

実は、アンティークジュエリーの仕事は、僕らの業界では「やりたくない仕事」なんです。値段が高い上にアンティークなので代わりがきかない。つまり、失敗が許されない。それだけに仕事の単価は良くて、当時の自分にとってはありがたかったんですが、気づくと仕事はそればかりになっていました。

そんなとき、300万円するアンティークジュエリーの修理で、危うく失敗しそうになったんです。結果的にはなんとか修理できたんですが、ものすごく肝を冷やしました。それをきっかけに、その仕事から足を洗いました。僕がやりたかったことはこれじゃない、ちゃんと、「自分がつくりたいものをつくる」仕事をしよう、と。

犀川沿いの工房兼ショップはお客さんが来にくい場所だったこともあり、新竪町商店街に移転しました。それが、『KiKU』です。

—『KiKU』は町家をリノベーションしたお店だそうですね。

『KiKU』を構えたのはちょうど金沢21世紀美術館がオープンした年で、金沢には県外からたくさんの人が来るようになっていました。町家ショップみたいなものも注目され始めた頃で、県外のギャラリーの人や百貨店の人も来てくれるようになって取引が増え、やっと「自分がつくりたいものをつくる」仕事が軌道に乗り始めました。

竹俣勇壱さんインタビュー
金沢市の新竪町商店街にある「KiKU」。商店街は「骨董通り」とも呼ばれ、古美術の店やギャラリー、雑貨店などが並びます。
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食べる姿を美しく見せ
「使いづらい」スプーン

—『KiKU』をオープンした頃から、カトラリーなどの生活道具も作るようになったのですか?

きっかけは、塗師の赤木明登さんとの出会いでした。赤木さんは当時すでに有名な塗師で、面識はなかったけれど、お顔は知っていました。そんな赤木さんがある日、ふらりと『KiKU』にやってきたんです。

そのとき僕はジュエリーしかつくっていなかったんですが、カトラリーなどの雑貨を仕入れて店で売っていました。すると、カトラリーコーナーのサインとして僕がつくった小さなスプーンを見て赤木さんが、「今つくっている茶箱の茶匙に使いたいので、もう少し小さいものをつくれませんか」と。それで3本、違うタイプの茶匙をつくって持って行ったら、全部買い取ってくれたんです。

その後、その茶匙を入れた茶箱を東京のギャラリーで展示するからと誘われたので行ってみると、展示作品に自分の名前が添えられていたんです。それまで僕はお店としてジュエリーを売っていて、個人名を出したことはありませんでした。それが、有名作家に並んで名前があるものだから、展示を見に来たいろんなギャラリーの人や百貨店の人から「展覧会をやりませんか」というお誘いをいただくようになりました。でも、たまたま赤木さんに頼まれて茶匙をつくっただけで、展示するものがない、どうしよう、と(笑)。

—どうしたんですか(笑)。

同じく石川県で活動している作陶家の岡田直人さんが東京で展示をするから一緒にやらないかと声を掛けてくれて、やってみることにしました。当時は、個人作家のうつわが注目され始めた頃でした。でも、作家もののうつわに似合うカトラリーはなかなかないなと思っていたので、自分でつくることにしたんです。そうしてできたカトラリーと器を展示しました。初めての展覧会だったこともあって売り上げも良く、その後も展覧会をするきっかけになりました。

竹俣勇壱さんインタビュー
大ぶりなつぼや掬いと細い柄がアンバランスな「使いづらい」カトラリーシリーズは、竹俣さんの代表作。

—竹俣さんがつくるカトラリーの中でも、大ぶりなつぼと細い柄のアンバランスさが特徴的なスプーンは、形もですが、表情も独特です。

ステンレスの板から切り出した板を叩いて鍛えていくときに、この鎚目模様が生まれます。アンティークのような色合いにするために、焼きを入れて古色仕上げしています。本来、カトラリーにステンレスを使うのは腐食や変色がしにくいから。ステンレス製のカトラリーをわざわざ変色させるなんて、普通はしません。僕のやり方は、ちょっとひねくれているんです(笑)。形も、アンティークのカトラリーをイメージして、長い時間使ううちにすり減る部分を削っています。

