Earth Company濱川知宏さんインタビュー今日の小さな選択が、残したい未来をつくる|住まいのヒント

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住まいのヒント

Earth Company濱川知宏さんインタビュー<後編>
今日の小さな選択が、残したい未来をつくる

目 次
  1. 1「どちらを取るか」ではなく、「どう決めるか」
  2. 2完璧じゃなくてもいいので、判断の軸を持つ
  3. 3正解を決めないために、つながりたい

サステナビリティの次の視点として、各分野で注目されはじめているのが「リジェネレーション」です。連載『リジェネレーション<再生>の手触りをたずねて』では、実践者へのインタビューを通じて、私たちの暮らしにどう落とし込めるかを考えていきます。第3回のゲストは、Earth Company*の濱川知宏さん。
後編では、インドネシア・バリ島で運営するエシカルホテル「Mana Earthly Paradise(以下マナ)」の実践を入り口に、濱川さん自身の暮らしの選択や、リジェネレーションの実践者がつながる場をつくった理由について聞きました。
*Earth Company:日本、インドネシアで活動する2つの独立した法人の総称

「どちらを取るか」ではなく、「どう決めるか」

――バリ島にあるマナについて教えてください。

リジェネラティブな在り方を体験する宿泊施設です。宿泊棟、レストラン、ショップの複合施設で、循環を体現しているのが特徴です。たとえば水は、雨水を溜めてろ過して使い、使用後の廃水も植物の栽培に無駄なく活用しています。バリ島では地下水が減少していて、農業を続けられない農家も出てきています。水不足の一因は、観光業の大量の水使用だと言われているんですね。建物は、廃材やサステナブルな建材といわれる竹を使って、新しい木を伐採せずにつくりました。工法もエアコン要らずで自然に還るアースバッグ工法を採用しています。

Mana Earthly Paradiseの主な施設(写真提供:一般社団法人Earth Company)

――なぜ、バリ島につくったのですか?

貧困削減につながるテクノロジーの開発・普及を行う団体で、バリ島に本部がある「コペルニク」に関わっていて、その代表に誘われて移住したのが2014年でした。同じタイミングで一般社団法人Earth Companyをパートナーの濱川明日香と共同創設しました。実際に暮らしてわかったのですが、バリ島にはソーシャルイノベーションに取り組む人や団体が多いんです。自然環境の保全の取り組みだけでなくて、人は自然の一部としてどう在るのか、これからどんな生き方を選ぶのかといった、根源的な問いを考える人たちが集まっている。資本主義の最前線で活躍してきたいわゆる先進国の人たちが、別の価値観や生き方をするために辿り着く場所でした。

こういう人たちの在り方や、彼らを引き寄せるバリ島という土地に魅力を感じて、スタディツアーを始めました。高校や大学のフィールドワークとして少しずつ広がったのですが、ゴミ問題の現場を学んだあとに大量消費を前提にした宿泊施設に泊まる、という体験の分断に違和感があったんです。だったら僕たちが掲げている世界観を体感できる場所をつくろうと考えて、現地法人を立ち上げマナが誕生しました。

――ホテル運営には、稼働率や収益性が求められます。経済合理性とリジェネレーションの考え方は両立できますか?

ホテルとしては、利益を出してどう回していくかを大切にしています。続けられなければ意味がないので。もちろん、お金だけを指標にしているわけではなくて、どうやって環境へのインパクトを生み出していくかという視点も大切にしています。その両輪をどう回すかが重要ですね。

――収益率が高くても、環境への負荷が大きい選択はしないと。

資本主義では、利益を最優先にして意思決定をします。マナでは、リジェネラティブなあり方を「ビジネスとして」実現することが可能であることを証明したいと考えています。だからこそ、ひとつの判断に経済性と社会性、環境性を見ながら、長期的な視点で決めることが大切だと思います。

例えば、トイレでもっとも循環的なのは人糞や尿を土に還すコンポストトイレです。でもホテルで採用するには、コンポストトイレは特有の匂いや交換の手間など、お客様にとってハードルが高く、利用を避けられる可能性が高い。そうなると長期的に収益の拡大につながりません。そこでマナはコンポストではないかたちで循環を促すトイレを採用しました。

環境に配慮しながら、快適性やデザイン性にもこだわったマナの設備(写真提供:一般社団法人Earth Company)

――自分なりのモノ選びの基準を持つことは大切だと思いますが、日常の買い物すべてで立ち止まって考えるのは難しいです。

僕自身も、買い物すべてを深く分析して選んでいるわけではないです。ただ、大きな選択やこだわりを示したいときは、ひとつずつ考えるべきだと思います。買い物は投票であるという考え方はその通りで、何を買うかは、その人の考えの表れです。極端にいえば、そのモノを次世代に残したいかどうか。僕たちはその判断基準を、社会や環境への負荷やインパクト、自分たちの意思を天秤にかけながら選んでいます。考えることが増えるのを面倒だと感じるか、こだわりと捉えるかは人それぞれです。

完璧じゃなくてもいいので、判断の軸を持つ

――濱川さんが、暮らしのなかで意識しているリジェネラティブな行動はありますか?

