大原大次郎さんインタビュー出会った人の隣で、描き続ける|まちとのつながり

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まちとのつながり

大原大次郎さんインタビュー
出会った人の隣で、描き続ける

目 次
  1. 1「世の中捨てたもんじゃない」と気づいた学生時代
  2. 2自分が変態だと思う奴のそばにいればいい
  3. 3感情のつまみを回しながら、関係を続けていく
  4. 4大原さんの「広島好き」を深めた理容室
  5. 5KIRO広島の本棚にも関わる独立系書店
  6. 6ホテルのデザインをきっかけに出会った、忘れられない料理

2016年開業の「HATCHi 金沢」、2019年開業の「KIRO 広島」のロゴや館内サインのグラフィックデザインを手がけた大原大次郎さん。2024年にはKIRO 広島のゲストラウンジ「THE POOLSIDE」の壁面にグラフィックアートも制作されました。「THE SHARE HOTELSの仕事をきっかけに広島が好きになった」と語るように、大原さんは巡ってきた仕事から縁をたぐりよせ、土地と人に惹かれながら自身の作風に厚みを出してきたといいます。ここでは、ミュージシャンのアートワークを手がけるようになった原点から、暮らす場所で感性の合う人との出会い方、関係の育み方まで話を聞きました。

「世の中捨てたもんじゃない」と気づいた学生時代

――大原さんは「HATCHi 金沢」のロゴとサインのデザインを担当されました。どのように生まれたのでしょう。

ロゴの制作にあたっては、まずは言葉が先に入ってくることが多いんです。「HATCHi」は「発する地」に由来していると聞いて、北陸エリアの玄関口になりたいという想いを起点にイメージを考えました。

“発”という字の末広がりのかたちを拾って、金沢から想像される山々の風景を重ねました。最初に漢字のロゴ案をいくつか描いて、そのあと海外のゲストも意識してアルファベット版をつくりました。アルファベットは漢字が持つリズム感を引き継いで、“A”に特徴を持たせています。最終的にロゴとして採用されたのはアルファベットでしたが、漢字のロゴも気に入ってくださって「北陸Tシャツ」というかたちで残すことになりました。

――いつも言葉から発想するのですか?

文字そのものの形から考えることもあります。同じ言葉でも、漢字かひらがなかでリズムが違うし、文字を並べたときに形として韻を踏めるか、左右対称のようなバランスが生まれるか、といったことも考えます。“形遊び”の感覚でつくることもあって、KIRO 広島の「THE POOLSIDE」のロゴは、空間のアーチを見て発想しました。アーチの中に言葉を収めて、空間と文字を“仲良くさせちゃおう”というイメージです。このロゴはスイスイと形になっていきましたね。

――大原さんの仕事のなかでも、星野源さんのアートワークを思い浮かべる人は多いと思います。『そして生活はつづく』(マガジンハウス、装丁:クラフト•エヴィング商會)の題字デザインは、どんな発想で生まれたのでしょう。

当時感じていたことですが、星野さんは生活を大切にしている印象でした。SAKEROCKの『LIFE CYCLE』というアルバムの中に『生活』という曲がありますが、星野さんの音楽は生活と地続きにあるのだなと感じていたんです。一般的にデザインというと、おしゃれで洗練された世界観を求めがちですが、僕自身は、あまり背伸びしないもののほうが好きなんです。

『そして生活はつづく』は言葉遊びの感覚で「そして生活はつづくそして生活はつづく……」と円を描くように書いたんです。そのうちゲシュタルト崩壊して、「くそして生活はつづく」と別の言葉に聞こえた瞬間を表現しました。“くそ”もまた、生活の一部ということです。

ーー大原さんと音楽の出会いは、どんなところから始まったのですか?

中学から高校にかけて、友だちと教室の片隅で好きな音楽を聴きあっていました。カセットテープに好きな曲を入れて、手紙を書いて渡していたんです。僕はラベルづくりに凝ってサンプリング画像をコラージュしていました。ある日、仲間の1人のキクチくんがサンプリングでコラージュミュージックをつくってきたんです。流れ的に、僕はそのカセットテープのラベルをつくることになるんですが、そのうちにキクチくんがそのテープをレコード屋さんで配り始めたんです。それが口コミで広がって、「空手サイコ」という名義でCDを出すことになり、結果的に、そのCDジャケットが自分にとって初めてのデザイン仕事になりました。

教室の片隅の遊びだったものが、CDになったり雑誌で紹介されていくという体験はとても大きいものでした。キクチくんのすごさを間近で見て、「どこかで誰かの目に留まることがあるんだ。世の中捨てたもんじゃない」と思ったんです。

――当時を、いま振り返るとどう感じますか?