—意外とずっしりしているうえに、柄が細くて長いので、持ったときの動作が慎重になります。

そう、使いにくいんです。軽くて食べやすいスプーンだと、食べ物をスプーンに山盛りにして口いっぱいにほおばる食べ方をしたくなりますよね。でも、それはあまり美しい食べ方ではありません。僕のスプーンは、大ぶりな皿が口に入りづらく、少しずつゆっくりしか食べられません。食事をするときの動作をもっと美しくしたいと考えてつくりました。

—作家がつくった美しいうつわを使って食事をする、その所作も美しくという、スプーンに込めた竹俣さんのお話からは、暮らしや道具への向き合い方を考えさせられます。

例えば、うつわについては見方や選び方はいろいろあるけれど、スプーンは選ぶのも使うのも、あまり意識的にされていないと思うんですよね。僕は、「ものづくり」で表現がしたいわけでも、こだわりの技法を見せたいわけでもないんです。そういうことよりも、人の無意識に響くものをデザインしたいと思っています。

僕はクラシックカーがすごく好きで、乗っていた時期もあるんですが、正直言ってメンテナンスの手間はかかるし、全然便利ではないんですね。それが、新しい車を買ってその便利さを知ってしまったら、戻れなくなってしまった。お風呂の追い焚きもそうです。なければないでいいんだけど、それを知ってしまうと手放せなくなる。でも、それでもやっぱり、クラシックカーに惹かれるんです。僕はクラシックカーのような、「不便でも使いたいと思える道具」に憧れていて、そういうものづくりがしたいんだと思います。

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ひがし茶屋街にあるショップ「sayuu」の店内。竹俣さんの作品のほか、竹俣さんがセレクトした作家もののうつわも販売。
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「ものづくり」への価値観を変えるものづくり

—技術や表現のこだわりを主張したいわけではないとは言え、竹俣さんの道具に施された手仕事には手間暇を感じます。

そうなんです、研磨も焼き入れも手仕事なので大変なんです(笑)。工房にはスタッフもいますが、一人でつくれる数は1日10本がいいところ。オーダーが増えてきてそろそろ生産が追いつかないかも、となったときに、燕三条で金属プレス業を営む田三金属の社長と出会ったんです。「こんなスプーン、どうやってつくっているの?」と言われて「手仕事で大変なんですよ」と話したら、「うちでもできるよ!」という話になって。

燕三条は金属加工業のまちとして知られていますが、日本のカトラリーはほとんどが燕三条でつくられています。日本に洋食が入ってきた明治の頃から国内でのカトラリー需要が増え、それまで和釘づくりが盛んだった燕三条がその生産地になりました。

工業的なものづくりに対して否定的な気持ちを持っている人って少なくないと思うんですけど、僕もそうした気持ちを抱いていたんですよね。でも、燕三条の工場に行ってみたら、全然オートマチックじゃないんです。機械はもちろん使うけれど、素材のセッティングだとか、型の微調整だとか、職人さんの手作業の連続なんです。そこで「ものづくり」をしていたのは、人の手だったんです。

—工業的なものづくりに対するイメージが変わるきっかけになったのですね。

がらりと変わりました。ぜひ一緒にものづくりがしたいと思ったんですが、それまで僕が手作業でつくっていたスプーンと同じものをつくるのはどうなのかな、と。いろいろ考えて、デザイナーの猿山修さんにデザインをお願いすることにしました。

猿山さんは、東京の元麻布で古陶磁やテーブルウェアを扱う「さる山」を主宰していて、空間やプロダクトの企画やデザインも手がけています。彼はいろんな工芸家の器のデザインもしていたので、相談してみたんです。

そうして、猿山さんと一緒に再び燕三条の田三金属を訪ねたら、工場から古いカトラリーの型が出てきたんです。燕三条でカトラリー生産が始まった当時の型で、まさに僕らがイメージしていた形でした。その型をもとに猿山さんがデザインし、田三金属がプレス加工して、僕が焼き入れをして仕上げをする。そうして生まれたのが、カトラリーシリーズ「ryo」です。

竹俣勇壱さんインタビュー
明治期のカトラリーの型をもとに、「さる山」の猿山修さん、田三金属、竹俣さんの三者でつくったカトラリーシリーズ「Ryo」。

—「ryo」シリーズは、手仕事と機械仕事の融合から生まれたんですね。

ものづくりというものは、「手でつくったのか機械でつくったのか」という観点で価値が考えられがちですが、どちらが優れているとか、そういうことではないんです。手仕事には手仕事の、機械仕事には機械仕事の良さがある。お互いができることをやればいいと思うんです。