日本国内の移動で新幹線と飛行機を選べる場合は、CO2排出量の少ない新幹線を選ぶようにしています。社内イベントの食事であれば、排出量の多い牛肉を避けて鶏肉を選ぶ。状況が許されるなら、プラントベースの料理にしています。ただ、日本にいると環境の循環が見えづらく判断が難しいことがあります。たとえば水は、流せば目の前から消えてしまう。その水がどれくらいの時間をかけて、生物が生きられる環境に戻るのか実感しづらいんです。コンポストを取り入れるなど、身のまわりで循環を体感すれば、自分の暮らしが環境に与えている影響を想像しやすいと思います。

――環境に配慮した行動の大切さは理解しつつ、政府や大企業の取り組みに委ねてしまって、自分の暮らしと結びつけて考えにくい部分があると多います。

自分ごととして考える最初の一歩として、暮らしのスピードを少し落としてみてはどうでしょうか。今は、仕事も家事も早く効率的にこなすことが良しとされがちです。その加速を後押ししているのがスマートフォンで、僕たちは光の速さで動くデバイスのスピードに、自分を合わせようとしている。いったんデバイスから離れて、自分の速度を取り戻してみると、「なぜこんなに急いでいるのか」という違和感が出てくると思います。

これは極端な例ですが、僕は2月の中旬からVipassana (ヴィパッサナー)というバリ島の合宿施設での瞑想に参加してきます。丸十日間、会話、アイコンタクト、ジェスチャー、メモ取りを一切行わずに瞑想に集中する修行です。この類の修行は初めての試みなのですが、かなり速度を落とすことになりそうです。

エシカルホテル「Mana Earthly Paradise」施設内風景 敷地内に南国の植物が生い茂っている。

2025年にEarth Companyが出したフレームワークで、リジェネラティブであるかどうかを測る3つの軸を示しています。1つ目が「自分ごとの拡大」。“自分”というときの自分とは1人なのか、家族なのか、組織なのか。その範囲をどこまで広げられるかという視点です。2つ目が「時間軸の拡大」。今日の話なのか、50年後なのか、地球の歴史の中の今を捉えようとしているのか。未来だけでなく、過去からの文脈も含めて考えてみる。3つ目が「資本の多元化」。お金だけの指標ではなく、自然資本や社会的資本など、資本の定義をどこまで広げられるか。この3つの軸すべてをどこまで広げられるかが、リジェネラティブな行動だと思うんです。1000年後の地球の繁栄を考えてビジネスをするのは難しいかもしれないけれど、各自が包括的な豊かさを考えられたときに、もっともリジェネラティブな在り方に近づくのだと思います。

正解を決めないために、つながりたい

――濱川さんが、これからチャレンジしたいことは?

Earth Companyを立ち上げて、2026年で12年目です。このあいだにリジェネレーションという考え方が社会に浸透してきた実感があります。リビタさんなどの企業やNPOなどリジェネレーションに関心を持つ方が増えてきて、次のフェーズに入ってきた感覚があるんですね。それぞれのリジェネレーションを進めるなかで、解釈の違いから別々の方向へ進んだり、「この分野は自分たちのものだ」と囲い込むような動きが出てくると、それは“Regeneration”と真逆の“Degeneration”になってしまう。だから、この黎明期に実践者がゆるくつながって、情報交換やコラボレーションが生まれるコミュニティをつくりたいと考えました。そこで立ち上がったのが、「Regenerative Collective Japan」です。

“ゆるくつながる”というのが大事なポイントです。僕は「リジェネ道」と勝手に捉えているのですが、茶道や書道のように流派や考えがあって、そのなかで自分なりの答えを探していく。ここ数年、国内外のリジェネ文脈で「流域」という考えが広まっています。山から水が流れて海に出るまでの自然をフィールドに、人間も含めた生態系のつながりを体感する、身体知を育む。流域を舞台に学ぶことで、頭だけでなく体で理解できることがあります。

最後に、僕が力を入れたいのが海外とのつながりを持つことです。リジェネレーションの捉え方は、土地の歴史や文化が反映されるはずで、日本にも“日本版リジェネレーション”があると思っています。それを海外にシェアしていく。「Regenerative Collective Japan」は、国内外をつなぐ“港”のような存在になれたらいいなと思っています。

 

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