今ならSNSでつくったものを知ってもらったり、連絡が取れたりもします。でも当時は、自分たちが社会と接続できるとは思っていませんでした。それを「空手サイコ」は繋げちゃったんです。ここまで挫けずにいられたのは、キクチくんが踏み出した1歩が、どこかに繋がるという希望を持っていたからだと思います。

自分が変態だと思う奴のそばにいればいい

――その後、多くのミュージシャンのアートワークを手がけるようになります。あの時の“キクチくん”の隣にいるような感覚のまま仕事を続けてこられたのですね。

今でも覚えているのは、大学生の頃にある番組でアルバイトをした時にピエール瀧さんに進路を相談したら、「どこでもいいけど、おまえが変態だと思う面白いやつと一緒にやっていけばいいんじゃないの?」と言ってくださって。その時に「これから出会う誰かよりも、目の前にいる人を大事にしよう」ということに気づいたんです。生活費のことを除けば、自分はすでに、尊敬する変態たちが近くにいるじゃないかと。

――大原さんは、人と出会って長く関係を続けていく力が強いと思います。

そうですね。未来にすごい人と出会えるかもしれないと期待しがちだけど、すでに出会っている人と面白い関係をつくっていくほうが大事なんじゃないか。振り返ると、ずっとこの繰り返しで今まで来ている気がします。

今日お伺いしている「senkiya」さんも同じです。僕は知り合いがいない状態で埼玉県川口市に引っ越したのですが、こんな魅力的な場をつくっている人がいることに衝撃を受けました。もともとは代々続く植木屋「千木屋」さんで、母屋を店主の高橋秀之さんが2年かけてDIYしたと聞いて、そのストーリーにも感動しました。

感情のつまみを回しながら、関係を続けていく

――自分が暮らしているまちに感性の合う人がいるのは素敵ですが、どうやって出会えばいいのでしょう。

わかりやすいのは、ハブになっているような場所を見つけることかもしれません。senkiyaの中庭は、夕方になると子どもたちが遊んで、犬の散歩がてらの井戸端会議が始まる。人の繋がりが自然発生して、心地いい風景を生んでいる。この場所の懐の広さを感じます。

KIRO 広島との関わりも近いです。ホテルのデザインに携わったことをきっかけに、まちの面白い人たちを紹介していただいて、さらに広島が好きな場所になりました。まちの見え方や印象は、出会う人によって変わる気がしています。

――暮らす場所や付き合う人が変わると、仕事の進め方や表現は変わりますか?

びっくりするほど変わりますね。僕は、環境や一緒に組む人で大きく変わるタイプだと思います。『HAND BOOK』(グラフィック社)をつくった時に、時期や関わった人によって字体が違うことに気づきました。自分の作風はこれだ、と頭で考えていなくて、そのときの環境に影響を受けているんです。

――デザイナーというと、自分の軸をぶらさずに活動するイメージがあります。

僕は、そういうタイプのデザイナーではないのだと思います。一番大きな変数は人です。大学を卒業してすぐフリーランスになったこともあって、自分がつくるものは独りよがりになっていないか?と今でも手探りしています。だから、線や感覚について考えるワークショップを開いたりします。

感覚ってとても曖昧で、おなかが空くとイライラする、みたいなことに近いと思うんです。常に分かり合えるなんて難しい。僕は音楽のミキサーに例えるのですが、自分の内側にある“感覚のつまみ”を微調整しながら、その場のやりとりをしていると思うんです。自分はこうだからと決めて、1ミリもつまみを動かさないのは不自然で、コミュニケーションやものをつくる過程の中で、つまみを調整しながらズレや重なりを探っていくイメージなんです。

――つまみの調整と考えると、人付き合いが楽になりそうです。

少しでも気が楽になればいいなと思います。家族や友人でも感覚が合う・合わないは常に行き来しています。普段は喜怒哀楽、かっこいい・すごい・かわいいくらいの感情や言葉で足りるけれど、一歩踏み込むと、哀しいけど可笑しいみたいな複雑な感情が増えてくる。そこに対して“感覚のつまみ”を細かく入出力していると考えると、少し肩の力が抜ける気がします。

大原大次郎さんの広島のお気に入りスポット

大原さんの「広島好き」を深めた理容室

『ニューオダ理容室』という床屋さんですが、店主の小田敦生さんがセレクトした洋服を扱う『MIRROR』が併設されています。僕はここで髪を切って、小田さんから広島の面白い人や場所を教えてもらいました。広島の魅力に触れるきっかけになった場所です。

KIRO広島の本棚にも関わる独立系書店

『READAN DEAT』は、ギャラリーが併設された小さな書店です。店主の清政光博さんに声をかけていただいて、店内で作品の展示もさせてもらいました。ニューオダ理容室と同じように、広島の面白い人たちをゆるやかにつなぐハブのような場所です。

ホテルのデザインをきっかけに出会った、忘れられない料理

KIRO 広島の制作を通じて知り合ったホテルの担当の方が、創作料理店『じ味一歩』に連れて行ってくれました。地元の農家から仕入れた野菜をメインに、コース料理を出してくれます。どの料理も斬新で、僕の言葉では説明しきれないのですが、衝撃を受ける美味しさです。

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