工業的なものづくりをしている人たちの中には、自分たちの仕事がどういう価値を持っているのか、自覚していない人も少なくありません。本当はすごく人の手間がかかっているものなのに、手仕事のようには評価されにくい状況があります。僕らと一緒につくったものがメディアに取り上げられたりすると、工場の人たちがすごく喜んでくれるんですよ。自分たちのものづくりの価値を知ることができたんですね。

—たしかに、高い技術や評価されるべき品質を持っているのに、一般の人には気づいてもらう機会の乏しいものづくりが、日本にはたくさんあるように思います。

今の日本では、本意ではないものづくりをしている工場がたくさんあると思います。つくらない人が決めた売価に合わせてつくらなければいけなかったり、ものづくりを維持するための補助金なのに、それをもらうためにやり方を変えねばならなかったり、たくさんのリスクを背負いながらものづくりをしている。僕は、そういうやり方ばかりがまかり通っていくと、いつか世の中から「いいもの」がなくなってしまうんじゃないかと危惧しているんです。

だから、今は工場でできる作業は、どんどん工場に依頼するようになりました。自分の手ではできなくても、機械でならつくれるものもある。「ryo」というシリーズには、つくり手の立場をフラットにしていきたいという思いを込めています。

—ものづくりを通じて、「ものづくり」というものへの価値観を変える試みをしているのですね。

伝統工芸も、保守的で閉ざされた世界というイメージがあったりしますよね。伝統工芸も手工芸も、機械を使ったものづくりも日本のものづくりをもっとオープンにしていって、ものづくりが適正に評価されるような世の中になったらと思っています。

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18世紀のカトラリーをリデザインしたシリーズや、真鍮やステンレスで製作したピューター皿などの生活道具も展開しています。
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暮らしをデザインする道具のブランド「tayo」

—「ryo」に続いて立ち上げた「tayo」は、どのようなブランドなのですか?

「さる山」の猿山修さんがデザイン、金沢で金属加工業を営む長井製作所が制作、そして僕が監修と仕上げを手がける、インテリア小物や文具、家具等の金物製品を展開するブランドです。

これまで、カトラリーやうつわなど食まわりのものをつくってきたんですが、生活の要素は食だけじゃないんですよね。壁の仕上げや床の仕上げは選択肢がたくさんありますが、スイッチプレートだとか、インタホーンカバーだとかは、ほしいと思えるものがなくて、自分たちでつくろうと思ったんです。それをきっかけに、空間インテリアのものもつくりたいと思うようになり、猿山さんと長井製作所と一緒に立ち上げました。

すでに完成している商品には、テープカッターやトイレットペーパーホルダー、スイッチプレートカバー、ステンレス製のシェルフなどがあって、ほかにもタオル掛けやシンクなど、生活の中にあるさまざまな道具を手がけていきたいと思っています。

—竹俣さんが監修するインテリアアイテム! 今後のバリエーションがとても楽しみです。

今、築100年越えの町家をリノベーションしていて、「tayo」のショップとして2018年秋のオープンを予定しています。食器棚の中には食器が入っていて、テーブルの上にはカトラリーが置かれていて、タオル掛けやシンクも付いていて、というふうに、実際にそこで生活をしている家のような設えにしたいと思っています。最終的には、家の中にあるもののほとんどがそこで買えるような場にしたいですね。

築200年の町家で営む「sayuu」は金沢の多様性を提示する場所

—インタビューを行わせていただいているここ「sayuu」も、町家をリノベーションしたお店ですね。

「sayuu」は文政8年に建てられた元茶屋で、築年数は200年くらい。もともとは僕が住む家を探していて、出会った物件でした。それまでは、飲食店街の中にあるビルに住んでいたんですが、古い家に住んでみたかったんです。いろいろな物件を見た中で一番古く、イメージしていたものに近かったのがここでした。郊外に行けばもっと大きな家が借りれますが、住むとなると直す必要があるし、広い分お金もかかります。ここは、入居するときにオーナーさんがきれいに手直ししてくれました。でも、北陸新幹線が開通することになり、たくさんの観光客が訪れるようになっていたので、お店として使うことにしたんです。

