Earth Company濱川知宏さんインタビュー “共繁栄の正解”は問い続けるもの|住まいのヒント

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住まいのヒント

Earth Company濱川知宏さんインタビュー<前編>
“共繁栄の正解”は問い続けるもの

目 次
  1. 1学生時代に、“豊かさ”の基準が揺さぶられた
  2. 2分断をほどいて、自然との一体感を取り戻す
  3. 3「自然と共に生きる」から、「自然として生きる」へ

サステナビリティの次の視点として、各分野で注目されはじめているのが「リジェネレーション」です。連載『リジェネレーション<再生>の手触りをたずねて』では、実践者へのインタビューを通じて、その現在地を見ながら、私たちの暮らしにどう落とし込めるかを考えていきます。第3回のゲストは、Earth Company*の濱川知宏さん。アジア太平洋地域で社会・環境課題に向き合う起業家を支援する「インパクトヒーロー支援事業」や、インドネシア・バリ島でのエシカルホテル運営など、リジェネラティブな実践を重ねてきた人です。前半はリジェネレーションとの出会いを起点に、濱川さんが考える“共繁栄”の本質について聞きました。
*Earth Company:日本、インドネシアで活動する2つの独立した法人の総称

学生時代に、“豊かさ”の基準が揺さぶられた

――濱川さんがリジェネレーションという考え方に出会った原体験を教えてください。

18歳のときに、フィジーの村で3週間ほどホームステイをしました。いわゆる途上国で、僕が滞在したのは、電気や水道が整っていなくて、自然の近くで暮らしている村でした。それまで日本、アメリカ、イギリスと先進国とされる場所で育った僕にとって、その村での生活は衝撃でした。物やお金の量は多くないけれど、村の人たちは温かくて、幸せそうで、底抜けの明るさがあった。「人はこんなふうにも生きられるんだ」と知って楽しかったんです。もしかしたら、これまで過ごしていた都会の生活は、何もかも揃っているようで実は何もないのかもしれないと、自分が立っていた社会の前提が根底から覆されました。

――なぜ、ホームステイ先にフィジーを選んだのですか?

人生の流れのおもしろさですが、自分でもなぜフィジーに惹かれたのかうまく説明できません。いま振り返ると、南の島の暮らしや在り方に、言葉になる前の何かを感じ取っていたのだと思います。実際に、便利さや経済的な尺度とは違う場所で、人は楽しく生きられるという気づきがありました。もちろん村には課題や問題点もあり、すべてを美化するわけではありません。でも、僕が知る限りでは、先進国で暮らしている人よりも、フィジーの村の人たちのほうが幸せそうに見えた。僕たちは「お金や物が増えれば、心も満たされる」と、経済的な基準を土台にした右肩上がりの線を描きがちです。でも実際は、人の幸せはそんな単純な一本線では描けないと感じはじめたのが、リジェネレーションに出会った1つの体験です。

――若いうちに、自分の暮らし方に疑問を持つ機会があったのですね。

早い段階で体験できてよかったです。フィジーに行ってからずっと「豊かさ、幸せってなんだろう?」と、問い続けています。今の日本社会は、良い学校に行って、良い会社に入り、安定した収入を得て、良い家庭を築くことが豊かで幸せな人生だと言われがちです。でも、それはただ「そう言われてきたこと」をなぞっているだけではないか。それなのになぜ、僕たちはその価値観を疑わずに、次の世代に手渡そうとしているのか。ずっと違和感がありました。18歳でフィジーにホームステイしてからその感覚が消えず、大学を卒業したあとも就職せずに、しばらくいわゆる“プータロー”をしました。

――濱川さんはハーバード大学を卒業していますよね。卒業後はいろんな道が開かれていたと思います。

もう少し詳しく話すと、フィジーでのホームステイをきっかけに国際支援に興味を持って、大学2年の夏にボツワナでインターンをしたんです。一方で、学生のうちに、いわゆる敷かれたレールも試しておこうと思って投資銀行のインターンもしました。社員のオファーもいただきましたが、やっぱり違うと感じてしまった。僕は、強く感じたことをきちんと実現しないと満足できない性格なんだと思います。

――とはいえ、暮らしていくお金も必要ですし、物質的な豊かさをすべて手放すのは現実的ではありません。

今の社会の“成功した人生”は、「Do(勉強や仕事をがんばる)、Have(お金や名声を得る)、Be(幸せを感じる)」という在り方です。つべこべ言わずにがんばれば、結果としてお金や名声といったHaveが与えられ、その先に達成感や幸福が待っているはず、という暗黙の了解がある。これは日本に限らず、世界的に共通した考え方だと思います。

一方で、僕はバリで「Be(どう在りたいか)・Do(その在り方を叶えるための行動)・Have(その結果として得られるもの)」という考え方に出会いました。人を“Human Being”と呼ぶように、本来は「Beどう在りたいか」が中心にあるはずなのに、なぜそこに向き合わないのか。今の社会は、言ってしまえば“Human Doing”です。これは、人類が長く見落としてきた死角だと感じるんです。自分はなぜ生きているのか、どんな瞬間に心が動くのか、自分の想像力や思いやりはどんな性質を持っていて、どんな場面で発揮されるのか……そうやって自分の内側を見て、「Beどう在りたいか」を考えることが、結果的に良い社会をつくっていくうえでも欠かせないと思います。もちろん、今の社会は「Do・Have・Be」で動いているので、「Do」も大切です。ただ、大きな判断をするときは自分の「Be」に立ち返ったほうが、より健全で豊かな暮らしを送れるのではないかと思います。

分断をほどいて、自然との一体感を取り戻す

――濱川さんが考えるリジェネレーションとはなんでしょう。

リジェネレーションという考え方を多くの人に知ってもらうには、わかりやすい言葉にしたほうがいいと思います。一方で、組織や誰かが定義した「これがリジェネレーション」という答えを、そのまま受け取って広めていくものではないとも思う。大前提になる考え方は共有しながら、1人ひとりが自分と向き合ってそれぞれの答えを見つけていくものだと思うんですよね。

――答えを1つに決めるものではない前提で、リジェネレーションの輪郭をつかむための基本的な視点を教えてください。

リジェネレーションという言葉は、日本語では「再生」と訳されます。これも1つの正解ですが、「再生」だけでは、壊れたものを修復する、失われたものを取り戻す、といった文脈で受け取られがちです。農業や漁業などの話ならしっくりくるのですが、人類の約6割が都市で暮らしている今、僕たちは何を再生しているか考えると、よくわからなくなる。自然が相手ではない場合、「再生」という言葉では捉えきれないところに限界を感じます。そこでEarth Companyは、「共繁栄」「共進化」という言葉を使っています。人間だけ繁栄するのではなく、植物や動物、微生物も含めて、ともに繁栄していく。そのほうが日本語としてイメージしやすいと思います。

共繁栄をコンセプトに創設したバリ島のエシカルホテル(写真提供:一般社団法人Earth Company)

共繁栄を体感するのに大切なのが、「一体感(Oneness)」です。自分と他者との一体感、自分と自然とのつながりの実感、自分が地球の営みの一部だという感覚、こういう一体感こそがリジェネレーションだと思います。自分は「自然のひとかけら」と感じられたら、破壊や搾取はしないはずだし、「地球にとって良いことは、自分にとっても良いこと」という感覚が出てくると思うんです。

――アウトドア人気など自然との一体感を取り戻そうとする動きは、少しずつ広まっていると感じます。

そうですね。パンデミックをきっかけに地方移住が進んで、山や海に近い場所で暮らす人が増えているのは健全なシフトだと思います。僕は最近時間があれば野遊びをすることを心掛けていて、元旦は福井県の一乗滝に行きました。一体感を体感するには「形式知」と「身体知」の融合が必要なんです。形式知は知識として学ぶもので、身体知は実際に体を通して感覚を養うことです。座学で学んだ知識を感覚でも体感することで、理解の深さは変わってくる。リジェネレーションには、身体知が大切だと思っています。

真冬に滝に打たれるのは特別なことのように思われがちですが、誰でもできることです。ただ、脳が「やりたくない」とブロックしているだけ。ブロックを外して身体知を重ねていくと、人間も生態系の一部であると実感できると思います。

「自然と共に生きる」から、「自然として生きる」へ

――リジェネレーションとサステナビリティは、どう違うのでしょうか?

サステナビリティの文脈では、「自然と共に生きる」という言葉がよく使われますが、よく考えてみると不思議です。人間も自然の一部である動物なのに、「自然と共に」と言った瞬間に、人間は自然の外側にいる存在になってしまう。まずは「自分も自然の一部である」という感覚を思い出すことが大切で、人間は自然として存在していることに立ち戻る感覚が、リジェネラティブな考え方です。

――人間は、無意識のうちに自分たちを特別な存在だと捉えてしまっているのですね。

その点は、『リジェネラティブ・リーダーシップ』(ローラ・ストーム、ジャイルズ・ハッチンズ 著、小林泰紘 翻訳、英治出版、2025年)に詳しく書かれているので読んでみてほしいのですが、自然と人間を分断する考え方は、500年ほど前から強まってきたと言われています。自然と人間を分ける、内的なものと外的なものを分ける、右脳と左脳を分ける、こういう分断が積み重なったなかで、もう一度つないでいく動きがリジェネラティブな流れです。

『リジェネラティブ・リーダーシップ』ローラ・ストーム、ジャイルズ・ハッチンズ著、小林泰紘翻訳、英治出版、2025年

リジェネレーションは、それぞれの創造力や感性、ウェルビーイングを大切にします。なぜなら、僕たちがつくっている社会や環境は、個人の内面のあり方の表れだから。1人ひとりのマインドが健やかでなければ、社会や世界も良くはならないんです。

 

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