竹俣勇壱さんインタビュー
文政8年に建てられた元茶屋を改装した「sayuu」の店内。奥には炉をきった茶室があり、お客様との打ち合わせにも使用。

—今では町家を改装したお店がずらりと並ぶひがし茶屋街ですが、人が暮らしている町家もまだあるのですね。

ここを借りた2010年頃は、住んでいる人がもっとたくさんいました。お年寄りが多かったので、空き家ばっかりになったら嫌だね、なんて話を近所の人としていたくらいです。でも、北陸新幹線の開通後は町家を買う人や会社が増えて、街の様子はだいぶ変わりました。

—「sayuu」は、黒い天井とモルタルの床が古い素材を引き立てるモダンな空間ですね。

「KiKU」をオープンしたころはお金がなくてお店にはほとんど手をかけられなかったけど、「sayuu」は建物のベースもしっかりしていたので、なるべく漆喰や古材などを使ってリノベーションしました。

ひがし茶屋街に訪れる観光客の人は、もっと「金沢らしい」ものを求めるので、正直、ここでこういうものを売るのは大変なんです。金箔使ってないし(笑)。でも僕は、金沢という街にある多様性が好きなんです。金箔を使ってたら「金沢らしい」のかというと、そうではないじゃないですか。以前からある金沢独自の文化や地域性もあるわけです。今では石川県といえば伝統工芸、というイメージがあるけれど、石川県で生まれ育った僕が初めて自分で買った食器はバカラでしたしね。

みんながみんな、まわりが求める「金沢らしい」イメージに迎合するよりも、つくり手それぞれの創造性や、この街がこれまで育んできた独自性も生かされた街になっていってほしい。だから、「sayuu」はやりたいことをする場所にしようと思って、続けています。

—「自分がつくりたいものをつくる」という思いを貫いてらっしゃるんですね。

僕はただ、やりたいようにやっているだけです。安くつくるための形を選んだり、使いやすさばかりを優先しないようにしています。それは、自分が欲しいと思えるものをつくりたいから。いつでも、自分が好きなようにつくりたいんです。

そもそも僕が彫金の道に入ったのも、金属という素材と自分の考え方との相性がいいなと思ったからなんです。金属は丈夫だし、素材としても美しい。そんなふうに、やりたいことをやって生きていきたいから、それを成り立たせるために、つくり方や値段もデザインする。自分たちのものづくりに対しての価値をいかにつくるかということが、ものづくりには大事なことだと思っています。

「ものづくり」って、もっと好きなようにやっていいと思うんです。「売るためにつくる」よりも「自分たちがつくりたいものをつくる」、つまり自分たちがいいと思うものをつくるという姿勢の方が、やっぱり「いいもの」が生まれると思うんですよ。

竹俣勇壱さんインタビュー
金沢の独自性と多様性が好きだと話す竹俣さん。そんな竹俣さんが金沢から発信していく「ものづくり」の今後が楽しみです。

竹俣 勇壱さんのお気に入り

四季折々の草木のあり様を愛でるトリップスポット

竹俣勇壱さんインタビュー

竹俣さんが仕事の合間によく散策に訪れるという「山野草園」。自然のままの森に道を整備しただけのような野趣溢れる趣で、観光客で賑わうひがし茶屋街とは対照的に、静かな時間が流れる場所。金沢の市街地を一望できる卯辰山公園の内園として一般に開放されており、さまざまな草木の四季折々の表情を楽しむことができます。

卯辰山公園「山野草園」
石川県金沢市卯辰町
アクセス 北鉄バス望湖台下車、徒歩1分

「自分がいいと思うもの」に囲まれて仕事をする

竹俣勇壱さんインタビュー

「sayuu」の一角に置かれた作業台は竹俣さんの自作。脚はアメリカの古いテーブルの脚をモチーフに制作し、天板は床の間の床だった檜板、日本のアンティーク机の棚部分を乗せて製作したそう。打ち合わせ場所として使う茶室の茶釜などもオリジナルで製作。「仕事をする」という行為にも美学を持って臨む竹俣さんらしいエピソード。

機能をカタチにしたロングセラーバイク

竹俣勇壱さんインタビュー

1970年代にブリヂストンから登場した折り畳み自転車。ワンタッチで折り畳みでき、マイナーチェンジを繰り返しながらも、基本構造を変えずに製造され続けているロングセラー。2018年4月現在の後継モデルは「トランジットスポーツG26」。竹俣さんは古いモデルを、車体のカラーやハンドルなどをカスタマイズして使用中。

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